猫歴54年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。いつの間にか息子が犯罪者になってました……
狐しっぽ黒猫男フユがハッキングや盗聴をしまくっていたから焦ったけど、まだ法律がないからギリセーフにしとこう。
そのおかげで手に入ってしまった情報はちょっとマズイので、わしは東の国や西の国、南の国にアポイントを取って君主と談笑。わしはめったにそんなことしないから、みんな時間を取ってくれたよ。
あとはとある組織に顔を出して話を聞いている間に、フユは諜報部からデータをもらってウサギネットワークの情報を精査してくれている。
このウサギネットワークとは、フユがやっていた盗聴のウサギ版。ウサギ族は世界中から大人気だから、従者サービスとしてレンタルして各地に散らばっているので、諜報部が情報を吸い上げているのだ。
といっても危険なことをやらせるつもりはないので、たまたま見聞きしたことや噂話のみ。ウサギ族がイジメられていないかを確認する巡回エルフ族が聞き取りをして、諜報部にデータを送ってくれているからバレることはないだろう。
もしもイジメられていたら、巡回エルフ族が実力行使で救出することになっている。エルフ族が2人もいたら、それぐらい余裕。上手くやれば王様ぐらい暗殺できるけど、やらせないよ?
イジメがあった場合は金輪際その国にはレンタル禁止にする契約になっているし、猫の国にケンカを売ることになるからいまのところそんな事例は1件もない。
ちなみにエルフ族は強すぎるからあまり外に出せないので、この仕事は大人気。だいたいが夫婦で受けて、新婚旅行気分でやってるんだって。
情報を仕入れたら、わしとフユは2人会議。足りない情報は、今回限り王様権限でハッキングや盗聴を許可。
「父さんだってやってるにゃ……」
「今回だけにゃ~。次回からは政府か裁判所に判断させるから、ここまで早い決断はできないことは覚えておいてくれにゃ」
それがフユは不服。そもそもウサギネットワークもスパイ行為だとか「にゃ~にゃ~」愚痴ってる。各国もスパイを他国に潜り込ませているんだから、それぐらい許してくれ。
これだけ確実な情報を手に入れたら、あとはわしの仕事。でも、上手くいかなかったので、強硬手段に出るわしであった……
西の国からさらに西にあるふたつの小国、ラツィオ王国とジェノア王国はお互い少しずつ領土を奪い合っていることが原因で、昔から小競り合いが尽きなかった。
ここ数十年は、とある国が新しい技術を格安で提供してくれるから、そのことに掛かりっきりで忙しかったから小競り合いすらなく平和だったが、それも落ち着くと昔に戻りつつあった。
そこに例年より雨が少なかった今年、その小競り合いは再燃。怒りを数十年溜め込んだかの如くあっという間にその炎は広がり、両国は申し合わせたように挙兵した。
場所はラツィオ王国とジェノア王国が領有権を主張している平原。両国の兵士は睨み合い、今まさに戦が始まろうとしていた。
この世界の戦争のルールは特にない。ただ、騎士道を重んじているので、開始前には伝令兵が口上を必ず読み上げる。
両国の将軍は、良き頃合いと伝令兵を同時に出立させた……
「「はあ? なんでそんな所に!?」」
でも、中間地点まで行ったところで伝令兵は
ただし、今まさに戦いの火蓋が切られる直前だったこともあり、両将軍は馬に飛び乗り騎士を数人連れて中間地点に走るのであった。
「「シラタマ王! こんな所で何してるんですか!?」」
伝令兵が踵を返したのは、もちろんわしのせい。
「にゃにって……ピクニックにゃけど、にゃに??」
それも、猫パーティでピクニックシートを広げてモグモグやってる。
「それは聞いてるんです!」
「なんでこんな所でしてるかですよ!」
両将軍は伝令兵から「猫王が家族でピクニックしてるんですけど……」と報告を受けたから怒鳴り込みに来たのだ。
「どこでしようとわしの自由じゃにゃい? 両国には通行税払ってるから、とやかく言われる筋合いはないにゃ~」
「「しかし!」」
「にゃに? わしの自由を奪いたいってことにゃ? だったら仕方ないにゃ~……ザックリ4千人ぐらいかにゃ? わしが相手になってやるにゃ~」
「「クッ……」」
最強の猫のわしが立ち上がるだけで、将軍たちは苦虫を噛み潰したような顔で
その将軍たちは、わしに何かを言おうと口をパクパクしていたが言葉が出ず。その時、両将軍の目がバチーッと合い、チラッと同じ方向を見て頷き合ったと思ったら、馬に跨がり走り去るのであった。
「これで戦争は諦めてくれるのでしょうか?」
将軍たちがいなくなると、リータからの質問が来た。
「場所を変えるみたいだにゃ。フユに電話してみるにゃ~」
わしたちがこんな辺鄙な場所でピクニックしている理由は、フユが盗聴して戦争の情報を手に入れたから。両国王が「国民全員、血の海に沈めたる!」的なことを言ってるの聞かされたんだよ。
それだけでは情報としては薄いので、各所に情報を集めさせたら確実とのこと。三大国には「止めてくれな~い?」とお願いしてみたら「うち、関係ないし~」と返されたの。
仕方がないので、王族のピクニックってテイで止めに来たってワケだ。
「にゃるほど~……引き続きモニターよろしくにゃ~。国王はどちらもまだやる気みたいにゃ。場所を変えるにゃ~」
「「「「「にゃっ!」」」」」
キャットタワーで盗聴しているフユから確認を取ったら、わしたちも移動。フユがわしのスマホに送ってくれた地図の場所に全員ダッシュで先回りだ。
そこでピクニックシートを広げて待っていたら、軍隊がトロトロ追い付いて来て陣を敷いた。
「「なんでこんな所にいるんだ!!」」
「気分転換に場所を変えただけにゃ。それがにゃに?」
「「クソーーーッ!!」」
でも、両将軍は「また猫がいる」と聞いて同時怒鳴り込み。わしたちがいると言うのに、スマホを取り出して国王に電話してるよ。
「にゃ?」
「「国王からです」」
「スピーカーにしてくれにゃ」
「「えっと……どこを押すんですか?」」
「ここにゃ。あ~。切れちゃったにゃ~」
両将軍が自前のスマホを差し出して来たので操作方法を教えてあげたのに、どちらも年寄りレベルだったので切っちゃった。すぐに国王が掛け直したみたいだけど、2人ともめっちゃ怒られてるな。
電話越しにペコペコ頭を下げていた2人は「スピーカーってのにしてください」とわしにも頭を下げて来たので、チョチョイとやってあげました。
「それで~……わしににゃんか用?」
『『邪魔!!』』
「わしだって家族との楽しい一時を邪魔されてるにゃ~」
両国王はわしが目の前にいないので超強気。しかしわしも折れないので平行線だ。というわけで、「巻き込まれても知らないからな!」と最終手段を使って来たので、わしも反撃だ。
「へ~……もううちの技術いらないんにゃ~。超高級肉もいらないんにゃ~。首相に国交断絶するように電話しとくにゃ~」
『『ちょちょちょちょ……』』
それは困るらしい。なのでまた場所を変えていたけど、変えた場所には必ずわしたちがいるので、この日の軍隊は右往左往するだけで夜になるのであった。
軍隊が野営をするなか、猫パーティはキャンプに突入。気分を台無しにしたくないので、普通のテントと寝袋を出したけど、皆に不評。
「テレビ見たい」とか「ゲームしたい」とかうるさいので出してあげたけど、これのどこがキャンプかわからなくなった。
ベティ専用キッチンからバーベキューソースのいい匂いは漂っているけど、そもそもキッチンがこの場所にあるのがおかしい。家族でお風呂入ってるし……
それから就寝ってことになったけど、テントに入ったのはわしだけ。みんな移動式キャットハウスやバスに分かれて入って行った。地面より畳と布団で寝たいらしい……
これでは寂しすぎるので、わしも侵入。子供たちと寝ようとしたけど、サクラに首根っこ掴まれてお母様方のほうに放り込まれて就寝したのであった。
翌朝……
とてもキャンプに見えないキャンプメシを食べてわしが歯を磨いていたら、北と南から数台のジープが爆走して来た。そのジープは一直線にわしたちのキャンプ地に突っ込んで来て、砂埃を立てて急停止した。
「「シラタマ王!!」」
そこから飛び出たのは、ラツィオ王国とジェノア王国の国王、ラツィオ王とジェノア王だ。矢継ぎ早に何か言っていたけど、歯磨き中だからちょっと待って。ガラガラペーッてしてから話を聞く。
「にゃんだっけかにゃ?」
「だから、どこかに行ってくれません?」
「せめて動かないでくれません?」
両国王はわしを前にしては強気に出れないのか、揉み手で似たようなことばっかり言ってる。
「それにしてもちょうどよかったにゃ。やっと顔を見せてくれたにゃ~。わしの手紙も電話も無視するんにゃから、悲しかったにゃ~」
「「そ、それは……」」
実のところ、わしだってこの戦争を平和的に止めようと頑張っていた。手紙には「お隣と揉めているみたいだけど、大丈夫? わしが間に入ろうか??」とやんわりと書いてみたのだけど音沙汰なし。
たぶんこの手紙で戦争を邪魔されると思ったのか、その後は両国共にずっと仮病を使われたので会うこともままならなかったのだ。
2人ともその嘘がわしにバレたので、シドロモドロ。だから席を用意したら、素直に座ってくれた。
「にゃにはともあれ、両国の国王が膝を付き合わせたんにゃ。戦争にゃんて馬鹿なことはせずに話し合いで解決しようにゃ」
「いや、話し合いで解決しないからこうなっているんです」
「うむ。積年の恨みはシラタマ王にはわかりますまい」
「まぁにゃ~。わしにはわからないことは多いにゃ。でも、わかっていることはあるにゃよ? 戦争にゃんてしたら、若者、男、関係ない民、子供が多く死ぬにゃ。違うにゃ??」
「「それはそうですけど、引くに引けないこともわかっていただきたい」」
わしの反論に、両国王はハモっているからけっこう仲良しなんじゃね?
「そもそもにゃよ? 今回の戦争って、ダムで水を止めたのが原因にゃろ?」
「「はい……まぁ……」」
「それだったら、南のジェノア王国が河川組合に訴えたらよかった話にゃ~」
河川組合とは、ダムを作る上で大事な組織。この地域には北から流れる川があり、猫の国の知識でダムと水力発電施設を作るには、水資源の取り合いが起こる懸念があった。
なので複数の小国から代表者を募り、ダムを
「それをせずに、ラツィオ王国が悪いと国民を扇動したんにゃろ?」
「いや……」
「ラツィオ王もジェノア王国がキライってだけで、ちょっと嫌がらせしたんにゃろ?」
「いや……」
今年は雨がちょっと少なかったので、ラツィオ王国は河川組合の法律期限ギリギリまでダムを堰き止めたのは明白。あわよくば、ジェノア王国が乗って来ないか
「お前たちは、戦争がしたいって利害が一致しただけにゃ。そんにゃことに民が巻き込まれたらかわいそうにゃ~」
もちろん盗聴やハッキングは秘密。しかし、わしが心の中を見透かしているように感じた2人は同時にテーブルを叩いて立ち上がった。
「それこそ猫の国は関係ないだろ!」
「そうだ! 我々の問題だ!!」
怒鳴り散らす両国王から視線を外し、わしは一口お茶を飲んでから睨み付ける。
「関係にゃい? お前たちは勘違いしてるにゃ。キャットトレインや三ツ鳥居のおかげで世界は近くなったにゃ。必然的に、世界中の人や商人が両国に足を運んでるんにゃよ。
特にうちは、お前たちの国に大量のウサギ族を派遣しているにゃ。猫の国の国民が1人でも死ねば、わしも動かざるをえないにゃ。うちを敵に回して、お前たちの国が地図上に残ると思うにゃよ!」
わしがテーブルを叩き割って立ち上がると、両国王は自分たちがやろうとしていたことの副次的効果に気付いて青ざめ、ヨロヨロと力が抜けてイスに腰掛けた。
「わかってくれたみたいだにゃ。んじゃ、建設的にゃ話をしようにゃ~」
シンプルに脅しちゃったけど、わしが議長となってこれからのことを話し合うのであった……
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