猫歴47年その3にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。お見合いおじさんではない。


 息子たちのお見合いは相手選びで難航している間、東の国から娘たちのお見合い写真が大量に届いていたので、わしも仕分けに参加している。


「こいつはダメにゃ。こいつは顔が気にくわないにゃ。こいつは女癖悪そうにゃ。このツルッパゲのオッサンは殺すにゃ~」

「「「「パパが見たら全部ダメになるにゃ~」」」」


 でも、追い出されそうになった。そりゃかわいいかわいい娘の旦那になる男なんじゃから慎重になるじゃろ? 殺すは言い過ぎました。

 なんとか床に張り付いて部屋に居座ったら、ニナが大量のお見合い写真をわしの目の前に「ドスンッ」と置いた。


「見ていいにゃ?」

「うんにゃ。たぶんパパたち用にゃ~」

「にゃんですと??」


 さっちゃんは気を遣ってというか、わしの血を東の国に取り込みたいのか、美人さんのお見合い相手までピックアップしてくれていたみたい。だけど、一番上は、どう見てもさっちゃんの若い頃の写真。偽名でもわかるわ!

 というわけで、ここは若い子に任せてわしは東の国に苦情。いつも通り執務室に勝手に入って、さっちゃんの目の前にお見合い写真を置いてやった。


「これはにゃんですか?」

「もうバレた!? てへ」

「にゃん年の付き合いだと思ってんるにゃ~~~」


 さっちゃん御年58歳はマジでバレないと思っていたらしく、てへぺろしてる。それが腹が立ったので、近くにいた宰相さんやメイドウサギにお見合い写真を見せて恥を掻かせてやった。

 それでケンカになり、仕事も手に付かなくなったので、その他は追い出してティータイムとなった。


「てか、東の国にもこんにゃに未婚の貴族がいるんだにゃ~」

「ええ。私もビックリよ。昔はもっと早く結婚していたのに、いったい何が変わったんだろ?」

「う~ん……娯楽かもにゃ。映画やアニメ、音楽に舞台。楽しいことが増えたから、異性と接する機会が減ったのかもにゃ~」

「それって……前に第三世界で説明してくれた少子化ってヤツ?」

「まだそこまでじゃないにゃろ。でも、追々出て来る問題にゃから、考えていかないとにゃ~」

「うっわ……面倒くさそう。頑張ってね。プププ」


 さっちゃんが他人事みたいに笑うので、わしは腹が立つ。


「さっちゃんも関係ある話にゃろ~」

「関係ありませ~ん」

「にゃ~??」

「来年で退位するのよ」

「……マジにゃ??」

「マジでマジで」

「……」


 さっちゃんが茶化して言っても、わしは笑えない。絶句だ。


「どうしたの?」

「にゃんて言うか……あんにゃにちっさかったさっちゃんが、もうそんにゃ歳にゃのかと、月日が流れるのは早いにゃ~っと思ってにゃ」

「なに言ってるのよ。私の顔見なさい。お婆ちゃんよ?」

「わしにはまだまだ若く見えるにゃ。わしがその歳の頃にゃんて、もうくたくたにくたびれていたにゃ~」

「ウフフ。嬉しいこと言ってくれるのね。でも、もう決めたことだから。やっと肩の荷が下ろせるわ~」


 この言葉で、わしに笑顔が戻る。


「なにニヤニヤしてるの?」

「いや~。ペトさんも同じこと言ってたから、やっぱり親子だと思ってにゃ~」

「お母様が? 私の前ではそんなこと一言も言ったことないのに……」

「強がってたんにゃろ。さっちゃんだって、娘にはそんな弱いところ見せてないにゃろ?」

「うん。たぶん……いえ……アレは……大丈夫?」

「自信ないんにゃ……」


 さっちゃんはペトロニーヌほど自分を律していなかったから、弱気の姿を見られている可能性大。それでなくともわしと絡むとすぐ地が出てしまうから、情けないところなんて多々見せていたはずだ。


「シラタマちゃんのせいだ……」

「人のせいにしにゃいでくれにゃい??」


 なので、さっちゃんはわしのせいにして、めっちゃモフられたのであったとさ。



 さっちゃんの女王退位は、まだ数人しか知らないトップシークレットなので「絶対に言うな」と脅されたけど、だったら言うなよ。

 わしは口が固いほうなのでリータたちにも言わなかったのに、ある日さっちゃんが「どこからか漏れた!」と怒鳴り込んで来たのでバレたじゃろ……犯人はさっちゃんじゃね?


 まぁそれは置いておいて、子供たちの婚活具合は意外や意外、結婚に縁遠そうだったギョクロとナツが早くにパートナーが決まった。それも、お見合いは関係なく大学の同僚が立候補したのだ。

 顔合わせの時に馴れ初めを聞いてみたら、同僚は前から好きだったけど告白できなかったから、お見合いしたと聞いて焦ったらしく、毎日口説き落としに掛かったみたいだ。


 2人も話の合わないお見合い相手よりは、同僚のほうが話をしていて楽しいので、結婚を前提に付き合うことにしたそうだ。

 ちなみに種族は、どちらも年下の猫耳族。毛並みに惚れたらしい……ワンヂェンとたいしてかわらないのに……


 続いては、インホワ。悩みに悩んで、人族で巨乳の若い子を選んでいた。わしも話をしてみたけど、めっちゃかわいいと思うけど、バカッぽい。わしとインホワの違いもわからないし……

 お母様方の受けも悪かったが、前回インホワに悪いことをしたので口を出さないようにしている。わしをインホワと間違えて巨乳で挟んだ時は怒っていたけどね。


 東の国の貴族とお見合いをしていたニナたちはというと、いまいち上手くいっていない。顔は好みなんだけど、話が合わないんだとか。

 ニナとシラツユは「これなら彼氏と結婚したほうがいい」とか言っていたから、ノリでやっていたみたいだ。こないだその彼氏を連れて来た時にわしがお見合いの話をポロッとしたので、めっちゃ怒られた。

 だって、娘には相応しくないと思っちゃったんだもん。ニナの彼氏は特に。ヒモになりそうだし……エミリとベティも反対してたよ?


 キアラは彼氏がいないので、お見合いは継続。なんだか相手のイケメンにコスプレさせて引かせているから、結婚できるか不安だ。それが目的になりつつあるかも?



 ここで一番の問題児は、結婚に意欲的だったオニタ。なかなかオニヒメ似の女性は現れないし、お見合いの席では相手を怖がらせることが多い。

 さらにここへ来て新たな条件を出すので、お見合い希望者がゼロになってしまった。


「オニタより長生きなの、獣しかいないにゃ~」

「獣はちっが~う!」

「床を殴ろうとするにゃ~」


 そう。オニヒメが早く逝ったから、自分より長生きの人間を希望したのだ。しかし、そんな人間はエルフ族しかいないのだが、エルフ族は野人そっくりのオニタの顔も見たくないと拒否されてしまった。

 一度リンリーとばったり会った時には、オニタは殺されそうになったので、まだ恨みは残っているみたいだ。その時は、すぐにわしが駆け付けました。


「あ、そうにゃ。キアラはどうにゃ? 白髪はオニヒメの若い頃と似てるし、血の繋がりはにゃいから結婚しても大丈夫にゃよ?」

「もっと小さいほうがいい」

「はあ? オニ兄なんて、オーガのコスプレしかできないからこっちから願い下げですぅぅ」

「ケンカするにゃよ~」


 キアラは背が高めだがオニタは2メートルオーバーなので、ちょうどいい相手が近くにいたと思ったけど、どちらも険悪になったので次に。東の国のお城にオニタを連れて行き、訓練所で騎士をしごいていたシリエージョと会わせてみた。


「ほら? キアラより背が低いにゃよ~?」

「パパ……何しに来たの?」

「オニタの結婚相手を探してるんにゃ~」

「へ~……私より強いんだ。ちょっと相手してあげるわ」

「て、手加減してあげてにゃ~~~」


 シリエージョを頼ったのは失敗。オニタが殺されそうになったので、わしが割って入った。そういえばシリエージョのタイプは、自分より強い人だったな。


「もっと小さいほうがいい」

「そっちが振るって、まだ痛め付けられたいのかな~??」

「オニタ! 謝るんにゃ!!」

「うおおぉぉ~~~!!」

「勝てないのに向かって行くにゃよ~」


 第2ラウンドに突入。もちろんオニタが殺されそうになりましたよ。手加減をしらんのか……バトルジャンキーは似てるから、いい夫婦になれそうなんじゃけどな~。



 シリエージョにボコボコにされたオニタを担いで家に帰ったら、このままでは結婚できないとオニタが泣き出したので、キャットタワーが壊されないように宥め、翌日、最後の砦に連れて来た。


「ここにゃらオニヒメ似の人がいるかもにゃ~」

「うおおぉぉ!」

「一旦落ち着こうにゃ。にゃ?」


 最後の砦とは、ハイエルフが住まうイスキア国。猫の国入りの交渉は決裂したというか、こいつらは時間の感覚が違い過ぎるし労働意欲が皆無だったので、他の国民と同じ扱いができないから不安があった。

 昔、留学生を2人連れ帰ったけど、ぜんぜん勉強しないし働かなかったんだよ? だから2ヵ月ぐらいで追い返したの。借金も泣き寝入りだ。

 なので、いまは国として扱い、超美味しい白ブドウの貿易をさせながら労働意欲が上がらないか試している最中だ。


 貿易で得たお金でテレビ等を数台売ったら、ハイエルフはテレビの前に集まって24時間その前から動かなくなったし……魔力量が多すぎる土地だから数日食べなくてもいいんだってさ。

 ちなみにハイエルフは玉藻や家康も欲しがっていたが、猫の国の属国扱いにしているので手が出せず。怠惰の極みと説明したら「頑張ってね」って言われた。意識改革してからなら欲しいらしい……


 ハイエルフは白髪の若い女性ばかりなので、オニタもアゲアゲ。若いかどうかは、死んでからじゃないとわからないけど……だってカレンダーとかないから、誰も年齢わからないんじゃもん。

 しかしそんな鬼のような形相では女性から引かれるので、どうどうと落ち着かせてから、おさであるお爺さんみたいなお婆さん、ニコーレの家を訪ねる。


「はあ……その男に嫁をか……」

「うんにゃ。できるだけ若い子を紹介してほしいんにゃけど、ダメかにゃ?」

「ダメというわけではないんじゃが……」

「にゃんか問題あるにゃ?」

わしとしてはどちらかというと……」


 どうやらハイエルフ族は、男の出生率が極めて低いそうだ。割合でいうと5分の1で女性だらけ。なので、男性は複数の女性と関係を持つ重要な役割があるから、ニコーレはオニタが欲しいみたいだ。


「にゃるほどにゃ~。どうりで女ばかりだと思っていたんにゃ」

「外では違うのか?」

「だいたい半分ぐらいの割合にゃ」

「そんなにもいるのか……」

「ちにゃみにここでは結婚とかいう制度はあるのかにゃ?」

「うむ。同性婚が多いんじゃ」

「にゃるほどにゃ~」


 百合の花園を汚すのはキアラが怒りそうだけど、まぁいっか。


「うちの男とお見合いでもしてるにゃ? そっちが乗り気だったらにゃけど」

「それはいいな。子種だけでもいただけると、こちらとしてはありがたい」

「それじゃあ、お互いどうして行くか話し合おうにゃ~」

「じいちゃん! 俺の相手は!!」

「あ……にゃはは。先にオニタに見繕ってやってにゃ~」


 オニタの相手を探しに来たのに集団お見合いの話になっていたので、怒られちゃった。ここはオニタを優先して、ニコーレと一緒にオニヒメ似の女性を探すのであった。



 オニタが鬼の形相で嫁探しをするなか、ハイエルフたちはそこまで怖がっていない。どちらかというと舌舐めずりしているから、オニタの子種を狙っているように見える。ハイエルフじゃなくて、ハイエロフだったのかも……

 そんなハイエルフは、わしには興味なし。いや、愛玩動物としてはチヤホヤしてくれるのだが、男として見てくれないのだ。猫じゃもん。わしだって、こんな美人の異人さんが半裸で手招きしていたら反応しちゃうんじゃけど……


 真剣に嫁探しをしているオニタは、言い寄る女性たちを吟味して追い払っている。背丈で弾き、老け具合で弾き、妖艶ようえんな見た目でも弾き、ようやく同年代らしき若い頃のオニヒメに激似の女性、アリーチェと巡り会った。


「俺と結婚してくれ!」

「私にはお姉様がいるから間に合ってるの」

「そこをなんとか!!」

「イヤ」


 けど、パートナーがいるらしいので、瞬殺だ。それでもここまで好みの女性はいないので、オニタは諦め切れずに押せ押せ。土下座までして懇願している。


「うるさいわね……どうしてもと言うのなら、お姉様に勝ったら考えてあげるわ」

「ありがとう!!」


 アリーチェは折れたように見えるが、どう見ても断る口実。その後ろには、強そうな背の高くて細いマティルデという名の女性が立っているから、オニタを負かして追い返そうとしているのだ。


「グッ……まだまだ~~~!!」


 もちろん、実力もオニタより上。それでもオニタは必死に立ち上がり、何度もボコボコにされて転がされるのであった……

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