猫歴52年にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。アリーチェも双子も助かって嬉しい!


 猫歴50年は、鉄之丈のことやさっちゃんのワガママ、アリーチェの双子妊娠という忙しい年であったが、猫歴51年初頭には双子が産まれたので疲れも吹き飛ぶってモノ。

 ちなみにさっちゃんは、出産前の女王誕生祭にやっと帰ってくれたよ。サンドリーヌタワーは15階まで拡張させられたからしばらく来ないと思っていたけど、週末にはお泊まりしに来るけど……


 ちょっと時間を戻り、女王誕生祭は新女王アンジェリーヌの二度目の誕生祭で、去年は忙しいとか言って断ったから、今年はなんとしても出席させようとアンジェリーヌがみずから乗り込んで来た。その前は盛り上がりに欠けたんだってさ。

 しかしアリーチェの出産のことでわしが忙しくしていたから、さっちゃんが盾になってくれたので助かった。


「貸し1ね。んで、すぐ返して。娘のためにインホワ君たち貸してね」

「汚にゃっ!?」


 と思ったのは5秒だけ。うちのモフモフ組を差し出せとか言って来たので、なんだか怪しい。


「2人で口裏合わせしてにゃかった?」

「「にゃんのことかにゃ~? ピュ~」」

「絶対やってるにゃ~~~!!」


 口笛を吹いてるんだから、スマホで連絡を取ってやることは決まっていたのだろう。なんとか断ってやりたかったが、2人して「貸し返せ~。貸し返せ~」とわしの後ろをついて歩くので、根負けしました。

 どうインホワに話を付けようかと考えて「王様の名代として出席してくれ」と頭を下げてみたら、「しょうがないにゃ~」とけっこうノリノリ。他のモフモフ組も説得して、東の国に連行されてった。


 およそ2週間後、女王誕生祭から帰って来たインホワたちは何故か肩を落としていたので質問してみたら、口を開かず。行ってない人で心配していたら、さっちゃんが訪ねて来たので聞いてみた。

 どうやらインホワは名代として乗り込んだのに、舞台のお仕事だったから落ち込んでいたっぽい。でも、ビデオを見たら全員ノリノリ。めっちゃ面白くて笑って見ていたら、インホワたちが怒鳴り込んで来た。


 要約すると、恥ずかしいんだって。


 インホワを場末の居酒屋に連れ出して、たらふく飲ませて何があったか聞き出してみたら、最初は断るつもりだったらしい。でも、アンジェリーヌにヨイショされまくったら気分がよくなってやっちまったそうだ。

 演劇じたいは大盛り上がりだったからモフモフ組も興奮していたらしいけど、ビデオを見たら大笑いされているわ、道を歩けば指差して笑われるわで、こんなことになるなら舞台なんかに出なければよかったと死ぬほど後悔したんだって。


「にゃはは。してやられたにゃ~」

「クッソにゃ……あの子、女王になってめちゃくちゃ口が上手くなってたんにゃ~」

「ある意味それが女王の仕事だからにゃ。まぁまた名代を頼むかもしれにゃいから、その時は頑張れにゃ~」

「もうイヤにゃ~。ギョクロに言ってにゃ~」

「お前は第一王子にゃろ~」


 インホワ、初めてのお使いで自信喪失。昔はわしの座を狙っていた音声を聞かせて慰めてあげたけど、そのせいでますます立ち直れなくなったのであったとさ。



 アリーチェの経過観察も良好で、キャットタワーに戻ったらわしの手も空くようになったから、久し振りにハンターのお仕事。

 インホワは憂さを晴らすかの如く獣に突っ込んで行ってる。その他の恥を掻いたモフモフ組も、メラメラ燃えているからわしの出番はなし。戦おうとしたら怒られるの。


 というわけで、わしは葉っぱ付きの小振りの枝を拾って大木をペチペチ。皆の戦闘が終わるのを待っていた。


「にゃにしてるにゃ? ……その枝で斬ったにゃ??」


 するとインホワが近付いて来て、わしのやっていたことに疑問を持ち出した。


「べっつに~。にゃにもしてないにゃ~」

「いや、斬れてるにゃろ? ママ~~~!!」


 わしがとぼけると、インホワはお母様方を召喚。モフモフという名の拷問を受けては喋るしかなかった。


「新魔法にゃ……」

「教えないにゃよ? これ、すっごく危ないからにゃ」

「「「「「そこをにゃんとか~~~!」」」」」


 教えないと言ったら、さらに倍プッシュ。全員にモフられてわしもフラフラだ。


「リータとメイバイは危険なの知ってるにゃろ~」

「いえ、知りません」

「知らないニャー!」

「ほら? わしが天叢雲剣あめのむらくものつるぎを振った時のことにゃ。危うく死にそうになったにゃ~」

「「あの魔法使えるようになったにゃ!?」」

「劣化番だけどにゃ」


 モフられすぎて説明が足りなかったが、天叢雲剣あめのむらくものつるぎで次元を斬って吸い込まれそうになったことを思い出させたら2人は折れてくれたけど、他の人は聞きゃしない。見せて見せてとうるさいな。


「ちょっと離れてろにゃ。絶対にわしの前に出るにゃよ?」

「「「「「はいにゃ~」」」」」


 というわけで、20年秘密を守り続けた空間断絶魔法を猫パーティに初披露。小枝を振っただけで、わしを起点に半円状、20メートル離れた位置までにあった木々が切断されて、同じタイミングでバタバタと倒れた。


「切れ味でいったら、わしの刀なんて目じゃない切れ味にゃ。そしてわしでも真っ二つになる危険な魔法にゃ。だからわしも怖くてみんにゃの前では使わなかったというワケにゃ」


 唖然呆然。太刀筋も見えない剣なのに圧倒的切れ味を誇る空間断絶魔法に息を飲む一同。でも、この危険な魔法をマスターしたいとか言う馬鹿もいる。


「オヤジ……教えてくれにゃ! お願いしにゃす!!」


 インホワだ。馬鹿だもん。


「そうだにゃ~……修羅の剣と優しい剣をマスターした者には、我が猫又流剣術の奥義を授けるにゃ」

「やったにゃ~~~!!」


 無理難題を言われたともわからない馬鹿なんだもの。猫又流剣術なんてウソッパチだし……


 この日からインホワは、かっこつけて持っていた大剣を手放し、刀を振り出したのであった……


「ちなみにどうやったら優しい剣はマスターできるのですか?」

「わしもまだマスターしてないからわからないにゃ~」

「それじゃあインホワの頑張りが無駄になるニャー」

「危険なことしなくなるからいいんじゃにゃい?」

「「ああ~……」」


 リータとメイバイは無駄な努力をしてると聞いて、哀れんだ目でインホワを見るようになったとさ。



 インホワが燃えるなか、猫パーティヤングチームも侍の極意習得に多大な力を注いでいたけど、わしはダラダラしていたら猫歴52年になった。

 この年は、出産ラッシュ。アリーチェの双子を見てからというモノ、嫁たちが「あなた~?」とかなって、結婚と同じく同時期に重なったのだ。


 ちなみにキアラとマティルデは別れました~! かわいい赤ちゃんを見たら、自分の子供が欲しくなったみたい。ただ、いまだに同じ部屋で寝てるけど、怪しいことはしてないんじゃろうか?

 いつも2人で出掛けて婚活してるらしいが、全然いい人が見付からないらしい。そんなコスプレして行くから相手が逃げるんじゃね? ゾンビナースはないわ~。


 キアラたちのことは置いておいて、出産が立て込んでいるので、猫パーティは再び活動自粛。今回はエルフ以外の出産が多いけど、猫の血を引く者が生まれて来るから、念の為わしも助産師として忙しいからな。


「いや、オヤジはみんにゃから止められてたにゃろ?」

「そうにゃの……免許持ってるのに仲間外れにされたにゃ……」

「暇なら狩りに連れてけにゃ~」


 実は忙しいのはリータとメイバイだけ。イサベレとベティも手伝うとか言ってた。なので、インホワに首根っこを掴まれて、猫パーティヤングチームにちょうどいい狩り場に拉致られるわしであった。



 出産の立ち会いは許可されないわしであったが、出産当日はさすがに仕事が手に付かないので、妊婦のパートナーと共にドキドキ。産まれたら号泣。赤ちゃんを見たら微妙な反応。

 今回はモフモフ組の出産ばかりだったから、全員モフモフが産まれちゃったからだ。モフモフではない嫁や婿はどんな反応か見ていたけど、ほとんど猫耳族だし唯一の人族も女性なので、モフモフは嬉しいらしい。


 わしとしては、猫の血のせいでモフモフを増産しているから悪いことをしたと思っていたけど、杞憂だったみたいだ。


 最後の1人が退院したら、キャットタワーは大賑わい。赤ちゃんの泣き声というか猫の鳴き声が凄いことになっているので、若手夫婦はグロッキー気味。

 わしたちおじいちゃんおばあちゃん組も出張って、赤ちゃんの世話を焼いている。


「えっと……この子、にゃんて名前だったかにゃ?」

「確か……ギョクロ君とこの……」

「ギョクロ君のはこの子じゃなかったニャー?」

「ヤバイにゃ! シャッフルになっちゃったにゃ!!」


 今回は黒モフ組の赤ちゃんが3人と、インホワ夫婦からも黒猫が生まれたから、ハイハイで走り回ったせいで誰の子供かわからなくなりました。いちおう耳や尻尾の形である程度わかるはずだけど、まだ小さいから自信が持てない。

 それに狸しっぽ黒猫のギョクロとシラツユは母親が同じだから、この2人の子供はまったくわからん。実母に泣き付いたら、さすがは実子ということもありわかったから助かった。

 このことから、名札は必須。足首にタグを付けたから間違えなくなったけど、赤ちゃんゲートに入れたら売り物みたいになってしまった……


「わ~。日本のペットショップみたいになってる~」

「さっちゃん……その言い方だけはやめてくれにゃ」

「あ、ゴメ~ン。ここ入っていい? いいよね? モフモフパ~ラダ~イス!!」

「せめて許可得てくれにゃい?」


 そのせいで、遊びに来たさっちゃんはアゲアゲ。ゲートに勝手に入って大の字に寝転んで、赤ちゃんのハイハイに踏まれて喜んでやがる。


 この変態が……



 そんな騒がしい毎日だが、今日はわしは猫医大のVIP病室にやって来た。


「にゃ? 起きて大丈夫にゃ??」

「ええ。今日は気分がいいので」


 このベッドの上で体を起こしているお婆ちゃんは、元猫の国首相センジ。数年前まで世界旅行に行けるぐらい元気だったのだが、悪性脳腫瘍で倒れてから寝たきりの日々が続いていた。

 さすがに脳のガンはわしたちの技術では治療が難しく、猫医大で天才外科医と呼ばれた医院長でもサジを投げたほど。

 しかし、センジが医学の未来のために的な話を子供たちに頼んでいたので、わしも参加してやれることはやったが、ガンを取り切れずに緩和措置に移るしかなかったのだ。


「今日はわしの孫たちを紹介しに来たんにゃ~。かわいいにゃろ~?」

「ウフフ。モフモフですね」


 センジが喜ぶと思って、ホームビデオを披露。どう見てもペットショップか動物園にしか見えないのは言わないでくれ。

 そんな動画を見ながら「センジも元気になったら遊びに来て」とか喋り、のどかな時間が過ぎていたが、センジは急に窓の外を見て黙った。


「にゃ? 疲れたかにゃ??」

「いえ……私は猫耳族の皆さんの力になれたのかと思いまして……」

「まだ言ってるにゃ? センジは力になれたとわしが自信を持って言えるから安心しろにゃ。それににゃ。そう思ってるのは猫耳族だけじゃないにゃ。猫の国に暮らす民、みんにゃがセンジに感謝しているはずにゃ。この国のいしずえを作ったのは間違いなくセンジだからにゃ」

「猫陛下……」

「わしからも言わせてくれにゃ。長きに渡り、よくやったにゃ。感謝するにゃ。ありがとにゃ~」

「こちらこそ、こんなチャンスをいただき、ありがとうございました」


 わしが訪ねて来ることを待っていたのだろうか。その夜、病状が急変し、センジはそのまま死後の世界に旅立った。



 2日後……猫市ではセンジの葬儀が大々的に行われている。


「うぅぅ……センジさんまで……」

「もう、私たちと一緒に働いた人は残り僅かニャ……うぅぅ」

「センジ……うぅぅ……」


 リータとメイバイ、コリスまでもが涙ながらに見守っていた。センジは猫の国建国から一緒に頑張って来た戦友だからだ。


「別れは悲しいけど、センジは素晴らしい物を残してくれたにゃ。見ろにゃこの光景を……猫耳族も人族もウサギ族も関係なく、駆け付けて泣いてるにゃ。これこそが、センジが生きた証にゃ~」


 今日ばかりは、わしも涙。国民がひとつとなり、たった1人の女性を見送るのだから我慢できるわけがない。



 センジ元首相、享年67歳。ラサ市市長を経て、二代目首相を五期務めて歴史に名を刻む。

 その死は多くの国民に悲しまれ、猫耳市やラサ市に住む人族や猫耳族だけではなく、元帝国人が多く暮らすソウ市からも弔問客が訪れ、1週間近くも途切れないのであった……

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