猫歴73年~

猫歴73年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。やる時はやるんじゃよ?


 さっちゃんの葬儀でわしがめっちゃいいことを言ったので、猫ファミリーも珍しくチヤホヤしてくれるから、わしも鼻高々。しばらく王様待遇を受けて、お昼寝し放題だ。


「ほら? 1ヶ月以上も狩りには行ってなかったんですから仕事しますよ」

「ゴロゴロ~」

「いつまで寝てるニャー! シャキッとするニャー!!」

「ゴロゴロゴロゴロ~!?」


 それは帰ってから3日だけ。リータとメイバイに激しくモフられたわしはまだダラケていたいので、異議を申し立ててみる。


「エリザベスとルシウスもお昼寝してるにゃ~」


 そう。さっちゃんが亡くなってから、2人はキャットタワーに越して来て、葬式以外は外に出ないでずっと寝ているのだ。


「長い間サンドリーヌ様と一緒にいたんですから、少しの間そっとしておいてあげましょ」

「シラタマ殿は、2人と一緒にサボろうとしてるだけニャー!」

「わしもけっこうダメージ受けてるんにゃよ?」

「「行くにゃ~!」」

「にゃ~~~!!」


 わしの訴えは却下。インホワたちからも「訓練は飽きたから狩りに連れて行け」と総攻撃されて、渋々猫クラン活動を再開するわしであった。



 それから1ヶ月が経ち、猫歴73年の2月22日、わしたち猫兄弟と勝手に決めたコリスの誕生日は、いつもより豪勢なパーティーとなった。

 といっても身内だけの会なので、部外者はアンジェリーヌぐらい。エリザベスたちが心配で見に来たらしい。久し振りに会って撫でまくっているから、エリザベスたちは迷惑そうな顔してるけど……


「エリザベスちゃんとルシウス君にかんぱ~い!」

「「「「「かんぱいにゃ~!」」」」」


 リータの音頭で始まる宴。いつもより豪勢な理由は、2人の歓迎会を兼ねているから。でも、料理のメニューが豪勢なだけだ。

 子供や孫たちは、わしの兄弟だから撫でていいのか悩み中。普通の猫に見えて、親戚のおじさんおばさん、またはおじいちゃんおばあちゃんだから、いまだにどう対応していいかわからないみたい。


 引っ搔かれたら腕が落ちるともわしが言ってあるから……


 その中の小さい孫たちは、わしのことをウルウルして見て来るので、エリザベスたちに頼み事。たまに撫でさせてくれないかと頼んでみたら、言葉もわかるんだから許可を取ってからなら一向に構わないとのこと。

 そのまま孫たちに伝えたら、猫ファミリーが全員突っ込んで行った。普通の猫、めったに撫でられないもんね。エリザベスたちはモフられまくって早くも後悔していたけど……



 そんな歓迎会も終わり、アンジェリーヌがなかなか帰らないなと思いながらも、わしはエリザベスとルシウスだけを連れて森の中の実家に転移した。

 この実家はおっかさんの縄張りをわしが守って来たのだけど、王様になってから管理が難しくなったので、エリザベスたちに相談して縄張りの縮小を了承していただいた。


 いまの縄張りは、元々家族でねぐらにしていた洞穴のみ。洞穴といってもわしがリフォームしまくったから、広くて快適な空間となっている。わしの部屋なんて、人間仕様だ。

 残りは友達というか舎弟の黒オオカミに譲って群れで管理している。昔は縄張りを巡って争った仲だけど、いまはわしがぶっちぎっているので、縄張りの中を我が物顔で歩いても襲って来ない。

 一度、エリザベスとルシウスに若いオオカミがケンカ売って食べられたから尚更だ。食べるなと言ったのに……久し振りに食べたくなったとか言ってたけど、マズイからってほとんど残しやがったの。


 とりあえずおっかさんのお墓に3人で手を合わせ、わしは「やっと兄弟たちを完全に取り戻した」と報告する。

 それから封印している洞穴の入口を土魔法で開けたら、3人で中に入る。たまに帰って来ていたけど、エリザベスとルシウスはいつも嬉しそうにしていたので、やはり実家は落ち着くのだろう。


「はぁはぁ……お母さんのにおい……はぁはぁ」

「もうお前のにおいしかしないにゃ~。こっち来いにゃ」

「にゃ~~~」


 マザコンのルシウスはいつも寝床に突撃して布団代わりの毛皮をくんかくんか嗅ぎ倒すので気持ち悪い。首根っ子を掴んで、女王様かってぐらい豪華なクッションでくつろいでいるエリザベスが待つリビングのテーブルの上に乗せてやった。


「今日ここに来たのは、これからどうするかを聞きたいんにゃ。実家に帰るか、わしと一緒に猫の国で暮らすか。はたまた新しい縄張りを作って、パートナーを探すのもアリだにゃ」


 わしの質問に、エリザベスは面倒くさそうに前脚を上げた。


「いまさらこんな所で貧乏暮らしなんてイヤよ。あんたの所で厄介になるわ」

「それってわしが好きで好きで仕方ないってことにゃ~?」

「セレブ暮らしがしたいって言ってんの! 噛むわよ!!」


 ツンデレさんのエリザベスは歯を剥いて怒っているので、ルシウスに話を振ってみる。


「ルシウスはどうにゃ? 昔は帰ってもいいようにゃこと言ってたにゃろ?」

「俺もシラタマの所がいい。もうこんな暮らしできない!」

「おお~い。お前までいつの間に家猫になってるんにゃ~」


 70年以上もお城で家猫になっていたエリザベスとルシウスの野生消滅。わざわざこんな所で話をしなくても、最初から決まっていたんだね。


「ただ、うちは王妃たちの方針で働かざる者食うべからずなんにゃ。仕事はしてもらうからにゃ?」

「仕事って狩りでしょ? それぐらいならやってもいいわよ」

「おう! 強い敵は願ったりだ!!」

「それじゃあ、2人もわしのクラン入りってことだにゃ。あ、勉強はどうしよっかにゃ? 王様の兄弟がバカじゃ国民に示しがつかにゃいかも?」

「誰がバカなの!?」

「俺だって計算ぐらいできるんだぞ!」


 エリザベス、ルシウス、猫クラン加入決定。訓練や狩りがない日は、家庭教師から勉強を習うことまで決まった。


「「バカのままで宜しゅう御座います」」

「小学校のテストで諦めるにゃよ~」


 試しにテストをやらせてみたら、仕事を頑張るから勉強は免除してくれと土下座でお願いされるわしであった……


「あの子たちはできるの?」

「コリスとリリスにゃ? 読み書き計算ぐらいはできるにゃよ?」

「「うっそだ~」」

「コリス~? リリス~? ちょっとおいでにゃ~」


 猫ファミリーで唯一義務教育を卒業していないコリスとリリスにも負けたエリザベスとルシウスは、しばらく立ち直れないのであったとさ。


 さっちゃんは今までどんな教育してたんだか……猫に教科書見せるヤツなんていないか。



 エリザベスとルシウスの教育は、コリスとリリスを先生に任命。コリスたちもたいして勉強はしてないけど、エリザベスたちに勝ったから妙にやる気が出ていたので任せてみる。

 その翌日は、訓練。エリザベスたちの実力はある程度知っているけど、完全に把握しておきたい。まずは直接攻撃と魔法の攻撃力を見せてもらい、スピードなんかも計る。


 ちなみにエリザベスとルシウスがそこそこ強い理由はわしのおかげ。白い獣が魔力濃度の低い場所で育つと、強さも大きさもあまり成長しないのは玉藻のおかげでわかっていたので、せめて魔力たっぷりの食べ物ぐらいは仕送りしていたのだ。

 最初の頃は黒い獣肉を送っていたけど、海に出るようになってから白い巨大魚が余りに余っていたので、超高級肉に変更したのも大きい。

 それでも2人の大きさは普通の猫より一回りぐらいしか大きく育たなかったので、栄養を強さに割り振られたのではないかとわしの予想。猫クランの最低ランクはあるから間違いないだろう。


 余談だが、超高級肉に変更してからエリザベスに「最近お肉の質が悪くない? ちゃんと働いてるの??」と言われたから調べたら、さっちゃんたちが食ってやがった……

 なのでキレたら、「美味しいの~!」ってめっちゃ泣かれたので、それからは倍の量を送って着服は見逃すことに。「飼い主はさっちゃんだろ」と腹が立つので、兄弟の生活費だと自分に言い聞かせたよ。



 エリザベスとルシウスの実力は猫クランでもギリギリやっていけるとわかったけど、いきなり群雄割拠の黒い森の中に連れて行くのは危険なので、チームプレイなんかの確認は必要だ。


「とりあえず……オニタとアリスのペアとやってみよっかにゃ? 魔法は全て球体で、エリザベスたちは爪は隠せにゃ。絶対に殺し合うにゃよ~?」

「うおおぉぉ!!」

「「にゃ~~~!!」」

「わしの話、聞いてたにゃ?」


 エリザベス&ルシウスVSオニタ&アリスは、意外にも拮抗。そもそもエリザベスたちは小さいんだから、デカいオニタでは戦いにくいのだ。

 エリザベスとルシウスは、素早く走り回ってオニタを翻弄ほんろう。アリスはちゃんと手加減してくれているので風魔法を外しまくり。そのせいでエリザベスペアが押し始めたけど、オニタが冷静になったら勝負アリだ。


「オニタペアの勝ちにゃ~」


 勝負はついたので皆を訓練に戻らせたわしは、グデ~ンとなっているエリザベスとルシウスの目の前に水の入った皿を置いて座る。


「にゃんで負けたかわかるにゃ?」

「俺はサッパリだ。なんで先に殴られてたんだ??」

「たぶん……攻撃が読まれていたから?」

「エリザベスはさすがだにゃ~。アレは侍攻撃と言ってにゃ。相手の攻撃より先に決めたり、後から先を取ったりする技にゃ」


 そう。オニタはチョコマカ動くエリザベスたちに意識を集中させて、先の先、後の先を決め出したから圧倒する結果になったのだ。


「ウチのクランメンバーは全員できるから、覚えておいて損はないにゃ。みんにゃに負けたくないにゃろ?」

「また勉強……強いから楽できると思ったのにな~」

「俺はやる! もっと強くなってエリザベスも守ってやるからな!!」

「誰が弟のあんたに守られなきゃいけないのよ。私もやるわ」

「にゃはは。んじゃ、わしの訓練は甘いから、頑張ってついて来るんにゃよ~?」

「「にゃ~! ……甘いの??」」


 久し振りの猫クラン研修は、エリザベスとルシウスの気合いの入った声と、首を傾げる微妙な顔で始まるのであった。



 それからのわしは、訓練の日はエリザベスとルシウスの自力の底上げプラス、侍の剣と気功を伝授。猫クランメンバー初心者がやった訓練を施し、狩りの日は3人で別行動。

 2人にちょうどいい獣と戦わせ、難易度の高い場合はわしが盾役をしながらレクチャー。チームワークの訓練では猫型・大(現在7メートル)になったわしが獣役をして、メイバイと一緒に戦わせる。


「いや、メイバイさんにゃ。これ、訓練にゃよ? その白銀の武器は置こうにゃ。にゃ??」

「シラタマ殿相手に手加減はいらないニャー! エリザベスちゃん、ルシウス君、殺す気で行くニャー!!」

「「にゃ~~~!!」」

「殺す気はやめてにゃ~~~」


 でも、一切手加減がない。最愛の夫で兄弟のわしに、よくそんな殺気を飛ばせるな……


「私たちも行きますよ!」

「待って! 待ってにゃ! 全員、白銀の武器はダメにゃって!!」

「突撃~~~!!」

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」


 メイバイたちの攻撃が一切当たらないので、リータが指揮を取って全員突撃。わしは最愛の夫で父親で祖父で兄弟なんじゃけど~~~?


 皆がこんなに殺気ムンムンで襲い掛かって来るので、嫌われているんじゃないかと思って涙目で攻撃をいなすわしであったとさ。

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