第24話 最強の神器

 俺は、巨大な竜、リザークの守護者の繰り出すチョーク攻撃を全て粉砕した。


 これで終わりだな。


 両手を天に掲げると、無数の火の玉が宙に浮かぶ。

 兵士たちは大騒ぎ。


「あ、あれは……。ダイフレアだ」

「す、すごい数だぞ!?」

「わわわわわ。あんな強力な魔法見たことがない」


 この手を下げればダイフレアが命中するが……。


「なぁ、リザークの守護者よ。もう、俺の勝ちでいいんじゃないか?」


『ダイフレアか! たかがそれだけの数。耐えてみせるわ!』


「ふーーん。あ、そう。俺はさっきの攻撃でさ。 魔源力マナを集中させていたんだよな」


『なんの話だ?』


 俺の周りを黒い蝶が舞う。


『げっ! その蝶は!?』


 蝶は俺の手へと吸い込まれた。


蝶の効果バタフライエフェクト。蝶象火の威力で俺の強さは25倍になる」


 ダイフレアの火の玉は更に増加。

 部屋一面を埋め尽くした。

 

 名付けるならば、蝶ダイフレアだ。


「あわわわわ。す、すごい数だぁあ」

「ま、魔神の技を使うという噂は本当だったのか……」

「すごすぎる……」


 リザークの守護者は黙り込んだ。

 まるで、汗を垂らしているようである。


「さぁ、この攻撃を耐えれるかな?」 


『……ま、待て』


「お、降参かな?」


『なぜ、我に情けを掛けるのだ?』


 うーーん。


「気分の問題だな。みんなのことをさ。考えてくれてるんだろ?」


『当然だ。我は大地の守護者。民衆の命を護るのが使命』


「だったら尚更さ。そんな存在を消滅させるのは忍びないよ」


『なにを甘いことを。そんなことでは強者になれぬぞ』


「ふっ……。俺はまだまだ半人前さ。強者じゃなくてもさ、自分に正直でいたいだけさ」


『変わった奴だな』


「ははは。個性的なんだ」


 わがままというのかもしれないが。


『認めよう』


「え?」


『そなたの勝ちを認めてやる』


 巨大な竜は姿を消した。


「あれ? おーーい、どこいったぁ!?」


 祭壇から天に向かって一筋の光が昇る。

 それは神々しい光を発した。


「なんだ、これ?」


 それは1本の棒。


『そなたに強大な力を進ぜよう』


 この棒が??


 それは長さ30センチほど。

 鉄のような材質だが、細くて軽い。

 よく見れば、竜が巻き付いた装飾が施されていた。

 先端は竜の手が付いており、1本だけ指が立っている。


『我を受け入れよ』


「これなんだ?」


『神器』


 神の武器ってことか。


聖竜の指示棒ドラゴンポインター


 ポインター??


「って、学校で先生が授業の時に黒板を指す棒だろ?」


『ただの指示棒ではないぞ。材質はドラハルコンでできている』


「え!?」


 最強の硬度を誇る、伝説の金属だ。


『そなたの意志で無限に伸びることが可能だ』


「へぇ……。じゃあ試しに」


 伸びろ。

 と念じると、直様100メートル以上伸びて、その先は部屋の壁を突き抜けた。


「うは! すごい伸びるのな」


 続いて、縮めと念じると元のサイズに戻った。


 これは便利だ。


『最大の特徴は呪いが使えることだ』


「呪い?」


白石化ホワイトストーン。物質をチョークに変える呪いだ。先端についている竜の人差し指を、対象に向けて唱えるとチョークに変化させられる』


「ふむ。なにかと使えそうだな」


『あと、困ったことがある』


「なんだ?」


『我の意思が残ってしまった』


 ああ、俺が消滅させなかったからな。


「ははは。いいじゃん。色々教えてくれよ」


『喋る神器など始めてたぞ』


「仲良くやろうよ」


『まったく 主人マスターは変わり者だな』


  主人マスターか……。なんだか照れ臭いな。


「お前の名前も必要だな」


 リザークの守護者って長いからな。

 えーーと、竜の見た目だから、


「ドラゴンにしようか」


『うむ。それで頼む』


 こうして、ソンナ遺跡の騒動は終わった。


 遺跡からの声は止まったからな。周囲のトラブルはなくなるだろう。

 

 迫り来る厄災についてだが、ドラゴンに聞いたところ、それがいつ起こるかはわからないらしい。しかし、近々、起こる可能性はあるようだ。

 どんな厄災かはドラゴンにも未知数なので、いつでも動けるようにしておくのがいいのかもしれない。また、周囲の混乱を避けるため、このことは黙っていることにした。


 俺たちは、その足で王都にあるリザーク城へと向かった。


「おおおお! 流石はデインだ!! 530人の兵士が無傷で帰ってきたぞ!!」


 普段冷徹だった国王のブリザが立ち上がって喜ぶ。


「そなたには大きな恩ができてしまったな」


 そういえば、遺跡は国の所有物だったな。


「俺は神器を手に入れてしまったのですが、これってどうします?」


 やっぱり国の財産なのだろうか?


「神器を調べたい学者がいたのでな。見せようとしたが、重すぎて持つことができん。それはそなたしか使えん特別な物であろう」


 どうやら 主人マスターである俺にしか持てないようだな。


「じゃあ俺が貰ってもいいんですね!」


「当然だ。そんな物が城にあっても持て余すだけだからな」


 うむ。

 これは相当な収穫だぞ。


「デインには相当な報酬を与えねばならんな」


聖竜の指示棒ドラゴンポインターで十分ですよ」


「それはそなたの収穫物であろう。530人の兵士を救ったことは賞賛に値する。銅像を建て、王都で祭りを開くか?」


 都民は300万人を超える人数だ。

 俺のために、そんな大勢で祭りを開くなんて大事だよ。

 しかも、銅像を建てるなんて恥ずかしすぎるだろ。


「勘弁してください。そんなに盛大にしなくても大丈夫ですよ」


「では、報奨金の授与だけにしようか」


「ええ。もうそれだけでも十分です」


「しかしなぁ。そなたの功績は大きすぎる。これではわらわの気が済まん。何か要望はないか?」


「要望……」


 うーーん。

 そういえば、来週は学園の発表会なんだよな。

 毎年、学園の体育館でやってるみたいなんだけど、それじゃあ規模が小さくなってしまう。


「じゃあ、一ついいですか?」




 俺は、国王から金1億コズンを報奨金として受け取った。

 相当な大金である。贅沢さえしなければ、一生働かなくてもいいほどの金額。今は使い道が特に思いつかないので貯金するとしよう。


「そ、それとなデイン……。わらわのことなのだが……」


 と、顔を赤らめる。

 そういえば、国王の初めてを貰って欲しいと言われていたんだっけ。


 なんだかこっちまで恥ずかしくなる。

 

「今晩とかどうだろうか?」


 と、モジモジしながら胸を寄せると、大きな谷間が俺を誘った。


 ゴクリ……。


 し、しかし。実はまだ、厄災の件があるんだよな。

 気がかりなままではちょっと……。


「えっと……。また、今度で」


「ガーーン! 体よく振られたのか!?」


「いや、そういうんじゃないんだけどさ……」


「あう。焦らしプレイというやつか」


「ははは……」


 やれやれだな。


主人マスター。焦らしプレイとはなんだ?』


「んなこと聞くなよ」


 俺は、その足で勇者学園へと帰った。


「え? もう解決されたのですか!? 流石は師匠だ!!」


「わは! 先生てんてーが戻ってきたーー! ミィたん心配してたんだよ」


 と抱きついて来る。


「いい子にしてたか?」


「うん。先生てんてーのいいつけどおり、きちんと勉強してたよ」


「よしよし」


「えへへ」


 半犬人のロロアが尻尾を振る。


「ねぇ先生! 遺跡でバトルをしたの?」


「少しね」


「うは! 僕、その話が聞きたい!!」


「よし、じゃあ後でたっぷり話してやる」


「やったー!!」


 レナンシェアは眉を上げる。


「先生のご活躍は貴族界隈にさっそく広まっておりますわよ。なんでも530人の兵士を無傷で生還させたとか。凄すぎますわね」


 マイカは心配そうな顔で俺を見つめた。


「け、怪我はないの?」


「付いてるように見えるか?」


「み、見えないけどさ」


「このとおりピンピンしてる」


「そ、そう……。それならいいけど」


「なんだ、心配してくれてたのか?」


「そ、そんなんじゃないっての!」


 俺はマイカの頭を抱きよせた。


「心配してくれてありがとうな」


「んもう……」


 と、真っ赤になった顔を見られないように、俺の体に顔を埋めた。


 ふふふ。

 優しい生徒たちに囲まれて幸せだな。


 学園長のモーゼリアが、教室の中に凄まじい勢いで入って来る。


「あ、あのデインさん! 学園の横で開墾工事が始まったのですが、これは一体どういう理由でしょうか?」


「ああ、急ぎだったんで、学園長の許可が後回しになっちゃったんだ」


「ど、どういう意味ですか?」


「学園を拡張しようと思う」


「え!?」


「国王に報酬として要望を聞かれてさ。多目的ホールを建設してもらうことにしたんだよ」


 校舎より大きなホール。


「1週間後にできるのは簡易的な物だが、随時綺麗な外観にする予定さ。発表会はそこでやろうと思う」


「そ、それにしては広い土地の開墾です。そんなに大きな発表会にするのですか? 発表会は貴族の方達、せいぜい200人程度が見に来るイベントだったのですが……」


「収容人数6万人の巨大ホールだよ」


「ろ、6万人!?」


「ここは勇者学園だしね。王都で選ばれた人間が生まれる場所だ。都民を呼んでさ。盛大にやろう。貴族だけじゃなくて、一般庶民にもその成果を見せないとな」


「す、すごい計画です……」


「副園長が出しゃばりすぎたかな?」


「いえ! とんでもありません! 流石はデインさんです!! 私だけの運営ではこれだけの発展はありえません! 学園が大きくなるなんて夢のようです!!」

 

 ふふ。喜んでくれてなによりだ。


「わぁ! 大きな会場を作るんだ! 先生てんてーすごい!」

「学園の歴史を塗り替えましたわね。流石は先生です」

「うは! 僕たちがその広い会場で発表会をするんだね!」

「あんな大きな場所を開墾させるなんて、本当、すごすぎなんだけど……」


 さぁて、来週の発表会が楽しみだな。

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