第3話 ジョウくんと不思議な扉と綺麗なお姉さん
「おじさん、一緒に掃除しよう!」
小学生のボクの夏休みは長い。
なるったけ楽しく快適に過ごしたいよ。
「あー? 掃除ね」
改めて見たおじさんの顔。いったい
タワシみたいで痛そう。
去年はあの髭でずいぶん攻撃されたっけ。
「ほらっ、布団から出て」
「う〜っ、ジョウくんがそんなに言うんじゃ仕方ねえな」
おじさんがもぞもぞ亀のように布団から
――ボクの目の前に不思議な光景が広がった。
「ねえ、あれは何っ!?」
古くさいエアコンが光り輝いた。
扉が出来てる。
さっきまでそんなもの無かったよね?
ボクはおじさんを叩いた。
「おじさんっ! あれは!?」
「ああ、あれ? 扉だよ。枠があって取っ手があるト・ビ・ラだよ。ふははっ。ジョウくん開けてみな。ただし気をつけろよ。扉の向こうに何がいるか分っかんねえぞぉ」
ボクはニヤニヤと意地の悪い顔で笑うおじさんに構わずに近づき、エアコンに出来た不思議な扉をじっくり観察した。
ほんの少しだけ開き七色の光がもれ出してる。
ドキドキ胸が高鳴る。
ボクがドアノブに手を伸ばした時。
――バンッ!
扉が向こうの方から開かれた!
「あっ!」
ボクは腰を抜かした。
おじさんがゲラゲラ笑う。
これはいったい……。
――ボクの目の前に美人なお姉さんが立っているんだ。
可憐な微笑みを浮かべ昔話の天の羽衣の天女みたいな服を着て。
「だ、誰ですか?」
扉からやって来た、すごく綺麗で淡くほんのりと輝いているお姉さん。
背後の扉の世界は虹色に光ってた。
◇◆
これがシュールな光景ってやつ?
ボクとおじさんと不思議なお姉さんは台所のテーブルでお母さんが作ったお弁当を食べる。
目の前のお姉さんは瞳がキラキラ、ニコニコと笑ってる。
お姉さんはボクに「こんにちは」と言ってから、おじさんの腕に自分の腕を組んで甘えた声を出した。
「咲太郎。このお弁当は格別ねえ」
「だろ? コイツの母ちゃんは昔っから料理が上手くってさ」
ボクは大好きな甘めの卵焼きを食べながら二人をジロジロと見る。
あの自己紹介とかして欲しいんですけど。
あなたはいったい誰?
お姉さんとイチャイチャ、ニタついた顔をしたおじさんがおむすびを頬張りながら喋った。
「コイツはジョウくん」
「君、ジョウくんって言うの? 私の名前はねえ。――乙姫よ」
「おっ、乙姫って乙姫様? あの浦島太郎の!?」
「そうだ。正真正銘の竜宮城当主の乙姫だ」
嘘だろ? 本物の乙姫様だって?
おじさんは唐揚げを一個二個と箸でぶっ刺して口に放り込んだ。
「乙姫は玉手箱なんてあんな危ない物、毎回俺に持たせて」
「だってあれはうちの名物で遊びにいらしたご来城者にはもれなく渡す伝統なのよお」
「へえ、さいですか。お陰で玉手箱が山ほどあるわ。近々持って帰れよ」
まさか玉手箱ってあの浦島太郎伝説の?
突然、乙姫様がパチンッと指を鳴らした。
「なっ、何っ?」
ボクが驚いているとおじさん家の普通の方のドアが開いた。アパートオーナーの亀岡さんが入って来た。
「乙姫様、お越しになる前に連絡下されば色々準備しといたのに」
「亀岡ちゃんっ」
知り合い?
だからと言って指パッチンで普通来る?
乙姫様は亀岡さんの背負ってる変な甲羅柄のリュックをばんばん叩いた。
「痛っ、痛いです」
「ウフッ。さあ、咲太郎ちゃん家を皆でお掃除しましょうねえ」
おじさんはマイペースにお弁当を食べまくっている。
お姉さんはボクの手を握った。
ぽっと僕の顔はみるみる熱くなってきた。茹でダコみたいに真っ赤に違いない。
「そのうち竜宮城に遊びに来てね」
乙姫様はいたずらっぽく魅惑のウインクをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。