猫歴54年その3にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。怖くないよ~?


 ラツィオ王国とジェノア王国の国王は、戦争をすると自国にいる他国の者を巻き込むといまさら気付いて……というか「猫の国の国民に危害があるやろ!」とわしに怒鳴られて超萎縮。戦争は諦めてくれそうだ。


「要するににゃ。お互い取られた土地を返してほしいんにゃろ? じゃあ、同じ日に返す手続きをしたらいいんじゃにゃい??」


 ひとまず一番の懸念材料を解決しようとしてやったが、両国王は歯切れが悪い。


「その土地は、もう我が民が暮らしていますし……」

「立ち退かせるのもかわいそうかと……」

「同じだけ、もしくはそれを上回る補償をしてやればいいだけにゃ。そこには家だって仕事だってあるんにゃろ? ちょっと大規模にゃ引っ越しになるだけにゃ」

「「しかし、そんな資金は……」」

「戦争する資金はあるのに、それは出せないと言うにゃ? 5年でも10年でも停戦協定結べば余裕で捻出できるにゃろ。違うにゃ?」

「「うっ……」」


 両国王は小さい声で反論するが、全てわしが論破。たまに変な目を向けているのは、わしの口から賢い言葉が出るのが信じられないんじゃろうな~。


「と、まぁ、他国の者が仲裁しても、お前たちは心情的に納得しないと思うにゃ」

「「はい……」」

「だから、戦争やめるにゃら、ちょっと美味しい思いをさせてやるにゃ」

「「美味しい思い……」」


 わしの甘言に両国王は「条件によってはアリじゃね?」とか目で喋ってる。


「「それは何か技術をくれるということでしょうか?」」

「いんにゃ」

「「ええぇぇ~……」」


 猫の国は技術大国。いい物を貰えると目を輝かせた2人だが、わしが否定したら一気に曇った。


「元々のいざこざは土地が欲しいってのにゃろ? だからわしが土地をあげるにゃ」

「「お……おお!」」


 でも、すぐに復活。国土が増えるということは、新しい町が作られて税収が増えるからだ。


「ちょうど両国はこの土地の最西端にゃから、20キロほど森を押し返してやるにゃ」

「「……へ??」」

「だから、西側を広くしてやると言ってるんにゃ」

「「ええ!!??」」


 両国王は目玉が飛び出しそうなぐらいの驚きよう。たぶん、島か猫の国周辺の土地が貰えると思っていたのかな? 普通はそう思うか。


「これでどうにゃ?」

「そんなことできるのですか?」

「森と面している土地はけっこうありますよ?」

「誰に物を言ってるにゃ。我がパーティはいつもどこで狩りをしてると思ってるんにゃ~。期限は1週間でやってやるにゃ~」


 まさかそんなに早くなんてできないと目で訴えあっていた2人は、力強く頷いた。


「わかりました。それが叶うなら、10年の停戦協定を結ぶと約束します」

「ジェノア王国も了承した。ただし、期限を守られた場合と付け加えてよろしいか?」

「うんにゃ。終了したら電話するから、見に来てくれにゃ~」


 両国王はわしの約束を嘘と決め付け、軍隊には一時休戦と告げて引き下がるのであった……



「はい??」


 2日後、南側の国、ジェノア王を呼び出したら目が点。


「だから終わったと言ってるにゃろ。見てわからないにゃ?」


 ジェノア王国側の伐採がたった1日で終了したらそうなるわな。


「ここだけでは……」

「衛星写真もあるにゃ。これが一昨日にゃ。そしてこっちが、昨日の夕方頃かにゃ?」

「え? 何この写真……え? え??」

「もう~。昨日、地図ではこの部分を伐採すると言ったにゃろ。その写真にゃ~」


 キャットタブレットを3台も使って説明してあげているのに、ジェノア王はついて来れない。猫の国が他国に発表している衛星写真は、文句を言われそうだからここまでアップした画像じゃないからそうなるか。てか、やっちゃったかも?


「わしはリータたちを手伝いに行かないといけにゃいから、ひとまず車で確認してみろにゃ」

「はい? これをシラタマ王1人で??」

「そうにゃ。夜にまた電話するからにゃ~」

「ええぇぇ~……」


 驚きっぱなしのジェノア王に責められたくないので置き去りにして、わしはダッシュでラツィオ王国に急ぐのであった。



「ゴメンにゃ~。遅くなったにゃ~」

「あ、シラタマ殿。ちょうど休憩しようと話してたんニャー」


 メイバイたちと合流したわしは小休憩。お茶をしながら進捗状況と工程を聞いている。


「おお~。もう半分まで来てるにゃ~」

「昨日1日で終わらせたシラタマ殿に言われてもニャー」

「そりゃわしには便利な魔法がいっぱいあるんにゃから、速度の違いは仕方ないにゃ~」


 ちなみにわしの伐採方法は、修行を兼ねた空間断絶魔法で広範囲をサックリ切断。倒れた木々や切り株は次元倉庫に保管して、まとめて森の入口だった場所に並べておいた。

 元々戦争中だからハンターも仕事はできなかったけど、念の為「伐採の日は森に入るな」ってお達しを出してもらったのに、探知魔法で調べたらハンターがいたので、動物を逃がすついでに威圧を放ったらチビってた。だから言ったのに~。


 メイバイたちの場合は手分けして。動物とかは弱くて戦うに値しないからコリスが威嚇したら逃げてったそうだ。こちらの残っていたハンターも飛んで逃げたらしい。

 伐採方法は、魔法が使える者が広範囲に発射。倒れた木々は力持ちが運ぶか投げたんだって。切り株は土魔法が得意な者でやっていたとのこと。これもポイポイ投げていたから、騒音が酷そうだ。


「んじゃ、残りもやっちゃおうにゃ~」

「「「「「にゃ~~~!」」」」」


 そこにわしが入れば、スピードアップ。前衛陣は剣や素手で木々を斬ったり折ったりと走り回り、わしは荷物持ちに甘んじるのであった。


「サクラさんにゃ……にゃんかみんにゃ荒れてにゃい?」

「そりゃ戦争を止めるためとはいえ、林業やらされたらああなるにゃ~。私もイヤにゃったもん」

「にゃんかすいにゃせん……」


 わしたちの仕事はハンター。業務外のことをやらされた皆は「あの猫みたいにゃ~!」とディスリながら作業をするので、申し訳なく思うわしであった。


 そんなにわしって……うん。ここ数年、ハンターらしい仕事、1個もしてなかったな……



 別に皆が残りをやらなくてもわし1人で終わらせることはできたが、怖くて近付けなかったので任せていたら、予定より早く終了。

 ラツィオ王に電話したら「マジで? ジェノア王の言ってたのマジだったの??」と何度も確認されて、現地調査は明日になった。どうやらジェノア王から直接「ありえまへんわ~」って電話があったらしい。


 この日はジェノア王にも電話してから、全員猫の国に転移で帰宅。翌日はみんなついて来てくれなさそうな顔をしていたので、1人でラツィオ王に会いに行った。


「ホンマや……」

「にゃ~? これが証拠の衛星写真と地図アプリにゃ~」

「なんじゃこりゃ……」


 そしたら反応がジェノア王と一緒。ずっとポカンとした顔で北から南に車を走らせて確認していた。そうしてジェノア王国との国境付近になると、待ち合わせしていた護衛を連れたジェノア王と合流。

 会談用のテーブルやお茶を用意して、調印式に入る。


「わしは約束を守ったけど、お前たちはどうするにゃ?」

「「はい……シラタマ王の仰せのままに」」


 猫の国というか猫パーティの圧倒的な武力に、両国王は意気消沈。ゴネる元気もなく、停戦協定や領土の返還、民の移動、民への充分な補償の約束が書かれた書面にサインしてくれた。


「それともう1枚にゃ。この秘密誓約書にもサインしてくれにゃ」

「「はい……」」


 これも大事なこと。衛星写真のこともそうだが猫パーティで動きすぎたので、他所から同じことをしろと言われる可能性もあるから秘密は守らせる。おおやけには、わしが間に入って仲直りしたと発表する予定だ。

 当然、森にいたハンターが漏らす可能性もあるので、そいつらの言うことを否定することも仕事。まぁ、目一杯脅したから、喋ることはないかな?


「それじゃあ、握手にゃ~。笑って笑ってにゃ~」

「「ハハハハ……」」


 調印式は、2人の握手と、わしを含めた3人の握手と笑顔で終了。後日、号外で出回った新聞を送ってもらったら、わし以外は引き攣った顔をしていたのであった……



 突然舞い込んだ戦争の情報は、わしのおかげで死者どころか負傷者を1人も出さずに終結。まだ両国の話し合いが残っているから、わしも重要な所は立ち合うことになっているけど、大方終わったと言える。

 なので、家に帰ったわしはダラダラお昼寝。してたら、フユがわしの上でジャンプしてやがった。


「うぅん……そこそこ。そこにゃ~……ムニャムニャ」

「起きろにゃ~~~!!」


 どうやら何をしても起きなかったからジャンプしていたみたいだけど、わしはマッサージされている夢を見てる。なのでフユはお母様方に泣き付き、モフられて起こされた。


「はぁ~……酷い目にあったにゃ。それでにゃんかわしに用にゃ?」

「用にゃ? じゃないにゃ。最終的にどうなったか教えろにゃ~~~」

「……にゃ!!」


 そりゃフユから始まった出来事だったのだから気になるってモノ。それなのに寝てたら怒るよね~。

 というわけで、調印式の書類等を並べて平和的に解決できたことを報告してあげた。


「まぁ盗聴の件は肝を冷やしたけど、フユのおかげで戦争を止められたにゃ。ありがとにゃ」

「そうかにゃ~? 父さんの力のおかげだと思うにゃ~」

「力だけでは解決できないこともあるにゃ。にゃにをするにしても、誰かしらのサポートは必要にゃんだからにゃ。わしはフユに助けられたから感謝してるんにゃ」

「や、やめてくれにゃ~」


 わしがベタ褒めするので、フユはデレデレ。その顔をスマホで撮ったら怒られました。真面目な話してたもんね。


「もういいにゃ! それより例の件はどうなったにゃ!?」

「……にゃ??」


 画像を「消せ消せ」言ってスマホを奪おうとしたフユだが、後の先で守りまくったら諦めてブチギレ。しかし、なんの件でキレているかわしにはサッパリわからない。


「だから、盗聴やハッキングのことにゃ! どこまでだったらやっていいにゃ!?」

「……にゃあぁぁ~」

「ひょっとして……忘れてたにゃ?」

「さってと、仕事しよっかにゃ~」


 戦争のゴタゴタで、完全に忘れてました。でもまだバレてないので、わしは首相に仕事を押し付けに行くのであっ……


「いまのうちに父さんのスマホ、ハッキングしてやるにゃ~~~!!」

「それだけは勘弁してくれにゃ~~~!!」


 バレバレだったので誠心誠意謝罪して、ヤバイデータが入っているスマホやパソコンは電源を切って次元倉庫に隠すわしであったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る