猫歴56年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。安眠グッズではない。


「「「「「ズルイにゃ~」」」」」


 何もズルくない。苦情ならリータに言ってくれ。


 ネコチューブに動画をあげたのはリータなのに、お昼寝を無断アップロードされたわしが子供たちから非難轟々。

 いちおうリータに何故そんなことをしたのかと聞いたら、何をアップロードしたらいいかわからなかったので、「みんな王様の日常が見たいのでは?」と思ってこんなことをしでかしたらしい。


 なのでその日から、子供たちがわしを隠し撮りするのでいい加減にしてくれ。


「トイレ中はやめてにゃ~~~!!」


 落ち落ちトイレにも行けなくなったので、黒モフ組に頼んでわしもBAN対象にしてもらうのであったとさ。



 そんなこともあったので、ネコチューブは王様みずから規制。生き物の殺害動画、イジメ動画、暴力的な動画、性的な動画、フェイク動画、王族の動画、映画などの無断アップロードなんかは規制対象。

 ちょっと規制を先取りしまくっているが、早くやっておいたほうが無難だろう。でも、わしのお昼寝動画消去はネコチューブに恐ろしいほどの苦情が来たらしく、規制対象から外されてしまいました。どこがいいんじゃろう?


 そのせいで、王族の規制は撤廃しろとうるさい子供たち。ストライキまでし出したので、わしを隠し撮りしないことを条件に、動画配信は許可するのであった。



 猫歴55年はそんな感じで平和な年で、子供たちの視聴回数がぜんぜん伸びないなか月日は流れて猫歴56年となった。

 今年はなんと、わしの孫娘が猫パーティに羽ばたいて来た。


「「「「「アリスちゃん、猫パーティにようこそにゃ~」」」」」

「皆さん、よろしくお願いします!」


 オニタ加入から、歓迎会は必須要項。ソウの地下空間で猫パーティは笑顔で出迎えた。

 このさっちゃんの面影が少しある金髪猫耳女性アリスは、サクラとエティエンヌの第一子。東の国の王子様、エティエンヌの教育の賜物たまものか礼儀正しく育ったいい子ちゃんだ。

 大学に入学して喜んでいたのに、卒業後は猫パーティを進路にしたので少しわしは残念だ。


 しかし来てしまったモノは仕方がない。歓迎会の次の日から、わしの研修が始まる。


「やっぱり、あの考古学者のセクハラが酷かったにゃ? 追放するから、後釜に入らにゃ~い??」

「もう! 先生は優しくていい先生です! ここまで来てゴネないでくださ~~~い!!」


 でも、孫娘にこんな危険な仕事をしてほしくない。わしより考古学者のジジイがアリスと仲良く喋っていたことは関係ない。やっぱある……


「まぁ訓練の結果しだいでは、連れて行けないこともあるからにゃ」

「まだ言ってる……頑張るから大丈夫です!」

「んじゃ、わしの教えは甘いから、頑張るんにゃよ~?」

「はい! ……甘いんですか??」


 こうして久し振りの猫パーティ研修は、首を傾げるアリスの質問を無視して、いつも通りゆる~っくランニングから始まったのであった。



「アリスはどうにゃ~?」

「見ての通りにゃ」


 猫パーティ研修初日は、お母さんのサクラが心配してわしの下へやって来たので、走っているアリスを指差した。


「にゃにあの走り方……」


 アリスの走り方は、女の子走りがさらに酷くなった感じ。一緒に走っててちょっと気持ち悪くなったから、わしは離れてどこが悪いか探していたけど、いいところがないので悪いところも見付からないよ。


「ちにゃみに体育の成績って、いつもどれぐらいだったにゃ?」

「えっと……悪かったと記憶してますにゃ」

「だからにゃ~~~」


 サクラが敬語になるぐらい酷いなら、わしも皆まで聞かない。その渦中のアリスは、コースを一周走っただけでヘロヘロになって、わしたちの前に辿り着けずに倒れた。


「えっと……にゃにしてるにゃ?」

「ゼェーゼェー……し、死にます……ゼェーゼェー」

「どんだけ運動して来なかったんにゃ~」


 ここまで運動オンチな生徒、猫パーティ初。わしの訓練は甘々とか言われていたけど、それすらついて来れないのでは、どうしていいかわからなくなるのであった。


 ひとまずアリスは縁側に運んで、風魔法で冷やしつつ水を飲ませる。


「大丈夫にゃ?」

「はい……いえ、足つった! お腹つった! エ~~~ン!!」

「ちょ、動くにゃ~」


 運動不足がたたって、アリスは連鎖り。それで疲れ果てて、完全に動かなくなってしまった。


「立てるにゃ?」

「攣りそうで怖いです……」

「今日はここまでにゃ~」


 ダメだこりゃ。アリスの猫パーティ研修は、甘々と名高いわしの訓練初日すら乗り切れないのであったとさ。



 アリスをマッサージしまくって疲れを取った翌日、わしは説得していた。


「やっぱり無理じゃにゃい?」

「大丈夫です! 今日はこの筋肉痛さえなければ動けますから!!」

「無理って言ってるように聞こえるんにゃけど……」

「なんとかしておじい様~~~」

「にゃんとかと言われても……仕方ないにゃ~」


 わしは孫にも甘いので、特別メニュー。特にこの「おじい様」ってワード、ニヒルなわしにピッタリだもん。

 今日のところはランニングはやめて、急遽魔法で作ったプールでのウォーキングから初めてみた。


「ゆっくりでいいにゃよ~? 太もも上げて、いちにゃ1、2~。いちにゃ~。いちにゃ~」

「いちにゃ~。いちにゃ~。いちにゃ~……」

「腕も振ってみようにゃ~。はい、いちにゃ~」

「いちにゃ~。いちにゃ~。いちにゃ~……」


 ここまで来ると老人介護にしか見えないので、他で訓練していた皆が集まって来て半笑いだ。わしはシッシッて追い払ったが、リータだけ残って微笑ましく見ている。


「なんだか懐かしいことしてますね~」

「にゃ? あぁ~……リータと初めて仕事した時のことかにゃ??」

「あの時は、ホント、すみませんでした」

「アリスを見ながら謝るのはやめてあげてにゃ~」


 リータも出会った頃は運動オンチだったので、アリスのことは他人事と思えず謝っちゃった。外から見たら、こんなに酷かったのかとヘコンでいるな。


「まぁリータでも普通に走れるようになったんにゃから、時間を掛ければなんとかなるにゃろ」

「はい……私にも手伝わせてください……」

「暗いにゃ~。リータのほうがスタミナある分、遙かにマシだったにゃ~」


 過去がフラッシュバックするリータを励ましていたら、アリスが消えていたので慌てて救出。腰ぐらいしかないのに溺れるなよ……

 スタミナもかなり減ったように見えるので、次は魔法の授業に移行する。


「魔法はどうにゃの?」

「得意ですよ。風魔法は、空気の元素を……」


 ちょっと質問したら、アリスはペラペラ喋っているけど長すぎる。


「んじゃ、使ってくれにゃ」

「えっと……使う??」

「筆記が得意だったんだにゃ……」

「はい。満点でした。てへ」


 アリスがかわいく笑っても、わしは天を仰いで頭が痛い。徹底的なデスクワークに育っていたんだもん。


「ふたつだけ。まずはふたつだけ魔法を覚えてくれにゃ」

「はいは~い」

「はぁ~……」


 「はいは1回だけ」と言う気力のないわしは、風魔法と吸収魔法をアリスに教え込むのであった。



 それからというもの、アリスの訓練の激化はまだまだ先。プールウォーキングをして、次の日は普通のウォーキング。リータと一緒に軍隊式行進をさせて、わしがダメ出しする毎日。

 休憩兼、魔法の訓練は、地頭がいいのでわりと早くにマスター。しかし魔力量が少ないので、風魔法と吸収魔法のエンドレスだ。


 やっとランニングができるぐらい体力がついたら筋トレもプラス。上半身を鍛えた次の日は下半身という科学的なトレーニングで、毎日筋肉をいじめ抜く。

 なかなかハードトレーニングになって来たが、アリスはブーブー文句を言うことはあるけど必ずメニューをこなすので、本当に猫パーティに加入したかったみたいだ。


「今日はここまでにゃ~」

「あぁ~……疲れました。でも、そろそろ戦闘訓練ですよね?」

「それはまだまだにゃ~」

「えぇ~! どれだけ走ればいいのですか~~~」

「いま、やっと、常人並みなんにゃ……」

「私が悪う御座いました……」


 猫パーティ入りは、常人では不可能。これまでの勉強一筋が重く伸し掛かるアリスであった。



 月日が流れ、アリスが真面目に訓練に励むなか、サクラが心配そうに近付いて来た。


「アリス、猫パーティに入れそうにゃ?」

「ま、時間は掛かったけど、にゃんとかなりそうにゃ」

「アレでにゃ??」


 アリスは相変わらず走るのが遅いから、サクラに諦めが見える。


「最近は重力魔道具を使い出したから遅いだけにゃ。それに、アリスの魔法はなかなかいいんにゃよ」

「そうにゃの? よかったにゃ~」


 サクラは自分の訓練で忙しかったからか、毎日見てないから知らなかったようなので、魔法の訓練の時間になったらアリス得意の風魔法を見せてあげた。


「本当にゃ~。パパの【鎌鼬】にゃ~」

「いや、アレはハンターが使う【風の刃】にゃ」

「にゃ? 威力は高いし無詠唱だったじゃにゃい??」

「昔教えたにゃろ? 魔法は属性を深く知ることで威力が上がるってにゃ。アリスの場合、その部分が突出してるから、相応の威力を出せるんにゃ~」

「にゃ! アリスは魔法の天才だったんにゃ!?」

「う~ん……どちらかというと、座学の天才かにゃ~??」


 興奮しているサクラには悪いけど、【風の刃】を覚えるのは時間が掛かったので、天才とは言い難い。そう説明したら、サクラも残念そうな顔になった。


「それじゃあ、一緒に仕事するのはまだまだ先になるんにゃ~。後衛だったら早く行けると思ったのににゃ~」


 魔法の天才なら、ある程度の体力があればついて来るのは許可が出るかもと、サクラは期待したからだ。


「そうだにゃ~。魔法の天才だったらにゃ~……いや、いけるかもにゃ……」

「いけるにゃ??」

「うんにゃ! 凡人を天才にできるかもしれないにゃ!!」

「にゃ~~~??」


 今度はわしが大興奮。アリスを呼び寄せて一冊の本を手渡し、先生を紹介する。


「ノルンちゃんだよ~~~!!」

「「はい??」」


 でも、ノルンがブンブン飛び回るので、鬱陶うっとうしそうにしてるな。


「おじい様。どうしてノルンちゃん??」

「その本を開いてみろにゃ」

「本? あ、魔法陣です……綺麗……」

「それは時の賢者が残した本の写しにゃ。わしには必要が無かったし、読み取るのも難しいから、みんにゃもサジ投げてにゃ~。アリスが綺麗と感じるにゃら、相性がいいかもにゃ」

「はい……やってみたいかも……」


 アリスが本を開いて熟視するなか、飛び回っていたノルンがわしたちの間に入った。


「そこでノルンちゃんの出番なんだよ~。ノルンちゃんは高性能だから、ある程度説明できるんだよ。マスターとは違うんだよ。マスターとは」

「にゃんで2回言ったにゃ?」

「高度なギャグすらマスターはわからないんだよ~」

「第三世界の孫が言ってたから、元ネタが知りたいんにゃ~」


 孫の「こんな時に言いたいセリフ集」を思い出したわしであったが、ノルンの説明は正解なのかよくわからない。


 ザリとは違うのだよ。ザリとは……って、そのザリってニホンザリガニのことって本当??


 時の賢者の世界とは、元ネタから違っていたので混乱するわしであったとさ。

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