高校生の夏休み

@miz-

気取った凡人

 いい夏休みを過ごそうと意気込むのはよくある事だろう。もちろん俺も例に漏れず、今までの夏休みの始まりは意気揚々と完璧な計画を立ててきた。ただし、それがうまくいった試しはない。すでに9回もの”僕の考えた最強の夏休み計画”を妄想で終わらしている。いい加減嫌気がさす。計画を実行できない自分に対してなのか、実行できない計画しか立てられない自分に対してなのかもわからない。ただ、それはもう湿気った木片を燻らせているような、居心地の悪い不完全燃焼感が身体中を覆ってくるのだ。


 ”僕の考えた最強の夏休み計画”通りでなくとも、夏休みに満足できるくらいの充実した何かをやっていたのであれば、夏休みに対してもう少しいい印象が残っていただろう。俺は何をやっていたのだろうか。計画が破綻した途端に全てを放棄し、宿題をやっていない罪悪感を背負いながら、引きこもってゲームをしていただけではないか!あぁなんて愚かなのだろうか。ただ、そんな愚かさを自覚し、次こそはいい夏休みを過ごしてやろうと意気込んでいるのが・・・。


 そう。10回目の夏休み開始前日、つまり、高校1年1学期の終業式の日に、校長の挨拶をBGMに考えを巡らせている俺である。怠惰な人間が3日坊主にすら感心してしまうように、同じ過ちを繰り返してきた俺は3度目の正直という言葉に感心している。俺はこれから10度目の正直を達成させようとしているのだから。達成させようとしている?いや、達成させるのだ。なぜなら、今回こそ正真正銘の”俺の考えた最強の夏休み計画”を用意しているからだ。


 何が今までと違うのかだって?それはもう革新的すぎて、何から何まで違うのだが。一言で言うならば・・・”逃避行”だ。


 今までは、与えられた夏休みを、いかに卒なくこなしてやろうかとばかり考えていた。だが、そもそもそれが間違いだったのだ。与えられた自由はもはや義務!夏休みではなく”夏休ませられ”ではないか。そこで、俺は”夏休ませられ”という枠組みを超えて、”夏休ませられ”が”休ませられ”であるという自覚すらなく、煤の被った翼を大きく広げ、鬱屈とした現実から抜け出してやるのだ・・・。


 現実逃避というのはダサいから、逃避行と呼ぶようにしていることからもしっかり目を瞑ろう。


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