猫歴46年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。これでも腹心の葬式は悲しい。


 センジ首相が愚痴ばっかり言うのでホウジツの葬儀はあまり悲しめなかったのだが、猫ファミリーもそれほどでもなかったから、まぁいっか。

 わしはいつものだらけた生活に戻り、たまに仕事をしたりボランティアしたり、孫と遊んだりお昼寝していたら月日は流れ、猫歴46年となった。


「にゃ~~~。大学入学おめでとうにゃ~~~」


 今年の目玉は目白押し。まずはなんといっても第三陣の子供が猫大に進学したことだ。ただし、進学したのは2人だけど、残りの2人もスーツやスーツっぽい衣装で入学式だけは出席している。だってわしが見たかったんじゃもん。

 大学に入学したのは、つゆとお春の子供。狸尻尾を持つ黒猫娘シラツユと、狐尻尾を持つ黒猫男フユ。

 シラツユは、つゆの意志を継ぎ物作りがしたいからと技術関係。フユはお春の意志を継ぎ、地政学という誰も学んだことのない学問を開拓する。でも、お春の仕事はメイドだったはずなんじゃけど……


 ちなみに地政学は、わしがちょっと教えたんじゃぞ? ランドパワーとかシーパワーってヤツだけど、この世界に当て嵌まるかわからないけど……

 2人ともいい子なので母親を気遣って、同じ速度で老けて行きたいから猫パーティは辞退したそうだ。どちらの母親も変身魔道具でタヌキやキツネのままだから、老け具合がよくわからんのじゃけど……


 残りの2人の内の1人は、コリスの娘リリスだから、すでに猫パーティで戦力になってモリモリ食べているから割愛。

 もう1人のイサベレの第二子、白髪猫耳娘キアラが新しく猫パーティに羽ばたいて来たのだ。


「いまからでも大学行かにゃ~い? わしが押し込んであげるにゃよ~?」

「もう! 強くなりたいって何度も言ってるでしょ!!」


 でも、わしはあまり乗り気じゃない。せっかく高校まで出たのだから、進学してほしかったのだ。

 ちなみにキアラの志望動機は、姉のシリエージョが東の国で騎士をしているから交代要員になろうと思って。50年でも100年でも、いつか交代してイサベレの跡を継ぎたいらしい。


「まぁ来ちゃったモノは仕方ないにゃ……キアラも、イサベレみたいに戦いたいにゃ?」

「う~ん……お姉様とキャラが被るのもアレだし、剣を使おうかな? 盾を持ってもいいかも??」

「重騎士ってヤツかにゃ?」

「それかな? 鎧とかも着て、姫を助けるの~」

「女騎士に憧れがあるんにゃ……」

「『クッ……殺せ』とかも言ってみたいな~」

「そんにゃ状況はわしが来させないにゃ~」


 キアラの好みは、どうもマンガや小説に出て来るような女騎士。そんなことを説得材料に使うと反対されそうだから、イサベレの跡を継ぎたいと言ったんじゃないかと疑惑が浮上した。


「ま、わしの教えは甘いから頑張るんにゃよ~? ランニングから行くにゃ~」

「にゃ~!! ……甘いの??」


 ちょっとキアラは心配だけど、猫パーティ研修はいつも通りゆる~く始まるのであった。



 キアラのレベルが上がって来たら、まずは武器を決めてみよう。


「片手で扱うことににゃるし、ショートソードにしてみたにゃ。どうにゃ?」

「う~ん……軽く感じるし、もうちょっと長くてもカッコイイかも?」

「ロングソードにゃ~……一度、フル装備してから考えてみにゃい?」

「あ、それいいね。カワイイ鎧ってあるのかな~?」

「それはないんじゃないかにゃ~?」


 キアラの目的がよくわからないので、ソウ市にある武器防具の店に親子デート。デートには向かない店じゃけど……


「なんか、ゴツゴツした鎧ばかりだね」

「そりゃ鎧は命を守る物だからにゃ~」

「こう、胸元が大きく開いたのとか、胸のサイズに合わせたブラジャーみたいな鎧とかないの?」

「それは……コスプレの衣装じゃにゃいですか?」

「それそれ。レイヤーになりたいの~」

「レイヤーさんは、写真を撮られるのが仕事だと思うんにゃけど……」


 ここでキアラの趣味が発覚。どうやら第三世界で買って来た本の中に、コスプレ写真集があったから熟読していたんだとか……


「パパ作って~~~」

「パパは露出の多い鎧は作りにゃせん!」

「そんにゃ~~~」


 もちろんそんな防御力皆無の破廉恥な鎧は、わしが許さないのであったとさ。



「そのハート型の盾、かわいいね~」

「でしょでしょ? 私がデザインしたの」


 それからも訓練は続けていたけど、キアラが何かとうるさいので、まずは盾を作ってあげたらリータがベタ褒め。キアラが天狗になるからやめてほしい。


「このククリ刀ってのはいいよね?」

「使いやすいにゃらいいけど……」

「ツバは月にして~。鞘は丸みを帯びさせるとかわいいと思うんだよね~」

「リータ~! 盾の使い方教えてあげてにゃ~!!」


 なんだかキアラと絡むと変な物ばかり作らされるので、わしもエスケープ。このままではビキニアーマーで戦うとか言い出しそうなので、わしは縁側に移動してキアラ愛読のグラビア雑誌を熟読してみる。


「キアラがゴメン」


 そこにイサベレがやって来て、隣に腰掛けた。


「別にいいんだけどにゃ~……危険にゃ仕事をするって意識が低いのが心配にゃ~」

「確かに……ちょっとシメてくる」

「そこまでやらなくていいにゃ~。あ、そうにゃ。イサベレのフル装備見せてみたらどうかにゃ? 東の国ではあの姿、人気高かったにゃろ?」

「ん。その姿でシメる」

「シメなくていいんにゃ~~~」


 わしの娘でもあるのだから、暴力はやめてほしい。なのでイサベレ本来の姿を見せたらキアラの装備も決まるかと思ったが、着替えてはくれたけど結局はヴァイオレンスしに行っちゃった。

 わしはその光景を、指の間からあわあわしながら見ることしかできないのであったとさ。



「こ、怖かったよ~~~」

「よしよしにゃ。わしもにゃ~」


 と、イサベレにシメられそうになったキアラは、実はしごかれる前にわしの元へ逃げて来たので、体罰等は受けていない。イサベレの殺気にチビリ掛けただけだ。

 そんな殺気を放ったからキアラの訓練を見ていたリータが反応してしまい、2人で殺し合いの手合わせを始めたから、わしは震えながら見ていたのだ。


「正直言うとにゃ。いまの気持ちのままでは、訓練は中止せざるを得ないにゃ」

「なんでダメなの?」

「あの2人を見てみろにゃ。わしたちが行く森の中は、あんなのばっかりにゃ。あそこに毎回、突っ込んでいってるんにゃよ? キアラにそんにゃ覚悟あるにゃ??」

「うっ……」


 イサベレたちにはちょっと失礼だけど、猛獣と仮定してキアラを脅したら怯んだ。わしでも怖いんだから当然だ。


「怖いけど……頑張る!」


 しかし、キアラはその恐怖をね退けてわしに覚悟の目を向けたので、わしも覚悟を決め……


「アガる装備なら怖い物なしよ! パパ、ビキニアーマー作って~~~」

「羞恥心ってのはにゃいの??」


 でも、わしにはビキニアーマーを作る覚悟はないのであったとさ。



 それから訓練の合間に、わしはキアラの装備を鉄魔法を使って何度も作ってあげたけど、アガらないんだとか。こうなってはわしもどこが悪いのかわからなくなって来て、ついにビキニアーマーを作ってしまった。


「うわ~! すっごくアガル~!! でも、色はピンクにして~」

「まだ改良が必要なんにゃ……」


 とりあえず言われた通り、人体に無害な着色料で明るいピンクに仕上げてあげたら、キアラはアゲアゲ。マジで訓練にも熱が入ってる。


「ねえ? 本当にあの姿で狩りに連れて行くつもり??」


 わしが腕を組んでキアラを眺めていたら、ベティが隣に並んだ。


「動きは格段によくなったんだけどにゃ~……」

「それはそうだけど、あの子、父親の前で恥ずかしくないの? あっ、あんたも娘のことエロイ目で見てるんじゃな~い??」

「わしのこの顔が、あの姿を許してると思うにゃ?」

「あ、うん。ゴメン。お気の毒様……」


 ベティは横から見ていたから気付かなかったようだけど、わしの逆の目からはツーッと涙が流れていたから、それを見せたら哀れんでくれた。


「てか、ベティがキアラのこと言えないにゃよ?」

「どこがよ。普通じゃない」

「魔法少女のことにゃ。そういえば最近見ないよにゃ~? アレって強くなれるんじゃなかったにゃ~??」

「アレは若気の至りというか……奥の手に取っておいてるのよ!」

「嘘っぽいにゃ~」


 反撃してみたら、ベティの顔は真っ赤。アマテラスから授かりし魔法少女変身魔道具は、ベティの身体能力や魔法を強化してくれるのに使っていないということは、恥ずかしくなったのだろう。

 そもそも貰ったのは、ベティが4歳の頃だったし、いまでは若く見えるけど立派なおばさんの年齢に入っているから、使うに使えなくなっているのかもしれない。


「そうにゃ。ちょっと協力してくんにゃい?」

「い、いやよ。何やらすかわかんないけど、断るわ」

「たいしたことじゃないにゃ~。包丁作ってやるから、協力してくれにゃ~。にゃあにゃあ?」

「にゃあにゃあうるさ~~~い!!」


 ベティは完全にわしのやりたいことに察しは付いていたけど、なんとか包丁2本で手を打ってくれたのであった。



 数日後、わしはベティ&ノルンに加え、キアラとパーティを組んで東の国の王都を闊歩かっぽしていた。


「何あの格好……」

「恥ずかしくないのかしら……」

「猫さんはかわいいのに」

「猫になるより、あの姿のほうが恥ずかしいわね」

「猫さんが普通に見えるわ」


 わしたちは王都民から、格好の的。普段わしが歩くとキャーキャー騒ぐ民も、混乱しているように見える。

 そりゃそうじゃ。わしの後ろには魔法少女ベティとその頭に乗る魔法少女ノルン。そして一番の問題児、ビキニアーマーのキアラが歩いているんだから、近付きたくないってモノだ。


「うっ……こんな姿で王都を歩くことになるとは……」

「パパのバカ……なんで猫市じゃないのよ~」

「キャハハハハ。2人とも似合ってるんだよ~。キャハハハハ」


 ベティとキアラは恥ずかしそうにしているけど、ノルンは絶好調。羞恥心をあおってくれると思って連れて来たのは大正解だ。


「いや~。猫市だと、キアラが次から歩き難くなると思ってにゃ~。あ、ハンターギルドに着いたにゃ。買い取りしてもらうから、外で待っててにゃ~」

「「ついて行くにゃ~~~」」

「キャハハハハ」


 こんなに人々の目があっては、2人ともたまらなくなってハンターギルドに飛び込むしかない。しかし中に入っても、2人と同じような装備の人は皆無なので、変人扱い。コソコソと言われているよ。


「猫のぬいぐるみが変なの連れて来た……」

「誰がぬいぐるみにゃ~~~!!」

「キャハハハハ」


 トバッチリでわしまで奇異の目で見られたので、ノルンが一人勝ちしたこの日であったとさ。

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