第15話 戻って来いってどの口が言ってんだよ

 

「実はなデイン! お前を連れ戻しに来たんだ!」



 と、満面の笑みで言い放ったのは、勇者ダークである。

 彼は、俺を不当な理由で追放した張本人だ。

 もう驚きの声しか出ない。


「はぁ?」


「ははは! 面食らっているな。気持ちはわかるぞ。でもな、過去のいざこざはお互いに洗い流そうじゃないか!」


 いやいや……。

 お前が勝手にいざこざを作ったんだよ。

 俺はパーティーに残りたかったんだ。

 それを無理やり、一方的にこいつの方から、俺を追放した。


「ククク。デインよ。お前のことだ。どうせ、学園では大した仕事は任されていないだろうよ?」


「え?」


 彼は声を潜めた。


「どうせ、残飯整理でもやってんだろ?」


 何、言ってんだ??


「エゲツナールから任された仕事は碌なもんじゃなかったはずだぜ。ククク」


 そう言えば、コイツとエゲツナールは繋がっているんだったな。

 思えば、俺のことを無能賢者として噂を流しているのはダークの仕業だったんだ。

 エゲツナールが、俺をひまわり組に配属したのはダークが絡んでいたのかもしれんな。

 

「ククク。だからな。俺が使ってやるよ。報酬の取り分だって以前の倍以上くれてやるぜ。へへへ。良い話だろ?」


 うーーむ。

 今は、住む家が立つほど収入が安定して潤っているんだよな。


 客室に隣接する職員室から、他の教師が俺を呼んだ。


。来客中失礼します。昼休みの時間を少しだけ使ってやると言われていた会議はどうしましょうか?」


 そうなんだよな。

 俺は元来、ダークなんかを構っている暇はないんだ。

 なんとか帰ってもらいたいが……。


「お、おま……。お前、副園長なのか?」


 そういえば言ってなかったな。


「ああ、成り行き上ね。俺は断ったんだけどさ。周りが俺を推したんだ」


「エ、エゲツナールが副園長をしていたんじゃなかったのか?」


「なんだ、知らないのか? アイツは悪行が王室にバレて指名手配中だぞ」


「なんだと!?」


 知らないとは意外だったな。

 生活に余裕がなかったんだろうか?


 よく見ると、彼らの身なりは汚れていた。

 装備品はボロボロ。体中、小さな傷だらけである。


 まぁ、そんなことより会議だよな。

 どうしようか?


「師匠! 来客ならば、私が師匠の代わりに会議を進めましょうか?」


 と、カマキリ人のマンティスが顔を出す。


「ああ、そうしてくれると助かるよ」


「喜んで引き受けさせていただきます。師匠の代わりができるなんて嬉しいですよ!」


 ダークはプルプルと震える。


「し、師匠だと?」


 うーーむ。

 話すと長くなるな。


「これも成り行き上だ。向こうから弟子を志願して来たんだ。俺は弟子なんか取る気はなかったけどさ。どうしてもと言われて已む無くね」


「…………」


「とにかく、俺はこの学園生活が潤っている。お前のパーティーに戻る気なんてないよ」


「うぐ……」


「そういうことだからさ。もう帰ってくれよ」


「そ、そうはいかん……。パーティーに戻ってくれ」


「理由は知らないけどさ。俺は忙しいんだ」


「む、昔の仲間がこんなに頼んでいるのに無視するのか?」


 どの口が言ってんだよ。

 俺を道具のようにこき使ってきた人間が、仲間だなんて。


「仲間ってのは信頼関係の上、成り立つ存在だぞ? 俺とお前に、そんなもん存在しなかっただろう」


「う、うぐ……」


「もう帰れって」


「お……お前は戻るべきなんだ」


「はい?」


「お前はダークのパーティーに戻るべきなんだよ!」


「どういう理屈だ?」


「これは命令だ。戻れデイン!」


 やれやれ。

 

「お前に命令される理由はないと思うが?」


「やかましい! 俺が戻れと言ったら戻るんだよ!!」


「言いたい放題だな」


「うるせぇーー! デインの癖に生意気なんだよ!!」


 面倒臭いなぁ……。


「とにかく戻れデイン! お前はダークのパーティーで働くんだ!!」


「もう帰れって。俺、本当に忙しいんだ。教師と副園長の仕事を掛け持ちしててさ。お前なんかに構ってる暇はないんだよ」


「ぐぅううう!! 舐めた口、利きやがってぇええ!!」


 いや、当然の道理を述べたまでだ。

 俺を無理やり追放して、ギルドに噂を流して働けなくした。

 しかも、学園にまで手を回して、不遇な境遇にしようとしていたんだからな。

 そんな奴に手厚い対応なんかしてやるもんか。


 俺はシッシッ! と手を振った。


「ぐぬぅうううううう!! こうなったら止むを得ん!!」


 そう言って、剣を抜く。


「ふはは! こうなったのはお前が聞き分けがないからだ。無理やりにでも戻ってもらうぞデイン!」


 これに便乗したのが戦士ゼリーヌだった。


「さっきから聞いていれば偉そうに。お前はあたしとダーク様より 魔源力マナが低いんだ! 弱者が偉そうな口な利くな!」


 いや、俺の 魔源力マナは、瞬間的に上げるからお前の計測眼のスキルでは測れないんだって……。


 ゼリーヌは大剣を構える。


「あたしを怒らせたことを後悔させてやる!」


「ギャハハ! 2対1だなデイン! こうなったら敵うまい! 観念してパーティーに戻れ! 今ならビンタ1発で許してやる!!」


 はぁ……。

 なんだかため息しか出ないな。


「わかったわかった。相手してやるからかかってこいよ」


「くっ! こ、この野郎、戦う気か!? 良い度胸だ! 後悔させてやる!」


「メタル斬りのゼリーヌを舐めるなよ!」


 仲間だった時は争いは避けて来たがな。

 今はもう、そんな気を使う必要がない。


「はいはい。もういいからかかって来いよ。時間が勿体ない」


 2人は剣を振り被り、俺に向かって飛びかかった。

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