猫歴56年その2にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。ノルンに任せて大丈夫じゃろうか……


 アリスの適性は時の賢者と通じるモノがあったので、猫パーティ研修は少し変更。おやつの時間までは、アリスの基礎体力と基礎魔力を向上させて、そこからはノルン先生の魔法陣講座。


 あのどこから出したかわからない伊達メガネが不安じゃ。スーツもいつこしらえたんじゃろう?


 ノルンの姿がふざけて見えて心配だが、アリスは魔法陣が面白いのかのめり込んでいる。夕食も取らずにぶっ続けで勉強するので、わしが口にポイポイ料理を放り込んでやった。

 このままでは朝まで勉強するのではないかと見ていたら、急にパタンと倒れた。お昼間のハードトレーニングが響いたみたい。なので、女性陣に頼んでお風呂に連れて行ってもらって、アリスが綺麗になったらそのまま就寝。


 アリスはちょっとでも体力を残すと深夜遅くまで勉強するので、そのへんのサジ加減は難しいが、走って勉強して倒れて眠る毎日。

 元々勤勉な性格が幸いして、そろそろ戦闘訓練に移行してもよさそうだ。


「とりあえず魔法陣の成果を見てから、戦闘方法を決めて行こうかにゃ?」

「はい! すっごいの見せてあげます!」

「アリス、ぶちかますんだよ~~~!」

「我、アリスの名の下に…ムグッ」

「ちょっとストップにゃ~」


 なんだか嫌な予感。2人の自信満々な顔に危機感を覚えたわしはアリスの口を塞いで、皆にも移動しようと提案したら転移。

 ロシア東部にある猫帝国にやって来たのだが……


 ドッカァァーーーンッ!! と、大爆発。きのこ雲が出現した。


「「「「「……」」」」」


 そのアリスの魔法に、わしたちは遠い目。白い森を直径1キロは吹き飛ばしたもん。一言も出なかったよ。


「おじい様、どうでした? 凄かったでしょ??」

「ノルンちゃんの教えの賜物たまものなんだよ~」


 なのに、アリスとノルンは鼻高々。ここでようやくわしも思考ができるほど回復した。


「すっ……」

「「す??」」

「凄いじゃないにゃ! やりすぎにゃ~~~!!」


 ノルンに任せたのが大間違い。時の賢者が戦争をやめさせようとやりすぎた「魔法陣重ね掛け」をアリスに教えていたので、わしは激怒するのであった。


「あたしの専売特許が……」


 得意魔法の【エクスプロージョン】を超える威力を見せられたベティは、1人だけ違う反応してヘコムのであったとさ。



 2人の説教はひとまずリータたちに任せたわしは森を消火してから、猫帝国のお隣さんのマンモスさんたちにお詫びの品を持って謝罪。「うっさいねん!」って怒られました。

 今日は研修なんてやってられないので、土地を整地したらドングリでも植えようと思ったけど、ボスの白マンモスに止められた。寝床にするそうだ。


 それから今日は赤い宮殿で一泊。皆から怒られたアリスがめちゃくちゃヘコンでいたので、わしが慰める。いい仕事が回って来てラッキー。


「ちょっとは危険なことはわかったかにゃ?」

「はい。ごめんなさい……」

「わかってくれたらいいんにゃ。もしも地下で使っていたらヤバかったにゃ~。にゃはは」

「うっ……止めてくれてありがとうございます。ちなみに、使っていたらどうなりました?」

「う~ん……地下にゃから、埋まってたかにゃ? その前に爆発で、地下で働く人とアリスとノルンちゃんが死んでたかもにゃ~?」

「おじい様やママたちは……」

「わしは余裕にゃ。他はなんとか生き残ったにゃろ」

「もう、あんな危険な魔法陣、死んでも使いません……」


 結局わしがトドメを刺しちゃった。多くの死者もそうだが、自分が巻き込まれて死んでいた可能性があったのだから、アリスは反省してくれたのであった。



 翌日は、ノルンを魔法陣講師から講師補助者に降格したら、この場で戦い方を詰める。


「ま、昨日の魔法陣も使いようによっては使えるんにゃけど、使い道が限定されるから一旦忘れようにゃ」

「なんでなんだよ~。時の賢者様の魔法陣は無敵なんだよ~……冗談なんだよ~。お口チャックなんだよ~」


 わしがギロッと睨むと、珍しくノルンもひるんだ。やりすぎたとは思っていたらしい。


「いちおう言っておくけど、あの規模の魔法でも生き残る生物は存在するにゃ。わしが戦った阿修羅も死ななかったしにゃ。もちろんわしも、直撃しても死にはしないにゃ」


 もうひとつノルンにダメ押しして本題に戻る。


「要は規模の問題にゃ。相手の強さに合わせて威力を調整したらいいんにゃ」

「それなら時間をくれたらできそうです」

「それと攻撃の幅を持たせると、いい後衛になりそうだにゃ。この方向で行こうかにゃ?」

「はい!」


 ひとまずアリスは後衛に仮決定。午前中は基礎練習をして、午後からはわしとサクラで立ち位置の確認や敵の狙い方を教え、その後は魔法陣開発の時間。

 ノルン任せにすると変なことをしそうなので、わしとサクラで見張り。それと同時に装備品も考える。


 思った通り、装備品に魔法陣を組み込むことでアリスの動きを補助してくれるので、戦闘訓練も順調にこなせるようになって来た。



「さあ、ついに実地研修にゃ~」


 アリスの装備は、彼女の希望で探検家風。猫耳が痛くならないヘルメットも作らされた。もちろん強い獣の皮や黒魔鉱も使っているので防御力は申し分なし。

 杖というか武器は、ピッケル小とピッケル大。初心者には黒魔鉱で様子見することにしているけど凶悪な魔法陣が仕込まれているので、下手したらサクラより攻撃力は強いかも?

 

 とりあえずコリスを前衛に置いて、わしが捕まえて来た黒い獣を解き放ってレディーゴー!


「わわわ……【極炎】にゃ~!」


 でも、焦って凶悪な魔法陣を使ってしまって黒い獣が消し炭に……でも、なんで「にゃ~」って言ったんじゃろ?


「【極炎】は切り札って言ったにゃろ~。こんにゃ弱い獣に使ったら儲けも無しにゃ~」

「ご、ごめんなさい。テンパっちゃって……」

「もう一度確認にゃ。炎系は使うにゃ。二番目に弱い攻撃魔法陣を数回当てて倒すんにゃ。いいにゃ?」

「はいっ!」


 初戦はボロボロ。アリスの攻撃は獣に当たったり外したりと繰り返し、その攻撃を抜けた獣をコリスが倒すことに。結局、最初の黒い獣以降、一匹も成果を上げられないアリスであった。



 その日は、暗い表情のアリスを皆が励ましていたけど復活はしない。このままでは自信喪失で潰れてしまいそうなので、わしはアリスをキャットタワーの屋上にある縁側に連れ出して差しで話をする。


「ひょっとしてにゃけど、獣を殺すのが怖いにゃ?」

「……はい」

「やっぱりにゃ~」


 わしだって馬鹿ではない。アリスの戦い方を見ていたら、何度かわざと外していたことは気付いていた。てか、アリスはとことんハンターには向いていない人間だったのだ。


「無理する必要はないんにゃよ? いまから大学に戻るもいいし、魔法陣開発を仕事にしたらいいんにゃ」

「でも、私の夢だから……」

「夢にゃんて、叶わない人ばっかりにゃ。叶わない人だって幸せに生きられるんにゃ。諦めても、誰も怒ったり失望したりしないから心配するにゃ」

「でも~。でもでも~……」

「一度立ち止まって、自分の心に問いただしてみにゃさい。それでも続けたいと思うにゃら、断固たる覚悟を持ちにゃさい。その時は歓迎するにゃ~」


 いまにも泣き出しそうなアリスを突き放し、わしはその場をあとにするのであった……


「パパ……嫌われ役させてゴメンにゃ~……泣いてにゃい??」


 下の階に移動するところで、サクラに捕まったのでわしは顔を隠す。


「泣いてないにゃ~。グズッ。アリスに嫌われたらどうしよ~。にゃ~」

「泣いてるにゃ……」


 実のところ、わしはこんな役はしたくなかった。なのに皆がこんな時だけ、「猫パーティのリーダーだろ」と押し付けられたのでやるしかなかったの。


「ちにゃみにパパの感触はどうにゃ? 戻って来るかにゃ~?」

「こればっかりはにゃんとも……アリスの心しだいにゃ。どんにゃ決断をしても、わしたちは応援するだけにゃ」

「そうにゃんだ……でも、パパ。まるでお父さんみたいなこと言ってるにゃ~」

「お父さんにゃよ? パパって言ってるにゃ~」

「いや、そういうことじゃにゃくて……大人っぽくてカッコイイと思ったにゃ……」


 サクラがモジモジと恥ずかしそうに褒めてくれるので、わしの目からドバッと涙が!


「にゃ~。サクラに褒められたにゃ~。にゃ~」

「そんにゃことで泣くにゃよ~」

「久し振りにゃんだも~ん。もう一回言ってにゃ~。カメラ用意するにゃ~。にゃ~~~」

「撮るにゃ!!」


 せっかく褒められたのに、わしが泣いたので尊敬の念はフラットに。その時、アリスの足音が聞こえたので、サクラはわしを担いでダッシュで逃げるのであった。


「おんぶしてくれたにゃ~。にゃ~」

「肩に担いでるだけにゃ! アリスに聞こえるから泣くにゃ!!」

「にゃ~~~……」


 尊敬の念はマイナスまで落ちたので、わしはサクラに窓から投げ落とされたのであった……


 13階からって……酷くない??



 サクラからドメスティックバイオレンスを受けてから3日。猫パーティ所属の者はソワソワし、部外者はわしたちが外に出なくなったので不思議に思って質問責めにされていたら、アリスから話があるとのこと。

 わしは「誰かついて来る?」って目を向けてから、アリスと一緒にキャットタワーの屋上にある空中庭園に向かった。誰もついて来てくれませんでした。


 空中庭園の端まで行ったアリスはしばらく無言で遠くを見ていたが、急に勢いよく振り返った。


「にゃはは。決まったみたいだにゃ」


 その顔は、決意を固めた顔だったから、わしは笑顔で先走ってしまった。


「はい! 私は夢を諦めません! どうか、ご指導ご鞭撻べんたつのほど、よろしくお願いします!!」

「う……」

「「「「「いいとも~~~!」」」」」


 それでもアリスは続けて、わしが返事をしようとしたら、猫パーティが空中庭園に飛び出して来てセリフを取られた。そして気恥ずかしそうなわしを無視して、サクラから順に女性陣が抱きついたので仲間に入れねぇ。

 そんなわしが口をパクパクしていたら、インホワに肩をポンと叩かれたので、手が出そうになった。ムカつく顔をしてやがる……わしはあんな顔してないと思われる。


 それでもこれだけは言いたい。


「まぁにゃんだ。命を奪う行為は、苦手にゃ人には心の負担になるにゃ。辛い時は必ず声に出してくれにゃ。ここにいる全員が話を聞くからにゃ」


 ラストはわしのいい言葉で締めさせてくれ。


「誰も聞いてないにゃ~。プププ」

「インホワァァ~。いい加減にしにゃいとぉぉ、両手両足ぃぃ斬り飛ばすにゃよぉぉ?」

「怖いにゃ! 親がそんにゃことするにゃ~~~!!」


 でもインホワが台無しにするので、八つ当たりするわしであったとさ。

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