猫歴65年にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。美の女王って……出世しすぎじゃない?
双子王女が亡くなってから敬称がわしの耳に入って来たので
さっちゃんやアンジェリーヌには「女王以外が女王と呼ばれてるのいいの?」とネガティブキャンペーンしたけど、王族だからいいらしい。その
猫歴64年は双子王女永眠の影響でわしは何度も東の国に足を運び、何度も双子王女のお墓にも足を運ぶ年であったが、日々は過ぎる。
そして猫歴65年の春に、ギョクロとナツから朗報が届けられた。
「おお~。2人とも、ついにやったにゃ~」
「僕たちだけじゃないにゃ~」
「みんにゃがいたからにゃ~」
「にゃはは。そうだにゃ。その者たちも誘って、量子コンピュータ完成の宴をやろうにゃ~」
そう。苦節19年、ギョクロとナツ主導の下、この第三世界に、あと100年掛かってもおかしくない量子コンピュータを自作で誕生させたのだ。
それを褒めてあげたのに、2人はいい子すぎるやろ~~~!
ひとまず今日のところは関わった者を全て集めて大宴会。翌日にギョクロとナツから量子コンピュータについて説明を受ける。
「ぶっちゃけわし、そんにゃ詳しくないんだよにゃ。普通のパソコンとどこが違うにゃ?」
「「そこからにゃんだ……」」
わしが作れと言ったのに、おじいちゃんレベルだったので2人は冷たい目。いちおう詳しく説明してくれたけど、言ってる意味がサッパリわからない。
「にゃに? その『それっぽい物』をそのまま計算するって……これ、みんにゃわかって作ってたにゃ?」
「みんにゃ、必ず最初にそこで
「それを理解させるの、私たちも苦労したにゃ~」
2人は図書館の検索システムを例に話をする。
「今までのコンピュータでは、Wが頭文字の本を探すには、Aから順番に参照していたんにゃ。するとWは最後のほうにゃから時間が掛かるにゃろ?」
「そこで量子コンピュータにゃ。量子コンピュータは全体を見て、徐々に照準を合わせるようにゃ調べ方をしてくれるんにゃ。だから早いんにゃ」
「あぁ~……
「「にゃっ!
「そ、そうにゃの? パパもデジタルに慣れて来たんだにゃ~。にゃはは」
たまたま戦闘に当て嵌めたら、これがマグレヒット。2人はそれに気付いてないから、わしは鼻高々。でも、すぐにボロが出ると思うから、伸びた鼻はそっと折って続きを聞くわしであった。
チンプンカンプンな量子コンピュータ講座を聞き終えたわしは、フラフラで逃げ出してとある機関に顔を出した。
「センエン。やってるにゃ~?」
ここは猫家に婿入りしたセンエンが働く職場。猫の国気象局だ。
「あ、シラタマさん。こんなところにどうしたのですか?」
「いい情報を持って来たんにゃけど……その前に、いったいいつまで働くつもりにゃの?」
「死ぬまでですかね? あはは」
このセンエン65歳も、平賀源斎と同類のド変態。気象局長官に王様権限で捻じ込んであげたけど、55歳辺りで身を引き、何をするかと思ったら一番下っ端でもいいからと残った人物だ。
ちなみに猫の国では定年制度は
だから自分の判断か、客観的な人の判断で退職となり、その後は国民の最低賃金は国から補償しているので、贅沢したいなら貯金を切り崩しての生活になる。
もしくは、センエンのように安い給料で元の職場か、シルバー職の仕事を斡旋しているからそこで働けるようになっているのだ。
「いまも相談役やってるにゃ?」
「いまは天気予報の精度を上げる研究ですね。こっちのほうが面白いので」
「おお~い。そんにゃことに王族の権限使ってないだろうにゃ?」
「めっそうもありません。僕が長官辞めたの10年前ですよ? もう僕を頼る必要なんてなくなったからですよ」
「それにゃらいいんにゃけど……」
センエンは普通の小柄なじいさんのように見えて、故オニヒメ王女の夫であり、オニタ王子の父親。そのせいでちょっとは権力があるから心配したけど、杞憂だったようだ。
ちなみにオニヒメが亡くなってからセンエンは出て行こうとしたので「オニタの父親だろ」とわしが引き留めた。その後に王族に籍を置いたままの再婚を勧めたけど、「オニヒメが忘れられない」と言って断ったので見直した。
でも、天気図を見ながら「ハァーハァー」やってたから、追い出してやろうかと考えたよ……
「まぁいいにゃ。量子コンピュータが完成したから、いまやってる研究に役立つにゃよ」
「量子、コン……なんですかそれ?」
「いまはショボイパソコン使ってるにゃろ? それのうん億倍計算が速い機械にゃ~」
さっき聞いた話をわしなりに頑張って伝えてみたけど、センエンには上手く伝わらず。そもそもセンエンには権限がないから、上に言ってくれとのこと。
無駄な努力をさせられたわしはキレてから、長官に斯く斯く云々と説明してみたけど、こいつにも伝わらず。またキレてから、パソコンでデータを集めてる部署に移動して3回目の説明。これも伝わらなかったよ~。
「うんにゃ。それで合ってるにゃよ?」
「にゃんでみんにゃわかってくれないんだろうにゃ~?」
「よかったにゃ~。わしの説明が悪いのかと思ったにゃ~~~」
なので、ギョクロとナツに泣き付いて、慰めてもらうわしであったとさ。
量子コンピュータの説明はもう面倒くさいので「天気予報がめっちゃ楽になる」とだけ説明して、衛星事業局と気象局の若い職員を拝借。頼んでもいないのに、センエンがトップでやって来た。
「ほらにゃ? 衛星写真を下に温度とか風向きとかを入力したら、未来の雲の動きがわかるにゃろ?」
「「「「「おお~」」」」」
「今まで経験と勘でやっていた物が、正確に、かつ、楽にやれるって素晴らしい物なんにゃ~」
「「「「「おお~」」」」」
若手職員は大画面モニターに映された映像とわしの説明で感嘆の嵐。これは黒モフ組がシステムとかも頑張ってくれたんだけど、わしの手柄にしてもいいかな?
「「「「いいわけないにゃ……」」」」
「ですよにゃ~?」
わしの不穏な考えはバレバレ。なので、大々的にギョクロたちを紹介して、わしは末席に入れてもらった。
説明も丸投げにしていたら、このシステムは突貫工事で作ったから不具合が多いとか言ってた。ここはわしが間に入って、気象局、衛星事業局、コンピュータの専門家でチームを作るようにする。
今日のところは、親睦会。量子コンピュータを使って様々な数値を打ち込んだ天気予報で遊ぼう。でも、変態揃いの集団なので、めっちゃ真剣な顔でやり合ってんな。ケンカは禁止で~す。
いまにも殴り合いに発展しそうだったので、わしが何度も止めに入り、なんとか落ち着いて来た頃に書き物をしてるセンエンの前に座った。
「にゃにしてるにゃ?」
「機械に負けてられませんので……」
「絶対無理にゃから諦めろにゃ~」
一番の変態はセンエン。何度も勝てない勝負に挑むのであっ……
「いや、僕のほうが確立高くないですか?」
「う、うんにゃ……みんにゃ~。集合にゃ~」
立場は逆。過去のデータに照らし合わせると、量子コンピュータはボロ負け。気象ド変態センエンに、量子コンピュータチームが挑む日々が続くのであったとさ。
天気予報はセンエンの勝率が高いので、量子コンピュータチームに黒モフ組も合流。ああだこうだシステムをイジリ倒し、勝利を目指す。ただのジジイに負けたことが相当悔しかったそうだ。
量子コンピュータチームは超盛り上がっていたけど、わしは退散。スポンサーだからお金出すだけでいいんじゃもん。それに共通の敵が現れたから、しばらくケンカはしないだろう。
月日が流れるとシステムの精度が上がり、夏頃には五分の勝負になったと量子コンピュータチームが盛り上がっていたけど、わしは一蹴。圧倒してくれないと困るもん。
そうして今日は、手が空いたのでわしはキャットタワーの一室に顔を出した。
「お春~。ちょっと聞いてにゃ~」
このベッドに寝ている狐耳お婆ちゃんは、わしの側室のお春73歳。胃ガンの手術から食が細くなり、どんどん痩せて変身魔法も維持できなくなってしまったのだ。
「ウフフ。またシラタマさんは王様らしからぬことをしてるのですね」
「にゃ……本当だにゃ。わし、にゃにしてるんにゃろ?」
「いつも通りですよ? ウフフ」
「にゃはは。確かににゃ。いつもこんにゃもんにゃ~」
ちょっとした愚痴を聞いてもらったらお春に的確な指摘をされだけど、これがわしの日常なのだから驚く必要もない。それが面白かったのか、お春が笑ったのでわしも笑顔になる。
そうして話題は昔話に変わったので、わしは少し気になったけど、顔色を変えずに付き合ってあげていた。
「私のワガママで側室に迎えてくれてありがとうございました」
このセリフはツユにも言われたので、わしは一瞬顔色が変わったかもしれない。
「いや、わしこそちゃんとした形で迎えられにゃくてゴメンにゃ~」
「ウフフ。ツユさんの時と同じ返しですね」
「にゃ? ひょっとして見てたにゃ??」
「はい。ウフフフ」
「そこは見ないでくれにゃ~~~」
このお春。猫の国に来た時にはメイドとして雇ったのに、いつの間にか忍者に転職していたから、いつもどこにいるかわからないのだ。
「また服部の秘術にゃ?」
「はい。服部先生の秘術です」
服部
晩年は徳川家に返して、穏やかな最後だったけど、最後までワンワン言ってたのはなんでじゃろ?
「ま、秘術のことは服部から聞いてるにゃ。ただの影魔法にゃろ?」
「はい。シラタマさんの影に隠れていただけです」
「ただにゃ~……名前を呼んだら、いつもすぐに現れる謎が解けてないんだよにゃ~」
「それは呼ばれそうだと思った時に忍び込んだだけですよ」
「にゃ? わしの記憶では百発百中だったんにゃけど……」
「シラタマさん、しっ…顔に出てるんですもん。だから予想が簡単なんです」
「いま、『しっ』て言ってから途中で『顔』に変えにゃかった?」
「ちょっと噛みました。ウフフ」
お春がそういうなら、噛んだだけなのだろう。しかしこれからかなり先になるが、お春が何を言おうとしたのかを知ることになるのであった……ぶっちゃけ、わしは考えてることをいつも尻尾で文字にしてたんだって!
それからお春には、わしとツユとのやり取りを聞いていたけど同じやり取りをしたら、両親が亡くなってから身を寄せていた池田屋に行きたいと言われたので、体調のいい日に叶えてあげた。
さらに「紅葉を見るまで生きてられるか」と弱気になっていたので、北に転移して見せてあげたりしていたら、ついにその日が来た。
「また1人、私たちの家族が……グスッ」
「グスッ……お春ちゃんのあの笑顔がもう見れないんにゃ……」
二度目の側室のお葬式ということもあり、今回もリータとメイバイは辛そうだ。
「そうだにゃ。お春の笑顔は、いつもわしたちを幸せな気持ちにさせてくれたにゃ。いまは辛くて笑えないかもしれないけど、いつかお春の意志を継いで、わしたちの笑顔でみんにゃを幸せにしようにゃ~」
「はい……」
「うんニャ……」
お春、享年73歳。猫王の側室兼、猫家専属メイドとして働いていたから目立った活躍はないと思っていたら、諜報部の創設者の1人として名を残していた。
そのおかげか、諜報部の一員が「先生、今までありがとうございました」と毎日お墓に花を手向けるのであった……
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