第11話 デインがいないダークのパーティー 【ダークside】



 時間は遡って。

 勇者ダークがデインを追放した、次の日。






 俺の名前はダーク・アルバート。

 最強の勇者を自負している。


 紫の髪に合わせた装備品の数々は、見た目だけでも相当にイケている。

 王都を歩けば女たちにキャアキャア言われる始末。

 

 実力も、見た目も、大陸一。

 最強の勇者ダーク様とは俺のことだ。ひゃは!


 ギルドが騒めいていた。

 俺が受付嬢に「Sランクのダンジョンを攻略する」とさらりと言い退けたからだ。


「俺にかかればSランクのダンジョンなんて楽勝だぜ。ひゃは!」


 俺の笑い声はギルドに響く。


「おいおい。またダークがSランククエストに挑戦だってよ」

「すごいわねぇ」

「流石は勇者の称号を得ただけのことはあるな」


 周囲からの羨望の眼差し。

 ふふん。

 これが俺なんだ。


 3人の仲間は、それぞれが鼻を高くしていた。


「ウフフ。流石はダーク様って感じですわね。人気ナンバーワンだわ」


 喜んでいるのが魔法使いソモ。

 赤髪の、目の鋭い女。

 『閃光のソモ』と呼ばれるほど、素早い攻撃魔法の使い手だ。

 しかし、補助魔法だけを使うように注意した。

 攻撃魔法で敵を一掃されたら、俺が目立たなくなるからな。


「ダーク様は王都の希望だよな。あたしは仕えることができて幸せだよ」


 そう胸を張ったのは戦士の女、ゼリーヌ。

 黄色い髪の大剣使いだ。

 彼女の攻撃は高防御のメタル系モンスターでさえも一撃だ。

 『メタル斬りのゼリーヌ』と呼ばれるほど、強い攻撃力の持ち主である。

 しかし、後衛を担当するように厳しく言い付けている。

 前衛は俺が出て活躍することになっているからな。


「キャハ! やっぱーー。ダーク様ってぇ。最強って感じっスねぇ」


 そう言って、俺の腕を抱いたのは僧侶のコネネ。

 肌は茶色で、ピンク色の髪をツインテールにしている。

 『治癒のコネネ』などと噂されるほど回復魔法に長けている。

 しかし、ほとんど、出番がない。

 なにせ、俺は負傷しないからだ。強すぎて、回復魔法を使う場面がないのである。

 戦闘といえば、俺の大活躍で完結する。ソモの補助魔法と、ゼリーヌの後方支援で事足りている。

 本来ならば、コイツは用無し。賢者のデインと共にこのパーティーを追放しても良かった。

 まぁでも、俺のことを心底、尊敬している可愛い女なので置いている。

 雑用係のデインがいなくなったから、コイツに担当してもらおう。


 女たちはダンジョンに向かう途中で、もうクリアしている気分でいた。

 余裕の彼女らは、いつしかデインの愚痴を言い始めた。


「無能賢者のデインがいなくなったから、ダーク様と公然とイチャイチャできますわね」

「あたしは、抱いてもらえるのが嬉しいな。うっとおしいデインの視線を気にしなくて済むのはありがたい」

「きゃは! 本当、無能のデインがいなくなって清清したって感じっす。あいつ戦闘で全然、仕事しねぇし。きゃはは!」


 やれやれだ。

 どうやら、みんなもデインのことが目の上のたんこぶだったみたいだな。

 奴を追放したのは英断だったようだ。

 ククク。いつだって俺の判断は冴えているのさ。


「デインがいなくなった分は報酬の分け前が増えるからな。今夜は飲み明かそうぜ」


「「「 はい♡ 」」」




 俺たち4人は、意気揚々とSランクダンジョン『 蟹竜かにりゅうの底』へと入った。

 蟹竜とは聞いたこともないモンスターだが、俺にかかれば造作もない。

 ギルドでは謎のモンスターの正体を知りたがっていた。

 俺がチョチョイっと倒して、その全貌を明らかにしてやろう。


 ダンジョンは全部で30階層。その前半は軽い準備体操の気分で行こうと思う。


「10階くらいまでは敵が弱いからな。気楽に行こうぜ」


「「「 はい♡ 」」」


「きゃは! ダーク様がいれば余裕っすね!」




 しかし、1階層で問題が発生する。

 大きなネズミのモンスター、ダイラットの攻撃が強かったのだ。


 ダイラットはたったの3匹。

 たったそれだけなのに、凄まじい猛攻なのだ。

 俺は前方で2匹を相手にしていた。


「く! つ、強い!! なんだ、ここのネズミは!?」


 とても2匹を相手になんかできるか。


「おい! ゼリーヌ! 後衛ばっかりやってんじゃなくてこっちにも参加しろ!!」


「も、申し訳ありません! あ、あたしも苦戦してます!!」


 なにぃ!?

 たった1匹にメタル斬りのゼリーヌが苦戦だと!?


 ここのダンジョンモンスターは強いのか?

 いや、もしかして、


「ソモ! 補助魔法はどうした!?」


「既に、攻撃力増強のストレングスを付与していますよ!」


 なにぃいい!?

 それにしては力が弱い。

 いつもならもっと攻撃力があるはずだ!

 今日は調子が悪いのか!?

 仕方がない、

 

「防御と速度の補助もせんか!」


「は、はい! ただいま!!」

 

 ったく、使えない女だぜ。


 

 死闘の末。

 俺たちは3匹のダイラットを倒した。


「ハァ……ハァ……」


 い、一戦目でこんなに苦戦するだと?

 一体どういうことだ?


「ダーク様。ここの敵、強くないっスか? 超ヤバい感じなんですけど?」


「うるさい! たまたま苦戦しただけだ! お前は黙って回復魔法を使ってりゃあいいんだよ!!」


「は、はい! すいませんっス!」


 ちぃ……。

 ついてないぜ。

 たまたま、強いダイラットに遭遇してしまうなんてよ。


「よし。みんな回復したな。先に進むぞ」


「「「 ……は、はい 」」」


 クソ!

 不安そうな顔しやがって!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る