本屋さんと配達屋さん(だからダンジンは!)
「お邪魔しまーす!」
重たいドアを開くと自分の背丈の倍以上はある本棚と山積みになった本が出迎えた。一応平屋で下が地面であることも分かっているんだがこれじゃあ地面すらも突き抜けてしまうんじゃないかとすら思う。
「あーごめんねわざわざ」
そんな重たげな山脈の中からひょっこりと顔を見せたのはこの部屋の主であり、私のお得意様。彼はいつものように白髪に僅かな黒髪が混ざった艶やかで美しい髪を後ろに結わいていて、エルフ特有の尖った耳には緑色の光沢を纏ったピアスが吊り下がっている所謂イケエル…なのだが、この部屋で見ると彼の人柄も相まってどうも部屋の掃除をしているお母さんにしか見えないのだ。
「いえ、仕事なので!」
私は袋の中に入れておいたこれまた山の一部になってしまいそうな図鑑を差し出す。すると山を崩してしまわないように急ぎつつもゆったりとした動作で彼は私の方に向かってきた。長くてきれいな手の人差し指には絆創膏が張ってある。
「どうしたんですかそれ?」
「あぁ、指を切ってしまってね…どうも最近来てくれた書物君が言うことを聞いてくれなくて…」
心配かけてしまってごめんねと告げながら彼は私から本を受け取った。
「なるほど…」
言うことを聞いてくれないというのは決して比喩なんかじゃない。
「おい、なんだこのエルフは」
ドスの利いた声を響かせて彼の手元にいる図鑑がページを開く。そう、彼が書物に触れると本当に書物たちが喋り動き始めるのだ。
「俺はエルフなんかに使われる気なんざ…」
「まぁ悪いようにはしないよ」
パタパタと口…もといページを開いたり閉じたりする図鑑の表紙を彼は優しくなでた。するとどうだろうか、さっきまでドスの利いた口調だったはずの図鑑は「お…おう」と口ごもりながら大人しくなった。やっぱり彼はお母さん気質な気がする。
「いつもありがとうね」
「いえ、こちらこそ」
代金を受け取って彼の部屋を去ろうとしたその時。
「あ、ちょっと待って!」
呼び止められて振り返ると彼の姿はそこになかった。とりあえず本だらけの部屋を眺めてみるとこの前はなかったはずの本が増えていることに気が付いた。いったいどこから仕入れているのだろうか。
「待たせてごめんね」
「急ぎの用もないので大丈夫です!」
考えているとまたひょっこりと山の中から顔を出す。そして小走りで玄関までやってくると一冊の本を手渡してくれた。
「これは?」
「配達屋の君に有益な情報があるかなって思って」
表紙の文字を見てみると、「小型モンスターの生態」と書いてある。確かにモンスターが出る道を通ることも多い私にはうってつけのモノだろう。
「ありがとうございます!」
「うん、頼りにしてるよ配達屋さん」
素直に感謝の意を述べると彼もにっこりと笑ってそう言った。
(暗転)
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