第10話 エゲツナールのスキル

 俺は、 魔神技アークアーツ 土竜感もぐらかんを自分に向けて発動する。

 すると、空中に1〜24の項目が浮かび上がった。

 これは24時間の意味だ。

 

 ふむ。

 1時間以内の欄に星マークが付いているな。


「な、なんざんす? その星マークは?」


「ああ、これをタップすると補助効果を受けた詳細が見れるんですよ」


 そこには『 小さな思い出リトルメモリー』と表示されていた。


「げっ! ど、どうしてあーしのスキル名が!?」


「どうやら、俺の知っているスキルのようです」


 不思議だな。 

 今の俺は知らないのに名前が表示されている。

 つまり、このスキルの効果で名前を忘れているんだ。


「し、しかし……。ほほほ。そんなことがわかったことでどうすることもできまい。あーしがスキルを解除しない限りはね」


「できますよ」


「え?」


 俺は真っ黒なオーラを身に纏った。




魔神技アークアーツ  羊解ようかい このスキルは魔法やスキルで受けた補助効果を無効化することができる」




 さて、この違和感の理由を確かめようか。


  羊解ようかいを発動すると、土竜感の表示から リトルメモリー小さな思い出の表示が消えた。


「よぉし。思い出して来たぞ」


「はわわわわ……!」


「同時に爺やさんの 小さな思い出リトルメモリーの効果も無効化しておいたからな」


 エゲツナールは青ざめている。

 爺やさんは納得したように笑った。


「流石はデイン様でございます。これで全ての証拠が揃いました」


 モーゼリアが違法な遺跡調査に向かった理由。

 最も不明点は彼女が調査申請書類にサインをしていたことだった。

 これが 小さな思い出リトルメモリーによって操られていたことが判明したのだ。

 つまり、




「エゲツナール。全てはお前の策略だったわけだ」




 俺が睨みつけると、「ひぃいい!」と叫びながら逃げていった。


 やれやれ。

 逃げたって遅いっての。

 お前の罪は確定したからな。


 この件は、爺やさんを通して王室に資料が提出された。

 

 翌日。

 エゲツナールは王国の指名手配となっていた。

 現在は行方知れずだ。


 学園長が不在になってしまった。


「爺やさん。この場合はどうなるんでしょうか?」


「勿論、モーゼリアさんが学園長に復帰されます。貴族委員会も、そう判断するでしょう」


 うむ。

 丸く収まったな。


 モーゼリアは爺やさんから全容を聞いたようで、感激のあまり目に涙を溜めていた。

 感極まった彼女は俺に抱きつく。


「デインさん! ありがとうございます!!」


 彼女の巨乳が俺の胸に当たる。


 うほ!

 最高かよ!


「デインさんがいなければ、勇者学園はエゲツナールによって悪い方向へと向かっていたと思います」


 確かにな。

 あんな奴が学園長をしていたらダークみたいな勇者が誕生してしまうよ。


「デインさん。少しだけ問題があります……」


「何かあったかな?」


「エゲツナールがいなくなって、副園長がいなくなってしまいました」


「それだったら他の先生を格上げして、副園長にすればいいじゃないか」


「その……。頼れる人が側にいる方が嬉しいのですが……」


 と、彼女は上目遣いで俺を見つめた。


「え? 俺?」


 コクン、と彼女は頷く。


「いや、しかし……。俺は教師になって1年も経ってないんだよ?」


 爺やさんは笑った。


「こういうことは経験ではありません。実力がある人間が上に立つべきなのでございます。デイン様なら、その資格が十分にあるかと」


 いきなりそう言われてもな。


「給料は上がりますし、私が学園長として全力でサポートしますから安心してください!」


「うーーむ。その場合、ひまわり組はどうなるのかな?」


「勿論、兼任なさってください。その方が子供たちも喜ぶと思います」


「ああ、だったら問題ないか」


 爺やさんの後ろから、女児たちが飛び出す。


「あは! 先生てんてーが副園長になっちゃった!」


「なんだなんだ? また盗み聞きしてたのか?」


「だって、ミィたん、先生てんてーのことが心配なんだもん!」


「仕方のない奴だな」


「えへへ。でも、副園長になるなんてすごいね!」


「担任は変わらないから安心してくれ」


「うん」


 半犬人のロロアは尻尾を激しく振った。


「先生すっごいなぁ! 新人教師が副園長になるなんてさ、前代未聞じゃないかな?」


 公爵の娘、レナンシェアは大きな瞳を輝かす。


「流石はデイン先生ですわぁ! 憧れてしまいますわぁ!」


 ツンデレ少女のマイカは俺の服の裾を少しだけ摘んで顔を赤らめていた。


「な、なかなかやるじゃない」


 こうして俺は副園長に昇格した。


 

 給料が上がったのはいいが、副園長とひまわり組の仕事、ダブルで熟さなければならない。

 せめて、事務職の雑務を誰かがこなしてくれればいいが……。

 

 そんなことを思っていると、背後から凄まじい殺気を感じる。


 振り向くと、マンティス先生だった。

 大きく、鋭い鎌がギラリと光る。


 そういえば、コイツのことを忘れていた。

 俺のことを目の敵にしているようだったからな。


 でも、コイツはこの件に絡んでいなかった。

 エゲツナールと組んで、俺を殺そうとしていたと思ったんだがな。


 しかし、この状況。俺を殺す気か!?


 奴の鎌は大きく振り上げられ、そして、激しく地面についた。





「流石です!! 師匠!!」




 ど、土下座!?

 師匠って、どういうことだ?


「一連の流れを拝見させていただいておりました師匠! エゲツナールの悪事を暴く手腕はお見事としか言いようがありません!」


「えーーと。理解が追いついてないんだけど。師匠って誰?」


「あなたですよ。デイン師匠! 強力なスキル! 膨大な 魔源力マナ! そして周囲からの厚い人望! もう非の打ちどころがありません! 是非、弟子にしてください師匠!!」


「いやいや。待て待て」


 そんな褒めれても困るだけだってば。


 マンティス先生を見やると、その真っ赤な目は熱い情熱でたぎっていた。


 殺意だと思っていたのはこの気持ちだったのか……。


「ひまわり組の生徒が羨ましい!! あなたに指導を受けれるのですから!! 私だって色々と教えて欲しいです!!」


「いや……。あのなぁ。落ち着いてくれよ」


「なんでもやりますので、是非、弟子にしてください!!」


「なんでもと言われても……」


「師匠の雑務は私にさせてください!」


 うう……。

 丁度、雑務を熟してくれる存在が欲しかったんだ。


「師匠が空腹ならパンを買い。喉が乾けばジュースを買います!」


 パシリじゃないか……。


「そこまではしなくていいけどさ。大したことは教えられないかもしれないけど、弟子になる?」


「うは! ありがとうございます!!」


 マンティスは鎌を振り上げると、直様、折り畳み、鋭い部分が当たらないようにして俺の体を抱きしめた。


「師匠ぉおお!」


 カマキリ人ってこうやってハグするんだな……。


 こうして、俺は副園長になり、かつ、弟子も得たのだった。




────


 次回、勇者ダークの話です!


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