猫歴56年その3にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。家族に暴力を振るったことはない。


「オヤジ、もうやめてくれにゃ~~~!」

「にゃに~? 修羅の剣の極意を教えてあげてるだけにゃよ~??」


 インホワがあまりにもムカつくけど、【殺気の剣】は斬られたことを錯覚させる技だからノーカウント。まだ習得してなかったから、稽古を付けてやってるだけだ。

 でも、インホワが母親のメイバイに泣き付いたので、ババチビルほど怒られました。いつまで経ってもガキだな……



 インホワに八つ当たりするとわしへも被害が来るので置いておいて、アリスの実地研修に戻る。その前に、こないだ誰も聞いてなかったいい言葉を送ったよ。

 アリスの殺生恐怖症は、まずは苦手意識から改善。猫パーティが笑いながら巨大な獣の群れを殲滅するところを見せてみたら、そっちのほうが怖いとのこと。でしょうね。わしも怖いもん。


 次は獣の解体のレクチャー。死んだ獣にナイフを入れさせて、体の構造や国民のお腹を助けるような話をする。最初は目をそむけていたが、勉強好きだから体の構造には興味が出ていた。

 血にある程度慣れて来たら、コリスに手伝ってもらって戦闘訓練。わざと強い獣を連れて来て、魔法で四肢を狙わせる。補助的な役割からやらせてみた。

 弱ったところをコリスが尻尾ベチコーンッと倒し、殺害の共犯として命の重みを感じさせて、合間にわしのカウンセリング。この方法ならそこまで心に負担は無さそうだ。


 補助的な役割で1週間ほど実地研修を続けていたら、アリスは自分からトドメを刺したいと言い出したので、ちょうどいい獣を用意してあげた。


「やった……倒せました……」

「うんにゃ。こっちおいでにゃ~」


 アリスはついに克服したように見えるが、手が震えていたので、わしとコリスでモフモフカウンセリング。やはり、まだ恐怖はあるそうだ。

 しかし2匹目にてこずっただけで、それ以降は獣を殺すことに躊躇ためらいがなくなって来たから、ヤングチームに入れて様子を見る。


「なかなかいい動きしてますね~」

「うんニャー。うちのチームに入れたいニャー」

「時の賢者様がパーティを組んでいたら、あんな戦い方になりそう」


 魔法陣を展開して攻撃に防御に活躍しているアリスをベタ褒めする、リータ、メイバイ、イサベレ。


「これで研修は終了してもよさそうにゃ。よく頑張ったにゃ。にゃ~~~」

「やめてくださいよ。最近、涙腺緩いんですから。グズッ」

「泣きすぎニャー! グスッ」

「グスッ。よかった」


 アリス、猫パーティ正式加入。できの悪い子のほうがかわいいとはよく言われるけど、この涙は違うと言い切れる。

 だって、わしたちの孫なんだもの。こう見えて、おじいちゃんおばあちゃんなんだから、涙腺が緩くなっている猫パーティアンクルチームであった……



 アリスの猫パーティ研修が終わると、キャットタワーに帰ってパーティー。卒業証書を手渡したら「誰も貰ってないんですけど~?」と、総ツッコミされた。思い付きでやるもんではないな。

 翌日からは、アリスも戦力として狩りに連れて行っていたけど、何かわしに言いたいことがあるらしい。


「おじい様が獣を殺してるところ、見たことがないんですけど~~~??」


 どうやらわしがサボっているように見えるらしい。


「わしは……ほら? 移動と荷物持ちが仕事にゃから……」

「猫パーティのリーダーじゃなかったのですか?」

「だいぶ前に降格になってにゃす……」

「えぇ~!? なのにあんなに偉そうなこと言ってたんですか!?」


 アリス、驚愕の事実にビックリ。わしだっていつの間にか降格していたからビックリしたよ?


「そもそもこの猫パーティって、なんですか?」

「にゃにと言われても、パーティ名じゃにゃい? いつ誰が付けたか知らにゃいけど」

「通称!?」


 改めて考えてみたら、いつの間にかこう呼ばれていたから、通称だな。わしならこんな名前付けないもん。


「それにこの人数だと、パーティっておかしくないですか? 10人以上もいますよ?」

「あぁ~。確かににゃ……クランってのになるのかにゃ?」

「じゃあ……猫、クラン??」

「そういう安直な感じで呼ばれ出したんだろうにゃ~」

「うん。なんか納得しました」


 賢いアリスの疑問から、猫パーティ改め、猫クラン発足。ハンターギルドに「クランって登録とか必要なの?」と聞きに行ったら、登録は必要ないけどメンバーだけは把握したいとのこと。

 なので名前を告げていたんだけど、受付嬢が記入している用紙がチラッと目に入ったら「猫パーティ」に×が付けられて「猫クラン」って書かれていた。


 この不名誉な名前を付けた犯人はハンターギルドだったんじゃな……


 いちおう苦情を入れてみたら、普通は代表者の名前が書かれるらしい。


「にゃんで猫??」

「べ、別に、ハンターギルド内で区別するだけですから他には言いませんよ~? では、次の方、どうぞ~」

「だからにゃんで猫なんにゃ~~~!!」


 受付嬢は、下手な言い訳して逃げやがる。漏れたから「猫、猫」言われるんじゃろうが! 見た目か!? そうでしょうね!!

 ハンターギルドで「にゃ~にゃ~」言っていたら、リータとメイバイにモフられて連行されるわし。アリスが「揉めるかも?」とチクっていたから隠れて見ていたらしい……



 そんな感じで諸々の手続きも終わったので、アリスにご褒美。次回の狩りはアリスの行きたい場所に連れて行ってあげる。


「エジプトにゃ~……」

「ダメなのですか? 黄金のマスクが欲しいのですが……」


 行くのはダメというワケではないが、古代遺物を自分の物にするのはダメかな?


「わしもピラミッドを探しに行ったことはあるんにゃけど、あそこはにゃ~……」

「そういえば小説に出て来ませんね。何かあったのですか?」

「白銀の鳥が邪魔するんにゃ~」


 そう。遺跡大好きのわしがエジプトに行かないワケがない。エジプト周辺は黒い森が広がっており、ピラミッドがあるであろう場所が白い森で埋め尽くされていたぐらいでも諦めるワケがない。

 しかし空から探せばいけるだろうと軽い気持ちで行ったら、超強い白銀の鳥が3羽も出て来て絶対絶命のピンチに。コリスに飛行機と皆のことは任せ、わしがおとりになって命辛々逃げ出した経験があるのだ。


「というわけで、調査も打ち切ったんにゃ」

「そんなことがあったのですね……地上からは無理だったのですか?」

「地上だと森と獣が邪魔して、行き当たりばったりになっちゃうからにゃ。見付けるのも時間が掛かるから、後回しにしていたら忘れたってのもあるにゃ」

「そっか……メキシコ文明のように空からじゃないと当たりも付けられないってことですか……」

「この世界の遺跡発掘は、どこも骨が折れるにゃ~」


 わしだって遺跡を探せるモノなら探したかったが、目と足で探すのは限界がある。偶然に頼らないことには見付からないから諦めモードだったのだ。

 そのことを言い訳しながら、近くまで行ったことのある遺跡を教えてあげていたけど、アリスは聞いていない。何かを考えてるのかな?


「あっ、そうだ……」

「にゃ~?」

「衛星があるじゃないですか?」

「にゃっ! 衛星写真撮ればよかったんにゃ!!」

「それもそうですけど、GPS。第三世界の地図から場所を打ち込めば、一発で見付かるでしょ?」

「アリスは天才にゃ~!」

「いや、早く気付いてよ」


 ゴメン。その発想はなかったわ~。デジタルネイティブじゃないんだもん。



 アリスの発案で目的地が決まったので、狐しっぽ黒猫フユの部屋に勝手に入って「にゃ~にゃ~」会議。地下大図書館から持って来たエジプト観光の本を開いて、アリスと一緒に地図に丸を書き込む。


「にゃあ? にゃ~にゃ~うるさいから出てってくんにゃい? 仕事中にゃの見てわからないにゃ??」


 フユには目的を告げずにやっていたので、めちゃくちゃ迷惑そうな顔をされてしまった。


「まぁまぁ。わしたちも仕事を頼みたいんにゃ。この地点にナビゲートしてくれにゃ~」

「にゃ~??」

「だからにゃ。戦闘しにゃがらスマホ見るの危ないにゃろ? 衛星でわしたちの位置を追跡してほしいんにゃ」

「高いにゃよ?」

「わかってるにゃ~」


 アルバイト、ゲットだぜ。あとは発掘に乗り気じゃないお母様方の説得だ。


「久し振りに冒険しにゃす! エジプトでピラミッドを発掘するんにゃけど、反対の人はいにゃすか~?」


 わしが高らかと宣言すると予想通り「墓荒らしはダメ」と言われてしまったので、アリスにタッチ交代。


「これは墓荒らしではなく、考古学調査です。そもそも、大きな獣が渦巻く森の中に世界の宝を置いておくことこそが、人類の損益! ここは猫の国が管理するほうが、過去をないがしろにしない行為だと思います! どうか、皆々様も理解して協力してください! お願いします!!」

「お願いしにゃす」


 これが、アリスの夢。このために猫クラン研修を頑張っていたのだ。


 その迫力ある演説に、全員スタンディングオベーション。わしが頭を下げたことに気付いてない。ようやく世界遺物のお持ち帰りの許可が下りたとわしはほくそ笑んでいるけど……



 それから猫クランは一丸になって、エジプト攻略を目指す。近くにわしがマーキングした場所があるから、楽々転移。オペレーターのフユと連絡を取り合い、地上を進んでいた。

 しかし、やたら強い気配を放つ獣がいたので、まずはわしが接近。戦いたくはなかったので念話と甘いエサで手懐け、強さを最大限控えてもらったら皆に紹介する。


「「「「「スフィンクスにゃ~」」」」」

「いや、ライオンさんにゃよ?」


 そこで鎮座していたのは巨大な白銀のライオン。おそらくアフリカからやって来たと思われる。初めて見る人がスフィンクスと勘違いするなら、スフィンクスの正体はライオンだった可能性が高いかもしれない。


「「「「「ちっさ……」」」」」

「ライオンさんが大きかっただけにゃ~」


 そのせいで、伐採して発掘したスフィンクスは皆に不評。下半身が崩れてしまっているから、第3世界のモノより半分しかないのも不評の原因だ。


「おじい様、ラムセス二世の巨像を探したいのですが……」

「アレって、発見した時にはむっつに割れてたんじゃなかったかにゃ? 全部近くにあったらいいんだけどにゃ~」

「あ、本当ですね。先に王家の谷に行きましょうか」

「効率的だにゃ~」


 時間が掛かりそうなことは後回しにするアリス。デカイ獣がオモチャにして動かしていたら厄介だもんね。

 そうしてわしが強い獣を惹き付けているうちに猫クランはダッシュで抜け、アリス目的の王家の谷に到着したら、ストップ!


「なんで止めるんですか~。そこにお宝があるんですよ~」

「頭いいんにゃから先走るにゃ。ツタンカーメンの呪いにかかっちゃうにゃよ?」

「呪い……あっ!!」


 呪いと聞いて、後退る一同。ベティは第三世界生まれなのに信じてるのかな? ノルンは効かないとか言ってるから放り込んでやろうか……


「防護服に空気の魔法陣を仕込んで来たにゃろ? それに着替えて行くにゃ~。ついて来たい人はいるにゃ~?」

「「「「「どうぞどうぞにゃ~」」」」」

「あ、呪いの正体は毒にゃよ?」


 みんな呪われたくないのか手を上げてくれなかったので正体を説明したけど、そっちも怖いとのこと。わしも怖いんじゃけど~?

 誰もついて来てくれないなら、アリスと一緒にダンジョン攻略。孫娘との共同作業に喜んでいたのに、ノルンが防護服にくっついていたので邪魔だ。


 探知魔法やレントゲン魔法を駆使して、ツタンカーメンの墓を見付けたら、墓石ごと固めて次元倉庫に。外に出てから、お宝の確認だ。


「みんにゃ~。この毒はバイ菌だったりミイラに使った薬品だったりと諸説あるらしいから、しばらく風上にいてくれにゃ~。それじゃあ開けるにゃよ~? おお……」


 ご開帳も慎重に。2人だけの確認となったが、これだけ魔力濃度の高い地に眠っていたのに、その当時のまま黄金の輝きを残すツタンカーメンのマスクにわしは感動だ。


「やった……本物のツタンカーメンだ……」


 もちろん、考古学を学んでいたアリスも、この発見に涙……


「ケケケケ~! お宝はっけ~ん! 古代の宝は独り占め~♪ ケケケケケケケ~♪」


 いや、なんか変な笑い方してガニ股で踊っているから気持ち悪いよ……


「にゃあ? アリスの本当の夢って、古代の宝を集めることにゃ??」

「ケケケケケ……え? そ、そんなことないですよ~。ジュルッ」

「そのヨダレは正解にゃろ~~~」


 ツタンカーメン発見と同時に、アリスの趣味と本性が発覚。こんなことをわしたちに言うと止められるから、ずっと猫被ってたんだとか……

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