第12話 デインのいない冒険

 俺たちダークの勇者パーティーは、Sランクダンジョン『 蟹竜かにりゅうの底』に挑戦していた。


 その2階層目。


「ハァ……ハァ……」


 俺の息は上がっていた。


 それもそのはず、もうバトルは10戦目に突入していたのである。


「チィ……。ここは敵の数が多すぎる……」


 どういうわけか敵との遭遇率が異様に高い。

 ここはモンスターの多いダンジョンだったのか。


 仲間の女たちも肩で息をしていた。

 しかし、こういう時の為の僧侶なんだ。


「おい、コネネ! 何をグズグズしてるんだ! 早く回復しねぇか!!」


「も、もう、 魔源力マナがないっスよ! ガチで!!」


「な、なんだと!?」 


「無いもんんはできないっス!!」


「それでも『治癒のコネネ』か!?」


「一体、何回、傷を回復させたと思ってんスか? それに毒や麻痺の回復までやらせるんですから、 魔源力マナが底を尽きるのも当然っス!!」


「じゃ、じゃあ……。回復できないのか……?」


「あっしだってね。傷の回復したいんス。でも、 魔源力マナがないからできないんスよ!」


 さ、最悪だ……。

 まさか、たった2階層でこんなピンチに陥るなんて……。


「もう、引き返した方がいいっスよ。ダーク様ぁ」


「…………」


 そ、そんなことができるか!

 ギルドの連中は蟹竜の正体を知りたがっているんだぞ!

 蟹竜は30階層に潜む、謎のモンスター。

 それを知らずに、たったの2階層目で引き返すなんてできるわけがない。


「……ソモ。お前は、あと何回、補助魔法が使える?」


「わ、私も 魔源力マナは、ほとんどありません」


 こ、こいつもか……。


「ゼリーヌ。お前はまだ動けるだろ?」


「そ、それが……。さっきのゴブリンキングの攻撃で……」


 と、大破した大剣を見せる。


「は? こ、壊れたのか??」


「はい」


「そ、それでも『メタル斬りのゼリーヌ』か!! ゴブリンキングごときで武器を壊してどうするんだ!?」


「も、申し訳ありません! し、しかし、ここのダンジョンは敵の外皮が妙に硬いのです」


 た、確かに……。

 なぜだか、ここの敵は防御力が高い。

 攻撃力も桁外れだしな。


 今取るべく最善の行動を考えよう。

 仲間の 魔源力マナを回復し、ゼリーヌの武器を見つけて補う。

 それがベストだ。


 せ、せめて10階層は潜りたい。

 そうでもしなければ、ギルドの連中に示しがつかん。


 と、思考の整理がついた瞬間だった。

 脇腹に激痛が走る。


 大きな虫が、その鋭い口ばしで俺の脇腹を刺したのである。


「パラリセクトですわ!! 噛まれると麻痺します!!」


「な、なにぃいいいいい!?」


 ヤ、ヤバい!!


「か、体が……。痺れる」


 こ、このままだと全滅だ……。


「て、撤退だ……。俺を連れて逃げてくれーー!!」


「「「 はいーー!! 」」」


 俺はゼリーヌに引っ張られる。

 みんな揃って、命からがらダンジョンを抜け出したのだった。


 な、なんでこんなことになるんだ?

 俺は勇者だぞ?

 災難だ。確実についてない……。


 俺たちは、モンスターの影に怯えながら野営をして体力の回復をした。

 そして、王都へと戻る。


「いいかお前たち」


 と、俺は声をひそめた。


「俺たちは蟹竜の底を15階層まで潜ったことにする」


「「「 え!? 」」」


「そんなこと、できませんわ! ダンジョン探索は証明の火でわかりますもの」


 証明の火とは、受付嬢が使う特殊な魔法である。

 冒険者がどこまでダンジョンを潜ったのか調べることができる魔法だ。


「そんなことはわかっている。俺たちは2階層までしか潜っていない。しかし、それは、お前の補助魔法を付与したから、ということにするのだ」


「どういう意味ですの?」


「モンスターの呪いを跳ね返すミラーの魔法さ。それを付与しながら15階層まで潜った。よって、証明の火でもどこまで潜ったかわからなくなるのさ」


「そ、そんな小細工をしてどうしますの?」


「うるさい! とにかくそういうことにするんだ!! これは命令だぞ!! いいな!!」


「わ、わかりましたわ……」



 ギルドの中に入ると、大勢の冒険者たちが俺たちに注目した。


「お! 勇者パーティーのお帰りだ!」

「は、早すぎないか!?」

「もう攻略したのかしら?」

「す、すげぇ……」


 冒険者たちは興味津々。

 俺の冒険譚を知りたくて仕方のない感じである。


「ダークよ。蟹竜ってのはどんなモンスターだったんだ? 俺たちに教えてくれよ」


 この言葉にギルド内は大盛り上がり。

 みんなが俺の言葉に注目した。


 こ、ここは被害者に成り下がるしかない。

 俺はトラブルに巻き込まれた被害者だ。


「うむ。ちょっと調子が悪くてな。うっかり武器を壊してしまったんだ。ははは。日頃の整備を怠るとダメだよな」


 冒険者たちは苦笑い。

 

「なんだ……つまらねぇ」

「トラブルなら仕方ないわね」

「まぁ、そういうこともあるか……」


 受付嬢は、俺の目の前に浮かんだ青い炎を見つめた。


「2階層まで潜ったのですね」


 証明の火はダンジョンに漂う瘴気を感知する。

 その数字は常に正しい。


「いや、それがだな。実はコレコレ、こういうわけでな」


「え? 15階層まで潜った?」


「ああ。それで武器が壊れて戻ってきたんだ」


「しかしですね。証明の火は確実なんですよ?」


「だから、さっき言っただろうが! 魔法使いのソモが俺たち全員にミラーの魔法を付与したんだよ! その影響でダンジョンの瘴気の影響を受けなくなったんだ!」


「……ま、まぁ、確かに。ミラーの魔法は呪いを弾く魔法。ですから、あなたの言うとおり、瘴気の影響を受けません……」


「だ、だろ?」


「し、しかし。ミラーの付与を全員にしたあげく、それを2階から15階層まで続けたと言うのですか?」


「そ、そう言っているだろうが」


「そんな冒険、聞いたことありませんが?」


「モンスターが強力だったんだ。前代未聞の探索方法ってことよ!」


「…………うーーん。しかしぃ……。規則ですからぁ」


「わかった! こうしよう! 書類上は2階層まででいい。それは規則だからな! しかし、名目は15階層だ。な? これでいいだろ?」


「め、名目ぅ??」


「お前から妙な噂が流されては困るんだよ。俺は勇者だからな」


「はぁ……」


「とにかく、俺たちは15階層まで潜った! そして武器のトラブルで戻ってきた。そういうこった! いいな!」


「わ、わかりました……」


 俺は仲間たちにも確認する。


「なぁ、みんな! そういうことだよな!?」


 女たちは、引き攣った顔で返事をした。


「「「 ……は、はい 」」」


 くそ!

 そんな目で俺を見るな!!


 なんとしても、この汚名を返上しなければならない。


「おい。次のクエストに挑戦するぞ!」


「え? 蟹竜の底の続きをしないのですか?」


「そこはトラブルが多かったからな」


「はぁ……。では、別のSランククエストですね」


「……いや、Aランクにしようかな」


「え?」


「か、肩慣らしだよ!」


「は、はぁ?」


「トラブルの次は肩慣らし! それで調子を整えて蟹竜に挑戦するさ!」


「わ、わかりました」


 ククク。

 Aランクなら問題ないぜ。

 ちゃちゃっとクリアして調子を整えてやる。

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