CHAPTER 02/同棲

ガチャ

井上は家のドアを開ける。

靴を粗雑に履き捨てる。

井上はソファに倒れ込み目を瞑る。

(.......)

(.....結局、また死に損なっている.....)

(生きていた所で面白ぇ事なんて無い...)

白い髪の少女がフラッシュバックする。

(.....クソが...)

(あの女...気に入らねぇ.....)

(二度と...会いたくねえ.....)

井上は頭の中で星宮の愚痴を呟きながら眠りについた。


(.....昼か。)

(.....家にいてもつまらねぇ)

(外出てどっかぶらつくか。)

ガチャ

井上は家のドアを開け外に出る。

「おはよう。」

「!?...お前...なんでここに...」

「心配だったから。」

「...生きてて良かったよ。」

「ハッ...面倒くせぇ...」

井上は星宮を横切り立ち去ろうとする。

「どっか行くの?」

「うるせえよ。」

「.....」

カチャカチャ ウィーン

井上はエレベーターで一階に降りる。

星宮はエレベーターの行き先を見つめる。

「...思春期ってやつかなぁ.....」


(.....これだから女とは関わりたくない...)

(もう...うんざりなんだよ...)

井上はエレベーターの中で頭を掻きむしりながら扉を蹴飛ばす。

ウィーン

井上はエレベーターから降り外へ向かう。

星宮は階段の影から井上を見守る。

(イライラしてるの...やっぱり私のせい?)


キィ...キィ...

井上はブランコに揺られながらエナジードリンクを飲み尽くす。

足元には3本の空き缶が置いてある。

「はぁ.....」

「あの女...消えちまえ...」

「嫌いかぁ、傷つくなぁ...」

星宮が井上の隣のブランコに座る。

「...お前...まだ居たか...」

「またやられちゃ困っちゃうからね。」

「.....」

「そんな思い詰めた顔しちゃって、どうしちゃったの?」

「学校とかお家とかで、嫌な事でも...」

「赤の他人がいちいちうるせぇんだよ!!」

井上は立ち上がり星宮に向かって怒鳴り散らす。

「ん...」

「自害止めてヒーローにでもなった気か?あぁ!?お前のやった事は人の悩みの種に水掛けただけだ!!」

「黙って聞いてりゃ勝手な事ばっか抜かしやがって!二度とその口開くんじゃ...」

パチン!


星宮は興奮している井上にビンタする。

「人が追い詰められてるのを見て...放っとけていうの?」

「.....」

「確かに...色々勝手に言い過ぎちゃったよね...そこはごめんね.....」

「でもさ...私よりずっと年下の子が...あんなに苦しそうな顔してたらさ...勝手でも...止めたく...」

星宮は涙ぐみながら話し続ける。

「.....悪かった...もうお前の前ではやら...」

「バカ!!そんな事言ってるんじゃないよ!!」

星宮は井上の肩を強く掴む。

「.....」

「もう.....あんな事しないで.....」

「エナジードリンクも...もう飲まないで.....」

「辛いなら...黙って聞くからさ...お願いだよ.....」

星宮は泣きながら井上を強く抱きしめる。

「.....すまなかった。」


12月16日 午後17時14分 星宮の家


「...さっきはごめんね...痛かった?」

「いや...別に...」

「そっか...」

「ねえ...なんでそんな...自分を痛めつけるの?」

「.....」

「言いたくないかな.....無理に言わなくてもいいよ...」

「.....祖母が死んだ...」

「.....」

「お母が仕事立て込んで帰れなくなった時は、よく面倒見てくれた。」

「正直、お母よりも祖母と過ごした時間の方が多かった。」

「だが...小学校に入ったすぐ後に癌が見つかった。」

「一年ずっと治そうとしてきたが...無理だった...」

「.....これで満足したか。」

「おばあちゃん...大好きだったんだね。」

「女々しいか。」

「いや、うらやましいなあって。」

「...?」

「私、おじいちゃんもおばあちゃんもいないから。」

「...そうか。」


「そういえば...お母さんはまだ、お仕事忙しいの?」

「...月に一回帰ってくるぐらいだ。」

「そうなんだ...ご飯とかちゃんと食べてる?」

「別に...」

「もう.....あ、そうだ。」

「?」

「私の家、来ない?」

「は?」

「お母さん、次帰ってくるのいつ?」

「...元旦だ。」

「じゃあさ、お正月まで私の家に止まっていかない?」

「.....何が言いたい?」

「もう、お母さん帰ってくるまで私の家に泊まろって話。」

「...面倒だ。」

「一人で暴走されちゃう方が面倒だよー!」

「それに、さっきチラッと見たけど、すごい散らかっててちゃんとしたもの食べてなさそうだったし。」

井上は昼の星宮を思い出す。

星宮は背伸びし井上の部屋の中を覗き込む。

「.....」

「さ、お泊まりに必要なのお家戻って持ってきて!」

「...勝手に話進めんな、泊まらねえぞ俺は...」

「ダメ!今日から私は君を見張ります!」

「.....」

「早くしなさい!」

井上半ば無理やり家を追い出される。


午後18時03分 井上の家

「.....」

(このまま家に帰って引きこもり続ければまた騒がれるだろうな...)

(はぁ.....面倒なのに絡まれた...)

井上はカレンダーを見る。

(今日は...16日か。)

「もう、お母さん帰ってくるまで私の家に泊まろって話。」

星宮の声がフラッシュバックする。

(...15日の辛抱か。)

(...一週間半ぐらい...何とかなるか?)


星宮の家

「あ、おかえり!」

「今カレー作ってるから、出来るまでお風呂入ってて!」

「.....あぁ。」


ザプン

井上は湯船に浸かる。

(はぁ...やっぱり逃げときゃよかった...)

(...もう遅そうだ.....)

「井上くん、パジャマちゃんと持ってきた?」

星宮は扉越しに話しかける。

「あ?.....忘れた...」

「えー...もー...じゃあ私の貸してあげる。」

「いらねえよ...女の服なんか...」

「すっぽんぽんじゃ風邪引いちゃうでしょ!」

「なら今の服でいい...」

「ばっちいでしょ!」

「.....」

「明日ちゃんと取りに行ってね!」

星宮は風呂場から立ち去る。

(はぁ...帰りてえ...)


(...少し小せぇな)

(それに女モノの洗剤の匂いがする...)

(はぁ...嫌だ嫌だ...)

井上は洗面所を出る。

「あ、さっぱりした?」

「.....」

「それ、合ってるかな?」

「小さい」

「だよね...レディースだし...」

「それにクサい。」

「クサい!?洗ってるやつだよ!?」

「女の匂いがする。」

「当たり前だよ!私のだし!」

「てか...それ私がクサいって言いたいの!?」

「洗剤の匂いが嫌いだ」

「柔軟剤...?...井上くんって何が嫌いなの?」

「人間」

「人か...じゃあ私は?」

「好きとでも言うと思うか?」

「うーん...言わなさそう...」

「なら聞くな。」

「...ごめんね。あ、カレーよそるからイス座ってて。」

「ああ。」


「どう?おいしい?」

「普通だ」

「おいしくない?」

「マズいなら食ってねえ」

「だよね...」


「ふぁ...そろそろ寝よっか...」

「あ、でも寝るとこどうしよっか...」

「ここのソファでいい。」

「でもここ寒いし...私のベッドで寝ない?」

「ふざけんな、誰が女となんか...」

「ここで寝たら、逃げちゃわない?」

「.....」

「図星、って感じだね。」

「じゃ、連行〜。」

「おい、離せこの野郎...」

「ダメ。君は脱走犯〜。」

「まだ逃げてねえだろうが!」

「まだ、って事は逃げようと思ってたでしょ?」

「.....」

「はい、もうダメ。収監。」

ガチャ

井上は星宮の部屋に入れられる。

「はい、入って〜。」

井上はされるがままに星宮のベッドに入れられる。

「おい、一人用じゃ狭いだろ...」

「温度一桁の夜には暖かくてちょうどいいでしょ。」

「クソっ.....」

「ほら、もう寝よ。」

「...言われなくても寝る...」

「じゃあおやすみ。井上くん。」

星宮は井上を抱きしめる。

「.....」

(...本当にめんどくせえのに捕まった.....)

(いつになれば...終わるんだ...)


CHAPTER 02 END


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