猫歴50年その4にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。占いはあまり信じない。
アリーチェを助けるための被験者写真をシャーマンのお婆ちゃんに見せたところ、未来が複数に枝分かれしているらしいので、もう少し詳しく聞いてみる。
「いちおう助かる未来はあるんだよにゃ?」
「はい……てことは、まだ迷っているってことですか?」
「まぁにゃ」
「だからこんなに分かれてるんだ~。ウンウン」
ホッとしてるシャーマンには、わしたちがやろうとしていることを詳しく説明してみたら、未来が見やすくなったらしい。
「その母子共に助ける道を選ぶのですよね?」
「うんにゃ」
「それでしたら成功します!」
「……本当にゃ?」
「信じてくださいよ~~~」
別に信じてないわけではなく、確認しただけでシャーマンは涙目だ。
「お母さんは、出産後は普通に生活できるんだよにゃ?」
「それは~……うん。やめたほうがいいですね。長くはありません」
「これじゃあダメってことなんにゃ……」
「ここは無難に、お母さんだけ助けたほうがいいんじゃないですかね~? 長生きしますよ~??」
シャーマンの助言はもっともだが、わしは諦めない猫。メイバイたちと助ける方法をコソコソ喋っていたら、シャーマンは自信を無くしてドンドン小さくなってる。
「こういうのはどうかにゃ~?」
新アイデアを盛り込んで占ってもらったら、わしたちは笑顔でキカプー市をあとにしたのであった……
それからわしたち親組は忙しいのでせかせかと動き、子供組はあまりかまってあげられないので小さい子だけ。わしの子供はみんな成人してるしな。
猫パーティは動けないので、ヤングチームだけ近場の狩りは許可。たまにはハンターギルドの仕事をしたらどうかと言ってみたら、インホワの運転で遠くの狩り場に向かった。
アリーチェは身重なので、産休中。オニタかマティルデとだけ喋っているらしい。そのせいで、キアラがなんか変。
「元サヤ」とか「NTR」とかブツブツ言ってるけど、NTRってなんなんじゃろう? あと、その高揚した顔はなんじゃ??
キアラの謎行動はいつものことなので放っておいて、今日はちょっと一服で夜中に縁側で一杯やっていたら、アリーチェがわしの背後に立っていたのでビクッとした。
「にゃ、にゃんですか?」
アリーチェは無言で見詰めていたから、わしも怖くて敬語になっちゃった。オニヒメが化けて出たのかと思ったのは秘密だ。
「なんで何も言って来ないのかと思って……」
「あぁ~……まぁ座れにゃ」
妊婦を立たせているワケにはいかないので、カフェインゼロのコーン茶を出して隣に座らせた。
「正直、アリーチェはわしたちにあれやこれや言われたくないにゃろ?」
「うん……」
「だからにゃ。お母さんが不安定だと、お腹の子に
「え……堕ろせって言わないの??」
わしの答えが意外だったのか、アリーチェは目を丸くした。
「それはアリーチェとオニタが話し合って決めることにゃ。わしたちができることは、どちらを選んでもいいように準備するだけにゃ」
「おじいさん……」
「それとにゃ。こにゃいだは、アリーチェの気持ちも考えずにイロイロ言って悪かったにゃ。ゴメンにゃ~」
「ううん。私のほうこそ、『この猫』なんて言ってごめんなさい」
「猫で合ってるにゃよ?」
お互い謝ることはできたが、変な言い回しのせいで微妙な空気に。アリーチェはオニタがいるから『この鬼』って表現も引っ掛かるらしい。
「それとなんだけど、みんな何をしてるの?」
あと、わしたちがコソコソやっていることも。
「さっき言った準備にゃ。形になったら全てをテーブルに乗せるから、その時までのお楽しみにゃ~」
「それって、オニタも知ってるの?」
「オニタは知らないにゃ。にゃんか言われたにゃ?」
「ううん。何度か聞いてみたけど、元気な赤ちゃん産んでくれとしか言わないから……」
「妻の味方になってくれてるにゃんて、デキた夫だにゃ~」
「アレは無理して言っているような……」
どうやらオニタは言葉とは裏腹に、顔には「堕ろせ」だとか「死んでほしくない」とか書いてるらしい……
「それはすまないにゃ。わしがアリーチェに寄り添うように言っておいたんにゃ。変な気を遣わせちゃったにゃ~」
「そっか……私を心配してるから、心にもないこと言ってたんだ」
「不器用で真っ直ぐなヤツなんにゃ。落ち着いて本心を聞くぐらいしてやってくれると、わしも嬉しいにゃ~」
「うん……ちゃんと話し合ってみる」
時間を置いたことでアリーチェも冷静に。この日はアリーチェの不安なことを聞きながら、夜が更けて行くのであった……
それから日々が過ぎ、さっちゃんがつまらなそうにするなかわしたちの準備が整ったので、ついにアリーチェと向き合って話をすることにした。
「まずはアリーチェとオニタの最終決定を聞いておこうかにゃ? アリーチェからどうぞにゃ~」
「私は……やっぱり産みたい。赤ちゃんを殺せない」
「俺は、アリーチェに死んでほしくない。でも、赤ちゃんも助けてほしい」
アリーチェとオニタは平行線だったのが、お互い赤ちゃんは大事との結論に至っていた。
「そんにゃお二方に、このスペシャルパックをご用意しましたにゃ~」
緊張した空気のなか、わしが資料を並べながらふざけた言い方をしたので、お母様方が順番にわしの頭をペシペシ叩いて通り過ぎた。ボケてすいません……
「「スペシャルパック??」」
「母子共に救える手段が見付かったんにゃ」
「じいちゃん! 本当か!?」
「ちょっ……落ち着けにゃ~」
オニタはわしの襟首を掴んでブンブン振り回すモノだから酔いそうだ。このままでは話ができないので、修羅の剣・肉球バージョンでオニタのアゴを打ち抜いて、疑似脳振盪にしてやった。
「ほ……本当? 私も助かるの??」
オニタが崩れ落ちると、アリーチェがおぼつかない足取りで寄って来た。
「うんにゃ。未来を確実に当てるシャーマンのお墨付きにゃから、必ず成功するにゃ」
「ウ、ウソ……」
「ウソだと言うにゃら、その目で見たらいいだけにゃ。明日、双子を授かった妊婦さんの手術をするから、立ち合うにゃ?」
「うん……うん……見る……うぅぅ……」
「まだ泣くのは早いにゃ~」
実験はまだ大詰めになったばかり。それでも助かる道を信じて涙するアリーチェ。わしたちはその気持ちを汲んで、1人1人ハグをして励ますのであった……
翌日、ソウ市にある地下簡易手術室では……
「では、妊婦の緊急帝王切開を開始するにゃ」
ワンヂェン先生による手術が始まった。
主治医はワンヂェン。補佐にリータとメイバイ。ナースはイサベレとベティ。オニタとアリーチェは手術室内にあるイスに座って、手を取り合って真剣に見ている。あと、関係ないノルンを頭に乗せたさっちゃんも。
その他には、猫大医学部の産婦人科の先生が2人。エルフ市とイスキア国の族長をご招待。後者の2人は、エルフでも双子の出産ができると証明するためだ。
練習を重ねた素早いワンヂェンのメス捌きで坦々と手術が進むなか、わしが何をしているかと言うと大事な仕事。コリスと一緒に魔力を妊婦さんに流し込んでいる。
これは、双子を助ける最後のピース。
オニヒメが出産して死にそうな時にこの魔法を使うことで命を繋ぐことができたので、出産の時にも当て嵌まるのではないかとアイデアを出したら、シャーマンもグッジョブってしてくれたのだ。
ただし、手術中だけではそれほど効果がなかったので、1ヶ月前からの処方となった。その頃からわしとコリスは交替で魔力を注入していたから、妊婦さんはパツンパツン。
3人分だから、できるだけ栄養を付けさせようと超高級肉を食べさせ、わしたちが魔力を注入したせいですんごい太っちゃったのだ。普通、双子を身籠もったエルフは出産までにガリガリになるらしいから、これでいいんじゃない?
それほど対策に対策を重ねたのだから、失敗しようがない。
「ベティ。2人目いくにゃよ?」
「任せて! お~よちよち」
「オギャーオギャー!」
「2人ともいい泣き声にゃ~。このまま閉じるからにゃ~?」
「「「「「にゃっ!」」」」」
その結果、赤ちゃんは早産にならないギリギリの38週目に産まれたから2人とも体重は軽いが、元気に生を受ける。ここで大喜びしてもよかったのだが、手術は終わるまでが手術。
アリーチェは
「うんにゃ。バイタルも問題なしにゃ。緊急帝王切開、無事成功にゃ~」
「「「「「おめでとうにゃ~~~」」」」」
「「オギャー! オギャー!!」」
「「「「「にゃはははは」」」」」
「「「「「あはははは」」」」」
ここで初めて大喜び。妊婦さんはまだ麻酔が効いていて目覚めていないが、手術の成功にわしたちは拍手で応え、赤ちゃんは泣き声で応えてくれるので、自然に笑いが漏れる一同であった……
それからエルフお母さんが目覚めたら、双子とご対面。涙ながらの対面となったので、わしたちも涙。旦那さんもいるよ?
エルフお母さんはパツンパツンから普通の体型に戻っていたから、それほどのエネルギーを消費したのではないかとわしたちはゴニョゴニョ。新しい施術なのだから、まだ気が抜けないからな。
経過観察でわしとワンヂェンとコリスは残ることになっていたけど、今日は全員ここで一泊。成功を祝って宴会をしていたが、赤ちゃんが寝たら解散だ。
わしの仕事はまだ残っていたので、疲れ果てて病室で寝ているエルフお母さんに魔力を注入し、朝になったらコリスと交代。
あくびをしながら別宅の居間に入ると、オニタとアリーチェが正座をして待っていた。
「じいちゃん! アリーチェと子供のこと、よろしくお願いします!!」
「おじいさん……お願いします!!」
その2人は手をついて懇願しているが、わしの答えは決まっている。
「はいにゃ~。ふにゃぁ~……」
でも、軽いしあくびまでしちゃったので、2人はポカン顔。温度差が酷いとリータたちにモフられて、そのまま就寝。徹夜でのモフモフは眠りを誘うもん。
目が覚めたのは、お昼過ぎ。さっちゃんの膝の上でモフられていた。
「あ、起きた」
「ふにゃ~……にゃ? さっちゃんだけにゃ??」
「うん。みんな赤ちゃんのお世話に行ったよ」
「そうにゃんだ~。お腹すいたんにゃけどにゃ~」
「それならテーブルの食べてろだって。はい、あ~ん」
「あ~ん。モグモグ」
さっちゃんはわしに餌付けするために残っていたっぽい。なので美味しくモグモグし、食事がなくなるとモフられた。
「それにしても、シラタマちゃんは凄いわね」
「にゃ~?」
「人の死ぬ運命まで変えちゃうんだもの」
「やめてくれにゃ。たまたま上手くいっただけにゃ」
「国民1人……3人か。そんな少数にまで国王が気に掛けてるってことも凄いのよ。どう考えても国王がやることじゃないけどね」
「最後の一言は必要にゃんでしょうか?」
さっちゃんが珍しくベタ褒めしてくれるので照れていたわしであったが、最後の一言で台無し。その後は褒めてもくれないしモフられるだけなので、まったく褒められた気がしないわしであった……
翌年、オニタ夫婦に元気な赤ちゃんが産まれる。もちろんわしたちの頑張りで、母子共に健康だ。
双子の性別は男の子と女の子。どちらも額には小さな突起物があるから、大きくなったらオニタかオニヒメに似ることだろう。
男の子の名前はグリゴリー。女の子はナディヂザ。どちらもオニヒメの親の名前から取ったらしい。オニタはオニヒメから、もしもいっぱい子供が産まれたら候補に入れてほしいと頼まれていたそうだ……
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