猫歴47年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。営業マンでも選挙スタッフでもない。


 猫歴46年は、わしの子供第三陣の大学入学や猫パーティ入り、紙幣の開始、パソコンやスマホの販売、首相交代の国政選挙という大イベントが重なったので、わしの目には時代が一気に動いたように見えた。どうなって行くんじゃろ?


 パソコンやスマホの販売を開始してから月日が流れ、猫歴47年ともなると外で電話をする人が増えて来て、民は何をしているのかと気になり始めていた。

 パソコンショップにも来店する人が増えたようだけど、スマホの値段に驚いて帰る人ばかりらしい。購入者は、お金持ちと会社や公的機関ぐらい。それも事務処理のためにパソコンを買う人が多いそうだ。


 こんなにわしが情報通なのは、王様だから。と言いたいところだが、営業して大口契約を取って来たので、何故か社長が報告してくれるようになったから。わしが出資者ってのは、仕事が増えそうだから秘密だ。


 エースとか呼ばれても、もう営業しないよ? 自分たちで飛び込み営業して来いよ!!



 社長のスカウトは押し返し、首相を引退したセンジと旅行。まずは中国横断旅行に連れて行こうとしたら、センジ家族から引かれた。


「死亡した場合は自己責任って、どういうことですか?」

「飛行機使うから念の為にゃ。いまで20回ぐらい墜落してるからにゃ」

「きききき、聞いてないですよ!?」

「安全航行するから大丈夫にゃって~」

「殺されるぅぅ~~~……」


 誓約書と遺書を書かせたからだ。無理矢理乗せようとしたらセンジ家族から抵抗されたけど、全員積み込んで出発。もちろん事故なく旅行は終えたよ?

 ちなみに飛行機の移動は本当に危険なので、戦闘機と大きめの飛行機の2台で航行。戦闘機には機長のわしと操縦士のベティが乗り込み、もしも鳥との戦闘になったら戦うつもりだった。

 飛行機は操縦できる者がコリスしかいないので、センジたちがめっちゃ不安そうな顔をしてたんだって。リータやメイバイが乗り込んでるんだから、そんなに心配しなくていいのに。アクロバット飛行が得意なの、誰かに聞いたのかな?


 とりあえず中国横断はセンジ家族も満足して終えたけど、次回からは三ツ鳥居で行けるところがいいんだって。飛行機は怖いみたいだ。

 なので、隔週ぐらいでわしたち猫ファミリーが世界旅行に付き合うことになったとさ。



 センジの世界旅行はわしたち猫ファミリーもなかなか楽しめるけど、両家の子供たちは別の仕事がある者もいるので、毎回違うメンバーで続けていたら、日々は過ぎる。

 そうしてポッカリ空いた時間に、わしは三代目首相のユーハンをキャットタワーに呼び出した。


「な、何か御用でしょうか?」

「そう緊張するにゃ。近況を聞くだけにゃ~」


 ユーハン首相はわしを神かってぐらいに敬意を払いっぱなしなので、食事をしながら世間話から始め、緊張が解けた頃に切り出す。


「パソコンを導入してけっこう経つにゃろ? 使い心地はどうにゃ??」

「あ、はい。パソコンはいいですね。国民の管理が格段に楽になったと聞いています」

「にゃろ? 政府回線を使ってるから、ハッキングの心配もないからにゃ~」

「ハッキング……なんですかそれ??」

「あ~……そのへんも講習が必要かもにゃ~。ま、いまは大丈夫にゃから、追々説明するにゃ。今日呼び出したのは、裏猫会議ってのをしようと思ってにゃ。センジともやってたから、悪いモノじゃないからにゃ」


 裏猫会議は、ユーハン首相も初耳だったので構えたが、わしがちょっと助言するだけと聞いて「助かります~」とすぐに受け入れていた。


「パソコンを使うってことは、紙の使用量が減るってことにゃ。つまり、コストダウンができるから、パソコンや近々発売するキャットタブレットってのが増えたら、ペーパーレスにゃんかを考えてほしいんにゃ」

「確かに! 勉強になります~」

「他にもこのキャットフォーンを使って、お金のデジタル化にゃんかもできるにゃ。ちょっと難しい舵取りになるかもしれにゃいから、パソコン関連は勉強したり、新しい部署を作ったほうがいいだろうにゃ~」

「はっ! 猫陛下の仰せのままに!!」

「いや、イエスマンにはなるにゃよ~」


 わしの助言は的確だと思うけど、センジでも議論してくれたので、猫耳族が首相をやるのは少し心配だ。何度も「イエスマンになるな」と注意しながら、裏猫会議は進むのであった……



 裏猫会議で喋ることは喋って全て了承されてしまったら、わしは「相談がある」と言って、ユーハン首相をエレベーターに乗せる。そうしてやって来たのは、キャットタワーの地下にある空き部屋。そのドアの前で、相談の内容を語る。


「紙幣に変わっておよそ1年で、8割方、金貨とかの交換は終わってるにゃろ?」

「はい。さすが猫陛下。情報通ですね」

「新聞にも載ってるから褒めることでもないにゃ。んで、わしが金貨をけっこう貯め込んでいてにゃ~。混乱しないように、今まで待ってたんにゃ」

「あ、そういうことでしたか。お気遣い感謝します。いまならいくらでも、私が交換に応じますのでご心配なさらずに」

「それは頼もしいにゃ~。それじゃあこの部屋にあるの、全部お願いにゃ~」


 ユーハン首相が自信満々に胸を叩くので、わしもお言葉に甘えてドアをバーンッと開けた。


「へ? これ、全部ですか??」

「うんにゃ。だいたい猫の国の国家予算ぐらいあるかにゃ~?」


 部屋の中には、金貨が山盛り。このお金は、定期的にハンターギルドで白い獣肉を切り売りして稼いだ物。

 ここから猫パーティの給料を払っていたのだが、わしの転移魔法と次元倉庫がないと稼げないから、皆も普通のハンターの給料10倍で手を打ってしまったから全然減らないのだ。

 売買を減らせばおのずと稼ぎは減るのだけど、それをすると各国の王族や貴族から苦情が入るから、売らないわけにはいかない。白い獣肉を定期的におろせるハンターなんて、猫パーティしかいないもん。


 価格も、鬼高。千年物から十年物とピンキリあり、100グラムで金貨3枚の物まである。安く売ると、他のハンターが死者を出してまで持ち込んだ白い獣の値段が下がるから、ハンターギルドも値下げして買えないのだ。

 いちおうハンターギルドの銀行にも預けてはいるのだが、ギルド間の大金の移動になるから半額は受け取ってくれと言われたので、毎回アポイントを取って出向いていたけど、こんな事態になるとは思ってなかったの。


 だからポケットマネーでいろいろボランティアみたいなことをして減らす努力はしていたのだが、50年近くハンターを続けた結果、国家予算まで金貨が増えてしまったのだ。

 ちなみに、個人口座はもっとあるよ。でも、ハンターギルドや商業ギルドのほうで、金貨の交換作業はやってるんじゃね? どちらにも顔を出したくないから、最近は変身魔法で普通の人間に化けて「猫の使い」として通っています。


「ムムムム、無理です!!」

「さっきいくらでもって言ったにゃ~」

「限度ってものがあるでしょ!?」


 というわけで、ユーハン首相はイエスマンを早くも卒業。


「ていうか、世界中の金貨が少なくなったのって、猫陛下がこんなに貯め込んでいたせいなのではないでしょうか……」

「それ、誰にも言うにゃよ?」

「言えるわけないでしょ!!」


 あと、口答えも覚えたみたい。なんとか多く交換してくれと説得していたら、東の国発行の金貨が多かったから「そっちに持って行け!」って、ユーハン首相に怒鳴られたわしであったとさ。



 金貨は結局のところ1億ネコ分しか減らなかったので、ここはユーハン首相のアイデアを採用して東の国へ。アポイントを取って、さっちゃんに会いに来た。


「また面倒事?」

「にゃんでそう思うにゃ?」

「だってシラタマちゃんって、いつもアポイントも取らずに執務室まで勝手に入って来るじゃない? スマホの時もそうだったでしょ??」

「にゃんかすいにゃせん……」


 さっちゃんの指摘が的確すぎて、わしも謝ることしかできない。他国の者が君主の部屋に勝手に入ってるもん。いちおう言い訳すると、誰もわしのことを止めないからいいのかと思っていたのだ。


「それで~……今回はなに?」

「金貨をにゃ。大口で交換してほしいんにゃけど……」

「あ~……ハンターギルドや商業ギルドでも困っているらしいわよ。どんだけ貯め込んでるのよ」

「いや、貯めてる自覚はなかったんにゃけど……てか、両ギルドはどうやって交換してるにゃ?」

「世界中の支部にちょっとずつ送ってるらしいわよ。あ、そうだ。シラタマちゃんが来たら、手数料取ることにしたって伝えておいてと言われてたんだった」

「にゃ?? にゃんで直接言わないにゃ~」

「シラタマちゃんが逃げ回っているからでしょ。手紙も何通も出したけど音沙汰なしと聞いてるわよ」

「そうでしたにゃ~」


 完全にわしが悪い。両ギルドの手紙は、一通目を読んだら「これ、どうしてくれんの?」との怒りの呼び出しだったから、それ以降は開けてもいなかった。


「まぁ手数料は致し方ないにゃ~……って、伝えておいてくれにゃい?」

「なんで女王の私がしなくちゃいけないのぉぉ~~~??」

「あとで顔出しますにゃ~。ゴロゴロ~」


 さっちゃんをメッセンジャーに使おうとしたら、怒りのオーラを飛ばされたのでスリスリごまスリ。クールダウンさせないと交換に応じてくれないから、大盤振る舞いだ。めっちゃモフられたけど……


「それで……うちの国家予算ぐらいあるんにゃけど、全部交換してくれにゃ~」

「アホなの? アホよね? アホか!!」

「アホですにゃ~~~」

「無理に決まってるでしょ!!」


 結局さっちゃんにゴマをスッたのは無駄な努力。アホの三段活用されて、交換は1億リーヌ分しかしてくれないのであったとさ。



「残りはどうするつもりなの?」


 金貨の交換を終えて、わしが涙目でお札を数えていたらさっちゃんから質問が来た。


「各国の王様に声を掛けて、ちょくちょく交換して行くしかないだろうにゃ~」

「ふ~ん……それで期限までに終わりそう?」

「どうだろうにゃ~……ま、半分ぐらい残しておくのも手だにゃ」

「残しておいても無価値になるだけじゃない。いえ……各国に手を回してシラタマちゃんの交換を邪魔したら、シラタマちゃんのお金を没収したことになるのでは……」

「にゃんて怖いこと考えてるにゃ!?」


 さっちゃんがわしのお金を亡き者にしようとしているので、さすがにわしもオコだ。


「そんにゃことしたら、もっと儲かるからやめとけにゃ~」

「はい? 儲かるって??」

「初めて第三世界に行った時に、わしはにゃにで日本のお金を買っていたにゃ?」

「あの時は確か……金!!」

「気付いたみたいだにゃ。これから金は、とんでもなく高い価値を持つにゃ。だって採掘量が少ないんだからにゃ。安全資産と言ってにゃ。第三世界でも貯め込む人がいるほどにゃ。さらに、お金持ちってキラキラした物が好きにゃろ~?」

「最後のは共感できないけど……なんでそれを先に言わないのよ!? 王家の金貨、全部交換しちゃったじゃない!?」

「買い戻せばいいだけにゃろ~」


 いまごろ金の価値に気付いたさっちゃんはわしを激しく揺さぶるので「わしの金貨なら安く買えるよ」と言ったら、揺さぶりは止まったけどスッポ抜けて壁にぶつかった。

 しかし、金貨の交換先が一国だけに決まったので、わしは楽ができるとスキップで我が家に帰るのであったとさ。

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