第14話 ダークが来た


〜〜デイン視点〜〜


 俺が教師になって4ヶ月が経つ。

 副園長になり、収入も上がった。

 学園の近くに家を建てた。小さいが住みやすい戸建である。

 俺の生活は豊かになり、何不自由なく暮らしていた。


 俺は副園長と小等部ひまわり組の掛け持ちしている。仕事量は普通の教師の2倍。しかし、教師の雑務は、弟子のマンティスがやってくれるので快適だ。

 なんなら、以前より楽になったかもしれない。

 マンティスは、よく気が効く良い弟子だ。

 

「師匠! 筆記テストの採点やっておきました!」


「うん。ありがとね」


「師匠、お茶です」


「お前も休めよ」


「ありがとうございます」


 彼はカマキリ人だ。

 両手が大きな鎌なので、コップを持つ時は斬れないように優しく挟む。


 高等部の女子クラスを担任している。

 男気があり、女子生徒たちにはそれなりに人気があるようだ。


「高等部の女子生徒には困ったもんですよ」


「何が?」


「休憩時間なんですがね」


「ふむ」


「もうそれなりに大人だというのに、私の前で足を広げて座ったりするんです。下着が丸見えでしてね。目のやり場に困りますよ。ハハハ」


「…………」


 全く……。羨ましくはないな。

 本当、微塵も、1ミリも羨ましいとは思わない。


「胸の大きな子なんてね。前屈みになるとブラがチラリと見えるのです。まったく、困ったもんですよ。これから勇者になる存在だというのにぃ」


「…………」


「師匠のクラスは子供ばかりだから楽しそうですね?」


「まぁ、そうだな……。休憩時間といえばこの前────」




 みんなが大きな声で言い合いをしていたので、何事かと思って割り込んだんだよな。


「お前たち、何を言い合ってるんだ?」


「ミィたんね。先生てんてーのお嫁さんになるの!」


「はい?」


わたくしは許可できませんわ!」


「僕もそんなのは認められないよ!」


 マイカは苦笑い。


「みんながね。先生のお嫁さんになりたいっていうから困ってたの」


 やれやれ。

 なんだか微笑ましいな。

 子供がお父さんと結婚したいと言っているようなもんか。


 マイカは1枚の紙を広げて見せた。


「埒が明かないから、ハシゴ型のクジを描いて、みんなで決めようってなったのよ」


「ほぉ……。で、誰が俺の奥さんになったんだ?」


「あ、あたしよ……」


「なんだ。マイカも参戦してたのか」


「違ッ! 勘違いしないでよね!」


「別にしてないが?」


「な、成り行き上、そうなっちゃったんだから……」


 成り行き上ってのがよくわからんが、詮索はやめておこうか。


「ミィたん、そんなの嫌!」


「わ、わたくしも認められませんわ!」


「僕も!」


「そ、そんなこと言ったって、クジであたしになっちゃったんだから、しょうがないでしょ! ふふふ」


「もう一回やって欲しい!」


わたくしも再チャレンジを熱望しますわ!」


「僕もそうして欲しい!」


「ダ、ダメよ。ク、クジで決まっちゃったんだからぁ」


 と、マイカはまんざらでもない顔をしていた。


 やれやれ。

 これは埒が明かないな。


 そこに通りかかったのがエルフの学園長、モーゼリア。


「あら、楽しそうですね?」


 彼女に、事の経緯を相談する。


「なら、みんながお嫁さんになればいいじゃない」


 おいおい。

 なんちゅう回答をするんだ。


「国王は何人もの妃を娶るものですよ。不思議ではありません」


 彼女の言葉に女児たちは「「「 おおーー 」」」と納得した。


 いやいや。なぜ、納得するんだ。

 それに俺は国王じゃないし……。

 一介の副園長ですよ。


「ミィたん、先生てんてーが王様になると思うの」


「ははは……」


 笑っておくか。


「そしたら、ミィたんたちをお嫁さんにしてね?」

 

「ははは……。まぁ、そん時はよろしく頼むよ」


 みんなは和かな顔で俺を見つめる。

 なんでモーゼリアまで?




「────てなことがあってな。困ってしまったよ。笑って誤魔化したけどさ」


 マンティスはプルプルと震えながら、


「す、すごい!!」


「は?」


「流石は師匠です!!」


「なんのこと?」


「女児生徒に婚姻を熱望されるほどの人望! 流石は師匠! 教師の鏡ですよ!」


「いや……。子供の戯言だろう?」


「いえいえ。貴方が思っているより女児生徒は大人ですよ! もう男を見る目を持っている!」


「いや、さっき高等部の女子生徒が子供だって言ってたじゃないか!」


「それは、私が男だと思われていないから子供のような仕草をされるのですよ。女は将来のことについては真剣なんです」


「そ、そんなもんかなぁ?」


「それに、私も師匠は王になる存在だと確信しております!」


 いや、それはないだろう……。


「私は自分が情けない! 女子生徒に下着を見せつけられるほど舐められているのですから!」


「え? いや、あの……」


 もう、ハッキリ言ってしまうが、お前の方が羨ましいよ!

 女児に求婚されるより、女子生徒の下着の方が見たいだろ!




 そんなこんなで平和な教師生活は続いた。

 来月には生徒の実力を示す発表会である。



 そんなある日。

 勇者ダークのパーティーが学園にやって来た。


「デインはいるかーー!?」


 と、職員室に入ってくる。


 横柄な態度は変わっていないようだ。


 とりあえず客室に案内する。


「なんで来たんだ?」


「デイン、久しぶりだなぁあ!!」


 えらく上機嫌だな。

 俺を追放した人間がなんの用事だろう?


「元気そうで何よりだぜ。へへへ」


「要件を言え」


「おいおい。そうつれない態度を取るなよ。昔の仲間がやって来たんだからさ」


 よく言うよ。

 俺を追放したあげく、周囲に変な噂を吹聴して働けなくしたんだからな。


「へへへ。今日はな。いい話を持って来たんだ」


「いい話だと? 俺をクビにしたお前から、そんな話が聞けるとも思えんが?」


「ははは。まぁそう言うなって」


 やれやれ。

 コイツの話になんか微塵も興味はないがな。聞かないと帰ってくれそうにない。


「どんな話なんだ?」


 ダークは自信たっぷりに笑った。

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