猫歴47年その4にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。お見合いしに来たのに、なんでケンカになったんじゃろ?
オニタ好みの女性に出会ったのはのはよかったのだが、そのアリーチェにはマティルデのという妻帯者がいたけど、オニタは諦め切れず。
何度も土下座していたら、アリーチェはマティルデをけしかけて「勝ったら結婚してくれる」とか言っちゃったので、あら大変。オニタも真に受けちゃったので、自分より強いマティルデに何度もぶつかって転がされている。
「ホント、しつこいヤツ……降参しないと死ぬよ?」
「引け~~~ん!!」
オニタが1時間近くも粘るなか、周りで見ているハイエルフからクスクスと笑いが起こっている。ハイエルフの目には、オニタの姿が無様に見えるらしい。
「もういいよ。殺して」
「そうね。弱いヤツにアリーチェはやれないよ!」
そこに、アリーチェの無慈悲な命令。その命令にマティルデが応え、もう立っているのが不思議なくらいのオニタを殴り殺そうとした。
「なっ……」
そんなことをわしがさせるわけがない。素早く割って入り、マティルデの拳は優しく受け止めてオニタを守った。
「何をした!?」
普通これほどの攻撃なら、大きな衝突音や衝撃波が発生してもおかしくないので周りは手加減したと思っているが、殴った本人はわしの異常さに驚いている。
これは、わしの新魔法【吸収魔法・肉球】の効果。圧縮した吸収魔法がマティルデの拳を優しく受け止めて、全ての力を霧散させて吸収したからピタリと止まったのだ。形は見えないけど、肉球みたいになっているからの命名です。
そんなマティルデに親切に教えてあげる必要はないので、わしは無視して問い掛ける。
「確かにオニタの姿はみっともなく無様に見えただろうにゃ。でもにゃ、これが恋にゃ。愛の力にゃ。お前たちは、オニタのように勝てない敵に単身で向かうことはできるにゃ?」
「フフ……だからなに? 勝てなきゃ逃げたらいいだけじゃない。あなたも手加減された拳を止めただけで、粋がらないでくれない?」
わしの問いにアリーチェが
「わしの孫の頑張りを笑うにゃ! 笑ったヤツ、全員かかってこいにゃ~~~!!」
【単鬼猫】発動……説明しよう。【単鬼猫】とはわしが短気とかではなく、大量の魔力を消費することでおでこからアホ毛が立つ現象。もちろんただのアホ毛ではなく、角のように見えるし、わしの強さを2乗にしてくれるのだ。
わしはただでさえ最強の猫なのに、強さを隠す隠蔽魔法を解いてそんなチート能力を使ったからには、ハイエルフ族はガクブル。全員、腰を抜かしてその場で動けなくなってしまった。
「誰もいないようだにゃ……だったらオニタに謝罪しろにゃ」
「「「「「は、はは~……申し訳ありませんでした~」」」」」
「いや、わしじゃなくてにゃ?」
「「「「「はは~」」」」」
ただし、わしが強すぎたので、ハイエルフ族はわしに土下座しっぱなしだったのであったとさ。
ちょっとやらかしてしまったので、わしの覇気を浴びて気絶してしまったオニタを治療したら、担いで
そこで緊張しているニコーレにはお茶やお菓子を出して、世間話をしている。
「シラタマ殿は、そんなにお強かったのじゃな……」
「にゃ? 知らなかったにゃ??」
「うむ。お連れの方が戦っている横で治療しかしていなかったから、戦えないと思っていた」
「そういえばここで戦ったことなかったにゃ~。ま、わしは仲間と違って平和主義者ってだけにゃ。さっきのは、孫の頑張りをバカにされたから怒ってしまったんにゃ。怖がらせて悪かったにゃ~」
わしが頭を下げると、ニコーレは慌てて謝罪の言葉を繰り返していたので、今回の件は痛み分けってことでやり取りを終えた。
「ところでにゃんだけど、ちょっとお願いしていいかにゃ?」
「なんなりと」
「そこの2人、猫の国に連れ帰っていいかにゃ?」
さっきオニタをボコったアリーチェとマティルデがチラチラと窓から見切れていたから、わしが指差したらニコーレが怒りながら呼び込んでくれた。
「どうぞどうぞ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「「クッ……殺せ……」」
「そんにゃことしないにゃ~」
ニコーレの言葉にアリーチェたちは獣に犯される女騎士みたいになっている。そんなにわしが怖いのか?
「もう怒ってないから安心してくれにゃ。妻帯者の2人の仲を裂こうとしたオニタが完全に悪いんだからにゃ」
「じゃあ、なんで私たちを
「攫うと言われると語弊があるんにゃけど……わしは孫に甘くてにゃ~。チャンスをあげたいんにゃ。1年にゃ。1年だけでいいから、猫の国に来てオニタを見ていてくれにゃ」
「……見るだけ?」
「うんにゃ。あわよくば、オニタとくっついてくれるのを期待してるけどにゃ。無理にゃら帰ってくれて構わないにゃ。あ、そっちの子には悪いことをするから、どういう結果になろうとも補償はするにゃ。これでどうかにゃ?」
「それなら……気持ちは変わらないと思うし」
「私も変わらないから行ってもいい」
「ありがとにゃ~~~」
2人は嫌々だが了承してくれたので、わしは感謝の握手。構えていた2人の手を先の先で取ったから、かなり驚かれてしまった。化け物じゃないよ~?
ちなみにオニヒメそっくりのアリーチェならこれまでにいることを気付いてもおかしくないと思って質問してみたら、わしたちが来た日はたまたまいつも温泉でマティルデとイチャイチャしてたんだって。
とりあえず交渉は成立したのでいつ旅立つのかと聞いたらいますぐでもいいらしいので、荷物だけを取りに行かせたらあまり持ち物はなし。と思ったけど、これが全財産らしい。だからすぐに行けるみたいだ。
それならば何も問題ないのでわしはオニタを担いで、アリーチェとマティルデと共に三ツ鳥居を潜るのであった。
「「「「「オニヒメちゃん……」」」」」
キャットタワーの王族居住区にアリーチェたちを連れ込んだら、猫ファミリーは鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔をしている。
「似てるけど、イスキア島にいた子にゃ。今日から一緒に住むことになったにゃ~。お春、空き部屋に案内してやってくれにゃ。あと……」
「は、はい」
お春には小声で「無駄なことを言うな。オニタのため」と耳打ちしておいたので、いいように案内してくれるだろう。その3人がエレベーターに向かうと、猫ファミリー全員を食堂に集めて話をする。
「なるほどです……オニタ君があの子と結婚できるようにアシストするのですね」
「そしてあの背の高い子にも、他のパートナーを見付けるんニャー」
「そうにゃ。ちょっと卑怯にゃけど、オニタのために協力してくれにゃ~」
「「「「「わかったにゃ~」」」」」
こうしてわしたち猫ファミリーは一丸となって、オニタが結婚できるようにあの手この手でアリーチェとマティルデの仲を引き裂くのであった……
「フッフッフッ……にゃかにゃかいい雰囲気になって来たんじゃにゃ~い?」
半年後には、オニタとアリーチェの仲は急接近。これはわしの策略が功を奏し、恋仲の一歩手前まで来たのでほくそ笑んでいるのだ。
「なに言ってんのよ。あんたが出した案なんて、成金手法じゃない」
「ホント。ほとんど私とベティお姉さんの案でしょ」
いや、ベティとキアラのおかげです。わしの策略は、プレゼント攻撃だけ。ハイエルフ族は孤立していたから、うまい物や綺麗な服や花をプレゼントしたらコロッと落ちると、わしはオニタにやらそうと言ったのだ。
しかし、ベティとキアラが「そんなので落ちるか!」と異を唱えて、わしの策略を魔改造。
プレゼントは毎日しても効果が薄くなるから、効果的な日に。うまい物は、5日に1回ぐらいの割合でキャットタワーの個室を使って、高級ホテルのような特別感を醸し出した。
一番厄介な配偶者のマティルデには、イサベレを加えた3人で沼に引きずり込んでいた。ドラマや怪しい本で男の良さを教え込み、最終的にはBLマンガに嵌まらせたらしい……
なんだったらキアラと一緒に男装して、コスプレの世界にも引き込んでいたから、底無し沼に落ちて行ったのだ。ただし、なんだか最近、キアラとマティルデの雰囲気が怪しいんじゃけど……
いまはオニタのことに集中してそのことは触れられないけど、少女マンガ大好きベティと、マニアックな趣味全開のキアラのおかげで、ここまで来たから感謝しかない。
いちおうわしもその他では頑張ったんじゃよ? オニタをしごいて、マティルデに勝てるだけの実力を身に付けさせたもん。
ただ、実力差が3倍近くあったから、普通にやっては何年かかるかわからない。なのでズル。
オニタは【吸収魔法・球】が使えるので、これを伸ばして防御力の底上げ。プラス、全魔力を使った【
これでも5回に1回勝てるかどうかだが、最初の1回は確実に勝てると踏んで、その決闘日にアリーチェを呼んでオニタがギリギリ勝つ姿を見せてやったのだ。
アリーチェは、勝者のオニタか敗者のマティルデ、どちらに駆け寄ろうか迷っていたから、わしの策略の勝利とも言える。
「フッフッフッ……」
「だからね。その迷いはあたしたちが頑張ったからなの。なんでわからないの?」
「パパ、バカなの? 私がマティルデさんとイチャイチャしてるところを見せていたから、好意が分散しただけだよ」
「イチャイチャしてたにゃ!?」
またわしが勝ち誇っていたら、ベティにツッコまれたけど、それよりもキアラがその道に行かないか心配になるわしであった……
「じいちゃん……俺たち結婚する!」
「「「「「おめでとうにゃ~~~」」」」」
さらに月日が流れて12月になると、オニタはついにアリーチェとゴールイン。わしたちは、諸手を上げて祝福するのであった……
「私たち、付き合い出したんだ~。祝福してくれる?」
「「「「「にゃんですと!?」」」」」
しかしキアラがマティルデの毒牙にかかっていたのか、はたまた口説き落としたのか付き合っていると聞いて、素直に喜べないわしたちであったとさ。
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