第27話 クーダ先生、正体を明かす

 ひまわり組はマッスル組の生徒と戦うことになった。 

 副園長の俺が知らないイベントである。

 小等部が高等部と戦うなんて、流石に不条理だ。


 どうもおかしい。

 学園長のモーゼリアは嬉々としてイベントを進行する。

 なぜ疑問に思わないのだろう?


「さぁ、盛り上がって参りました! マッスル組の生徒10人。対するは、ひまわり組の生徒4人です。数でも負けているのに、果たしてひまわり組に勝機はあるのでしょうか!?」


 観客は、初めは疑問に思ったものの、学園長の態度に安心感を抱き、イベントの一環だという認識で帰結した。


「いいぞいいぞ! 小等部がどこまでやれるか見ものだ!」

「マッスル組の生徒は、手を抜いてあげなさいよねーー!」

「ひまわり組、がんばれーー!」


 やれやれ。

 お祭り感覚だな。


 半犬人のロロアは尻尾を振る。


「僕さ! 一度、高等部の先輩と戦ってみたかったんだよね!」


 うーーむ。

 ま、これも授業の一環か。




 ☆



〜〜勇者ダーク視点〜〜


「お前たち、ひまわり組を殺せ」


「「「 押忍! ひまわり組をぶっ殺します!! 」」」


 マッスル組の生徒は、エゲツナールのスキル、 小さな思い出リトルメモリーによって操られている。

 今や俺の操り人形だ。女児生徒を殺すことに躊躇いはない。

 加えて、普段からいい飯を食わせている。

 戦闘力を底上げする為に赤身肉のステーキを山盛り与えているのだ。

 おかげで教師の給料はなくなってしまったが、デインに復讐できるなら安いもんだぜ。

 

 ひまわり組の生徒らは、少し強いように思えるが、所詮は子供。

 この筋肉隆々のマッスル生徒には敵うまい。赤身肉のパワーを思い知れ。

  

 女児らがピンチになればデインに隙が生まれるだろう。

 その時がお前の終わる時だ。


「では、マッスル組の生徒とひまわり組の生徒は、会場の中央に集まってください」


 いよいよだな。

 ククク。公開処刑の始まりだぜ。 


 おっと、その前に俺の正体をデインに明かしといてやるか。

 ククク。奴の驚く顔が目に浮かぶな。


「デイン副園長。大変なことになってしまいましたね」


「え? あ、まぁ……そうだな。予想外の展開だからな」


 ククク。

 余裕がないのはバレバレだ。

 

 俺は眼鏡を外した。


「どうしてこんなことになったと思いますか?」


「うん。それがさっぱりわからないんだ」


 ククク。

 バーーカ! 全部、俺が仕込んだんだよぉ〜〜。

 

「僕の顔に見覚えありませんか?」


「え?」


 ククク。

 声を戻してやるか。


「この声に、聞き覚えないですか?」


「…………」


 タハーー!

 戸惑ってる戸惑ってるぅう。


「ククク。久しぶりだな。デイン」


「………」


「ククク。どうやら驚いて声が出ないようだな」


「………」


「アーーハッハッ! 実は俺様は魔剣士クーダではない! 勇者ダークだったのだぁあああああああ!! クーダの逆さまがダークだぁあああ! 気がつかなかっただろう!!」


「……驚いたな」


「ギャハハハーーッ! そうだろうよ! まさか、俺様が魔剣士クーダに変装しているとは思いもよらなかっただろーー!!」


「…………」


「ギャハハハーー! この時の為にお前を泳がせていたんだよぉおおお! 呑気に騙されやがって、このバカがぁあああああ!」


「こんなタイミングで正体をバラすんだな」


「ダハハハーー! そうなのだ! こんなタイミングで正体をバラすん……。えッ!?」


 なんだこいつの反応!?


「俺は五感が人より優れてるんだ。面接に来た初日から、その声と体臭で、お前の正体はわかっていたさ」


「何ィイイイイイイイイイ!? バ、バカを言うなぁああ!! 隠す理由がないだろがぁ! 適当なホラこいてんじゃねぇ! この嘘つき野郎がぁ!」


「嘘つきはお前だろ。履歴書の経歴が嘘八百だったからな。それを調べるのにお前を泳がせていたのさ」


「うぐぅうううッ!!」


 泳がされていたのは俺だったのか!

 まさか、デインが気づいているとは……。

 し、しかし、


「へへへ。気がついたからってもう遅いぜ。バトルロイヤルは始まっちまったんだからなーー!!」


 モーゼリアが開始の合図を叫ぶ。


「みなさん。がんばっていきましょう!」


 さぁ、行け!

 ガキどもをぶっ殺せ!


「ククク。俺に構っている暇なんてないだろう。助けに行くなら今のうちだぜ!」


「そうでもないだろ」


「何!?」









ドンッ!









 と、大きな接触音が響いたかと思うと、1人の生徒が遠くに飛んで行った。


「え?」


 今、飛んで行ったのはマッスル組の生徒だったような……。


 ロロアは眉を上げた。


「あれぇ? 先輩は手を抜いてんのかなぁ??」


 何ぃ!?

 まさか、あのガキの攻撃か!?


「おおっと! マッスル組の男子が会場の外へと飛んで行ったーー! ちなみに、遠くに飛ばされた生徒はマンティス先生によって保護されますのでご安心ください!」


 続け様に、バキ、ドスン、バシャーンと、打撃と魔法の攻撃音が鳴り響く。

 魔法によって硝煙が舞い上がり、それが止んだ頃には、マッスル組の生徒が地に伏せていた。


「先輩たち手抜きすぎーー。張り合いがないんですけどぉお?」

わたくしが全力でやったら死人が出ますわ」

「ミィたんは応援に徹してるよぉ」


 な、なんだとぉおおおーー!?


「お前の生徒じゃ、ひまわり組には勝てなかったみたいだな」


「ふ、ふざけんなぁああ。なんでガキがあんなに強いんだよ」


「真面目に俺の授業を受けていたからだな」


「それだけであんなに強くなるかよ!」


「うちの生徒は優秀なのさ」


「クソがぁあ!」


 マッスル組の生徒には相当に金を注ぎ込んだんだ。

 赤身肉のステーキを何枚食わせたと思ってんだよぉおお!


「さて。色々と謎が解けたぞ。モーゼリアを 魔神技アークアーツ 土竜感で調べたところ、 小さな思い出リトルメモリーを受けた形跡が見つかった。つまり、お前はエゲツナールと組んでいたんだ。履歴書の経歴詐称もこいつのスキルを使えば簡単だよな。 小さな思い出リトルメモリーでギルドの受付嬢を操れば立派な経歴が完成するというわけだ」


 うぐぅう!

 ま、まずぃいい!!


「エゲツナールは指名手配だから、そんな人間と共謀して文書偽装。あげく、ひまわり組の殺人未遂か。もう立派な犯罪者だな。勇者ダークよ」


 こ、こうなったら強引に戦うか?

 しかし、こいつは 蟹竜キャンサードラゴンを倒すほどの実力だ。

 今は逃げるのが得策か。


「ほほほ。困っているようざんすね」


「計画は失敗だ!」


「ふん。初めっからあーたなんて当てにしてなかったざんす」


「なんだと!?」


「この発表会の作戦は単なる時間稼ぎ。あーたと組んだのは勇者の体が欲しかったからにすぎません」


 俺の体?


「どういう意味だ」


「巨神を復活させるざんす。あーたの体を利用してね!」


「なんだとぉおおお!?」


 凄まじい豪風が吹き荒れる。


 会場は大混乱。


 くっ!

 なんだこの力は!?


 うう……。


 お、俺の体が……。


「す、砂になっていく……」


 同時に強大な 魔源力マナが溢れ出した。

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