猫歴50年その3にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。笑っている場合ではない。


 アリーチェが双子を身籠もったと聞いて堕胎だたいを勧めてみたけど、聞く耳持たずで出て行ってしまった。オニタのことはコリスに任せたから、今頃ボコスカ殴り合っていると思われる。

 しかし何も解決していないので、わしとワンヂェンは2人のことを話し合っていた。


「その顔やめろにゃ~。そんにゃに年寄りをからかって面白いにゃ?」


 でも、真っ黒ババアがツボに入ったままだから、わしの顔はニヤケて……いや、これはたぶん通常の顔だ。鏡で確認したら、とぼけた顔のままだもん。


「こんにゃ顔で悪かったにゃ……」

「にゃ? 笑ってなかったんにゃ……」

「その顔やめろにゃ~~~」


 今度は顔を笑われたわしがオコ。だからワンヂェンは慌てて話を戻す。


「それよりどうするにゃ?」

「どうすると言われても、死生観が違いすぎるからにゃ~……まさか自分の死を喜ぶとは思ってなかったから、そこから変えて行くべきかにゃ~?」

「それだと時間が掛かりすぎにゃい? 赤ちゃんはお腹の中で刻一刻と育つんにゃよ??」

「だよにゃ~……」


 わしはお手上げって感じで頭の後ろで手を組み、ソファーに深くもたれて天井を見て考える。


「あ、そうにゃ。帝王切開したら、いけんじゃにゃい?」

「あ~……母体の生命力を赤ちゃんが吸い切る前に取り出しちゃうんにゃ……」

「それでいけるにゃら解決するんだけどにゃ~」

「うんにゃ。でもにゃ~……」

「にゃ~?」


 わしの案に頷いていたワンヂェンは、いきなり怒り出した。


「それ、にゃんで昨日言わないにゃ! その方法も調べてから言えば、アリーチェだってあんにゃに怒らなかったかもしれないにゃろ!?」

「にゃんでと言われても……昨日は堕ろす方向で話をしていたからわしも気付かなかったにゃ。そもそもこういうの、主治医が提案するモノじゃにゃい??」

「そんにゃ発想、ウチにないにゃ~~~!!」

「いや、やってくれにゃいと困るんにゃけど……」


 ワンヂェンは猫の国治療院のトップで経験豊富なんだから、わしの発言は正しい。しかし、第三世界の知識は途中から手に入れたのだからとわしのせいにするので、今日も「にゃ~にゃ~」ケンカ。

 廊下でオニタ夫婦のことを心配して盗み聞きしていたお母様方が乱入して、仲裁というかモフられたわしたちであった。



 それから皆で話し合ったら、ワンヂェンは早産のことを調べに猫大医学部に向かい、わしはひとまずアリーチェの元相方、マティルデに会いに来た。


「ちょっと助言がほしくてにゃ~……」


 斯く斯く云々と説明してみたら、マティルデはアリーチェと同じ意見のようだ。


「でもにゃ。ここはイスキア島じゃないにゃ。死ぬ必要はないんにゃよ? 今回子供を諦めても、次のチャンスがあるにゃ。その点を踏まえてはどうにゃ?」

「そう言われると……悩む。私もアリーチェに死んでほしくないし……」

「にゃろ~?」

「でも、アリーチェの気持ちもわかる。産む前に子供を殺す方法があるなんて初めて聞いたし……混乱すると思う」

「まぁいきなりこんなこと言われたら、お母さんの気持ちはそうなっちゃうよにゃ~……わしも理解してるつもりにゃ。そのことをアリーチェに伝えておいてくれにゃい? 同郷にゃら、少しは耳を傾けてくれるにゃろ」

「……わかった」


 ひとまずマティルデにはわしたちが心配していることを伝えてもらうことにして、わしはエルフ市に転移。そこの産婦人科にやって来た。

 エルフ市は、わしが野人を排除してから出産ラッシュになっていたから、その時双子はいなかったのかと聞きに来たらいなかったとのこと。しかし現在、双子を身籠もっている妊婦さんがいるらしい。


「にゃんで早く言わないんにゃ~。相談ぐらいしてくれにゃ~」


 そんな命の危機が迫っているとは知らなかったので、わしはおばちゃん部長を叱責。


「す、すみません。王様に報告するようなことだとは思いもよらなくて……」

「まぁ……そうだにゃ。いや、ヂーアイには言ったようにゃ……引き継ぎしてから死なないヂーアイが悪いんだにゃ。うんにゃ」


 確かに全国民の生き死になんて報告されたら膨大になるからわしも聞きたくない。ただ、怒った手前バツが悪いので、双子について質問したことのある前族長が悪いことにしておいた。死者に鞭打ってごめんなさい。


「てか、もう6ヶ月なんにゃろ? にゃんでそこまで放置していたにゃ??」

「レントゲン魔法でしたか……育成のために新人にやらせたから見落としてしまいました。それで最近お腹の大きさに違和感を覚えたらしく、またレントゲン魔法を使ったら……」

「2人いたんにゃ……てか、もっと定期的に見るとか決めてにゃいの? そしたらミスを防げたはずにゃ」

「はい。特には……猫医大でもそんなこと習ったことがないので……」

「にゃるほど。医大にも問題があるにゃ。この件、持ち帰らせてもらうにゃ。あ、妊婦さんには会わせてくれにゃ~」


 医療ミスかと思ったが、制度が整っていなかったことが悪いので部長は怒れない。これは国の、ひいては首相が悪いからだ。わしはノータッチだから許して。


 ひとまず妊婦さんに会いに行ったら、ここまでお腹が大きくなってしまっているから産みたいとのこと。自分の命は諦めていた。

 そこでわしはふたつの案を提案。いまからでもお腹を開いて堕胎するか、少し早い帝王切開で両方の命が助かることに賭けるか。

 妊婦さんはまだ違う方法があるのかと驚き、悩みに悩み出したので、「1人で抱えず夫や親兄弟とも相談してから決めたらいい」と言ってわしは立ち去るのであった。



「ワンヂェ~ン。どうにゃ~?」


 エルフ市から帰ったわしは、ワンヂェンの居場所を聞いたら自室にいると聞いたので笑顔でドアを開けた。


「ウチが必死に考えてるのに、そのふざけた顔はなんにゃ! 命が懸かってるんにゃよ!!」


 でも、怒鳴られたので、わしはシュン。ふざけた顔で生まれてすいません……


「まぁまぁ。ちょっと聞いてくれにゃ~」


 気を取り直して、エルフ市にちょうどいい妊婦さんがいると教えてあげたらワンヂェンも怒りを収めてくれた。


「それって実験に使うってことにゃ?」

「言い方は悪いけど、結果から言うとそうなるにゃ。でも、わしは誰の命も諦めるつもりはないにゃ。だからワンヂェン……一緒に戦ってくれにゃい?」

「うんにゃ! シラタマがその気になってくれたら百人力にゃ~!!」


 人体実験に少し引っ掛かっていたワンヂェンだが、わしの決意の目を見て希望に満ち溢れる。それから何故か猫耳族を引き連れて戦ったことの話になり、昔を懐かしむわしたちであった……


「あ、そうにゃ。妊婦の定期検診をしたいから、医大と政府に言っておいてくれにゃい?」

「それはシラタマの仕事にゃろ! ウチは忙しいにゃ!!」

「そんにゃ~~~」


 ついでに仕事を押し付けようと思ったら、ワンヂェンに拒否られて自分でするしかないのであったとさ。



 妊婦の定期検診の件は、首相に押し付けたら解決。出生率が上がれば税収も自然と増えると説明したら、いい笑顔をしていたからなんとかしてくれると信じている。

 これで今日の仕事は終了。もう夜になっていたのでごはんを食べたら、オニタだけをわしの仕事部屋に呼び出した。


「ボロボロだにゃ……アリーチェにやられたにゃ?」

「コリス婆ちゃんにやられた」


 どうやら本当にコリスと真っ正面から殴り合いをしていたから、オニタはこんな顔に。いちおうフラストレーションは発散したみたいだから、まぁいっか。治してあげるね。


「それでにゃんだけど……オニタって秘密を守るの得意なほうにゃっけ?」

「どちらかと言うと苦手だ!」

「自信満々で言うことでもにゃいんだけど……」


 今日知り得た可能性を教えてあげようと思ったけど、アリーチェに下手な伝え方をされると困るので質問したら、この始末。秘密を暴露して、サクラとインホワを激怒させたことがあるらしいから、細かいことは言わないほうがよさそうだ。


「とりあえずわしたちは、みんにゃが幸せになれる方法を模索しているにゃ。だから心配するにゃ。必ずいい結果にしてやるからにゃ?」

「じいちゃんがそう言うなら、俺は信じる!」

「にゃはは。ありがとにゃ。あとはアリーチェのことにゃんだけど……にゃんか喋ったりしたにゃ?」

「いや……アリーは寝室から出て来ないんだ」

「にゃるほど。いまはウソでもアリーチェの味方になってやれにゃ。そして寄り添ってやれにゃ。それが夫婦というモノにゃ」

「産むことを賛成したらいいのか……わかった!」

「バレるにゃよ~~~??」


 オニタは勢いよく出て行ったけど、大丈夫かな~? その心配をしていたら、さっちゃんが難しい顔して許可無く入って来た。


「オニタ君、正に鬼の形相で歩いていたけど大丈夫?」

「どうだろうにゃ」


 そして許可無くわしの対面に座りやがった。


「なんか大変なことになってるみたいだけど……相談乗ろっか? 愚痴でも聞くよ?」

「さっちゃんがにゃ~~~?」

「こう見えて、猫の国より大きな国の君主してたから得意なのよ。てか、見えないでしょ?」

「にゃはは。自分で言うにゃよ~」

「あはは。それで何があったの?」


 珍しくさっちゃんが大人な対応をしているものだから、わしもついつい今日の出来事を口にしてしまうのであった……


「へ~……女性ならではの悩みね。でも、もう解決策が見えてるなら、私の出番はなさそうね」

「上手くいくかは神のみぞ知るだけどにゃ」

「うんうん。それと妊婦の定期検診はいいわね~。娘に教えてあげよっと」

「にゃ……」


 さっちゃんがあまりにも聞き上手だったので、わしは絶句。


「どうしたの? とぼけた顔して」


 でも、見えないらしい……


「わしのアイデアを盗むことが目的だったにゃ!?」

「やだな~。シラタマちゃんがペラペラ喋っただけじゃな~い。私、何も聞いてないも~ん」

「してやられたにゃ~~~!!」

「オ~ホッホッホッホッ~」


 情報漏洩は王様の口から直に。定期検診で猫の国に利益をもたらせたのに、さっちゃんに横取りされたわしであったとさ。



 さっちゃんの笑い方がムカつくが、いまは忙しい身。毎日ワンヂェンや妻たちとイロイロ話し合い、アリーチェを助けるすべを模索する毎日。

 ある程度形になったところで、わしはリータとメイバイを引き連れてキカプー市にやって来た。これからシャーマンにアリーチェの命運を聞くから、1人で行くのが怖かったの。


「やってるにゃ~?」

「「「にゃっ!?」」」


 町外れにある占いの館に入ったら、パンパンとクラッカーが鳴り響き、ミラーボールが部屋中を照らしたのでわしたちは同時に驚いた。


「ようこそシラタマ王! やっと私の出番ですね!!」

「「「派手すぎるにゃ~」」」


 そこには、金ピカの衣装をまとったシャーマンのお婆ちゃん。わしが一向に頼らないから、死ぬ前にやっと出番が来たとテンションが上がってこんな出迎えの仕方をしたっぽい。訪ねる日時も占いで完全に当てたな。


「アリーチェさんのことですね!」

「う、うんにゃ。でも、その前にこの写真の人を占ってくれにゃい? 名前は……」

「……へ??」


 でも、来た理由は微妙にハズレ。わしが関わるとやはり成功確率が下がるみたいだ。おかげでテンションが下がったから、助かった。


「えっとですね……助かるかもしれないし、助からないかもしれない……」

「どっちにゃ??」

「アリーチェさんにしてくれません? 彼女、死にますから」

「わしはこの妊婦さんのことを聞いてるんにゃ~~~!!」

「何故か未来がいっぱい分かれてるんですも~~~ん!!」


 占いは当たるも八卦当たらぬも八卦。アリーチェのことは前もって調べていたシャーマンは聞きたくないことを言うので、わしがキレてシャーマンは逆ギレするのであったとさ。

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