第16話 お仕置き


「俺たちを怒らせたことを後悔させてやるぞ!! ひゃは!!」


「あたしの大剣を味わえ!!」


 ダークとゼリーヌは、俺に向かって剣を振り下ろす。

 俺は2人の剣を掴み取った。 


「「 えっ!? 」」


魔神技アークアーツ 牙狼。俺の手は魔神の力によって強化された」


「くっ! は、離せこの野郎っ!」


 俺はそのまま刃を握り、2人の剣を破壊した。


「「 何ぃい!? 」」


 そして、ダークの頬に張り手を喰らわせた。


「ぶべらぁッ!!」


 奴は客室の壁に衝突する。


「わ、私の大剣がぁあ……!」


 ゼリーヌは涙目。武器を失ったことで十分ダメージを負っているようだ。

 彼女のお仕置きはこれだけで十分だろう。


「なぜだデイン。お前の 魔源力マナは千が限界のはず。あたしより低いのに、どうして!?」


 ゼリーヌの 魔源力マナは4500。

 しかし、俺の 魔源力マナは10万以上だからな。


「俺は、攻撃する一瞬だけ 魔源力マナを爆発的に増加させるんだ。お前の計測眼で測れるのは一瞬の 魔源力マナだけさ。だから、全ての 魔源力マナを捉えきれていないんだ」


「で、では、もっと高いというのか……!?」


 魔法使いソモは汗を垂らした。


「あは……。あははは。やっぱりデインはすごかったのですね。その力で私たちを助けてくれていたんだ」


「そういうことだな」


 僧侶コネネは俺の腕を抱きしめた。


「デイン〜〜。あーしは始めからわかってたっスよぉお。あんたが強いってことはねぇ〜〜」


「はぁ? 俺が追放された時、お前もダークと一緒に笑ってたじゃないか」


「ぎくぅ! あは、あははは。そ、それはダークに脅されてただけっスよぉ」


 やれやれ。

 手のひら返しも甚だしいな。


「とにかく、俺の体から離れろ」


「つれないッスねぇ。あーしは将来性のある男が好きなんス」


「そうか。俺はお前に興味はないがな」


「そんなこと言わずに〜〜。あーしが彼女になってやってもいいッスよぉお」


 俺を嘲笑った女を彼女にするなんて冗談じゃない。


「俺のことより、ダークを回復してやれよ。1発のビンタでも相当なダメージだぞ」


「あんな男、もういいっス」


「仲間だろ?」


「あーしをこき使いすぎっス! 偉そうに命令ばかりでもう限界っス。冒険に行ったら瀕死になるし、全然強くない。デインがいなくなってから、あーしたちは死にそうになってばかりっス! その度にあーしが回復魔法を使うんスからぁ」


 なるほどな。

 それで俺を誘いに来たわけか。

 身体中が傷だらけなのもそのせいだな。


「あーしはぁ。強い男が好きなんスぅ」


「いや。俺はお前に興味がない。離れろ」


「そんなぁ〜〜。あーしが彼女になるってことはぁ。あーしの体を自由にしても良いってことっスよぉ?」


「興味がない」


「どうせ、女っ気のない人生でしょう? あーしが彼女になったら華やかになるっスよぉ〜〜?」


 突然、客室のドアが開き、モーゼリアが入って来た。


「大きな物音がしましたが何事ですか!?」


 俺は彼女に事の経緯を説明した。


「では、勇者様が無理やりデインさんを連れ戻そうと力ずくで?」


「うん。返り討ちにしてやったけどね」


「……そ、それで、その人は?」


 モーゼリアは俺に抱きつくコネネを見つめる。

 ソワソワとして落ち着かない感じだ。

 

「心配しないで。今、言い寄られて迷惑してるところだから」


 コネネはモーゼリアをマジマジと見つめた。

 胸の大きさは倍以上だろうか。見た目もモーゼリアの足元にもおよばない。

 例えるなら、モーゼリアは光り輝くアゲハ蝶。コネネは闇に潜む蛾だな。


 コネネは青ざめる。

 俺から手を離すと、そのまましょんぼりとして黙り込んだ。


 あれ?

 なんか、よくわからんが離してくれたぞ。


「ほほほ! 流石はデインね。私が見込んだ男なだけはありますわ!」


 そう言うと、今度はソモが俺の耳元で囁いた。


「私を雇うのはどうかしら? 教師としてこの学園で働いても良くってよ?」


「ダークのパーティーはどうするんだよ?」


「あんな男、もう終わってますわ。私はパーティーを辞めます。これからはデインの時代ですわ」


 こいつもコネネと同じか。

 それにしても、俺の時代ってなんだよ……。


「あなたはこれから伸びる男よ。私を雇いなさいな」


 人手は欲しいが、人材は吟味したいんだよな。

 人間性に欠けるコイツが教師になるなんて考えられないだろう。


「残念だが無理だな。俺は副園長なんだ。人選の権利はあるからな」


「ほほほ。それはどうかしら? 私は男爵の娘ですのよ。貴族の力を使えば、こんな学園に入ることは造作もありませんわ」


 そんなことができるのだろうか?

 俺は庶民なので、貴族の権力はよくわからない。


 客室にレナンシェアの執事が入ってくる。


「デイン様。先ほどは大きな物音がしましたが大丈夫でしょうか?」


 俺は爺やさんに事の経緯を説明した。


「おお! では、勇者様の勧誘を断って、この学園に残ってくれるということですね。安心いたしました」


「デ、デイン……。この人は?」


「俺の生徒の執事さんだよ」


「紹介が遅れました。わたくし、アルム・ウォムナー家に使える執事でございます」


「ア、アルム・ウォムナーって公爵家じゃない! どうして、そんな執事にデインが様付けで呼ばれているのよ!?」


「デイン様はお嬢様の命を救ってくれた恩人なのでございます」


「デインが恩人!?」


「しかも、優秀な教師でもあります。アルム・ウォムナー家は全面的に支援させていただいておる次第でございます」


「こ、公爵家がデインを全面的に支援してるですって!?」


 ソモはプルプルと震えた。

 そして、俺から離れて黙り込んだ。


 あれ?

 こいつも、よくわからんが解決したっぽいな。


 ダークは腫れた頬を抑えて立ち上がる。


「こ、この野郎……。覚えてろよ。この借りはきっと返す」


 勝手に来て、俺に暴力を振るおうとしたから撃退したまでなんだがな。

 一体、なんの借りなんだか……。


 と、その時である。

 大きな地震が起こった。


 なんだろう?


 すると、マンティスが部屋に入って来た。


「大変です師匠! 大きな竜が学園に向かってやって来ます!!」


 俺たちは客室の窓から外を見た。


 体高100メートルはあるだろうか。

 大きなハサミを持った竜が、蟹のような足を動かしてこちらに向かっている。


蟹竜キャンサードラゴンだ」


「おお! 流石は師匠だ。ご存じなんですね!」


 俺の一族、 魔神魔技族アーククラフターは様々なモンスターと戦っているからな。


「このままでは学園が破壊されてしまいます。王都の兵団に連絡を向かわせましたが、間に合いそうにありません!」


 ふむ。

  蟹竜キャンサードラゴン 魔源力マナは10万を超えるというからな。俺でも手こずるかもしれん。

 

 まずは生徒たちの避難だが……。


 モーゼリアはパチンと手を叩く。


「丁度良かった! ここに勇者様がいらっしゃいますわ!」


 執事さんも満面の笑み。


「おお。勇者様がおられるから安心ですな!」


 妙な流れになってきたな。

 ダークが 蟹竜キャンサードラゴンを倒せるのだろうか?


「か、蟹の竜だとぉおお!?」

「そ、それって、あーしたちが入ったダンジョンのボスじゃないっスか!?」

「はわわわ……。ど、どうしてそんなモンスターがここにいるんですの!?」


 どうやら知っているようだな。


 勇者パーティーは全員が青ざめてプルプルと震えているのだった。 


────


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