第25話-1 少年の知らぬ戦い②
昼夜問わず送り付けられる雑兵や化け物に砦の面々が疲れ果てた頃。
再び、暗い闇が戦場の中心に現れた。
ここぞとばかりに魔法や矢を打ち込む。
しかし、その瞬間まるで自動的に反応したかのように鋭い剣の軌跡が走り、魔法は裂かれ、矢は弾き飛ばされた。
そして舞い上がった土煙も切り裂かれ、現れたのは無傷の男と女が一人ずつ。
一兎とレファだった。
「はっ。いきなり全力で打ち込んでくるとは、いいご挨拶だなぁっ!だが残念だったな?ほら、見ろよ。俺の
言葉の通り、一兎の白銀の鎧は傷どころか煤一つついておらず、今磨き上げられたばかりのような、
二人が完全に現れてからも断続的に攻撃は打ち込まれ続けるが、完全に死角から打たれた仕掛け矢も含め、全てがまるで見えているかのように剣に打ち払われた。
「無駄無駄無駄ァッ!この剣は襲い来る全てを切り裂き、主を守る最強の召喚武器だぜ?そしてそれを自在に出せる俺は最強の剣士で最強の騎士ってワケ。勝ち目がねぇってなんで分かんねぇかなぁ………。ま、所詮こんな岩山くり抜いた穴で生きてるような原始人には理解できなくても当然ってことかね。困ったもんだなぁ?」
見下したように笑う一兎。
瞬間、弾丸のように駆け、突っ込んできた男が剣を投げつける。
キーカンだった。
その勢いは鋭く、投げるという剣本来の使い方と異なる動きでありながら正確無比に鎧同士の結合部へと吸い込まれていくようであった。
しかし、あと一歩というところで一兎の剣に弾かれてしまう。
「おいおい。剣を投げるとか初っ端から悪あがき程度の攻撃かよ。いくら使い捨てどもで消耗してたって言ったって………くッ」
一兎の死角から剣を投げつけた男が襲い来る。
一兎が現れたのは焼け野原になった戦場のど真ん中だ。
そんな場所に死角なんてある筈がない。
本来であれば。
それは。
投げつけられた剣が弾かれること。
そして弾いたときの一兎の体勢、その視線の向き。
そのすべてを読み、一瞬の間に距離を詰める速度と判断力があればこそできる芸当。
戦場を雷のように駆け、突き刺さる剣撃は確かに一兎の腕を裂く。
投げつけられた剣を弾くために大きく振り上げられていた一兎の剣が一瞬遅れて迎撃しようと振り下ろされようとするが、振り上げた腕そのものが切られているのだ。
位置が悪い。
剣はその大きさと身体の構造上握った腕の真下、内側には振れない。
このまま腕を完全に切り飛ばせる。
そのはずだった。
キーカンの一つ目の誤算は、一兎の剣の性質を見誤ったことだ。
この剣は剣の持ち主に剣豪が如き技術を発揮させるものではない。
ただ、襲い来るものを自動で動いて切り崩す。
一兎が剣を握っているのはひとえに、
だからこそ。
剣は持ち主の身体の構造なんて気にしない。
確かに余裕のある普段であれば、剣も持ち主の身体の動きに沿った形で稼働する。
そのようにできている。
しかし、それは襲い来るものすべてを切り捨てるという剣本来の性質からみれば小さな云わばついでであり、機械的に判断される第一優先事項ではなかった。
そう。
一兎の剣は持つ腕を曲げ、圧し折り、血と肉を撒き散らしながら迫り来る剣を弾く。
そして二つ目の誤算。
それはレファの存在だった。
ギリギリの計算で作り出された死角は、第三者には全く機能しない。
当然レファには迫る男の姿が見えていた。
レファが女神から与えられた恩恵で強化した自身の
その力で無数の雑兵を呼び寄せたり、自分たちを撤退させていたわけだ。
レファがその力を使って一兎と自身の位置を入れ替えたこと。
それが一兎を完全に無力化できずに終わる決定打となった。
一兎の腕を半ば切り裂いた剣は、自動迎撃で弾かれた後も再び二撃目を打ち込まんと迫るがしかし、そのまま空を切る。
「は?」
極度の集中でこれまで無言で剣を振っていたキーカンから、気の抜けた声が漏れる。
不意を突き剣を掻い潜るように現れたのはレファで、体格差によって見事にキーカンの懐に入って見せた。
「もう終わりヨ。元騎士団長さン♪」
レファが緩やかな動きでキーカンを抱きしめると、抱きしめた腕が触れた場所から腹がブクブクと膨れ上がり、爆散する。
撒き散らされたのは血と骨などがぐちゃぐちゃに混ぜられた混合物で、
ただ、それで終わる程、砦の戦力の層は薄くない。
レファの動きと赤い霧となって散ったキーカンの血肉が一瞬停止し、血肉は逆再生するようにキーカンの身体へと戻る。
爆散する直前の状態へと巻き戻ったキーカンは、どこからともなく飛んできた縄に引っ張られ、砦へと引き戻された。
血眼になって再び襲い来ようとする一兎を牽制するように放たれた矢は瞬時に爆発し、双方の距離はまた開かれる。
「まァ。小規模とは言え時間操作の
レファの視線の先には、渦巻く魔力の中で肩で息をするリューズ。
自身の肉体寿命と引き換えに時間に干渉する魔法が故に余裕はないが、暗い恨みを込めた
「はぁ、はぁ………ハ、ハハッ、ハハハハハッ!また、また顔を合わせることになるとは!
息を荒くしながらも吠えるリューズ。
対し、
「まァ!あれだけ可愛らしク"お父様死なないでぇ"などとワンワン泣き叫んでおられた御方が随分と
「お前の今の
レファの横では負傷直後のアドレナリンが切れた一兎が、ぐちゃぐちゃに折れ曲がった片腕を抱きながら痛みにうずくまっている。
「いえいえ。一兎様には私の切り札の時間稼ぎを願いしておりましたノ。もう少し余裕があれバ、以前完璧にグチャグチャに潰したはずの元騎士団長様の両腕やリューズ殿下の足が治っている理由もお聞きしたかったのですけド………準備も完了したことですシ、余裕をかましてまた不意を突かれても困りますから、これで御仕舞いにしまショウ」
レファがゆるりと片手をあげると、背後の空間がぐにゃりと歪む。
レファに付き従うように現れたのは大小様々な大砲、延べ32門。
既に導火線には火が付けられ、ジリジリと音を立てている。
そして、響き渡る爆音。
先行して発射された砲弾の一つが砦へと迫る。
砲弾に矢や魔法が一斉に撃ち込まれ、砲弾は空中で爆散する。
「まァ!これを打ち落とすなんて驚きですガ………そんな曲芸、いつまで続くかしラ?」
レファはまだ未発射の砲台を愛おしそうに撫ぜながら言う。
続いて、一つ二つと砲弾が放たれる。
一つは魔法と矢で、もう一方はキーカンの投げた剣によって再び空中で爆散する。
爆風によって吹き飛ばされた剣は赤熱し歪み、砦へと突き刺さる。
「なんだい、これは……」
相次ぐ爆発に対しアネッサが魔法で発射元である砲台に干渉しようとするが、上手くいかない。
それもその筈だ。
通常の魔導兵器であれば内部に描かれている筈の魔法式も、動力源であるはずの魔石も何もかもがそこにはなかった。
「本当は一級品の魔導兵器でお相手したかったのですけど、対魔術のスペシャリストであるところのアネッサがいるなら対策されてしまうでしょう?これは異世界の大砲という兵器でしテ。一兎様の希望で
続いて放たれる砲弾は4つ。
窓に木の板に加え鉄板までもが打ち付けられ、特に厳重に封鎖された2階の一角に近い2つは同様に対処される。
しかし、残る二つは何とか本来の軌道からは弾かれるが、砦へとめり込み爆発した。
「フフッ。2つが限界ですのネ。まだまだ残弾はいくらでもあるというのに残念ですワ」
まだ発射していない砲台も多い中、レファの転移魔法によって既に撃たれた砲台にも砲弾が再度
尽きぬ砲弾の雨は、すぐそこまで迫っていた。
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文字数が多くなったので、前後で分けています。
後半は本日(4/24)12時30分投稿予定です。
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