今日からお抱えシェフ。(お抱えシェフのおうちごはん。)
卒業して気が付いたが。学校という存在は、俺にとって唯一の道しるべのようなものだったらしい。
小学校の卒業文集の将来の夢で料理人と書いたその日から。全てをなげうって…というほどではないが、それなりに頑張って調理の専門学校まで進んだ。学校に入ってからも授業を休んだことはないし、課題だって一度も落としたことはない。いたって真面目な優等生だった。
だったはずなんだが。
ーーーーー
「飯出来たよ」
「わーい!」
「カレーだぁ!」
「まず手ぇ洗ってこい」
「はーい」
進路活動にいまいち打ち込めなかった俺は、卒業したあともだらだらと家に居座り続けていた。とはいえ何もしていないわけではなく、母親の提案で家での料理を全て任されている。
「洗ってきた!」
「よし、じゃあ食べてよし!」
料理を作るのは今でも楽しい。家から全く出られないわけじゃない。
それなのになんで俺は職を探そうともせずにぼんやりと生きているんだろう。
「俺も食べるか…」
そう呟いたとき、エントランスじゃない方のドアチャイムが鳴った。我先にと立ち上がろうとした妹と弟を諫めて玄関に急ぐ。
扉を開けると隣の部屋に住んでいて幼馴染のお母さんである足立さんが立っていた。
「こんにちは」
「おー稔くん、今日も髪の毛ぼっさぼさだねぇ」
「うっ…最近母が忙しくて髪切れてなくて」
「はぁー今でも髪切らせてくれるのかぁ羨ましい!」
「えっと…今日はどうしたんですか?」
だいたい来るときはでっかい鍋かこれでもかとおかずが敷き詰められたタッパを持っているのだが、今日は珍しく手ぶら。それに俺がきょとんとしていると、おばさんがいきなり手を振り上げてから俺の目の前に何とも独特なセンスのキーホルダーを掲げた。
「…これ楽器ですか?」
「あ、そっちじゃなくて」
俺の言葉に目を見開いてから指でキーホルダーを避ける。その後ろから現れたのは一つの鍵だった。
「稔くん、うちで働かない?」
「え?」
(暗転)
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