猫歴46年その3にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。いい加減、商品名とかに猫を入れるのやめません?


 新札が続々と刷られるということは、わしの顔のネコ札が増殖することなので恥ずかしすぎる。さらにギョクロとナツが悲願のパソコンとスマホを作ってくれたのに、それまで猫関連の名前を入れられたので喜び半減。

 というわけで、我が猫家では抗議集会。わしみたいな姿の子供も増えて、モフモフ勢がお母様方の人数を超えいるのだから、多数決に持ち込めば勝訴できるのだ。

 しかしながら、お母様方はわしたちをモフモフ罪で検挙。激しい拷問……撫で回しを受けて、わしたちモフモフ抗議隊は力業ちからわざで黙らされたのであった……


 とか平和な遊びをしていたら、パソコンとスマホの発売日となったので、せっかくだから欲しい人を誘って買いに来た。

 テレビでも特集が流れていたから早く買わないと無くなると思い、お店の開店前から並んでみたけど、誰1人おらず。猫ファミリーだけで列を作ることになったので、民が何事だとガン見するだけだ。


 開店して雪崩れ込んだのもわしたちだけ。説明や契約で小一時間ぐらい居たけど、お客は入って来なかった。

 そりゃそうだ。パソコンとスマホは、めっちゃ高い。この価格設定ではお金持ちしか買えないだろう。それに初物だから、どれほど便利な物かも民には伝わっていなかったのだ。


 パソコンショップの社長とは「これ、大丈夫なの?」と少し話し合ったら家に帰り、皆でやってみたけど電話の先には家族しかいないので、宝の持ち腐れ。目の前にいるのだから、喋ればいいだけだ。

 動画サイトもSNSすらないので、子供たちが思ったより遊べないとガッカリしていてかわいそうだから、わし直々に売り込み。


 各市の市長とか政治家に「便利でっせ~」と、パソコンとスマホの使い道を教えたら、食い付いてくれた。計算や名簿の管理が楽になるし、遠くの人とも魔力なしで気軽に喋れるんだから、当たり前だ。

 とりあえずここでは契約ができないので、お店のチラシを配ったら、わしは次へ移動。わしの名義で契約したスマホを2台持って、東の国に売り込みに来てみた。


「ついにできたの!? 買うわ!!」

「いちおう言っておくけど、第三世界のような楽しみ方はできないからにゃ? メールしたり画像を送ったりできる程度にゃ~。あ、テレビ電話はできるにゃよ」

「あ~……そっか。まだその程度か~。キャットフォーンだけ買っとこうかな」

「パソコンはいらないにゃ~? オフラインでも事務処理とかめちゃくちゃ楽になるにゃよ」

「そうは言っても使い方がね~」

「にゃっ! 確かにそうだにゃ。パソコン教室も必要にゃ~」

「準備が整ったら電話して。何人か送り込むわ」


 これから他の国にも売り込みに行こうと思っていたけど、さっちゃんの指摘でやることが増えたので、とんぼ返り。その前に、シリエージョにはキャットフォーンを届けました。


「ねえ? パパの連絡先しか登録されてないんだけど……」

「にゃ? パパとだけ電話できたらよくにゃい??」

「なんでよ! ママとか姉妹とも電話したいに決まってるじゃない!?」

「あ、そうだったにゃ~。便利すぎて忘れてましたにゃ~。グループトークも作っておきますにゃ~」


 ここでも忘れ物発覚。さっちゃんのところにも戻って、わし以外に連絡したい人がいるか確認してから帰るのであったとさ。



 猫の国に帰ったら、パソコンショップで教室を開くように助言してみたけど、世界中から訪れると聞いてお手上げ。

 仕方がないから猫大に情報処理学科を作って、ギョクロとナツに教師になれないかと声を掛けたら断られた。いまは量子コンピュータで頭がいっぱいなんだとか。

 でも、パソコン関連に詳しい生徒を紹介してくれたから、その生徒を正式に猫大の講師にスカウト。ついでにSNSや動画サイトなんかも発注しておいた。


 ひとまず猫の国で公務員をしている者から、有料で情報処理学科の受け入れを始め、センジにもまた留学生が増えると報告にやって来た。


「えっと……私がなんで最後なんですか??」

「いや、テレビでもやってたからにゃ……」


 でも、斯く斯く云々と説明したら、怒られた。国の実務トップを飛ばして市長やら他国に売り込んでいたんだから、そうなるわな。


「それにしても、猫陛下は相変わらずですね」

「にゃ~?」

「何を率先して営業してるんですか。王様ですよね?」

「確かに……子供が作った物にゃから、テンション上がりすぎてたにゃ~」

「フフフ。わかりました。国で大量に買って、事務処理の効率化をさせます」

「やったにゃ~! このままじゃ、パソコンショップが潰れるところだったんにゃ~」

「ですから、猫陛下のお店じゃないですよね?」


 大口の取引先が見付かったから喜んでしまったが、本当に王様のやることではない。ボランティアもすぎると、センジに笑われてしまうわしであった。


 てか、工場とかはギョクロたちに渡した開発費用から出てるらしいから、パソコンショップもわしの店なのでは? ポケットマネーを湯水のように取られた記憶がある!?


 あとで聞いた話だとホウジツが一枚嚙んでいて、開発費用がファンド会社に流れ、出資している若手の会社がパソコンショップ等を作ったんだとか……うん。やっぱりわしの店じゃな。



 なんだか心の中がモヤモヤするわしだが、パソコンの使い道と今後の展開をプレゼンしたら、ティータイム。その席で世間話をしていると、センジが聞き捨てならないことを言ったので二度見してしまった。


「出馬しないんにゃ……」


 そう。猫の国首相を5期26年も続けたセンジが辞めると言ったので、驚いてしまったのだ。ちなみに首相は5年交代なのに1年多いのは、初年度はイロイロ忙しいからと6年にしていたからだ。計算ミスしたわけではない。と、思われる……


「それはお疲れ様だったにゃ。今まで猫の国のため、国民のため、よく働いてくれたにゃ。ありがとうにゃ~」


 少し驚きはしたものの、すぐに気を取り直して感謝すると、今度はセンジが驚いたような寂しいような顔に変わった。


「止めないのですね……」

「まぁにゃ~……わしがにゃんか言ってしまうと、決心が鈍るにゃろ?」

「はい……正直、できることならまだ続けたいと思っている自分もいましたので」

「やっぱりにゃ~。センジのそういうところ心配してたんにゃ。辞めると言ってくれて安心したにゃ~」

「猫陛下は私を辞めさせたいと思っていたのですね……」


 言葉足らずでセンジが落ち込んでしまったので、わしは焦る。


「ち、違うにゃ~。昔のことがあるから、死ぬまで首相を続けるんじゃないかと心配してたんにゃ。まだ猫耳族に返し足りないとか思ってるにゃろ?」

「はい……」

「にゃろ~? 最悪、わしの権限で辞めさせようかと思っていたんにゃけど、王様が首相をクビにする前例を作ってしまうと、後継者がやり難くなっちゃうからやりたくなかったんにゃ」

「そう、ですか……最後まで、猫陛下に心配を掛けてしまったのですね」

「考えすぎにゃ。どちらかというと、わしがセンジにおんぶに抱っこだったんだからにゃ」

「そう、でしたね……全部、丸投げにされていました~」


 落ち込むセンジを励ましたら、猫の国発足からの苦労を雪崩の如く思い出したらしく、愚痴が止まらなくなるのであったとさ。



 小一時間ほど愚痴を聞いていたけど、仕事はいいのかと聞いても止まらないので、次なる一手。


「センジは来年からどうするにゃ?」

「来年はまた大変な年になりそうですね。パソコンの件もありますし……」

「その時にはセンジはもういないにゃ~。辞めてるにゃろ~?」

「あっ! そうでした!!」


 来年も首相気分でいたセンジだったが、わしが現実を教えてあげたら、やっと愚痴が止まった。


「そうですね……貯金もありますし、家族で世界旅行なんてしてみたいですね。子供はあまり構ってあげれませんでしたし……ついて来てくれないなら、夫婦で気ままに行って来ます」

「お~。世界旅行にゃ~。それは楽しそうだにゃ~……あ、そうにゃ。それにゃら、わしが案内してやるにゃ~」

「猫陛下が?? そんなの悪いからできませんよ」

「こんにゃに働いてくれたんにゃから、当然の権利にゃ。てか、元首相が外に出て、帰って来ませんでしたじゃ洒落にならないからにゃ。護衛も兼ねてにゃ~」

「首相じゃない私なんかに護衛なんていりませんよ~」

「いや、必要にゃよ? 猫の国、かなり他国にダメージ与えてるんにゃから。そんにゃところに元首相が護衛も付けずに現れたら、どうなるかわからないにゃ。身代金誘拐ぐらいされるかもにゃ~」

「あ……」


 要人から離れたら誰も襲って来ないと思っていたセンジもわしの脅しに負けて、一緒に旅行することを了承してくれた。


「どこ行こっかにゃ~? センジは行きたいところあるにゃ?」

「私はどこでも……」

「これはセンジのご褒美旅行にゃんだから、遠慮するにゃ。言ってくれたら、どこだって連れてってやるにゃ~」

「でしたら……小説のように日ノ本まで森を横断してみたいです。秘境にある綺麗な場所も、この目で見てみたいですね~」

「おお~。いいにゃいいにゃ。わしも久し振りに見たくなったにゃ~」


 ようやくセンジは首相の顔から一般人の顔に変わり、行きたいところが次々と出て来るのでわしも楽しくなって、旅のしおりがとんでもなく分厚くなるのであった……



 センジはわしと違って忙しいから旅行の打ち合わせは暇な時間にやるようになり、月日が流れて秋になると、猫の国国政選挙が始まった。

 わしたち王族は基本ノータッチだけど、各市を回って出馬した人をまとめて激励。1人1人やると揉めそうだし、一発で終わるから楽チンだ。


 そうして最終日には、例の如く猫ファミリーは開票のお手伝い。何人か他の仕事があるからってついて来てくれなかった。アルバイトたちが変な目で見て来るから逃げたのかも?

 時差が違う場所もあるので、できるだけ多くの国民が起きている時間に、結果はっぴょ~~~う! この模様は、猫の国全土にリアルタイムでテレビ放送されている。


 その結果、猫耳市の猫耳おっちゃん、ユーハンが三代目の首相。猫市の女性が四代目の副首相に決定。ラストはわしがいいこと言って締めたら、国政選挙の幕は閉じる。

 ただし、問題児が首相に立候補していたので、就任アンドお疲れ様パーティーをわしとリータとメイバイは抜け出して、ある猫耳族の男を拉致して来た。


「なんだよ……負けたんだから、もう帰るんだよ」


 この迷惑そうな顔の男の名はリュウホ。20年ほど前に「いつ人族を皆殺しにするの~?」と無邪気に言っていた男の子。あの頃はかわいかったが、いまではやさぐれた男になっている。

 やさぐれた理由は、わしたちのせいかもしれない。猫耳族至上主義を掲げる男の集会を何度も潰し、その信念を引き継いだこのリュウホとも、何度も議論を繰り返したからだ。


「まぁ明日にも結果は新聞に載るけど、どれぐらいの得票数があったか教えてあげようと呼び止めただけにゃ」

「どうせ少ないんだろ」

「だにゃ。最下位だったにゃ」

「チッ……なんで誰もわかってくれねぇんだよ」


 わしが得票数を見せると、リュウホは明らかに不満な顔で殺気までまとった。


「これが、民意にゃ。誰も戦争は望んでいないとわかったにゃろ?」

「何が民意だ。少なくても、帝国人を恨んでるヤツはいるんだよ」

「だろうにゃ。でも、その恨みを押し殺して生きると決めたんにゃ。その代表が、今回の結果にゃ。猫耳市でも圧倒的多数で首相を勝ち取ったんにゃよ。お前とは違うやり方でにゃ。いい加減、未来を見ろにゃ。にゃ?」

「わ~ったよ。俺の負けだ。もういいだろ?」


 リュウホは聞き分けよく負けを認めたのでわしたちは解放すると、恨み節も言わずに立ち去ったのであった。



 そのリュウホの後ろ姿を見送ったリータとメイバイは、長い戦いに勝利したと浮かれている。


「やっとわかってくれましたね!」

「選挙やらせて正解だったニャー!」


 実を言うと、リュウホに出馬を勧めたのはわしたち。いつまで経っても平行線だったから、「リュウホが勝ったら好きなようにできる」とそそのかしたのだ。

 もちろんこの選挙は、わしたちはまったく操作していない。猫耳族至上主義は、毎回わしたちが批判していたから、猫耳市でも人気は低かったからだ。

 その上、奴隷で酷い仕打ちを受けていた人は、若い時に栄養が少なかったから短命だったので、もう20人ぐらいしか生き残りがいないから、票に繋がらないと知っていたから裏工作なんて必要なかったのだ。


「う~~~ん……」


 それなのにわしは浮かない顔をしていたので、リータとメイバイは顔を覗き込んで来た。


「どうかしたのですか?」

「わかったって言ってたニャー」

「あまりにもアッサリしてると思ってにゃ~……」

「アレだけ得票数が違うんですから、気分が晴れたんじゃないですか?」

「あんな負けっぷりじゃ、何も言えないニャー!」

「そうだといいけどにゃ~……」


 わしは一抹の不安を残し、笑顔のリータとメイバイに手を引かれ、騒がしいパーティー会場に戻るのであった……

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