暑い日に。(てにをは。)
「ねぇ…何してんの?」
何かに掴まれた感覚に目が覚めると、何故か私の足首を掴んだ彼が神妙そうな顔をして私の足をまじまじと眺めていた。
「おはよ」
「おはよ…じゃなくて」
手を振りほどこうとゆるく足をばたつかせるが、彼は手を離す素振りすら見せない。
「離してほしいんだけど」
「あのさ…」
私の言葉を遮るように彼は口を開いた。目が少し座っている。笑っているわけでもなく悲しんでいるわけでもない。これは…何か嫌な予感がする。そう思った瞬間だった。
「っん…!?」
今まで交わっていた視線が切れた瞬間に太ももに小さな痛みが走る。うずくまった彼のふわりとした髪の毛が妙にムズムズする。
「な…っにすんの!?」
思わず叫ぶとさっきまでの頑固さが嘘のようにあっさりと手を離された。痛みが走ったところを見ると小さく赤い痕が付いている。
「ちょっと、何してくれてんの!!」
抗議の声を上げると再び視線がかち合う。この目は…
「なぁ」
いつもとは違う低い声に呼ばれると体がぞくりとうずく。赤い痕から徐々に熱が全身を駆けあがっていく感覚。暑くてズボンを履いていないはずなのに、今は暑くても急いで履きたい気分。
「それ、誘ってるってことでいいんだよな?」
「誘うっていうか暑いから…」
「俺いるのに下履かないってことは、そういうことだろ?」
Tシャツをまさぐってひたりと冷たい手が腹に触れる。漏れそうになった声を手で押さえようとすると、その手をもうひとつの手でガッと掴まれた。その手で引き寄せられて顔の距離がぐっと縮まる。
「嫌だったら今後はズボン履け、今日はもう襲うけど」
「ちょっ!」
反論しようとするのが分かり切っていたのか、私が声を上げる前に口を塞がれる。慣れた苦さが絡んだ舌にほだされてしまえば、もう暑さなんて気にする余裕もなかった。
(暗転)
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