第2話 ジョウくんとおじさんの部屋

「もぉ、おじさん……」

 

 ひどいや、今日から行くって言ってあったのに。


 ボクはどさっと荷物を置いた。

 アパートの廊下に置いてあるオンボロ洗濯機の上にだ。

 サビがひどい。

 使ってんのかな?


「おじさーん」


 ボクは諦めた気分でしゃがみこんだ。

 どっと疲れて暑さで汗が止まらない。

 ここ以外にボクが行ける場所なんてないのに。

 悲しい気持ちがお腹から喉まで上がって来た時だ。


「ああ、そうだ」


 洗濯機に置いた荷物をどかしフタを開け覗き込んだ。


「あったあ!」


 ボクは立ち上がり希望の鍵を掴んだ。

 去年も朝に弱いおじさんがボクが困らないよう合鍵をここに入れてくれてたっけ。

 ボクは見つけた鍵でくたびれたドアを開けた。


 ギギギギィッ!


 おじさん家のドアはいつもうるさい。


「お邪魔します」


 ヒンヤリしてる。


 外みたいに部屋も暑いのかと思ったけどエアコンが効いてる。

 おじさん家のエアコンは縦型で窓枠に挟まっているんだ。


「おじさん?」


 台所を抜けすりガラスの引き戸を開けると部屋は真っ暗。


「いない」


 テレビが暗がりにビカビカ光を放っている。


 敷きっぱなしの布団、ビールの空き缶が転がり雑誌に器やポテチの袋があっちこっちに散らばって、飲みかけの麦茶と吸い殻だらけの灰皿がちゃぶ台に載っかってる。


「きったないなあ。もう」


 もう一部屋あるからそっちかなと見たけどグチャグチャに積まれた荷物だらけの部屋だった。


「おじさん、どこに行ったんだろ」


 ボクはまた悲しくなって次に腹が立ってきた。


「いないの?」


 その時、背後にぬうっと立つ気配をボクは感じた。


「よお〜。ふはわあぁっ、来たかあ」

「ひゃあっ!」

 

 ボクは後ろから急に話しかけられたもんだから体が飛び上がった。

 

 振り返ると寝癖だらけのおじさんが立ってる。

 袖無しの白い下着に水色と白のシマシマのパンツを履いたおじさんは、欠伸あくびをして頭とお尻もポリポリかく。


「ふわあっ。わりい、驚かしちまったか?」


 背中を丸めたおじさんは奥歯まで見せながら欠伸をまた一つして無精髭ぶしょうひげだらけの顎をさすった。


 ――それから!


 ブウ〜ッ! っとオナラをした。


「もぉっ、おじさんっ! すっごい臭い」

「アハハハッ」


 おじさんはボクが鼻をつまんで心底臭がるのが面白いからかずっとゲラゲラ笑う。


「もう一発してやろうか?」

「やめてよ、おじさん」

「だめだぞ? ジョウくん。オナラはしたい時にしなくちゃ。うんうん。人間、無駄な我慢は良くない」


 どこでもオナラなんか出来るもんか。

 ボクには恥ずかしいと言う気持ちはおじさんよりはるかにある。


 布団にごろっと寝転びおじさんはテレビを見始めた。まるでボクなんかいないみたいに自分の世界に入ってしまったよう。


「おじさんっ!」

「んっ? どうした?」


 ボクはおじさんの関心をひきたくてテレビの前で仁王立ちした。

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