アスチルベ

白城

CHAPTER 01/狼と星

ザッザッザッ


少年が公園を歩く。


スルッ


少年は木に紐を掛ける。


ギッギッ


少年は紐を結び自分の首に掛ける。


ギチチチチ


少年は首を吊る。

「うっ.....」



カッカッカッ

OLがマンションのエントランスに向かって歩く。

「今日のご飯、何かあったかな?」


「.....ん?あれ、人?」

「.....首吊ってる!?」


ザッザッザッ!

OLが少年を吊るす木に向かって走る。

(.......誰だ...)


ギチチチチ

OLが少年の体を掴み浮かそうとする。

それに少年は抵抗する。


「はな...せ...」

「黙って!!」


シュルッ

「なっ.....」

バタッ!


紐が解け少年が落ちる。

「ゴホッ!ゴホッ!」

少年は首に手を当てて咳き込む。

「はぁ...はぁ.....君、どうしたの?」

「.....」


「なんで...こんな事.....」

「ふざけやがって.....」

「ふざけてないよ!! 普通、人が危険な時は助けるでしょ!!」

「何も知らずに助ける奴があるか!馬鹿野郎!!」


「馬鹿は君だよ!!」

「あぁ!?」

「若いのに...未来があるのに...死のうなんて...」

「とりあえず...病院に...」


「フンっ..何も知らねえ奴が...」

少年は立ち上がり帰ろうとする。

「ちょっと、どこに...」

「家に決まってんだろうが。」

「怪我してるかもしれないでしょ!」

「くだらねえ。」


「.....」

ギュッ

OLは少年の腕を掴む。


「何だよ...」

「病院、行かない?」

「行かねえつってんだろ。」


「じゃあ、私の家は?」

「は?」

「手当てしてあげるから、行こ?」


「余計なお世話だ。」

「手、擦りむいてる。」

「...?」


少年は自分の手を見る。

(落ちた時、石にでも当たったのか...)

「さ、行こ。」

「おい、引っ張んな...!」

「おい!」

「そんな叫んでたらのど壊しちゃうよ?」

「てめぇ.....」



「ほら、ここ。」

ガチャガチャ

OLが扉の鍵を開ける。

「ちょっと散らかってるかもだけど、我慢してね。」

「.....」

「えぇと、救急箱...」


(.....何で俺は訳の分かんねえ女の家に連れられてんだ...)

(.....今の内にトンズラするか...)

少年は玄関へ向かう。


「はーい、ダメだよ〜。」

少年はOLに抱きつかれながらリビングに連れ戻される。

「おい、離せ...!」


「なら逃げないで。」

「.......」

「治したら帰っていいから。」

「.......」

「手出して。」

「.......」


「早く。」

「.......」

少年は渋々手を出す。

「ありがとう。ちょっと染みるよ?」

「ぐっ.....」

「.....はい。これで終わり。」


「.......」

「...でさ、君、どうしてあんな事したの?」

「.......」

「学校とかでトラブルとかあった?それとも、お家とか。」

「.......」

「あ、ごめん。名前まだだったね。」


「私は星宮礼花。君は?」

「.....井上だ。」

「井上くんか。よろしくね。」


「...今日限りの縁だろ。」

「そうかな?私はもっと話したいけど。」

「話す事なんてねえだろ。」

「何があったか聞きたいね。」

「.......」

「やだ?」


「初対面の奴に言うつもりは無い。」

「そっか。」

「じゃ、連絡先教えてよ。」


「あ?」

「連絡取り合ってまた会えば初対面じゃないもんね?」

「.......」

「はい、私の番号。」

「.......」

井上はスマホを取り出して連絡先を交換する。


「よし、おっけ。」

「出来た...」

「これで友達だね。」

「.....」

「あ、ご飯食べた?」

「...食ってねえ。」


「なんか作るから一緒に食べようか。」

「いらねえ。」

「なんで?」

「飯ぐらい帰ればある。」

「でももう遅いよ?」

井上は時計を見る。長針は11の方向を指している。


「.......」

「ね?」

「じゃ、作るから待っててね。」

星宮はキッチンに向かう。


(.....疲れた。)

(食った後どうすりゃいいか...)

(なんでこんな女に救われるんだか...クソが...)

「はーい、できたよ〜。」

「.....」

「あれ、苦手だったかな、ビーフシチュー。」


「.......」

井上は渋々スプーンを取って食べ始める。

「...おいしい?」

「...悪くない。」

「本当?うれしいな。」

「食べたらお風呂入って、私の部屋のベッドで寝てね。」


「パジャマ用意しとくから。」

「...この服でいい。」

「それさっき暴れて汚れちゃったじゃん。」

「洗っとくから洗濯機にいれといてね。」

「......」

「分かった?」

「...あぁ。」


(.....なんでこんな色のパジャマなんか着なきゃいけねえんだ...)

(早く帰りてえ...)

「あ、似合ってるね。」

「うるせえよ...」


翌日


(...朝か。)

(.....そうか、女の家に居たんだった...)

(ベッドから甘い匂いがする...ロクに寝れなかった...)


「おはよ。井上くん。」

「あぁ...」

「顔洗っておいで。ご飯出来てるから。」

「分かった...」


バシャバシャ

(.......)

(痕、そこまで残ってねえな...)

(思ったより早く来たんだな...アイツ...)




「トースト、何枚食べる?」

「...任せる。」

「はーい。」


「ふう、食べた。」

(...朝から5枚一気させるやつがあるか.....)

「あ、デザートあるよ。食べる?」

「帰る...」

「そっか、じゃあ気をつけて帰ってね。もうあんな事しちゃダメだよ?」

「...あぁ。」

井上は玄関のドアを開ける。


エレベーター


(変な奴に助けられたな...)

(こんな事になるとは思いもしなかった...)

(...なんだか死ぬ気失せたな.....)

(...また、会うのか?)



CHAPTER 01 END















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