問わず語りのような(怪傑オカルト研究部)
「電話でもしてたんですか?」
「え?」
人が出払っていたはずの教室。大きく開いた廊下側の窓からひょっこり顔を出したのは後輩のひなくんだった。
「あぁ…そうだね」
「なんでそんな他人行儀なんですか?」
ドアを開いてこちらに入ってくるひなくんの、頭上で束ねられた深緑のポニーテールがパタパタとした動きと連動して青春を感じる。…なんて口に出したら「林田先輩はおじいちゃんですか!?」って言われてしまいそうだ。
「せんぱーい?」
「あぁごめん」
「なんか今日変じゃないですか?」
いつの間にか半径0距離まで近づいてきた彼女は心配そうに僕の顔を覗き込む。まぁ覗き込むと言っても鬼面が邪魔をして表情なんて読み取れないけれど。
「そんなことないよ」
そう言いながらひとつ前の机に目を向ける。そこには少し泥に汚れた白のワンピースを着た小さな女の子。女の子は僕の方を見てふわりと笑った。きっと彼女なりに状況を察してくれたんだろう
ーまたあしたね
僕にだけ聞こえる声で幼い彼女はそう言った。何とも聞き分けがいい女の子だ。
ーありがとう
声は出さないでゆっくりと伝える。そうするとまたふわりと笑って彼女は夕焼けに溶けるように消えた。
「林田先輩?」
もう一度声をかけられて現実に引き戻される。夕焼けに照らされるのはまだノリが残っている同じ学校の制服を着た後輩の姿。
「僕ってまだ生きてるんだね」
鬼面を譲り受けてから。いや、もっと前から。自分がどちらに住んでいるのか分からなかった。僕に物の怪たちが見えているんじゃなくて、みんなに僕が見えているだけなんじゃないか。
「…何言ってんですか?」
たっぷりと間を置いてペしりと頭をはたかれた。
その顔は心配とか軽蔑とかじゃなくて、単純な呆れ顔。
「そう言うことはもっと年取ってから言ってください、先輩はおじいちゃんですか?」
あ、言われちゃった。
「一応君の一個上だよ」
「知ってますよ!」
ぐるると唸り声が聞こえてきそうな顔で言われて仕方がなく立ち上がる。このままだと襟元掴まれて連れ出されてしまいそうだったから。
「部室行きますよ!」
「はいはい、急かさなくても行くから」
「まじでおじいちゃんにでもなっちゃったんですか!」
叱り飛ばす声を聞きながら。僕は視えなくなった少女に何となく手を振って後輩についていったのだった。
(暗転)
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