猫歴64年にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。人の命は
猫の街初期メンバーの最後の1人が死後の世界に旅立ったので、さすがのわしもセンチメンタルになっちゃった。それは当時を知るリータとメイバイとコリスも同じく、しばらく感傷に浸っていた。
しかし、家族には関係ないこと。皆を心配させるわけにはいかないので、わしはできるだけいつも通りゴロゴロお昼寝していたら、リータとメイバイに首根っこを掴まれて狩りへ。寝過ぎらしい。
いつも通り狩りをしていたある日、スマホが鳴ったので早く切り上げて東の国に急行。とある人物の最後を看取り、お葬式に参加して、その翌日は元気のないさっちゃんが心配なわしは、共にお茶をしていた。
「お姉様方まで……」
そう。双子王女が危篤と聞いて、わしたちは急行したのだ。
「まぁ……不幸は重なるもんだよにゃ……」
さっちゃんが元気がない理由は、昨年夫が亡くなったことに加えて、双子王女がほぼ同時に死後の世界に旅立ったからだ。さすがのわしも、こうも重なると掛ける言葉も慎重になってしまう。
「あ、そうにゃ。だいぶ前に猫の国初期の写真を整理してたんにゃ。双子王女も映ってるんにゃよ~?」
いまは現在の話よりも過去の話のほうがしやすいと思って、ヨキが死ぬ前に整理していたアルバムを開いて見せてあげた。
「お姉様、若いね」
「うんにゃ」
「写真があってよかった」
「そうだにゃ」
「これ、なんでシラタマちゃんは正座させられてるの?」
「たぶん双子王女に説教されてるんじゃにゃい? てか、こんにゃ写真、アルバムに入れた記憶がないんにゃけど……」
「フッ……フフフ」
わしが整理したんだから、自分が
少しイラッと来たけど、そのおかげでさっちゃんが笑ってくれたので結果オーライ。でも、わしの写真が多いんじゃけど~?
「にゃんでわしばっかり……」
「フフフ。いいじゃない。シラタマちゃんと一緒に映ってる人、みんないい笑顔してるわよ」
「そうにゃけど~……双子王女は鬼の形相してるにゃよ?」
「うっわ……私もこの顔で怒られたことある~。あはははは」
わしが指差した写真は、わしが焦った顔で逃げ出す瞬間と、双子王女が鬼の形相で追いかけようとした瞬間。誰が撮ったかわからないけど、決定的瞬間すぎてさっちゃんも吹き出して笑うのであった。
そこからはわしのやらかし談。さっちゃんは双子王女に怒られたエピソードばかりを要求するので、お腹が痛そうだ。
「あぁ~。笑った~……怒られすぎよ」
「いや、市長の仕事をわしに押し付けようとする2人が悪いにゃ~。わし、王様の仕事で忙しいんにゃよ?」
「王様の仕事もしないでお昼寝していたら、誰だって怒るわよ。だからお姉様方も王様に見えるように仕事を振ってたんでしょ」
「わしが書類仕事したら、本当に王様に見えるんだにゃ?」
「……ゴメン。プッ……」
怒られすぎ問題は、さっちゃんが謝ったからわしの勝利。そりゃこんな姿では王様に見えないでしょうね~?
「しっかしアレだにゃ~……」
さっちゃんは元気になったように見えたので、わしは3日前の話をしてみる。
「まさか1時間違いだったとはにゃ」
「ええ。双子でもここまで近い時間に亡くなるなんてね……」
双子王女が旅立った日時はそういうこと。最後は2人とも安らかな顔で旅立って行ったが、2番手の死ぬ間際の言葉が引っ掛かっていたからわしはずっと喋りたかったのだ。
「アレはどういう意味にゃろ? 『同着』っての」
「あ、やっぱりシラタマちゃんにも『同着』って聞こえたんだ。あれだけどっちが長く生きるかで競っていたのに、不思議よね」
双子王女は夫を亡くして数年経ってから城に帰っていたのだが、寝たきりになってからが長かった。何度もわしは「そろそろかな?」と覗きに行ったら、2人は「早く死ね」と口喧嘩をしていたので仲裁していたのだ。
「そういえば、どっちが姉だったにゃ?」
「何年一緒に暮らしていたのよ……」
「この数年、シャッフルされまくってにゃにがにゃんだかわからなくなってるんにゃ~」
わしだって一時期は覚えていた。病室を訪ねる度にシャッフルしてるのが悪いんじゃ。と、思う。
「第一王女はジョジアーヌお姉様よ」
「てことは、第二王女はジョスリーヌだにゃ」
「いまさらそれがどうしたの?」
「先に亡くなったのがジョジアーヌにゃとしたら、同着の謎は解けるにゃ~」
「それでどうして……あっ! え? そんなことありえるの??」
「さあにゃ~? 双子にゃらではの体内時計があったのかもにゃ~」
人体の不思議。おそらくだが、ジョジアーヌが生まれて1時間後にジョスリーヌが生まれたので、死んだ時間の誤差がちょうど生きた時間と同じになったから、ジョスリーヌの最後の言葉が「同着」となったのであろう。
病室でのやり取りは、なんだかんだで2人ともエールを送っていたのではないかと、わしたちは結論付けたのであった。
「そうだ。シラタマちゃんに遺言があったの。お姉様方、謝ってたわよ」
「あの2人がにゃ~~~??」
さっちゃんから双子王女が謝っていたと聞いてわしはしかめっ面。あの2人が謝る時は、わしに無理難題を吹っ掛ける時だから、一切謝罪を受けたとはカウントしてないからこんな顔になってるの。
「まずは~……こっちにしとこうかしら」
遺言書というかメモっぽい用紙をさっちゃんは読み上げる。
「化粧品の件、ムリヤリ譲ってもらって悪かった、だって」
「譲ってないからにゃ? スパイが奪って行ったんだからにゃ??」
化粧品の件とは、第三世界の知識で作られた化粧品のこと。猫の国では忙しくて手を付けられなかったから、後回しにしていた技術だ。
そんなある日、双子王女から自分の子供を猫の国に留学させたいと打診があり、市長として貢献してくれたからと受け入れたのが悪かった。
2人の子供は「誰も手を付けていない学問を学びたい」と言っていたから猫大地下大図書館の立ち入りを許可したんだけど、やっていたのは化粧品の勉強。
できるだけ体に優しい無添加で簡単に量産できる化粧品をピックアップして、双子王女の領地に持ち帰りやがったのだ。
気付いたのは、東の国の王族や貴族に大流行してから。さっちゃんやペトロニーヌまで使っていたから止めようがなかった。「もうこれしか使えない」と泣き付かれたの。
ただし事情を説明したら、それは悪いことをしたとペトロニーヌが双子王女を叱ってくれたので、わしは後ろに隠れて半笑いで見てやった。ざまぁみろ。
さっちゃんからも謝罪されて猫の国に取り分くれたけど、芸術関連ばりに安かったんじゃよな~……結局、双子王女に謝ってもらえなかったし。
それからは堂々と孫を送り込んで来て、「金払ってるんだから」と新しい化粧品のレシピを奪って行ったんだよ。酷くない?
「まぁ確かに酷かったけど、私も化粧品は急いでって何度も打診したじゃない? それなのに一向に取り掛かってくれなかったじゃない」
「あの頃はやりたくても人材がいなかっただけにゃ~。急いでやったら、肌が荒れたとかクレーム入るのは目に見えてたんにゃもん」
「だからよ。お姉様方が人材を送り込んでくれたから、いまの美容業界は発展したのよ。つまり、猫の国のように世界の発展に役立ったと言っても過言じゃないわ!」
さっちゃんがやけに力強く喋っているので、わしは勘繰ってしまう。
「もしかしてにゃけど……双子王女を
「さっ! 次の謝罪ね~」
「その反応は、さっちゃんが犯人にゃろ~~~」
約35年後の犯人の自供。といっても、主犯は双子王女でさっちゃんは共犯だって。
第三世界で大量購入して来た化粧品が尽きそうだったから、双子王女は猫市の知識で発展させた自分の領地なら人手があるとさっちゃんに相談した。
ただ、わしが化粧品は人体に害がある物ができあがる可能性があるから渋っていたので、その情報を出したら「いい手がある」と、さっちゃんには方法を告げずにスパイを送り込んだらしい。
でも、まさかわしがペトロニーヌにチクるとは思ってなかったそうだ。さっちゃんもバレて怒られたんだってさ。ざまぁみろ!
「そういえば次とか言ってたけど、まだ謝罪することあるにゃ?」
さっちゃんはペトロニーヌの怒った顔を思い出してプルプル震えていたので話題を変えてあげる。
「えっと……そうそう。さっき言ってたシャッフルの件よ。本当は3割は当たってたけど、噓ついてゴメンだって」
「にゃ……やっぱり八百長だったにゃ~~~!!」
化粧品の件はお金を貰っている手前そこまで怒れなかったけど、これはアカン。毎度毎度、わしは双子王女に怒られてたんじゃからな!
「いや、シラタマちゃんも悪いわよ? なんでベッドも変わってないのに3割しか当たらないのよ」
「みんにゃそんなもんじゃにゃいの?」
「私は100%で~す。リータとメイバイでも、90%って言ってたわよ?」
「うっそにゃ~」
「本当よ。いつまで経っても顔を覚えないから、お姉様方もムカついてやったって言ってたの。だからシラタマちゃん……帰りにお墓で謝って」
確かにそんな正解率では怒られても仕方がないとは思うけど、いまはわしが謝罪を受けている最中だ。
「にゃんでわしが……」
「謝って……」
「はいにゃ……」
しかしさっちゃんが冷たい目で謝罪を求めるので、わしは双子王女のお墓で「お前たちが悪い!」と毒を吐いて帰るのであっ……
「パパ……」
「シ、シリエージョさんにゃ? にゃ、にゃんでこんにゃところに……」
「サンドリーヌ様に、パパがちゃんと謝ってるか見て来てと頼まれて……」
「最後まで顔と名前が一致せず、すいにゃせんでしたにゃ~~~!!」
でも、愛娘のシリエージョが一部始終を隠れて見ていたので、わしは土下座してから帰るのであったとさ。
こんちくしょう!!
双子王女こと第一王女ジョジアーヌ、第二王女ジョスリーヌ、享年79歳。
領地をとんでもなく発展させたこともさることながら、化粧品会社のブランド化を成功させて多大な利益を出したことから、『美の女王』として東の国に名を刻んだのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます