第17話 勇者様、大活躍!

 俺たちは校舎の窓から外を見ていた。


 遠くには100メートルを超える巨大な竜。 蟹竜キャンサードラゴンがこちらに向かっている。

 巨大なハサミを振り回し、蟹のような足を動かして暴れていた。

 その理由は不明であるが、得てしてモンスターとは人間を憎んでいる存在なので、殺戮衝動に駆られているのだろう。

 

 その地響きで校舎は激しく揺れ動く。

 学園中は大パニックである。


 デインは引き攣った笑みを見せた。


「は、ははは……。た、戦ってやりたいがな。俺の武器はデインに壊されてしまったんだぞ。見ろよ、この剣。これじゃあ戦えないな」


 ゼリーヌも同調する。


「そ、そうだ! デインが壊したからな! あたしは戦いたいが無理だな。この大破した大剣ではなぁ」


「そ、そうだそうだ! 俺様の剣もデインが破壊したんだぞ! まったく足を引っ張ることに関しては最強だよな!」


 学園長の巨乳エルフ、モーゼリアは手を叩いた。


「学園には武器庫がありますので、そこからお好きな武器をいくらでも使っていただいて構いませんよ!」


「バ、馬鹿を言うな! 使い慣れた武器じゃないとあんな強敵と戦えるかよ!」


「そ、そうですよ。あたしだって、使い慣れた大剣じゃないと無理ですね」


 やれやれ。


魔神技アークアーツにはさ。武器を修復する技もあるんだよ」


「「 へ? 」」


「俺がお前のパーティーにいた頃はよく使っていたんだぞ?」


「な、なんだと? 馬鹿を言うな。そんな都合のいい技があるか! この嘘つき野郎が!」


「お前たちは武器の手入れも碌にしないからな。錆や刃こぼれは日常茶飯事。その度に俺がスキルで治してやっていたんだ」


「ははは! だったらやって見せろよ。一度だってそんなスキル見たこともなかったわ!」


魔神技アークアーツ  海生かいせい


 2人の剣に光を宿す。

 すると、大破していた剣は、まるで 海星ヒトデが再生するように元に戻った。


「な? 治っただろ?」


「そ、そんなことができんのかよ……」


「あは! デインさんすごいです! 大破した剣が新品のように治っています!!」

「流石はデイン様です」

「師匠! 感動しました!」


「よ、余計なことをしやがって、このぉおおおお!!」


「さっき困っていたじゃないか」


「くぅううううう!!」


 モーゼリアは懇願した。


「勇者様。これで問題はありませんね! 勇者学園をお助けください!」


 レナンシェアの執事さんは頭を下げた。


「どうか我々を救ってください」


「ううう……」


「勇者様。モンスターを倒した暁には、わたくしの方から旦那様には報告させていただきます。そうすれば公爵家より直々に多大なる報酬が貰えることでしょう!」


「ううう……」


「どうぞ、よろしくお願いいたします」




〜〜ダーク視点〜〜


 うう、とんでもないことになってしまったぞ。

 まさか、 蟹竜キャンサードラゴンと戦う羽目になるとは。


 以前、このモンスターが最下層にいる地下30階のダンジョンに潜ったことがあったんだ。

 その時は、たったの2階層までしか行けなかった。敵が強すぎて引き返したんだ。


 ダンジョンボスの 蟹竜キャンサードラゴンが地上に出て来ている理由はわからんが、手下のモンスターであんなに強いのに、そんなボスに俺たちが敵うはずはないぜ。


 俺たち勇者パーティーは校舎を出た。

 300メートル先には 蟹竜キャンサードラゴンがこちらに向かっている。


 うう……。

 なんとか隙を見て逃げなければ……。


 その時である。

 校舎の方から大きな声援が聞こえてきた。


「キャーー! 勇者様ーーーー!」

「がんばれーー! 勇者様ーーーー!!」


 生徒たちが、校舎中の窓から顔を出して応援してくれているのだ。

 全校生徒から勇者コールが巻き起こる。


「「「 勇者様! 勇者様! 」」」


 くっ!

 人の気も知らないで呑気なことを!!

 しかし、これで逃げれなくなってしまったぞ。


「どどど、どうしましましょうかダーク様ぁ。私たちの力で倒せるんでしょうかぁあ?」

「あ、あーしは回復役なんで後衛で待機しておくっスね」

「あ、あたしも普段から後衛なんで、後ろで大剣を構えています」


 後ろに敵なんかいないだろうがぁあ!

 む、無能どもがぁあああ!


 生徒たちの声援は止むことがなかった。

 


「いっけぇええ! 勇者様ぁあああ!!」

「一撃で倒してくれよ勇者様ぁああ!!」

「かっ飛ばせ勇者様ぁああああ!!」



 てか、応援してる人数が増えてんじゃねぇか……。


 やるしかねぇ。

 俺の実力をガキどもに見せつけるしか方法がねぇええ!!


「ソモ! 補助魔法を全部、俺に付与しろぉ!!」


「は、はい!!」


「うぉおおおおおおお!!」


 俺の 魔源力マナは5600。 魔源力マナを限界まで高めてやる!


「ダーク様! 攻撃、速度、防御、全て倍にしました!!」


「よし!」


 これで俺の力は2倍。つまり、 魔源力マナ12000に匹敵するはず。


「ゼリーヌ! お前の計測眼で 蟹竜キャンサードラゴン 魔源力マナを測れ!」


「そ、それが……。さっきから見ているのですが、あたしの計測眼ではモヤが掛かって見れないんです!」


「ふざけんな! お前の計測眼はレベル2だろうが! 10万以上は測れるはずだ!!」


「こ、こんなこと初めてです。もしかして、 魔源力マナ計測を阻害するミラーの魔法を付与しているのかもしれません」


 あんなデカい竜が計測を阻害する魔法を付与する意味がわからんが……。


「そ、それか……。もしかして、そ、その……。レベル2の限界値を超えているので測れないのかも……」


 ぐぅ……。

 じゅ、10万以上だから測れないってことか……。

 いや、そんなことがあるか!


  魔源力マナ10万を超えるモンスターなんているわけがない!


「ぜ、前者だ! ミラーの魔法で 魔源力マナが測れなくなってんだよ!」


 よし、そうとわかれば作戦だ。


「ソモ! ダイフレアの準備をしろ!」


「し、しかし、ダイフレアを撃ってしまうと、私の 魔源力マナがゼロになってしまいますが?」


「構わん! 俺の一撃で奴を弱らせる。その隙にダイフレアを当てろ!!」


「は、はい! 承知しました!!」


 ソモはダイフレアの詠唱に入った。


 俺の見立てでは、 蟹竜キャンサードラゴン 魔源力マナは2万程度。

 つまり、俺の12000の攻撃では半分程度のダメージしか与えられない。

 ダイフレアなら 魔源力マナ3万のダメージだ。

 これなら勝てる!


 もう、 蟹竜キャンサードラゴンは目の前まで来ていた。


 やるしかない!





「行くぜ!! おりゃぁああああああああッ!!」





 俺の全身全霊!

  魔源力マナ12000の剣撃を喰らいやがれぇえええええええ!!







ペシン……!







 それは空虚に響いた接触音だった。

  蟹竜キャンサードラゴンのハサミが俺の体を軽く叩いたのである。

 まるで、ハエでも払うように。


 しかし、俺は100メートル以上吹っ飛ばされた。


 学生たちが「ええーーッ!?」と驚愕の声を上げている。その声をかき消すように、身体中の骨が粉砕するメキメキボキャという音を聞くのだった。

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