猫歴43年にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。わしだって成長してる……じゃろ?


 第三世界で100年の命をまっとうし、第四世界では45年も生きているのだから、成長していないわけがない。


「「「「「モフモフ~~~!!」」」」」

「いや、大きさのことじゃなくてにゃ……」


 あまりにも猫ファミリーが成長してないとか言うので、猫型・大になったのは大失敗。皆はわしのモフモフに突っ込んで来やがった。

 わしとしては、体も精神も成長していると言いたかったんじゃけど……ぶっちゃけ言うと、精神は老人のままでそこから成長してないから、ごまかしたともいう。


 そんなこんなで猫ファミリーはわしの成長に触れなくなったので「シメシメ」と思いながら過ごし、ハンター業の合間に知人の葬式に出たり、たまに留学生相手に教鞭を振るっていたら月日は流れ、猫歴43年となった。


「ホウジツ……おしかったにゃ~。やっと金融会議で紙幣の件は決まったのににゃ」


 ある日、わしは猫の国大学病院に足を運び、ベッドにて管に繋がれたホウジツと喋っていた。


「か、為替相場は……」

「開始は各国で足並み揃えられるように3年後にゃから、まだまだにゃ。それに数年は同価値から始めるから、どうなるだろうにゃ~?」

「くっ……絶対、猫の国のお金が高くなるから、稼ぎ時だったのに……」

「お前の分もわしが買っておいてやるから、安心しろにゃ」


 残念なことに、ホウジツはもうすぐ寿命。世界金融会議の前から調子が悪かったのだが、その時はテンションが上がっていたから元気だったけど、しばらくしたら無理がたたって病院に担ぎ込まれた。

 それからは寝たきりが続き、猫の国銀行はホウジツの息子に引き継がれたけど、その後は気になるらしいから時々わしが話し合い手になっていたのだ。


 ちなみに世界金融会議は、この2年間に7回開いたけど、毎回殴り合いになりそうなケンカの末、国ごとに通貨を発行することとなった。どうしても各国は、財政をフルオープンにしたくなかったからだ。

 さっちゃんとしては3大国で管理したかったから、あの手この手で西の国と南の国を説得していたが、西の国に土壇場で裏切られて敗北となった。

 それを皮切りに、統一通貨に賛成していた小国も反対に回ったから、東の国も独自通貨にするしかなかったのだ。


 いちおうわしも、さっちゃん側に付いてたよ? でも、さっちゃんが紙幣を「自分たちが考えたデザインにする」とか言うから、わしはリータたちの板挟みになることに。

 もちろんネコ札なんてやってほしくないから、リータたちにはいい顔しながら裏ではさっちゃんの援護射撃をしていたけど、それがバレて後半は監禁されていたからこんな結果になったの。

 世界金融会議はわしの代わりにギョクロとナツが出席していたらしいけど、だからなんでそこまでリータたちに協力してるんじゃ? あ、2人は怖いのですか……畑違いなのに、なんかゴメンね。


 というわけで、猫の国も自国通貨となり、紙幣は全てわしの顔。硬貨はわしの肉球とか尻尾とかヒゲ等々。紙幣は金額以外わかりにくいから、何度もやり直ししてる最中だ……単調な顔で、なんかすんません。



「まぁ、まだ本決定とはなってないけど、喜ぶと思って大量に持って来てやったにゃ」

「お、おお……か、金持ち……」

「にゃはは。億万長者にゃ~~~!」


 金の亡者のホウジツなら元気になるかと、三億ネコほどプリントして持って来た物をわしが病室にバラ蒔いてやったら、みるみる顔色がよくなって来た。ベッドから這い出そうとしてるし……


「だから偽札だと言ってるにゃろ。無理して動くにゃ~」

「つ、つい、体が反応してしまって……あはは」

「てか、息子から聞いたんにゃけど、にゃんでそんにゃにお金がないにゃ? わしの計算にゃと、ホウジツは人生3回は余裕でやり直せるぐらい貯め込んでるはずにゃ。遺産がちょっとしかないって、息子が愚痴ってたにゃ~」


 ホウジツを元気付けたのは、この話をするため。最近はかなり弱っていたので、頭をハッキリさせるためにお土産を持って来たのだ。


「そのことですか……子供は子供で稼げばいいと思いまして……」

「それにしても無さすぎにゃろ。ホウジツが豪遊していたなんて聞いたこともないにゃ。クラブとかもいつも、相手の接待か経費でしか遊ばないの知ってるにゃよ?」

「うっ……それはご内密に……」

「まさか……悪い女に引っ掛かって貢ぎまくったにゃ?」

「いえ……もう最後ですし、全て喋ります」


 ホウジツがスッカラカンなのは、わしに隠れてまた副業をしていたから。それもファンド会社を立ち上げていやがったのだ。


「そうまでしてマネーゲームがしたかったんにゃ……」

「まぁそうなんですけど、これには深いワケが……」


 どうせ浅い理由だろうと聞いてみたら、けっこう根深い問題。猫の国銀行は融資事業もやっているから商人なんかにお金を貸していたのだが、担当者が騙されて大金を持ち逃げされたらしい。

 ホウジツはそんなこともあると割り切って励ましていたらしいけど、融資部は萎縮してしまって、融資先にはかなり厳しい審査をやるようになったそうだ。


「にゃるほど……財務状況は黒字にゃんだから、気にしなくてもよさそうなのににゃ~」

「ええ。でも、自分では稼げない額だったから怖くなったみたいで……」

「にゃからファンド会社を作ったと……」

「はい。審査基準に信用が高い者となりまして、若手がほとんど弾かれる事態となったのです。僕も若くしてお猫様に拾ってもらったので、その恩返しになればと私財を投げ打っていたってワケです」

「いい話のように聞こえるんだけどにゃ~……ハイリスクハイリターンを狙ってたんにゃろ?」

「あ……あはは。バレちゃいましたか。さすがはお猫様。おかげ様で、人生見事にトントンです。あははははは」


 長い付き合いなのだから、ホウジツの性格は完全に把握してるっちゅうの。なので詳しく聞いてみたら、若手にばかり融資したので、返って来そうなのは3割。残り7割は見事に吹っ飛んだらしい。


「てことは、そいつらが大成したら、ファンド会社は息を吹き返すんにゃ」

「はい。社債を握っていますし、利益の2パーセントが半永久的に入って来る契約です」

「そいつらが稼げば稼ぐほど儲かるんにゃ……でも、半永久的はやりすぎにゃ! それ、詐欺と変わらないからにゃ!!」


 まさかホウジツが詐欺師に鞍替えしていたから、わしもビックリし過ぎて怒鳴っちゃった。


「そう怒らないでくださいよ~。ちょっとした人生経験のために書いて、融資した分を取り戻した時に書き直そうと思っていたんですよ~」

「……人生経験ってなんにゃ??」

「あいつら、契約書を隅々まで読まずにサインしたんですよ。ちゃんと読んでいたら、普通はサインしませんよね? そのとき言ってくれたら笑って本当の契約書を出そうと思っていたのに……だから、焦った頃合いで言えば、契約書の大切さがわかってくれると思ってネタバラシしていないのです」


 確かにホウジツが悪いわけではなさそうだが、この胡散臭い顔がな~。


「それはわかったことにするけど、ネタバラシできるにゃ?」

「あはは。まだ誰も言って来ないんですよね~……ですから、お猫様、頼めませんか?」

「わしにお前の会社を引き継げと……」

「はい。ていうか、遺言書に譲渡すると書いてあります」

「おお~い。そんにゃの断れないにゃろ~」

「あはは。書き直ししませんからね~。あははははは」


 仕事が増えるからやりたくないけど、死に行く者の頼みをわしが断れるわけがない。それに、わしはホウジツに無理ばっかりさせて来たのだからな。


「最後にゃから、この際わしも謝っておくにゃ」

「謝る??」


 ホウジツはわしの謝罪がなんのことかわからずポカンとしている。


「ソウ市を任せたことにゃろ~? 首相に学長。銀行は……お前が行きたがったからいいかにゃ。わしのいいように使いまくったからにゃ。長い間、無茶振りばかりして悪かったにゃ」

「いえいえ。確かに無茶振りは多かったですけど、それ以上に楽しかったので、謝罪なんていりませんよ。一商人が扱うにはありえない額のお金を毎日動かしていたんですからね。僕はお猫様には、感謝しかありません。あの時、拾ってくれてありがとうございました」


 目に涙を溜めて感謝するホウジツに、わしもグッと来たけど我慢だ。


「そう言ってくれて助かるにゃ。今まで、こんにゃ猫に仕えてくれてありがとにゃ。わしはお前の名を、できるだけ覚えておくにゃ~」

「そこは死ぬまでじゃないんですか? あははははは」

「わしがにゃん年生きると思ってるんにゃ~。にゃはははは」


 わしたちに涙なんて似合わない。いつもは金儲けの話で悪い顔で笑っていたわしたちであったが、今日は猫の国の未来がどれだけお金持ちになっているかと、いい笑顔で笑いながら語り尽くすのであった……



 それからひと月後、ホウジツは安らかに旅立ち、盛大な葬儀が行われていた。


「頼れる人が、また1人、いなくなっちゃいましたね……」


 隣に立つセンジ首相がポツリと呟いたので、わしは前を見たままセンジの左手を握った。


「にゃにを言ってるんにゃ。後ろにいっぱい居るにゃろ。みんにゃ、センジとホウジツが育てた頼れる者にゃ。これからも増え続けて行くんにゃよ?」

「そう……ですね。同期が次々と亡くなって行くので、少し弱気になってしまいました」

「まぁにゃ~……普通はそうなるよにゃ。でも忘れるにゃ。わしが最後まで隣に居るにゃ。いや、リータたちも居るからにゃ。心配するにゃ」

「はい……猫陛下はこれまで通り、私を導いて……あれ? 途中から私が導いていたような……」


 老いも感じて弱気になっていたから励ましてあげたのに、センジも気付いちゃった。わしたち猫ファミリーって、国政にノータッチじゃもん。


「ほら? 金融会議はわしも頑張ったにゃろ~??」

「それも途中からお子様がやられていましたよね?」

「アレはメイバイたちに監禁されてたからにゃ~。わしだって出席したかったんにゃ~」

「その他にも、私とホウジツさんばかり働かせて……」


 その後は、葬儀が終わるまでセンジの愚痴が止まらない。その愚痴はホウジツ絡みの愚痴が多かったから、彼女なりの手向けだったのかもしれない……と、信じたい。


 ホウジツ享年63歳。初代ソウ市長、初代猫の国首相、ニ代目猫の国大学学長、初代猫の国銀行総裁。数々の功績を残して、猫の国の歴史に名を刻んだのであった。

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