猫歴40年その3にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。けっこう賢いんじゃよ?


 世界金融会議はホウジツの説明の元、淡々と進んでいるのだが、各国の王は話についていけないのかずっとわしを見ている。ノートパソコンが気になるのかな?

 わしもホウジツの指示通りパソコンを使ってプロジェクターに映像を映していたらお昼の時間になったので、ランチタイム。出席者のほとんどは、大きなため息を吐いて出て行った。


 わしたちは、主催者控え室で豪華なランチ。さっちゃんも元気がなかったので、何事かと聞いてみたら……


「シラタマちゃんに負けた……」

「にゃ? にゃんのこと??」

「なんでそんなアホそうな顔なのに賢いのよ~~~」

「アホそうにゃ顔はいらなくにゃい?」


 どうやらみんな元気がなかったのは、わしがこんなとぼけた顔なのに賢すぎたから。だから夢でも見ているのかと、王様たちはずっとわしの顔を見ていたのだ。


「それでホウジツの説明でわかったにゃ?」

「いいとこ半分ぐらい……」

「さっちゃんがそれじゃあ、他はそれ以下だにゃ~……ちょっと急ぎすぎたかにゃ?」

「だね……これじゃあ誰もついて来れないよ。もうちょっとわかりやすくできないの?」

「う~ん……午後からはわしがやってみるにゃ~」

「それはそれでダメージが酷いんだけど……」

「顔は一旦忘れてくれにゃ~」


 さっちゃんはどうしてもわしのとぼけた顔に引っ掛かるみたいだけど、ホウジツにやらせても難しいことを言うだけなので、会議を成立させるためにわしは立ち上がるのであった。



「まぁ午前は小難しいこと言ったけど、わしの提案はこういうことにゃ」


 午後はホウジツにパソコンをイジらせて、わしがプレゼン。


「金貨や銀貨をやめて、紙で代用することにゃ。これはわかるにゃろ?」


 わしのプレゼンは超簡単なので、出席者は大きく頷いてくれた。


「デザインはこんにゃ感じで、偽札を作れないように……にゃ? それ、間違ってにゃい? デザインのフォルダの1番にゃ」

「1番ですけど……ちょっと待ってください」


 大画面に映し出されたのは、わしの顔のネコ札。開発部はこんな短期間ではいいデザインが作れないと言っていたから、ポンド紙幣や硬貨を図書館の本からスキャンしたはずなのに、ホウジツが探してもどこにも入っていなかった……


「えっと……リータさんたちですにゃ??」


 なので、王妃として同行していたリータとメイバイに質問してみたら笑顔で頭の上に丸を作っていたから、してやられた。

 あとで話を聞いたところ、世界通貨をわしの顔にしたいからって、ギョクロとナツに協力してもらって仕込んでおいたらしい……わしの時は手伝ってくれなかったのに、なんでじゃ!?


「ま、まぁ、これはあくまでも仮のデザインだからにゃ? 偽札を簡単に作れないように、凝ったデザインとか透かしとか、イロイロしないといけないってことだけわかってくれたらいいからにゃ? ネコ札のことは忘れてくれにゃ~」


 リータたちのせいで、わしの心証がめちゃくちゃ悪くなりかけたので言い訳したら、出席者もなんとか睨むのはやめてくれた。リータとメイバイは殺気放ってるけど……


「え~……にゃんだったかにゃ? あ、そうそう。この貨幣から紙幣に変えるにあたって、個別の国でやるか、地域、もしくは世界で統一するかってのが、この会議の最大の議題なんにゃ」


 わしが議題を提出すると、各国はザワザワとし出したので、ちょっとだけ補足するために静かにしてもらった。


「個別でやるメリットは、自国でいくらでもお金を作れることだにゃ。デメリットは、バカにゃヤツがトップに立ったらハイパーインフレってのが起こって、国が破綻するってことにゃ。あと、各国で使う通貨に価値が生まれて、信用度によって価値が上下するから、輸入とかする時に高くなったり安くなったりするにゃ」

「為替ですね! このホウジツに説明を任せてください!!」

「お前は為替相場をやりたかったんだにゃ!? 黙ってろにゃ!!」


 いきなりテンションの上がったホウジツを一喝して、わしは続きの説明。


「統一するメリットは、輸入とかが楽になるってことだにゃ。いま、東の国周辺でやってるから、そのままってことにゃ。デメリットは、他国が勝手にお金を大量に刷って、ハイパーインフレに巻き込まれる可能性があるにゃ。

 不景気にゃんかも巻き込まれるだろうにゃ。それを阻止するためには、国の資産を全てオープンにして皆で見張らなくちゃいけないにゃ。たぶん、それが1番のネックになるだろうにゃ~」


 資産公開している国なんて、議会制を取っている国のみ。それも極々一部だし、国民には伝えていない国もあるので、思った通り各国の出席者は唸りまくってる。


「ま、思うことはあるだろうにゃ~。うちはフルオープンにゃから、資料の後半に載ってるから参考にしてくれにゃ。とりあえず1時間の休憩を入れるから、そのあとに質疑応答するにゃ。一旦解散にゃ~」


 わしが解散と言っても、各国の出席者は誰もその場から動かず話し合っている。その場でいいのならと、給仕に飲み物を配るように指示を出したら、わしたちは控え室に下がるのであった。



「東の国はどうするにゃ?」


 控え室では、さっちゃんがわしをヒザの上に乗せてずっとわしゃわしゃしているので、質問を投げかけてみた。


「最初は今まで通り、紙幣の管理は3ヶ国でって考えてたんだけどね~……紙ならではの問題があんなに多くあると知って、考え中」

「あんにゃの序の口にゃ。時代が進むと、もっと複雑になっていくんにゃよ」

「まだあるの~? 考えるの大変なの~」

「わしゃわしゃしてるだけじゃにゃいの?」


 考えるならわしで遊んでほしくないけど、さっちゃんは手放してくれないのでそのままお昼寝。気付いたら会場に戻っていたので、質疑応答を開始する。


「えっと……どこからわからないにゃ??」


 しかし、何を質問をしていいかもわからない事態。なんだか同じことばかり質問されるので、時間の無駄なような気がする。

 そんな中、西にある小国のテレンス王子ってヤツが、まったく関係ない質問をしやがった。


「シラタマ王は、頭が悪そうに見えるのに、どうしてそんなに賢いのですか?」


 失礼なヤツだなとイラッと来たけど、出席者は「そうだそうだ!」と八つ当たりみたいな騒ぎになったので、怒鳴って黙らせた。誰がアホ面なんじゃ!


「え~。さっきの質問の答えにゃんだけど、うちは教育に力を入れているからにゃ。小中高と12年間、希望者にはプラス4年、歳に見合った教育をしているから、高校の卒業生にゃら今日説明したこともわかってくれると思うにゃ。まぁ卒業生はまだ少ないけどにゃ」


 出席者は一気に血の気が引いた。これはわしに怒られたからではなく、猫の国が天才を量産していることに世界中が気付いたからだ。


「あの、その……私もそこに行くことは可能でしょうか……」

「可能にゃけど、外国人は無償にできないから高いにゃよ?」

「無償!? 猫の国はそんな高度な教育をタダでやってるのですか!?」

「卒業生は国力を上げてくれるんにゃから、安いもんにゃ~。だからこそ、これほどの経済力の差が生まれたんにゃ。いいにゃろ~?」

「か、勝てない……」


 わしが笑顔を向けたら、テレンス王子はドサッと腰を落としてうつむいた。その他の出席者は驚きすぎて、天を仰いじゃったよ。


「そうだにゃ~……レベルが違いすぎて議論にもならにゃいし、まずは経済の教育からやろうかにゃ? 各国から2人、留学生を送れにゃ。猫の国の教育を受けたいって人もいるだろうから、2、3人から受け入れて行こうかにゃ~? もちろんタダではないからにゃ? 割増価格でも来たいって人は受け付けるにゃ~」


 ここまで話ができないのでは、一歩後退するしかない。担当者だけでも教育してわかってもらえないと、先に進まないだろう。

 わしが留学生を受け付けると言ったら出席者は群がりそうになったので、用紙を配るから座っているように促すのであった……



 小休憩を挟み、わしはもう一度壇上に現れると、もうひとつの議題を話し合う。


「各国に打診した通り、金貨が猫の国に集まりすぎてるんだよにゃ~……かといって、正統に稼いだモノにゃから返すなんてことはできないんにゃ。わし、間違ったこと言ってないよにゃ??」


 そう。儲かりすぎ問題だ。わしが確認を取ると唸っている人ばかりだから、タダで取り返したいんじゃろうな~。


「本当はみんにゃで話し合って、早期に紙幣に移れたら解決できたんにゃけど、いまのままではにゃん年かかるかわからないにゃ。そうにゃったら、小国から破綻して行くのは目に見えてるにゃ。だから、金貨がなくて困っている国には、猫の国から融資という形で金貨を送るにゃ~」


 わしの案に、小国の王は目を輝かせたけど「お高いんでしょ~?」と、ガッカリしたような顔に変わった。


「普通は利子を取るんにゃけど、うちが混乱を招いたのは事実にゃから、無利子、返済は3年後からの分割払いで融資するにゃ。これにゃら、紙幣に代わるまでにゃんとかなるにゃろ? もしもそれでも足りない場合は、利子有りの融資プランも用意する予定にゃ~」


 利子無しと聞いて、小国は息を吹き返した。


「でも、返さなかったら、どうなるかわからないにゃよ?」

「「「「「あぁ~~~……」」」」」

「くれぐれも、返せる額にしとけにゃ~」


 でも、返せなかった場合を考えて、意気消沈。猫の国にケンカを売ることになるし、元本どころか全て奪い取られる未来が見えてしまったのだろう。

 こう見えて、猫の国の軍事力は世界最強じゃもん。わし、1人で……



「さってと……こんにゃもんかにゃ?」


 世界金融会議は、ほとんど先送りになってしまって留学生と融資の話ばかりになってしまったけど、取り急ぎの要件は決まったので、あとは個別でやり合うことに。質問も来ないみたいなので、わしは締めに入る。


「では……にゃに?」


 しかしその時、さっちゃんにマイクを奪い取られてしまった。


「次回開催は追って伝える。本日の議題はこれで終了だ。それでは、第1回『世界金融会議』を閉幕する」

「いいところだけ持って行くにゃよ~~~」


 こうして世界金融会議は、さっちゃんの開始の挨拶と終わりの挨拶で、拍手のなか幕を閉じたのであった……



 世界金融会議が終わると各国の者は去って行き、まだ喋りたい人のためにわしは2日ほど残ってから、ヘトヘトになって帰宅。

 子供たちに癒されようと居間に入ったら、何故か全員半笑いでわしのことを見ている。


「にゃに? わしの顔ににゃんか付いてるにゃ??」

「「「「「いや~……パパって賢かったんだにゃ~」」」」」

「みんにゃの勉強見てたんにゃから、知ってるにゃろ?」

「「「「「そういうことじゃないにゃ~。にゃはははは」」」」」

「にゃんで笑ってるにゃ??」


 子供たちの笑いが意味不明なので、お留守番していたエミリに聞いてみたところ、世界金融会議の模様は、ニュース番組でけっこうな尺を取って流してたんだって。

 タイトルは「猫王様、各国の王を知能で圧倒」ってなっていたけど、わしの顔から出て来ない賢い言葉がつらつらと出て来たから、子供たちのツボに入って大爆笑になったらしい……


「猫王様~!」

「「「「「あはははは」」」」」

「にゃんで笑ってるにゃ!?」


 そのせいで、わしが猫市を歩いていたら子供たちにめっちゃ笑われる事態に。記録係にと、テレビクルーを同行させたことを死ぬほど後悔したわしであったとさ。

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