第18話 勇者パーティー大健闘


〜〜デイン視点〜〜


 勇者ダークがやられた。


 まぁ、結果はわかっていたが。


  蟹竜キャンサードラゴンの軽い一撃で遠くの森へと吹っ飛ばされた。


「ええーー! 勇者様がやられたーー!」

「い、一撃かよーー!」

「勇者、弱くね!?」

「全然、敵わなかったぞ!?」


 学生たちから不安の声が上がる。


 魔法使いソモは大きな火球を空中に浮かべていた。


「すげぇ。魔法使いの姉さんが炎の魔法を詠唱してるぜ!」

「20個はあるかしら? すごい量ね!」

「計測眼のスキルを持っている奴は、あの魔法使いの 魔源力マナを測ってくれ!」

「私、持ってるけど、レベル1なの。目が痛くて計測不能よ!」

「レベル1の限界測定値は22000だよな? ってことは、あの魔法使いの 魔源力マナはそれ以上か!」

「あんなすごい魔法なら倒せるかも!!」


 あれはダイフレアだろう。

 ソモが全ての 魔源力マナを使って火球を作っているんだ。

  魔源力マナは3万程度。なかなかの攻撃力だ。

 丁度、詠唱が終わったところか。




「ダーク様がやられたってね。私の攻撃があるんですからね! いきますわよぉおおおお! 最大魔法! ダイフレアァアアアアッ!!」




 20個の火球は、轟音を立てて飛ぶ。

 全ての火球が 蟹竜キャンサードラゴンに命中した。


 ふむ。

 全弾命中したが果たして?

 爆発の硝煙に隠れて竜の姿が見えないな。


「やった、命中したーー!!」

「うは! 勇者パーティーが竜を倒したぞ!!」

「ありがとう、私たちを救ってくれて!!」


 いや。

 まだ喜ぶのは早いさ。


 俺の見立てどおり、煙が引くと、凛々しい竜の姿が現れた。

 その体には、傷一つ付いていない。

  蟹竜キャンサードラゴンは大きな奇声を発した。




『ギャォオオオオオオオオオッ!!』


 


 その声で校舎がビリビリと揺れる。


 ふむ。

 怒らせて 魔源力マナを更に上げた感じだな。 


 生徒たちは大混乱。


「強すぎだろ!!」

「に、逃げなきゃ!!」

「いや、でも、まだ勇者パーティーがいるぜ! 諦めるには早いよ!!」

「おい、逃げてるぞ! 勇者パーティーの奴ら逃げてやがる!!」

「終わったーー!! 完全に終わったーー!!」


 ソモたちは走っていた。


「あんなの命がいくらあっても足りませんわ!!」

「逃げるのには慣れてるんだ!」

「逃げるが勝ちっス!!」


 まぁ、当然といえば当然か。

 できれば生徒の避難を優先して欲しかったがな。アイツらにそんな人間性はないか。


 怪我の功名といえば、爆発の煙で 蟹竜キャンサードラゴンの目標が狂ったことだな。

 奴は校舎から外れて森を破壊している。

 この学園に気が付くのは、もう少し時間がかかるだろう。


 モーゼリアは不安気な顔を見せた。


「今が動けるチャンスですね。どうしましょう、デインさん?」


「まずは生徒たちの安全が最優先だね」


「はい。では、全員を避難させましょう!」


 弟子のマンティスが険しい顔を見せた。


「待ってください! ここは全員で戦うのはどうでしょうか!? みんなの力を合わせれば、きっと 蟹竜キャンサードラゴンを倒せますよ!」


「生徒に怪我人が出てしまうよ」


「しかし師匠! 王都の兵団がここに来るにはまだ少し時間がかかります! 被害を最小限にするのは勇者の役目! ここには勇者の卵がいるのです! みんなで力を合わせれば!」


 勇者の卵か……。


「でもなマンティス。学生たちはまだ子供なんだ。子供に怪我をさせるわけにはいかないだろ?」


「そ、それは……。そうですが……」


 モーゼリアは拳を握る。


「そうですよね! 教師だけで 蟹竜キャンサードラゴンを倒しましょう! ムフーー!!」


「いや。それも危険だよ。誰かが怪我をしてしまう」


「で、では避難だけで止めましょうか……」


 マンティスは大きな鎌を広げた。


「で、では、どうやってこのピンチを切り抜けるのですか!? 逃げていては校舎は破壊され、あげく王都への侵入を許してしまいます!」


「勿論、戦うさ」


「え? し、しかし……。今、避難しろと?」


「ああ、避難は必須だ」


「で、では、誰が戦うのですか?」


「 俺 」


「えええええ!? む、無茶です! いくら師匠でも、あの 蟹竜キャンサードラゴン相手に1人で挑むのは無理がありすぎます!」


「ま、やってみるさ」


「し、師匠……命をかけてみんなを守るのですね。うう……。なんていじらしいお人だ。で、では、せめて私も戦わせください!! 弟子の私も命をかけます!!」


「お前は生徒の避難を誘導してくれ」


「いや、しかしぃ……」


「弟子を守るのも師匠の務めさ」


「し、師匠ぉ〜〜」


 ふふふ。

 まぁ、そう悲しまないでくれよな。

 勝算が無いわけではないんだ。


 俺の目的は全員無傷。

 これが絶対条件なんだ。

 その為には、

 

「いいかマンティス。生徒たちを校舎から離れた高台に避難するんだ」


「はい! 早急に実施します!」


「そこで全員にマジックディフェンスを発現させてくれ」


「マジックディフェンスを? なぜです?」


「魔法攻撃の衝撃を和らげる為さ」


蟹竜キャンサードラゴンは魔法攻撃をするのですか!?」


「いや。アイツは物理攻撃タイプだからな。魔法は使わないよ」


「え? じゃあ、なんの為のマジックディフェンスなのですか?」


 俺はニコリと微笑んだ。






「俺の、さ」


 

 



 学園中にモーゼリアの声が響く。拡声魔法を使って避難を誘導しているのだ。



『学生たちは、落ち着いて避難してください』


 


 全生徒が高台に避難した頃。

  蟹竜キャンサードラゴンは校舎の目の前まで来ていた。

 俺は1人。校舎の前に立つ。


「おいおい。あれって副園長だろ? あの人、1人で戦うのかよ?」

「無茶よ! 副園長は、たった30 魔源力マナしかないわ! 1人でなんて自殺行為よ!」 

「ってことはよ。副園長は自らを囮にして俺たちを助けようとしているのかもな」


 生徒たちが混乱する中。マンティスは俺の指示どおり声を張り上げた。


「みんな! マジックディフェンスを張ってくれ!」


 みんなは訳がわからない。

 マンティスの指示で渋々マジックディフェンスを発動させる。


 よし。

 準備は整った。


「さて、いきますか」

 

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