猫歴58年にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。孫娘の本性が歪んでいたので、辛い。
ツタンカーメンの黄金マスクをゲットしたのは嬉しい限りだが、アリスの本性を知ってわしはドン引き。古代遺物を独り占めにしたらアカンやろ~。
これは止めないといけないと思い、アダルトチームにチクったけど、誰も信じてくれない。ツタンカーメンの呪いが怖かったからめっちゃ離れて見ていたので、アリスの奇行は気付かなかったみたい。
「おじい様がウソつく……」
「にゃんでわしがそんにゃウソつかなくちゃならないにゃ~」
「おじい様……黙ってないと嫌いになるよ?」
さらにウソをつくは、小声で脅して来る恐ろしい子……
「ウ、ウソつきましたにゃ。すいにゃせん」
でも、孫娘に嫌われたくないわしは、本当のことを言えなくなってしまうのであったとさ。
それからというもの、わしはアリスにこき使われている。皆もさすがにおかしいと思い出したが、わしはウソをつき通すしかない。
そんな折、わしの前に女神が舞い下りた。
「マスターはアリスに脅されているから本当のことを言えないんだよ。アリスの本当の目的は、古代の宝を独り占めすることなんだよ~」
ノルンだ。ノルンちゃん様は、アリスの奇行を一部始終見ていたのだ。
「「「「「ノルンちゃんの言うことだからにゃ~……」」」」」
「なんで信じてくれないんだよ~~~!!」
でも、ダメでした。日頃の行いが悪すぎるから、誰も信じちゃくれない。それどころか酷くなった。使えないヤツだな……
だがしかし、味方には変わりないので、わしとノルンは酒を
そんなことをしていたら、エジプトの調査は粗方終了。アリスがお宝を展示したいというので、猫大地下大図書館にある一室に慎重に並べる。
もちらん保存状態を気を付けて、分厚いガラスの中は真空状態にしたから長持ちするはず。しかしアリスは触れたいとか言い出したので、金属や鉱物だけは開閉ができるようにしておいた。
「ケケケケケケケ。チュッチュッチュッ」
「「「「「アリスちゃん……」」」」」
「……みんな!?」
その部屋にはカギが掛かっていたけど、わしが鉄魔法で開けてサクラたちをこっそり招き入れたら、全員ドン引き。
だってアリス、変な笑い方してツタンカーメンマスクとキスしてたんだもの。
「おじい様のせいだ……」
「ち、違うにゃ~~~」
そんな現場を見られたアリスは、羞恥心より怒り。わしを呪い殺さんばかりに睨むので、あたふた。
その時、サクラがわしを守るように前に出た。
「パパはにゃにも喋ろうとしなかったから、ママたちに拷問してもらったんにゃ。だからパパは悪くないにゃ」
理由はわしを哀れんでかもしれない。あんなにモフられたら、誰でも口を割るって。でも、サクラには拷問に見えてたんだね。
「それよりこれはどういうことにゃ?」
「こ、これって??」
「古代の宝を隠して1人で愛でていることにゃ! これは、世界中の人に公開するもんにゃろ! こんにゃとこに展示してどうするにゃ!!」
サクラは激怒する。元よりアリスは古代遺物の公開を
「ま、まぁ、サクラさんにゃ。そのへんにしてやろうにゃ」
「パパは黙ってるにゃ! これは私たち家族の問題にゃ!!」
「はいにゃ~」
別に脅されているからわしが助け船を出したワケではない。孫娘がかわいそうだし、味方に回ったほうが「好感度が上がるかな?」と甘い考えもあった。下心は筒抜けか……
それからサクラは一方的に怒って、アリスはそんな母親を見たことがないのか涙目で謝罪。少し説教が長かったからリータたちが間に入っていたけど、わしは怒鳴られたのに、なんでじゃ……
ひとまずわしはダッシュでエティエンヌを拉致って来て、ゴニョゴニョ事情を説明。できるだけアリスの味方になるように送り出した。
「サクラさん。あとは僕が代わるよ」
「エティ君……ありがとにゃ」
怒るのもエネルギーはいる。サクラは言い過ぎた自覚があるのか、あとのことはエティエンヌに任せて王族居住区に帰って行った。
わしはどちらのフォローに回ったほうが得かを考えてキョロキョロしていたら、リータに首根っこを掴まれて帰宅。何もするなだって。
夜になったら、サクラ家族の3人が「迷惑かけてすいません」と頭を下げた。おそらく、わしに何か言ってほしいのかと思ったので口を開こうとしたらメイバイに塞がれた。黙ってろだって。
その謝罪に皆は快く許し、「そんな性格だったんだ」とネタにして笑っていたのでわしも合わせる。まだ喋ってはダメみたい。
どうやらわしとアリスを引き離していたのは、わしが操られるかもしれないからだとか……否定できません。
理由を聞いて納得はしたけど、合点はいかないので縁側で1人酒をしていたら、エティエンヌがやって来たので酒を酌み交わす。
「娘が本当に申し訳ありませんでした」
「いいにゃいいにゃ。わしにも悪いところがあったんだからにゃ。それより、王子君はアリスの性格は把握してたにゃ?」
「恥ずかしながら……何かを隠しているとは気付いていたのですが、親が踏み込んでいいものかと踏ん切りがつかなくて」
「だよにゃ~。子育ては難しいもんにゃ~。特に大人になった子供との距離の取り方は、わしもいまだに正解がわからないにゃ」
わしがぶっちゃけると、エティエンヌは意外そうな顔をした。
「お義父さんでもですか? お子さんは裏表のない、いい子に育っていると思っていたのですが」
「当たり前にゃろ。日々努力にゃ。たまたまそう育っただけにゃ~」
「日々努力ですか……親になっても勉強ばかりですね」
「本当に……子供から学ぶことは多いから、王子君も見逃さないようにしろにゃ」
わしの何気ない助言に、エティエンヌは大きく頷いた。
「なるほどです。子供も先生に違いありません。そこが私とお義父さんの違いだったのですね。自分が教えないといけないと思い込んでいました」
「ま、そう考えすぎるにゃ。自分が楽しくないと子供も笑えないんだからにゃ。飲め飲めにゃ~」
「はいっ!」
たまにはこんな夜もいい。エティエンヌだけじゃなく子供を持つお父様方をスマホで呼び出し、酒を片手に教育について語るわしであった……
「嫁が……」
「子供が……」
だいたいが愚痴を聞かされただけだけどね!
猫歴56年はアリスが猫クランに加入して大変な年だったのであっという間に過ぎ、猫歴58年にもなると世界中の遺跡で手に入れた古代遺物が増えたので、古代美術館が開業した。
建物は5階建て。場所はキャットタワー横に開きスペースがあったから、そこ。地下の保管庫に繋げたいとアリスが甘えて来たからわしが建てたよ。毎夜アリスは、お宝を愛でに地下道を行き来してるらしい……
そんなアリスの趣味全開の美術館なので、責任を取って館長はエティエンヌ。アリスが盗まないか目を光らせている。でも、人類学の勉強をしていたエティエンヌは、ミイラに興味があるから研究しているらしい……
古代美術館は、過去の歴史を勉強できるとの触れ込みで開業したから最初はあまり客が入らなかったが、ドクロやミイラに驚いた観覧客が口コミで広めてくれたので、日に日に増えているとのこと。
そのうち過去の歴史に興味を持って、考古学を学ぶ者も増えるはずだ。赤字が続くなら、中学校に集団割りのチケットを売り込みに行こうかな?
そんな感じで古代美術館にお宝を納品したり動向を
「まだ食べれるにゃ?」
「もう、大丈夫です。すいません……」
この申し訳なさそうにわしに謝っている狸耳の老婆は、側室のつゆ。数年前に酷い風邪を患ってから、日に日に弱って変身魔法も維持できなくなり、最近では寝たきりとなっていたのだ。
正直、つゆは今年を越えられるかはわからない。シャーマンに聞いたら結果はわかるが、つゆの症状は老化なのだから自然に任せるとわしたちは話し合って決めたのだ。
「ありがとうございます」
わしはそのことを顔に出さずに世間話をしていたら、つゆは急に感謝して来た。
「にゃ?」
「シラタマさんのお
そんなことを言われると嫌な勘が働くが、わしはそういう人を何人も見送っているから表情は変わらない。
「感謝されるようなことはしてないにゃ。側室にゃんて酷い扱いにしちゃったしにゃ。わしこそ、ちゃんと迎えてあげられなくてすまなかったにゃ」
「いえ。私のワガママでしたし……それにたくさん愛をくれました。たくさん新しい技術を教えてくれました。それだけで私は幸せでした」
「そう言ってくれると有り難いにゃ。でも、たまには愚痴も聞かせてくれにゃ。にゃんかないにゃ?」
「そうですね……」
つゆからわしに対しての愚痴をそんなに聞いたことがなかったので、この際全て吐き出させようとしたが、安らかな顔のままだ。
「もっとイロイロな物が作りたかったですね。御当主様を超えられるような物を」
御当主様とは平賀源斉のこと。こいつは何かを作りながらそのまま死後の世界に旅立ったド変態だ。
「まだ作るにゃ~? 数でいったら、つゆは源斉にゃんて目じゃないぐらい生み出しているにゃ~」
「皆さんはそう褒めてくれますが、いまだに自信が持てなくて……」
「それは源斉がデカイ物を作ってるからにゃろ? 太陽光発電や水力発電、インフラ関係が多いもんにゃ。しかし、その電気は使われないことには意味を成さないにゃ。つゆはレコードから始まり、掃除機や洗濯機……民の暮らしを楽にしてくれたにゃ。きっと、源斉と並ぶぐらい偉大にゃ人として語り継がれるにゃ~」
「そ、そんな、私が御当主様となんて……」
まだ自信が持てないつゆには、つゆの名前が書かれた特許をタブレットに出してあげたけど、めっちゃ多いな。わしが聞いてた20倍はあるんじゃけど~??
「いや、作りすぎにゃ~」
「つい、楽しくて……」
「プッ、いくつになってもつゆは変わらないにゃ~。にゃははは」
「シラタマさんこそ。ウフフフフ」
それからわしは、毎日つゆと物作りの話をしていたが、今年初めての雪が降った日、大勢の家族に見守られるなか、つゆは安らかに旅立ったのであった。
「ついに家族に寿命で亡くなる人が……グスッ」
「早すぎるニャー……グスッ」
つゆのお葬式の日、リータとメイバイはこれから多くの家族を見送らないといけない現実に気付かされて弱気になっていた。
「別れは、とても悲しいことにゃ。でも、つゆは多くの物を残してくれたにゃ。そのことを噛み締め、たまに思い出して生きていこうにゃ。にゃ?」
「はい……」
「うんニャ……」
平賀つゆ、享年72歳。彼女の作った電化製品は主に女性と子供から喜ばれる。その功績は発明の父と呼ばれた平賀源斉と肩を並べ、発明の母として猫の国に名を刻んだのであった。
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