モブにもなれなかった(狭間の世界と放浪者)

アニメの悪役ですら必要とされているこの世の中で、僕は必要とされなかった。

学校を牛耳るイケメンたちとは違い至極平凡な顔立ち。世界を救うために喋るぬいぐるみと契約した少女たちとは違い一般的な黒髪。体力測定でぶっちぎりの一位になってスカウトされてしまうような脚力はないし、テスト結果が廊下の掲示板に張り出されても煩い人込みに頭をかいてため息をつけるほどの学力もない。

品行方正に生きて誰かに好かれるような優しさの努力は出来ないし、深夜に校舎中の窓ガラスを割ってしまうような悪さをする勇気もない。

キャラクターなんて言葉はもったいない。ごく一般。


「モブにすらなれなかったってことですかね」


”世界の管理人”と名乗った誰かは白磁色の霧の中に佇んだまま僕の言葉をただ聞いている。

今まで言葉を紡ぐ声帯すらなかった。だからか、ここに来てからは今までの発言の機会を取り戻すように喋っている気がする。


ここは成りぞこないのキャラクターたちの墓場と聞いた。

多分もうちょっと言葉は違った…いや結構違ったかも。

この世界には物語の中で生死が分からない状態に陥ったり、いつの間にか存在が確認出来なくなったりして、物語の中で留まれなくなったキャラクターたちが迷い込むところらしい。

難しい言い方になっているがようは必要とされなくなったキャラクターたちの墓場だ。そして目の前の人は墓場の管理人。

そんな人に何故ぺらぺらと話してしまったんだろう。


「僕はどうなるんですか?」


僕は自分の行く末を心配した。今まではその世界に留まることで精一杯だったから、もしかしたら初めてかもしれない。


「君は元の世界にいた頃から、自分が物語の住人であることに気が付いていたのかい?」

「いや、そうだったらいいなぁって…所謂中二病ですよ」

「…なるほど」

「そんな風に考えてたら急に飛ばされたわけで」


自嘲気味に笑った僕の言葉を聞いて管理人はゆっくりと腕を組む。こんなに自分のことを案じてくれる人がいることも初めての経験で、少しだけ涙腺が緩んだ気がする。


「物語が君を必要としたら、この世界は君を追い出す」


どこか冷たい口調でハッキリと、管理人は言った。顔を上げると僅かに口元が見える。それは緩やかに弧を描いていた。


「ここでの居場所が消える…つまり物語に必要とされる。君が求めていることが実現されるまで、ここは君の居場所」


その言葉が、僕の心を少しだけ救ってくれた気がした。



(暗転)

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