第4話 あずき

 まもなく日は落ちる。

 家の前にいた僕は強く不安を抱くのであった。

 隣にいるりんさんは腕を組んでしばらく考え込んでいる。


 消え入るような声で呟いた。


「どこへ行ったんだ。本当にどこへ。・・・穂香ほのか。」

 僕は途方に暮れるのみだった。


 せっかくもう一度会えたというのに、また僕の失敗で穂香を。


「ああ、もしかして、女の子っていうのはあれかい?あのたちばな涼音すずねのことかい?」


「なぜその人の名前を知っているんですか!」

 突然出た名前に僕は思わず強い反応をしてしまった。


「あたしが知ってたら悪いかい?あれだろ?たぶん涼音は昨日あたしのことを使っていたんだろ?」

「そうです。確かに僕と穂香を引き合わせるためにあなたの力を使っていたんだと思います。」

「たぶん涼音なら知っているんじゃない?あんたの探している女の子についてさ。」

「でも、あの後協力はできないからと橘さんとの連絡手段は全て断ち切られてしまったんです。」

「ふふふ、そうかい。じゃあ、あたしならその人の場所が分かるって言ったらどうだい?」

 燐さんは自信をもった笑みを見せる。


「そんなことが分かるんですか!」

「あたしを舐めてもらっちゃ困るよ。あんたの恋人に一度会えたのはあたしの力あってこそのことだったんだからね?安心しな。」

「そうですね。それなら燐さん、案内を頼んでもいいですか?」

「よし!快く引き受けさせてもらうよ。」


 母には気分転換に歩いてくると伝えてきた。

 気分転換にしては長くなるけれど。いいだろう。

 僕が報告している横で燐さんは

「やっすい嘘だねえ。」

 とクスクス笑っていた。




「橘涼音はここから南西に半里くらいいった場所にある神社にいるよ。この距離じゃ、あんたのついた嘘はバレちまいそうだねえ。」

 ここからだいたい2㎞か。

「自転車を使わせてもらいますよ。これなら少しは時間の言い訳くらいならできるでしょう?」

「そうかい。間違ってもあたしを落とさないようにしとくれよ?」

 僕は大切に勾玉の燐さんをポケットに大切にしまう。

「それじゃあ案内するからついてきな。」

 燐さんは僕の先をスーッと進んでいった。




 出発して10分。既に辺りは真っ暗になっていた。

 1.5kmほど自転車を漕いでいったところは既に僕の知らない道だった。

 建物は少し先に行った場所にうっすら見えるコンビニくらいしかないほどに辺鄙へんぴだ。

 そんな道を走っているときのことである。

 不意に近くから猫の鳴き声が聞こえた。

 

 なぁあああご!!


 夜の猫の鳴き声はいやに不気味だ。

 夏なのに全身が粟立つ。


 燐さんはすこし高い声でそれに話しかけた。

「ありゃりゃりゃ、あずきちゃん。出てきちゃったのかい?仕方ないわねえ。ちょっと祐治、止めてもらえるかい?」

 彼女に従う。僕は自転車カゴの中に小動物の影を見た。


「紹介してなかったね。これがあたしの中に迷いこんだ子だよ。この子は三毛猫のあずき。いたずら好きだけど、それがまた可愛いんだよ。」

 燐さんは猫らしきものを撫でている。

「そうそう、この子はいろんなものに化けられるんだよ。紹介ついでに見てみておくれ?」

 彼女は小動物のお尻をポンポンとたたいた。

 その小動物の影はどろどろに溶けた。

 それの足は12本。人間と同じくらいの大ダコが目の前に現れる。

 大ダコは触手を僕の眼前まで伸ばし、吠えた。

 

「んなぁあごぉおううううううう!!!」


 腰が・・・。立てない。うああ。


「あっはははは!!あんたやっぱり面白い反応するねえ!!」

 燐が腹を抱えて笑っている。

 やっぱり燐は悪霊だったのか??

 いつの間にか小動物に戻ったそれを燐は撫でてこういった。

「もうお家にお帰り、あずきちゃん。」

「にゃああん。」

 僕の恐怖の対象はすうっと小さくなって消えた。


「案外頼もしいだろ?あずきちゃんは。」

 僕は涙目になりながら言い返す。

「さっきからなんでこんなにぼくをいじめるんですかあああ!!」

「ごめんごめんっ!ささ、はやく涼音に会いにいくよ!さあ、気張って気張って!!」


 ふらふらになりながら僕は自転車を漕ぎ続けた。


「そろそろだね。見えてきたよ。」

 石でできた大きな鳥居が目の前に現れた。

 こうして僕らは橘さんのいる神社にたどり着いたのだった。








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 柳祐治は猫恐怖症になってしまった!!

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