猫歴41年にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。お笑い芸人ではない。
世界金融会議の模様をテレビで何度も流されたせいで、わしは町も歩けなくなって困っている。賢い話をしたのに笑われるって、おかしすぎるじゃろうが……
なので一番わしのことを流していた、新規参入した民放テレビ局に苦情を入れに来てみたけど、社長にはどこに笑いの要素があるかわからないんだとか。
「わしの顔を見て、同じことを言ってみろにゃ……」
「ですから、プッ……」
「笑いやがったにゃ!?」
「ももも、申し訳ありませ~~~ん!!」
どうやらわしを出すと視聴率が上がるから、社長としても視聴者のため……いや、広告収入に繋がるから流しまくれと指示を出したらしい。
しかし、こんな偏向報道は説教案件。だから怒鳴り散らしていたら、リータとメイバイが乱入して来て引きずり出された。こうなると思ってつけていたらしい……
今度は「王様が国民を脅すな」とわしが説教され、やることが多いのだからと放り込まれた場所は、首相官邸。センジ首相にも「また仕事が増えた!」と怒られました。
融資の話は前もって言っておいたのに、これも怒りが再燃。「留学生からボッタくれ」と説得したらやっと通常モードになったけど、管轄は猫大になってしまった。
これ以上機嫌を損ねるとわしの仕事が増えそうなので、大学に行って猫耳学長に相談。押し付けたとも言う。
でも、そんなことやったことがないと返って来たので、経済関連の講義ができる者をピックアップしてもらい、1ヶ月後から始められるように指示する。
次に向かった先は、教育委員会。猫耳委員長に斯く斯く云々と説明して、留学生の受け入れ体制を整えてもらう。まぁ猫市は昔から留学生制度があるから、それに当て嵌めたら早くできるだろう。
1人に対して1.5倍の教育費を取ることにして、3人で一緒に書類を作ったら、わしがセンジ首相に提出する。なんとか一発合格もらえました~!
そのことを猫耳姉妹に伝えてお疲れ様会を開いたら、なんだか昔話になってしまった。この2人は猫王様シリーズのゴーストライターをしていたのだから、久し振りにわしと仕事ができて楽しかったそうだ。
昔話は語り尽くせず夜になってしまったので、時々集まろうと約束してこの日は別れたのであった……
「遅かったですね……」
「浮気の匂いがするニャ……」
「違うにゃ~~~~!!」
リータとメイバイに浮気を疑われたので、次回からは飲み会について来るようになったとさ。
猫歴40年の後半から、猫大経済学部に留学生がやって来て勉学に励んでいる。この留学生は全員大人だ。
各国はさすがに危機感を覚えたらしく、自国の若き天才を2人ずつ送り込んで来たけど、授業についていけなくて早くも意気消沈。わしも大丈夫かと見に行ったら質問されたので答えてあげたのに、ますます落ち込んでいた。顔のせいらしい……
ちょっとかわいそうなので、レクリエーション。酒を飲ませて、そのうちわかるようになるからと励ますわしであった。
浮気を疑われたら困るから、暇してる妻を同伴したよ?
年を跨ぎ、猫歴41年の1月にはまた留学生が大量にやって来たので、専用の校舎に押し込む。
この留学生は、全員中学生ぐらいの年齢。小学生からの勉強をすることになるので、大人は来たくなかったのではないかとわしは勘繰っている。こいつらから教えてもらうことになるのに……
留学期間は5年を目途に。授業内容は、小学生からを駆け足で教えて行くのだが、わかる分野は飛ばしていいことになっているので、個別教室で受けたい授業に出席できる。
けど、小学生の授業からチンプンカンプンって感じだったので、なかなか時間が掛かりそうだ。なので中学生の授業を教える教師も小学生の授業をやって、学習の速度アップを
しばらく様子を見ていたらなんとかなりそうだったので、わしもやっと休める。と思ったけど、最近やる頻度の低かったハンター業。留学生の諸々を人任せにしていたのがバレちゃった。
仕方がないので狩りは週1から週2に増やしていたら、また子供が生まれた。
「にゃはは。ジイジにゃよ~?」
「にゃ~にゃ~」
わしではなくサクラとエティエンヌの第二子だ。サクラはハンター業に戻ってすぐに身籠もったので、また産休。第一子が小学生になってもエティエンヌとやることやってたのかと、腹は立ったけどな。
だがしかし、生まれて来た男の子に罪はない。いや、猫の子と言うべきか……
サクラの第一子は猫耳族みたいだったのに、第二子は何故かわし似。立って歩く猫が生まれた。これは予想だが、サクラは猫と人間の血が半分ずつ入っているから、生まれて来る子供はどちらの血が多く反映されるかで決まると思われる。
第一子の場合は人間の血が多く反映されたから猫耳族。第二子は猫の血が多く反映されたからわし似。ただし、エティエンヌの血もあるので、白猫ではなく白地に金色の毛がまざったブチになったのだろう。
「うわ~。この子、今までで一番かわいいかも~。エティ……この子と戻って来なさい」
「さっちゃんはにゃにしに来たにゃ??」
もちろんそんな新種が生まれたからには、さっちゃんが欲しがってる。出産祝いで来たと言っていたのに、第二子にメロメロだ。撫で方が猫なのは変わらない。
欲しがられても、エティエンヌはうちの婿。孫もまだ幼いので、さっちゃんは追い返してやった。
「いっぱい居るクセに~~~!!」
「だからペットじゃないんにゃ~~~!!」
さっちゃんはまたしばらくワガママさんになっていたので、サクラ家族と一緒に顔を見せに行くことが増えたのであったとさ。
なんだか最近わしの気苦労が増えているので、どこかでサボ……王様の仕事ってテイでエスケープ。今日はアメリヤ王国の王様に会いに来てみた。
「ジョージ君は、いつまで王様する気にゃの?」
このイケてるパツ金老人は、ジョージなんたらってミドルネームが恐ろしく長いアメリヤ王。40年ぐらい前に、猫の国と唯一戦争をしたことのある国の君主だ。
このアメリア王国とは、過去に転生者が生まれていたらしく、初めて行った時には第二次世界大戦辺りに使っていた兵器が揃っていたので驚かされた。
だが、わしの有り余る力を披露して圧倒してあげたので、死者1人もなく屈服したけど、対外的には秘密にしてある。怖がられたくないんじゃもん。
「いや~……子供がどちらも継ぎたくないって言うから、辞め時を見失ってしまって」
「そんにゃの後継者を決めたらいいだけにゃろ?」
「そうなんですけどね~……自分もあまりやりたくなかったから、同じ苦労をさせるのは悪くって」
ジョージは、父親と兄が王位を
ちなみに、先代国王がいなくなったのをいいことに議会が好き放題やって少数民族をイジメていたから、わしが鉄槌を落としたのだ。その後は、少数民族に謝罪や援助を行っていたから、ジョージは許されるどころか感謝されているらしい。
「でも、いい加減、先送りもしてられんにゃろ?」
「そうですね……シラタマさんが羨ましい。若いまま……なんですよね?」
「寿命からいったら、まだ子供にゃ……」
「それは……羨ましくないかも?」
ジョージは60代だからわしの若い体に憧れがあるようだが、まだまだ気苦労の絶えない王様を続けないといけないことは、哀れとも感じているな。
「いっそ、ひとつ飛んで孫にやらしたらどうにゃ? これからの時代、若いほうが柔軟に対応できるにゃろ」
「ですね……金融会議もついていけませんでしたし……あっ、あの場に孫娘を連れて行っていたんですよ。その時、ちょっと興味ありそうな顔をしていました」
「ほ~。その子は、留学させてないにゃ?」
「行きたがっていましたけど、息子夫婦に止められまして……」
「もったいにゃい。学びの場は大切にゃのに……仕方ないにゃ~。うちの教科書送ってやるにゃ。個人でやることになるけど、学ぶ意欲があったらにゃんとかなるにゃろ」
「それは助かります」
この日はダラダラお話して、後日、教科書を送ってあげたら孫娘はたいそう喜んでくれたそうだ。そしてジョージ亡き後、アメリヤ王国初の女性君主となり、その知能で国を発展させたのはまだ先のお話……
「にゃ? 玉藻はいないにゃ??」
メイバイたちに嘘をついて今日は日ノ本の御所を訪ねたけど、アポイントを取ったのに、いいオッサンになった悠方天皇と、玉藻そっくりだけど貧乳の娘、天皇の名代お玉しかいなかったのでわしは疑問を口にした。
「母は舞鶴に出向いています」
「舞鶴って……にゃんかあったにゃ?」
「はい。白イルカでも勝てない魚が出たらしく、それを聞いた母は嬉々として出掛けました……」
「相変わらずだにゃ~」
舞鶴の白イルカとは、日ノ本の海を荒らす巨大魚を駆逐する猫又船団の一員。今では舞鶴の海を守る二頭の守護神だ。たぶん今頃、玉藻は白イルカの背に乗って、巨大な白い魚と格闘しているんじゃろうな~。
「そういえば、わしは母親のことをずっと玉藻って呼んでるけど、お玉の襲名っていつにゃの?」
「もう、済んでおります」
「にゃ!? それは失礼したにゃ~。わしも玉藻と呼んだほうがいいよにゃ?」
「いえ、私はお婆様の名前を継ぎましたので」
「あ、玉藻前にゃ~」
「ええ。母が亡くなりましたら『前』を取りますので、その時は覚えておいてください」
「わかったにゃ。でも、いつになったら死ぬんにゃろ?」
「ウフフ。まだまだ元気ですものね。私も頭が上がりません」
しばし玉藻のことで3人で愚痴っていたけど、愚痴が減って来た頃にわしは悠方天皇に話を振る。
「日ノ本は、金融会議の話はどうするか決まったにゃ?」
「うむ。紙幣には変更するが、これまで通り自国通貨で行こうと思っておる。いまは台湾と足並みを揃えるか協議中だ」
「にゃるほどにゃ~。お隣さんがひとつしかないから、そのほうがいいかもにゃ」
「まぁ紙幣の変更する時期は、あの小難しい話を理解してからになるだろうな~。どうしてもシラタマが賢いのが信じられんのだが、どうなっているんだ?」
「だからにゃ。顔で判断しないでくれにゃい?」
せっかく世界金融会議ではあまり話せなかったからと訪ねて来てあげたのに、悠方天皇にバカにされたのでわしはケンカ。
「初めて出会った頃はよくケンカしていたな」と懐かしく感じたけど、「あの頃から成長していないガキだ」と思いながら家路に就くわしであった。
「シラタマさんもですよ?」
「シラタマ殿もニャー」
そのことをリータやメイバイたちに話してみたら、わしも成長していないと家族から総攻撃を受けたのであったとさ。
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