第6話 学園長は、もう遅い

〜〜エゲツナール視点〜〜


 あーしの名前はエゲツナール・アクターレン。

 この勇者学園ブレイブバレッツの学園長をやってるざんす。


 そんな私の耳にとんでもないニュースが舞い込んで来たざんす。


「なに? ゴブリンキングをやっつけた、ですって?」


 エルフの巨乳女、モーゼリアは嬉しそうに微笑む。


「はい! デイン先生の一撃で瞬く間に!」


「…………」


 ゴブリンキングといえば 魔源力マナ5千を超える強敵。

 それを一撃で葬るなんて、やはり、デインの実力は相当のようですね。


「それだけじゃないんですよ。私がゴブリンキングに襲われている間。うちのクラスの男子生徒が10体のゴブリンに襲われていたのですが、それも助けてくれたのです」


「ふん。キングを倒すほどの実力ならば、10体のゴブリンくらい雑作もないことざんしょ」


「それが違うんです。男子生徒から聞いたのですが、女児たちに指示を出しましてね。彼女らだけで倒してしまったそうですよ!」


「なに!? あんな生徒たちだけでどうやって!?」


「なんでも、ミィさんが大量の 魔源力マナをレナンシェアさんに移したみたいで、それで強力な補助魔法ができたみたいなんです。マイカさんもロロアさんも戦闘術は普段からデイン先生に鍛えられているみたいですし、それで、あっという間に10体のゴブリンを倒してしまったそうなのです」


「そ、そんなことが……。し、しかし、ミィ・ネリカウォルセンは悪魔憑きの少女だったざんす。戦闘に参加したなんて、とても信じられないざんすよ」


「あ、その呪いならデイン先生が初日に解かれましたよ」


「解いた!?」


「なんでも、強化した 聖なる従者ホーリースレイブで解いたそうです」


「し、神殿でも放棄した問題児の呪いを解いた……」


 す、凄い賢者ざんす。

 レナンシェアの執事が絶賛しているのはこのことだったのか。

 ガドルリザードを一撃で葬ったと言っていたが、どうやら本当みたいざんすね。


 まさか、デインがこれほどまでに実力があるとは思わなかったざんす。

 

 勇者ダーク様が言っていた、デインの評価とは随分と違うざんすね。

 全然、無能賢者じゃないじゃないざんすか。


 近々、生徒たちによる技能の発表会があるざんすからね。

 デインの能力があれば、高等部の実力が一気に増すはず。

 そうなれば貴族の評価は鰻登り。

 貴族委員会から称賛されるざんす。

 金持ちの子供がわんさかウチの学園に入るざんすよ。

 王室の評価もよくなって、学園には支援金がどっちゃり。


 ぐふふ。

 これは良いざんす。


 デインを高等部の担任にするざんす。



 ◇◇◇◇


〜〜デイン視点〜〜


 俺は学園長に呼ばれていた。


 急に呼ばれたので生徒たちは心配しているようだ。

 学園長室の扉の隙間から、こちらの様子を伺っている。


「ちょ、ちょっとミィ。押さないでよ」

「うう。ミィたん、先生が気になるぅ」

「僕だって気になるさ。急に学園長に呼ばれてさ。なんか嫌な予感がするんだよね」

わたくしだって気になりますわ」


 やれやれ。

 俺は聴力が良いからな。

 まる聞こえだ。


「ほほほ。あーたの活躍。噂に聞いてるざんす」


「活躍?」


「なんでもゴブリンキングを倒したとか」


「ああ……。まぁ、降り掛かった火の粉を払ったまでですよ」


「ほほほ。それに、ミィ・ネリカウォルセンの呪いも解いたとか」


「ええ。彼女が不憫でしたからね」


「そこまでしていただいたのなら、それ相応の評価をしないといけませんね」


 ほぉ。

 モーゼリアを降格させた悪党が、俺にどんな評価を下すんだ?


「高等部を担任なさい」


「え?」


「あーたの力は高等部を担任するに値するざんす」


「いやしかし。俺の実力は女児クラスだと、あなたが言っていたじゃないですか」


「そ、そ、そんなこと言いましたっけ?」


 確実に言ってただろうが。


「と、と、とにかく。あーたは今日から高等部ですよ! あーただって女児クラスは嫌だと言っていたでしょうが」


「初めはそんな風に思ってましたけどね。案外みんないい子で、教育しがいがありますよ」


「ほほほ。その力は、是非、高等部に使って欲しいざんす」


「俺が高等部に行ったら、小等部はどうなるんです?」


「高等部の教師が移動することになりますね」


 エゲツナールが「お入りなさい」と呼ぶと、学園長室の横の職員室から、大きなカマキリが入って来た。

 それは大人の背丈くらいで、流暢な言葉を話す。


「俺が小等部に行くことになった。マンティスだ。よろしくな」


 真っ赤な目が光る。

 見た目がカマキリそっくりのカマキリ人だ。

 その性質は荒っぽく。手のカマの鋭さは武器要らずと言われている。


「俺は戦闘が得意なんだ。ビシビシ鍛えてよ。ガキ共を強い勇者にしてやるよ。へへへ」


 廊下側から女児たちの声が漏れ聞こえてくる。



「「「 はわわわわわぁ…… 」」」


 

 気持ちはわかる。

 俺から、こんなカマキリが担任になったら嫌すぎるだろう。

 

「ほほほ。マンティス先生が鍛えれば、ひまわり組の戦闘力は更に向上するでしょうね。ですから、あーたは安心して高等部に行きなさいな」


「俺に選択権はないのですか?」


「は? そんなものあるわけないざんしょ。学園長の命令は絶対ざんす」


「ほぉ」


「あーたはあーしの命令に従うしかないざんすよ。ほほほ」


「そもそも、俺が高等部に配属される理由はなんです?」


「発表会ざんす」


 そういえば、俺がここに来た初日にもそんなことを言っていたな。

 貴族や王室に生徒たちの実力を披露する会だ。


「2ヶ月後にある発表会で、高等部の生徒たちを活躍させなさい。それがあーたの使命」


「なぜです? ひまわり組が活躍すればいいじゃないですか?」


「そ、そんなこと、一介の教師が知る必要はないざんす!」


 大方、金だろう。

 発表会には貴族委員も来る。

 委員の評価が高くなれば、レナンシェアのような生徒が入学してくれる。

 それに王室の評価が高くなれば国からの援助金が多く入るしな。

 卒業前の高等部が活躍した方が、より評価はいいはずだ。


「あーたが、高等部の生徒を鍛えれば素晴らしい勇者が量産されますよ!」


「それは小等部でも同じことでしょう? 女児らが育てばやがては立派な勇者になる」


「だまらっしゃい! あーしの命令は絶対なんざます!! あーたは今日から高等部ざんす!!」


 やれやれ。

 こいつはどうしようもない奴だな。

 勇者ダークを思い出す。

 こんな奴の命令を聞くくらいなら死んだ方がマシだ。

 はっきりと言ってやろうか。








「 断 る 」






 

 エゲツナールは目を見張る。


「な、なんですって……?」


「だから、断ると言ったんです」


「そ、そ、そんなことができる訳がないざんしょ! あーしは学園長ざんすよ!!」


「俺はひまわり組が気に入っているんです。今更、高等部に行けと言われても変えれませんよ。それに、生徒たちも混乱するでしょうしね」


「生徒の気持ちなんてどうでもいいざんす! あーしの命令が絶対なんざんす!!」


 なんて奴だ。

 自分のことしか考えてないのか。


「俺はひまわり組を担当します。それが生徒にとって一番いい」


「クビざんすよ?」


 やれやれ。

 本当に勇者ダークと思考がそっくりだな。


「ククク。一介の教師が学園長に逆らって教師を続けれるわけがないざんしょ! あーしの命令が聞けないのなら、あーたはクビです」


「俺は意見を変えない」


「な、なんですって!?」


「ひまわり組の担任をやり通すと言ったんだ」


「ぬぐぅ……!」


「そもそも、俺はモーゼリアに誘われて教師になった。あんたの命令を受けたわけじゃないさ」


「ぬぐぐぐ……」


「それに、ひまわり組に俺を配属したのはあんただからな。あんたが初めに出した指示を、俺は責任を持ってやっているだけさ」


「ぬぐぐぐぐ」


「それを急に高等部に行けと言われてもな。そんな無責任な行動は取れんさ。教師として生徒に示しがつかないだろう」


「ク、クビざんす!! あーたはクビざんすぅうううううう!!」


 やれやれ。

 ミィたちには悪いが、この流れならばどうすることもできん。

 俺が高等部に行けば、どの道、彼女たちとは離れるんだ。

 俺がクビになっても同じことだろう。


「出てけぇえええええ!! 今直ぐ、この学園から出ていけぇえええええ!!」


「はぁ……」とため息とともに踵を返す。

 すると、






「お待ちください! 先ほどの話。全て聞かせていただきました!!」






 現れたのは白髪の爺さん。レナンシェアの執事だ。

 彼の後ろにはレナンシェアをはじめ、みんながついていた。

 どうやら彼女が呼んだようだ。


 爺やさんは、鋭い目つきでエゲツナールを睨みつけるのだった。

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