ゆめ日記(怪傑オカルト研究部)

※導入のみ



「ゆめ日記?」


どうも古臭い部屋の片隅で明らかに陰気オーラを醸し出しながら分厚い本を読む部長に話題を提示すると、思ってたよりワントーン低い声で内容を反復された。


「はい、最近この学校…というかこの街全体で話題に上がってるんですよ?」

「人間は興味ないからな」

「そんな感じでよく部長を名乗ってますね!」

「どうした、部室の外まで聞こえる大声だったけれど」


俺の盛大なツッコミが響いたところで部室の建付けの悪いドアが開く。そこから脳に響くような低音ボイスを発しながら現れたのは、ドアに危うく引っかかりそうなほどの高身長と、どこぞの修羅かと疑ってしまう憤怒の表情を浮かべる赤鬼の面が特徴的な人物。


「林田先輩、そんなにうるさかったですか?」

「端っこにいた先生までこっちのほう振り返ってたよ?」


そしてその体から深緑色をしたポニーテールをなびかせてひょっこりと同級生の陽葵が顔を出す。


「なんだよひなまで」

「私にだけ対応違くない?」

「どちらかというと林田君にだけ弱いって感じだな」


陽葵の言葉を受けて俺を睨みつけるようにボソッと部長が呟く。


「だってこの部活でまともな人明らかに林田先輩しかいないじゃないっすか」

「鬼の面付けてる人間に負けるのか、俺は」

「まぁまぁ、それよりも何の話をしていたんだい?」


これ以上は泥沼になりそうなことを察して林田先輩が俺と部長の間に割って入った。それでようやく冷静になった俺は林田先輩…そしてついでに聞いている陽葵にさっき話題に上げた「ゆめ日記」の話をしてみた。


見た目は何の変哲もないただの日記帳。

しかし、その日記帳に青のオールペンで自らの夢を書くと必ず現実になるという。

最初の内は誰もがその幸福に頬を綻ばせて喜びの声を上げる。しかしその幸福に溺れた時、享受していた人間はこの世から姿を消す。

そんな感じの噂。


「んーあんまり現実味がないね」

「なんでだよ」

「うんそうだね」


説明を聞いた三人からはあまり好感触は得られなかった。部長なんて飽きてしまって読書を再開する始末。


「日記帳の出所が分からないのはいいとして、現実になるまでの期間とかが分かるわけじゃないし、幸福に溺れるという基準もまた曖昧だ」

「それにこの世から消えるっていうのもなんだかありきたりで抽象的よね」

「確かにそうだけど…」


二人の指摘する通り、確かにこの噂はあまりにも穴が多かった。噂程度のことだからと言ってしまえばそれまでだが、そもそもこういう地味目なものはこのオカルト研究部内ではあまり人気がない。かく言う俺も調べたいと思うほど興味は湧かなかった。


「ただ話題に困って出しただけだし」


俺はなんだか恥ずかしくなってきて精一杯の虚勢を張る。


「別に無理に俺と話そうとしなくたっていい、むしろほっといてくれ」


部長の冷たい一言に一刀両断されてしまった。


「寂しいなら私の教室にでも来ればよかったのに!」

「別にさみしかったわけじゃねぇよ!それにお前の教室じゃないだろ」

「あーはいはい、へ理屈がお上手で~」

「ひなくん、そろそろからかうのもやめた方がいいよ?」

「はーい」


こんな感じで「ゆめ日記」のことなんて誰も気に留めることがなかった。しかし、数日後俺たちは嫌でもこの噂を調べ上げなければならないことになる。


俺らの学校の生徒会長がいなくなったのだ。



(暗転)

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