第7話 学園長、終了のお知らせ

 爺やさんはキツイ口調で問いかけた。


「エゲツナール学園長。これはどういうことですかな?」


「あ、いや……。それはそのぅ……」


「お嬢様はデイン様を大変に気にいっておられます。わたくしもデイン様を教師として尊敬しております。そんな方をクビですと?」


「そ、そそそそ、それは、その……。こ、言葉の綾ざんす!」


「ほぉ。そんなことでデイン様をクビにすると?」


「も、勿論、冗談ざんす! ジョーク! ジョークざんすよ!! あはは!」


 めちゃくちゃな言い訳だな。


「それにデイン様を担任から外して高等部に移すとはどういうことですか? わたくしはデイン様がお嬢様の担任になって喜んでいたはずですが?」


「そ、それはそのう……」


「生徒の気持ちより学園長の命令が一番だとも言っていましたね?」


「いや、その……。ち、違うんざんす! ここにいるマンティス先生は優秀なんざんす!」


 そう言ってカマキリ人のマンティスを手差した。


「彼ならば子供たちに素晴らしい教育ができるざんすからね。ほほほ。それ故にレナンシェアお嬢様の担任になってもらおうかと考えたのですよ」


わたくしはそんな先生、嫌ですわ!! デイン先生以外に考えられません!!」

「ミィたんもやだ!! デイン先生てんてーがいい!」

「私も嫌よ!」

「僕だって嫌だ!!」


 爺やさんは目を細めた。


「お嬢様たちは随分と嫌がっておられますが?」


「きょ、教育方針は学園長のわたくしが決めるざんすからして、それに従ってもらわないと困るざんすよ」


「方針も大事ですが、生徒たちの気持ちを考慮するのも教育の一環でしょう」


「うう……」


「それに、あなたの進退は旦那様が所属する貴族委員会が実権を握っていることをお忘れなく」


「あわわわ……」


わたくしは旦那様からお嬢様の教育を一任されております。これは旦那様に報告する案件ですね」


 爺やさんの旦那ということは、レナンシェアの父親。

 つまり、公爵様か。


「そ、それだけは勘弁して欲しいざんす!」


「では、デイン様の処遇はどうされるのですか?」


「勿論、そのまま担任を続けてもらうざんす!!」


「それは当然のことです」


「では、あーしのことは報告しないでいただけますか?」


「それとこれとは別の話です。この件は貴族委員会に報告させていただきますから、そのつもりで」


「そ、それだけはぁあああああ!! 何卒、ご勘弁くださいぃいいいい!!」


 貴族委員会は学園長の進退を決めることもできるらしいからな。

 こいつが狼狽えるのも理解できるか。


「どうか、どうかご慈悲をぉおおおおおお!!」


「いーえ、なりません。わたくしが居合わさなければデイン様が解雇されていたではありませんか!」


「ああああああああ!!」


 まぁ、自業自得だな。


 俺の進退は爺やさんによって救われたわけか。


「ありがとうございます。助かりました」


「いいえ。とんでもございません! あなた様はわたくし共の命の恩人。しかも、素晴らしい教師でございます。当然のことをしたまででございます」


 俺は、自分のことを、そんな素晴らしい教師だとは思ってないけどな。

 なにせ、勇者パーティーでは無能扱いだった。

 なんだか照れ臭いや。


先生てんてー!!」


 と、ミィが飛びついてきたかと思うと、他の生徒も俺に抱きついた。


「「「 先生ーー! 」」」


 彼女らが盗み聞きをしていなかったら俺はクビになっていたな。

 盗み聞きは悪いことだが、問い詰めるわけにもいかないか。

 一応、とぼけておいてやるか。


「お前たち、どうしてここにいるんだ?」


「ごめんね先生てんてー。でも、ミィたん先生てんてーのことが心配だったの。先生てんてーを辞めるなんて言わないよね?」


 ミィをはじめ、みんなは目に涙を滲ませていた。


「俺は自分から教師を辞めたりしないよ」


「「「 先生!! 」」」


 普段強気なマイカまで心配げな顔で俺の腰に縋り付く。

 よほど、俺が担任から外れることが嫌だったようだ。


「せ、責任はとってよね」


「なんの責任だ?」


「私に勝った先生なんていなかったんだから。そ、卒業するまでは、ちゃんと教育してよね」


「ふふ。仕方ないな。面倒見てやるよ」


 俺が抱き寄せると、彼女はまんざらでもない顔で微笑みを浮かべるのだった。


 そんな状況をカマキリ人のマンティス先生は呆然と見つめていた。


 お前の役目は終わったんだ。ここはお前のいる所じゃない、職員室にお帰り。

 と、目配せすると、黙ったまま帰って行った。


「デインさん、あーしは爺やさんとお話しがあるので席を外してください」


 どうやら、貴族委員会への報告中止を交渉するようだな。

 でも、そうはいかない。

 この機会を徹底的に利用してやる。


「実はな。俺も話しがあるんだよ」


「は、話し?」


「ここに赴任してから独自に調べていたことがあるんだ」


「な、なんのことざんすか?」


「あんたがモーゼリアを学園長から降格させた件さ」


「ギクゥウウ! な、な、なんの話しざんす!?」


「彼女は単独でソンナ遺跡の調査に入った。そこにある財宝が学園の文化遺産になるからという理由でだ。しかし、あそこは王室の所有物。そんな場所に彼女が一人で行くはずがない」


「そ、それは彼女が勝手にしたことざんす!」


「あんたが口を添えたんだろ?」


「い、言いがかりざんす! しょ、証拠はあるざんすか!?」


 俺は職員室にある自分の机から書類を持ってきた。


「な、何を持って来たざんす?」


「遺跡調査の出張書だ。どれもモーゼリアのサインが書いてある」


「ハハハ! 見なさい! 彼女が自分の意思で行ったんじゃないですか!」


 これが気にかかるんだ。

 モーゼリアに聞いたら、サインをした記憶はないと言っていたからな。

 エゲツナールが何かをしたと思うんだが、その証拠は掴めていない。

 教師を解雇されたら、この件を調べてやろうと思っていたのだがな。

 

あーしがやった証拠がどこにあるざんす? 彼女のサインがあるじゃありませんか!」


「おかしい点はそこだけじゃないさ。この書類に押されている受領印の日付を見ろ」


「うう!」


「彼女が調査に出た当日になっている。本来ならば事前に書類が王室に提出されて審査される事案なんだ。それが、なぜか彼女が調査に出かけてから書類が出されている。結果的に審査を無視して彼女が遺跡調査に出かけたことになってしまった」


「ぐ、ぐ、偶然ざんす!」


「偶然かどうかは調べればわかるな」


 爺やさんは目を光らせた。


「デイン様、その書類の経緯は貴族委員会で調査させていただいてもよろしいでしょうか?」


 うむ。 

 いい展開だ。


「そうしてくれると助かるよ」


「厳正に調査させていただきます」


 エゲツナールは汗を滝のように流した。


「はわわわわわわわ……!!」


 こいつの悪行が証明されれば学園長の地位は剥奪。

 それどころか、モーゼリアを騙した罪を問われるだろう。


 自分がやったことを後悔するんだなエゲツナール。


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