猫歴55年にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。ハッキングは怖い。


 猫歴54年は久し振りに戦争が起きそうになったが、我が猫家の力で無事解決。両国は土地が広くなったから、けっこうわしに感謝してくれた。

 民の大引っ越しの件はというと、最初は戸惑っていたようだが、現地の写真や動画を見て大金を貰えると聞いて「まぁそれなら」と受け入れてくれたとのこと。来年の収穫が終わった冬に行われるそうだ。


 猫の国の盗聴やハッキングを取り締まる法律は、首相の所に持って行ったらハテナ顔。まだ危機感を持てないらしい。

 なのでフユに協力してもらって、首相のプライベートを丸裸にしてやったら「早急に対策するから許して~!」って言われた。まさか浮気していたとは……

 

 かといって、専門家がいないことには話は進まないので、フユをアドバイザーに任命。必ず未来の防衛に必要になる技術なので、フユにはホワイトハッカーの組織の長にもなってもらう予定だ。

 ただ、会議をちょっと覗きに行ったら、首相がフユにペコペコしていたので、アレは脅されてるな。フユに有利になりそうな法律になりそうだったからわしが介入しました。


 そのせいで、フユは自室に籠ってわしのスマホをハッキング。


「にゃ? 電話帳しかデータがないにゃ……」

「もうそこにはありにゃせ~ん」

「父さん!?」


 わしだって対策済み。スマホを新しく買って、ヤバイデータが入っているプライベート用はオフライン使用に変更してやった。

 そのヤバイデータもハードディスクにコピーはあるし、次元倉庫に保管してあるからもしも見付かっても消せるわけがない。


 ちなみにヤバイデータとは、家族の写真や動画や音声のこと。子供や孫のかわいいシーンはわしたちは微笑ましく見れるが、大人になった子供たちが嫌がるかもしれないから隠しているのだ。

 一番かわいいシーンは、スマホに入れて暇な時に見てるよ。


 各国の反応は、わしが何かしでかしたのかと連絡が凄いと首相談。いちおうウソの定型文を渡しておいたから、それでなんとかやり過ごしているとのこと。「自分の口で言え」とも口答えされました。

 ラツィオ王国とジェノア王国の両隣の国王は、キャットタワーまで訪ねて来たので相手せざるを得なかった。そりゃお隣さんの森が一夜にして無くなってたら勘付くわな。でも、「何もしてない」と追い返してやった。


 一番うるさいのは、東の国。


「ねぇねぇシラタマちゃ~ん?」


 というか、さっちゃん御年66歳。もう死んでもいい歳なのに、わしに抱きついて離れてくれない。


「うっとうしいにゃ~」

「何があったか教えてよ~。娘からも聞き出して来るまで家に入れないって言われてるのよ~。かわいそうでしょ~?」

「その言い訳、どっちにしてもさっちゃんに利があるんじゃにゃいでしょうか?」


 さっちゃんは居座る気満々で夫と猫兄弟と大荷物と共にやって来たのだから、まったくかわいそうに思えない。てか、100パーセント嘘じゃろうが……


「教えてよ~~~」

「イヤにゃ~。言ったら無理難題吹っ掛けるにゃろ~」

「てことは、シラタマちゃんが森を切り開いたのね……」

「そんにゃこと一言も言ってにゃせ~ん」

「クッ……誘導尋問に引っ掛からない……」

「そんにゃ簡単な誘導尋問に誰が引っ掛かるにゃ~」

「シラタマちゃん。昔は簡単に引っ掛かってたのにな~。ケチ~」

「ケチでけっこうにゃ~」


 昔も口は堅かったずだし、今回は超堅い。猫パーティで森を切り開いたなんて知られたら、世界中から依頼が殺到するから言うワケがない。

 猫パーティもそれは理解しているので、さっちゃんがどんなにモフッても誰も口を割らないのであった。


「いったいいつまでいるにゃ~」

「だから、モフモフ溜めが終わるまでよ」

「目的も変わってるにゃ~~~」


 さっちゃんは1ヶ月も滞在して、ツヤッツヤの顔で帰って行ったので、わしは何をしに来たのかわからなくなるのであったとさ。



 そんな猫歴54年は家にいると何かとうるさいので、週3ぐらいでハンターの仕事をして、体を休めるのは世界中にある別宅で。

 猫歴55年になると落ち着いたようだけど、念のため逃げ回っていたある日、猫パーティで狩りに来たら皆の動きがおかしい。


「にゃんでみんにゃスマホで撮影してるにゃ?」


 そう。いつもなら大量の獣がいる場所に突っ込むのに、少ない場所を選んで獣と戦いながら撮影しているのだ。

 その疑問に答えるのは、一番近くにいた後衛のサクラ。


「にゃ? パパ知らないにゃ??」

「にゃんにも」

「シラツユがネコチューブ作ってくれたから、みんにゃで遊んでるんにゃ~」

「ネコチュール? チュール食べるにゃ??」

「だからにゃ~……」


 シラツユとはわしの娘の狸しっぽ黒猫だとはわかるけど、ネコチューブは猫一直線のことにしか聞こえない。

 わしがずっととぼけた顔をしているのでサクラが詳しく説明してくれたところ、ネコチューブとは動画サイトの名前だって。ややこしい名前付けやがって……


 ちなみにシラツユは大学で技術系を学んでいたけど、母親のつゆには追い付けそうにないと相談を受けたので、遅れていたアプリ開発部に行けばいいとわしがアドバイスしてあげたから、やってることは知ってるよ。

 電子の世界だけどこれも物作りには変わりないから、シラツユが楽しくやってるとこ見てたもん。息子と娘で扱いが違う理由は、世のお父さんならわかってくれるはずだ。


「つまり、動画サイトでバズらせようって、みんにゃやってるってことにゃ?」

「うんにゃ。大きな獣にゃら、すぐバズるにゃろ? 誰の戦い方が一番見られるか勝負してるんにゃ~」

「にゃるほど……全員、集合にゃ~~~!!」


 サクラからの聞き取りをしたわしは大声で呼び寄せようとしたけど、誰も集まらず。最近リーダーらしいことをひとつもしてなかったから、指揮系統の最下層に追いやられてたの忘れてた。

 なので、獣はわしの威圧で追い払い、皆にも伝染したら1人ずつサクラの下へ運んだわしであった。



「にゃんて威圧を出すんにゃ~。ビックリするにゃろ~」


 猫パーティでは最下層でも、猫家の家長の言葉を聞かないから悪い。インホワが「にゃ~にゃ~」言っていても、わしは相手にしてやらない。


「ネコチューブのことは聞かせてもらったにゃ。でも、いますることじゃないにゃろ? いまは仕事の時間にゃ。遊びと仕事をごっちゃにするのは、わしはよくないと思うにゃ」

「いや、今日は撮影を兼ねた狩りにゃから、遊びじゃないにゃ」

「いいや、それは遊びにゃ。わしたちの仕事は命をいただく仕事にゃ。その命はわしたちの糧にゃ。にゃのに感謝もせず、殺してさらすにゃんてあってはならないにゃ」

「「「「「……」」」」」


 珍しくわしが真面目な顔で説教するので、皆は口をつぐんで周りを見る。その中で、母親からわしが正しいと言ってくれたから、これ以上わしが何か言う必要はないだろう。


「そもそもにゃんだけど、そんにゃ血みどろの動画って、どうにゃの??」

「「「「「……にゃっ!!」」」」」


 でも、気になることを言ってみたら、ヤングチームも納得。今ごろ人様に見せられる映像ではないと気付いたらしい。昔、テレビ放送初期の頃にやった狩り番組は、テレビ局のオファーでモザイクも入っていたから許してね。



「あ~あ。カッコイイ動画撮れると思ったんだけどにゃ~」

「私も派手な魔法を見せたら、食い付くと思ったのににゃ~」

「ノルンちゃんの【妖精の怒り】は電撃だから、倫理的に問題ないんだよ~」


 やってはいけないとわかっていても、動画は撮りたかったとうるさいインホワ、サクラ、ノルン。ノルンは危ないからやめろ。

 その他もやる気満々で来ていたので、意気消沈しているからちょっとかわいそうだ。


「それにゃらゴーレム相手にやったらよくにゃい? 無機物にゃら血も出ないし、魔法にゃから生き死には関係ないにゃ」

「「「「「パパ、ナイスアイデアにゃ~」」」」」

「にゃはは。今日はもう狩りする気分じゃないにゃろ? 帰って撮影大会にしようにゃ~」

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」


 結局、わしは子供に甘い。代案を出して、笑顔の子供たちに囲まれて帰路に就くわしであった。


 実年齢では、おっちゃんおばちゃんだらけの集団だけど……



 家に帰ったわしは忙しい。ゴーレムの形が気に食わないとダメ出しをされ、和風の庭では雰囲気が違うとダメ出しをされ、わしのゴーレムの動かし方が悪いとダメ出しをされ、猫とダメ出しされ……

 そんなに言うなら企画書とゴーレムの絵を持って来いと、わしはスネる。どいつもこいつも、この程度でわしに文句言っておったのか……


 誰が一番視聴回数を稼ぐかの勝負をしているのだから、企画書と絵はそのまま採用。魔法で作ってみたらドロッドロのゴーレムばかりだけど、文句を言ってみろ。

 この絵をそのまま3Dにしてやったんじゃ。わしはパクリ商品だけは神憑かみがかって上手いぞ?


 皆は自分のドロドロゴーレムには不満な顔をしていたが、他の人のゴーレムを見たら大笑い。このまま撮影しま~す。


 カメラマンはメイバイ。スマホで撮ってもよかったが、うちのスマホはカメラの性能が劣るので、第三世界のカメラでの撮影を勧めてみたら即採用。

 3台のカメラで企画書通り撮影して、データのコピーはあげる。あとは個人で編集やるってさ。ちなみにこの動画も、わしのコレクション行き。だからカメラの変更を提案してやったんじゃ。


 ああだこうだやって、なんだかんだで終わったのは企画書を出してから1ヶ月後。全員、同じ日時に一斉にアップロードした。


「やったにゃ! 100回超えたにゃ~!!」


 3日後、インホワが騒いでいたので、わしが相手してあげる。


「インホワ君にゃ。それ、ほとんど自分が見たヤツじゃにゃい?」

「いや……それは……」


 身に覚えがあるらしい。さらに言うと、わしたち親組が何回か見たから、30回は足したかも? 個人的には、ゴーレムを大剣で真っ二つにする絵はカッコイイとは思うけど、最後のドヤ顔と厨二っぽい発言はよろしくない。


「フッフッフッ……私の華麗にゃ魔法動画は200回超えてるにゃよ~?」

「サクラさんにゃ。実質100回ぐらいにゃの忘れてにゃせん?」

「ち、違うにゃ~。私は5回しか見てないにゃ~」


 サクラの折り紙魔法は見応えがあるとは思うけど、如何せん、ドヤ顔するほど視聴回数は多くない。他の人も、いまなら勝てるとドヤ顔で視聴回数を告げているけど、ドングリの背比べ。

 一番多い人で500回まで来たけど、ニナとキアラはズルくない?


「にゃんでニナは得意のゲテモノ料理じゃにゃいの?」

「み、見た目にゃ……」


 まぁ信念を曲げたニナはこれから普通の料理を作ってくれそうだから褒めておこう。問題は……


「キアラは露出しすぎにゃから、BANしますにゃ~」

「なんでよ!?」


 そりゃ、ビキニアーマーはあきません。シラツユに消してもらえるように頼んでおきました。その時、黒モフ組がわしを囲んでゴニョゴニョと言い、押し出された。

 

「えっと……こんにゃこと言うのはアレにゃんだけど……スマホ保有者が少ないから、いまはこの遊び、視聴回数は期待できませんにゃ~」

「「「「「そんにゃ~~~」」」」」


 そう。発売から10年経ったスマホ事情は、まだ高いからあまり販売台数は増えていない。公的機関や企業を除いた世界人口スマホ保有者数は、一割ちょっと辺りだ。

 給料の高い猫の国でも総人口の二割程度。一家に一台あるかどうか。それも壊れたら困るって理由で携帯しない。そんな物、若者が気軽に買えるわけがないから、動画サイトでバズるなんて夢のまた夢だ。


 ITに詳しい黒モフ組から教えてあげろと言われたけど、兄弟からの総攻撃が来るのが目に見えていたからわしに言わせたのね……



 この1ヶ月の苦労はなんだったのだとわしが責められていたら、リータがスマホを見ながら困った顔をしていたので、黒モフ組がそちらに逃げてった。そして戻って来てスマホを見せたら、全員、腰砕け。

 リータは知らないところで、四足歩行の猫に戻ったわしのお昼寝動画を撮ってアップしたらしく……


「「「「「にゃんでそんにゃ動画で一万回超えるんにゃ~~~!!」」」」」


 まさかの視聴回数。わしが大の字で「スピースピー」と寝息を立てて寝てたり、リータの膝の上で撫でられ「ゴロゴロ」言って寝てる動画で一万再生超えなんてとうてい信じられない。

 なのでコメントを読んでみたら、「子供が静かになりました」とか「孫がすぐ寝ました」とか「寝付きが早くなりました」と感謝の言葉が溢れていたのであったとさ。

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