猫歴54年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。初代首相のホウジツがかわいそうじゃね?


 センジ二代目首相の葬儀は弔問客が途切れなかったので、2日目に突入。さすがにこれだけの人がやって来ると、半日ぐらいで終わったホウジツがかわいそうすぎる。でも、公文書にウソを書けないので、弔問客の数はごまかさないよ。

 こうも長引くとは思っていなかったので、2日目以降はわしも出席していない。猫市の市長にあとのことは任せた。まさか1週間も続くとは思ってなかったわ~。


「これ、わしの葬儀の時も、こんにゃ騒ぎになるのかにゃ?」


 キャットタワーの屋上からその光景を見ていたわしがメイバイたちに質問したら、最近出番が少ないと、ベティ&ノルンがしゃしゃり出て来た。


「あんたの時は関係ないでしょ」

「にゃんで~? わしもけっこう頑張ったんにゃよ~??」

「マスターは何歳まで生きると思ってるんだよ」


 2人はやれやれって仕草をしているけど、言ってる意味がわからない。


「だから、ここに集まってる人は、猫の国建国から知ってる人でしょ?」

「つまり千年後は、そんなこと忘れてるって言ってるんだよ。このすっとこどっこい」

「わ、忘れてても、わし、王様じゃにゃい?」

「国政ノータッチのクセに……」

「そんな王様に敬意は払えないんだよ~」

「にゃ……」


 確かに戦前戦後のゴタゴタを乗り切ったこの時代なら、わしにもワンチャンあるのはさもありなん。千年後なんて、その感謝の気持ちは粒ほど残ってないかも?


「ま、まぁ、わしはこんにゃ派手な葬儀は求めてないしにゃ~」

「人が集まらないのが恥ずかしいんでしょ?」

「恥ずかしいなら、人知れず死ねばいいんだよ~」

「そんにゃ猫みたいな死に方しないにゃ~」

「猫じゃない?」

「猫だよ?」

「猫にゃけど~~~!!」

「「キャハハハハハ」」


 反論しても、ベティ&ノルンはムカつく。あまりにも馬鹿笑いするので、「お前たちのほうこそ、王族じゃないただの居候だろ」と現実を告げて立ち去るわしであった。

 そのベティ&ノルンは、今ごろ死んだ時の危機感を抱いたそうだ。ざまぁみろ!



 猫歴52年はセンジ死去という悲しい出来事があったが、我が猫家は赤ちゃんがいっぱい居るからそれほど引きずらず。どちらかというと赤ちゃんのおかげで笑顔が多い年だった。

 翌年の猫歴53年も赤ちゃんの成長を喜んでいたら、サクラからいい加減にしろと言われた。嫉妬してるみたいだ。


「仕事しろって言ってるんにゃ~~~!!」


 違ったみたい。せっかくスリ寄ってあげたのに、ネコパンチして来たから全てヒョイヒョイ避けてやった。

 というわけで、というか、孫のお父様方から「そろそろ子供を返して」と言われたこともあり、子育てを追放される。孫がわしのことをパパと呼び出したから危機感を覚えたらしい……



 かといって、やることはたいして変わらない。週二のハンター業、残りは訓練やボランティアしたり友達と遊んだり、知り合いと飲んだりお昼寝したり、お昼寝したり。

 代わり映えしない日々を送っていたら猫歴54年となり、インホワが修羅の剣習得を諦めたのか大剣を使い出したけど特に気にせず。


 今日はどこでお昼寝してやろうかと思っていたら、お春との第二子、狐しっぽ黒猫男フユから話があると言われたので一緒に下の階に移動する。


「にゃに~? そろそろ結婚するにゃ~??」

「違うにゃ~」

「てことは、彼女を紹介してくれるにゃ~?」

「彼女は今はいないにゃ~」

「にゃ? てことは、自分で探すの諦めて見合いしたいってことにゃ??」

「婚活の話は一旦忘れてにゃ~」

「それはできないにゃ。アレから7年も経って28歳にゃろ? アラサーにゃ~」

「プレッシャー与えるにゃよ~」


 キャットタワー12階は子供部屋が多数。フユの部屋まで婚活の話をしまくったら、涙目で中に通された。


「にゃにこれ……」


 フユの部屋は、PCモニターがいっぱい。まるでFXトレイダーの仕事部屋みたいになっていたので、わしも驚愕の表情だ。


「いつの間に引きこもりになってたにゃ?」

「引きこもりなわけないにゃろ。大学の電力が足りなくなったから、仕事場をここに移動したんにゃ」

「てことは~……リモートワークとかいうのやってるにゃ??」

「うんにゃ」

「はあ~~~~~~~??」


 フユがあまりにも時代を先取りしすぎているので、わしも変な声が出ちゃった。だからフユって、モフモフ組の中で一番太っていたのか……

 そもそもフユは、大学では地政学を学んでいたはず。そして卒業後は、大学教員として雇われたと聞いて祝った記憶がある。


「あぁ~……あの時、父さんは玉藻さんにしこたま飲まされてたからにゃ。学部が変わっていたのも覚えてないんにゃ……」

「いつ変わったにゃ?」

「入学して1年後にゃ。言ったにゃろ?」

「ちょっと待ってにゃ……その時、わしって御老公に飲まされてにゃかった??」

「それも覚えてないにゃ!?」


 新事実発覚。フユの進路は数少ない飲み友達に飲まされていたから、記憶になし。


「にゃんて間の悪いヤツなんにゃ……」

「大事な話があるって言ったのに、飲みながら聞く父さんが悪いにゃ!」

「申し訳ありにゃせん……にゃにか欲しい物はにゃいでしょうか??」


 なのでフユの不運のせいにしたかったが、完全にわしが悪いので平謝り。「なんでも買ってやる」と頭を下げて許してもらうわしであったとさ。



「んで……いまさらにゃけど、にゃんの仕事してるにゃ?」

「情報管理部ってのを新設して、講師権、情報収集員もやってるにゃ」

「にゃんか物騒なことやってるにゃ……」


 あまり聞きたくないけど、仕事内容を詳しく聞いてみたら思った通りだったので頭が痛い。


「それって、ハッキングや盗聴じゃにゃいでしょうか?」

「うんにゃ。やっぱり父さんは賢いにゃ~。学長は全然わかってくれなかったのに、さすがにゃ~」

「それって、犯罪じゃにゃいでしょうか?」

「日本じゃ犯罪らしいにゃ。でも、ここは猫の国でそんにゃ法律ないからやりたい放題にゃ~」

「にゃんてこった……」


 わしの知らないところで事が進んでいたので、倫理観もへったくれもない。昔、首相に検討するように頼んでいたのに、難しいから後回しにされて何ひとつ進んでなかったみたいだ。


「ダ、ダメにゃ! その部署は、一旦凍結にゃ~~~!!」


 なので、わしは大反対だ。


「にゃんで~? このために衛星回線やスマホとかを独占してたんじゃないにゃ??」

「違うにゃ! 生活を便利にするためにゃ!!」

「えぇ~。各国の要人のスキャンダル、面白いにゃよ?」

「どこまでやってるにゃ!?」


 でも、フユの反論は、国の利益としてはある意味正しい。使い方は最低だけど……


「だいたい国王のスマホとかをハックして録音してるかにゃ~? あ、あと、財務状況も全部コピーしておいたにゃ」

「後の祭りにゃ!?」


 知るのが遅すぎた。フユが世界のとんでもない脅威となっていたからには、わしも膝から崩れ落ちたよ。


「にゃ~? そんにゃに項垂れてどうしたにゃ??」

「フユ君……そこに座ってくださいにゃ」

「にゃに? 急に改まってにゃ~」


 フユをわしの前に座らせたら、わしも正座して話をする。


「わしの教えは覚えてるかにゃ?」

「教え? あぁ~……王族っぽい振る舞いはしなくていいってのにゃ??」

「それもそうにゃけど、『自分が』ってほうにゃ」

「覚えてるにゃ。耳に猫にゃもん。迷惑かけなきゃいいんにゃろ?」


 わしの教えはそれほど多くない。「自分がされて嫌なことは人様にするな」だけは、子供には何度も伝えて来たつもりだ。耳に猫じゃなくて、タコになるぐらい!


「それにゃらわしの言いたいことがわかるはずにゃ。フユは盗聴されたいにゃ? 自分の隠し持っている画像とか奪われたいにゃ?」

「それは嫌にゃけど……これは国のことにゃし……」

「国だって一緒にゃ。いや、国のほうが厄介にゃ。このことがおおやけになれば、猫の国は世界中から責められるにゃ。それはこれからにゃん十年も、忘れた頃にも手札にされてしまうにゃ。国交断絶ならまだいいにゃよ? 最悪、世界中が猫の国を潰せと戦争を仕掛ける可能性だってあるんにゃ」


 わしの説教で、フユも自分のやらかしたことに罪悪感が生まれて目を伏せた。


「ま、バレた場合は仕方ないにゃ。わしの監督不行き届きにゃから一緒に謝ろうにゃ。にゃ?」

「父さん……迷惑かけてゴメンにゃ~」

「よしよしにゃ~」


 フユは目に涙を溜めてわしに抱きつく。その気持ちを汲んだわしは優しく背中をポンポンとしているけど、息子が甘えてくれたからちょっと嬉しくなるのであった……



 それからちょっとお茶をしながら、世間話程度にキャットタワーにパソコンを持ち込んだ経緯を聞いてみたら、猫大の電力需給力ではこれ以上パソコン関連の学部を増やせないと言われたそうだ。

 そこでフユは「キャットタワーなら父さんとコリス母さんが電力魔道具に補充してくれるから無限に使えんじゃね?」と閃いたそうだ。だからここ数年、1日数回補充させられていたのか……


 電力を確保したら、ギョクロたち黒モフの手を借りて、パソコンやらモニターをえっさほいさ運んで配線なんかもやってもらったんだって。団結力強いな黒モフ組……

 お礼はわしの情報。「父さんなら無限に電気を生み出せるよ」と吹き込んだらしい。だから毎日2、3個渡されていたのか……


「にゃるほどにゃ~。どうりでおかしいと思ってたんにゃ~」

「いや、このことも言ったにゃよ? 大学の電力なんとかしてってにゃ」

「聞いたことにゃいけど……」

「言ったにゃ~。にゃん度も今度やるって言って、やらなかったにゃ~」

「どのタイミングで言ったにゃ??」


 記憶にないので質問したら、わしがウトウトしている時に言っていたのではないかと推測。とことんフユとは話のタイミングが合わないわしであった。



「それはホント、申し訳ないにゃ。今度から重要なことは文書にしてくれにゃい?」

「メールしたらいいにゃ?」

「それでもいいにゃ~」


 わしとしては紙のほうが読みやすいけど、息子がデジタルを使いこなしているなら負けてられない。このデジタルネィティブめ……


「さってと。聞くこと聞いたし、そろそろ上に戻ってお昼寝しよっかにゃ~」

「いやいやいやいや……本題、にゃにもしてないにゃよ?」

「そうにゃの?」

「父さんがこれまでのこと、にゃにも聞いてないからこんにゃに時間かかったんにゃろ~」

「ごもっともですにゃ……」


 けっこうな時間滞在したから、本題なんてうに終わっていたと思っていたけど、まだお昼寝に戻れなさそう。

 とりあえず「にゃ~にゃ~」愚痴っているフユに本題を聞いたところ、パソコンをカタカタ叩いて盗聴音声を聞かされた。


「これ……マジで本人にゃ?」

「当たり前にゃろ。それよりどうするにゃ?」

「う~ん……諜報部には話を通しておくから、ウサギネットワークからも情報仕入れといてくれにゃ。わしも別筋から裏取りするにゃ~」

「オッケーにゃ~」


 急転直下。フユのしていたことは看過できないが、わしたちは手分けして情報を精査するのであった……

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