猫歴39年にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。子供が死ぬ姿を見るのは、さすがに
赤い宮殿の一室で息を引き取ったオニヒメをしばらく家族で涙ながらに見詰め、思い出話を語り尽くした。
それから棺に寝かせると、猫市に運んでオニヒメの知人を呼び、こじんまりとした葬儀を開く。これは故人の意志。というか、わしが盛大にやるかもしれないと釘を刺されていた。
それでも100人近くが集まってくれたので、わしは「オニヒメと友達になってくれてありがとう」と1人1人声を掛け、皆で送り出した。
オニヒメのお墓は、赤い宮殿。そこにある母親と父親のお墓に遺灰を保管する。角だけは、オニタに形見分けで3人とも渡してある。自室の仏壇に扇等と共に飾ってあるそうだ。
オニヒメの埋葬が終わり、皆が寝静まったらわしは1人で赤い宮殿を抜け出して、オニヒメたちのお墓の前で酒を飲んでいた……
「シラタマさん……」
「シラタマ殿……」
小一時間後、リータとメイバイがやって来た。
「にゃ? どうしたにゃ??」
「「どうしたって……」」
2人ともわしの
「シラタマさんは、ぜんぜん泣いてないじゃないですか……」
「泣き虫のシラタマ殿が心配ニャー……」
「ああ~……」
どうやらわしが心配で探しに来てくれたみたいだ。子供のちょっとした成長であんなに泣いていたわしなのに、オニヒメの旅立ちでは泣いていなかったから、心配かけてしまったのだ。
「わしって、葬式で泣いてたことあったにゃ?」
「……いえ」
「そういえばないニャ……」
「これには深い理由があってにゃ~……」
わしが葬式や最後の時に泣かない理由は、太平洋戦争まで
わしも一緒に飛ばされたが、軽い骨折と右鼓膜が破れただけで助かった。その時はわしも必死で、両足を無くした親友を背負って本部に逃げ帰ったところで気を失ったから、しばらく同じ野戦病院で過ごしていた。
親友はろくな治療を受けられずに日に日に弱って行くので、わしはいつも泣いていたら、ある日めちゃくちゃ怒られたのだ。
「そんにゃに泣いてたら、安心して死ねないにゃろ! 笑え!! ってにゃ。あぁ~……死に行く人の中には、涙ながらに見送られたくない人もいるんにゃ~って、わしは衝撃を受けたんにゃ」
その経験があって、わしは涙を我慢するようになった。もちろんそんなにすぐ我慢することはできなかったが、戦場には死者が多くいたし、寿命で死に行く人を多く見送って来たから自然と慣れてしまったのだ。
「私たちも長く生きたら、そうなってしまうのですか……」
「それはそれで辛いニャー……」
「どうだろうにゃ~……まぁ別に、感情にフタをする必要はないんにゃ。2人はそのままでいてくれにゃ」
「「でも……」」
「わしだって、おっかさんが死んだ時はめちゃくちゃ泣いたんにゃよ? そうそう感情を操ることはできないにゃ~。ここ最近はたまたまにゃ。いっぱい重なってたからにゃ~」
「そう……ですよね」
「私の時は泣いてニャー」
「そんにゃ悲しいこと言わないで、にゃ~~~」
「「あ、泣いた……」」
現実と想像は別口。メイバイの発言でわしが泣いてしまったので、2人は本当は溜め込んでいたのがいま爆発したのだと、少し安心したのであった……
王女の訃報は国民も悲しみに暮れ、それも落ち着き子供たちにも笑顔が増えた頃に、わしは1人でキカプー市に足を運び、シャーマン御年50歳ぐらいと面会していた。
「またやりやがったな……」
「別に苦情を言いに来たわけじゃないんにゃから、いいにゃろ~」
実を言うと、前回来た時もシャーマンから苦情を言われている。どうもシャーマンは早くわしの役に立ちたいからって、猫ファミリー全員の未来を占っていたらしい。
そこでオニヒメの死期が迫っていたから伝えようとしていたらしいが、わしは愚痴しか言わないし怒鳴ったら来なくなったので、オニヒメの寿命を迎えてしまった。
オニヒメは出産の影響で死んでしまったと思っていたら、わしの未来の中に生きていたので「なんでやねん!?」って、シャーマンは死ぬほど驚いたらしい。
そんなこともあって、オニヒメの寿命をリータたちと聞きに行った時にめちゃくちゃ愚痴られたのだ。
ちなみに予言が外れた理由は、たぶんわしのせい。スサノオたち三柱と繋がりがあるから未来予知の精度が悪くなっているのではないかと考えているけど、検証はしていない。どっちとも絡みたくないもん。
「あたしの予言、
「だからにゃ。悪気はないんにゃ。それにバアさんは、決まってる未来ばかり見てたらつまらないって言ってたにゃ~」
「そうですけど、あたしの存在意義がないんですよ~」
「あるにゃろ。天気予報とか……」
「それも人工衛星に取られたんですよ~~~」
いちおうわしも悪いと思って仕事を頼んだのだけど、人工衛星を打ち上げて天気予報をやり始めたので、手紙のやり取りはなくなった。
そもそもシャーマンの手紙には、「早く来ないと災いが起こる」とおどろおどろしい文字が書かれていたから、天気予報事業を急いだ感はあるけど……
「それで……今日は占っていきますよね?」
「あ~……サクラって、いつエティエンヌと別れるにゃ?」
「その2人はですね~。死ぬま……」
「やっぱなしにゃ! 聞きたくないにゃ~~~!!」
「聞いたんだから、最後まで聞いて行け~~~!!」
気を遣ってどうでもいいことを占ってもらってみたけど、その先はハッピーエンドみたいだったので「にゃ~にゃ~」叫びながら逃げ帰るわしであったとさ。
オニヒメが亡くなってから我が猫家も重い空気が流れていたが、わしはいつも通り。寝て起きて、お昼寝して起きて、ごはん食べて寝て起きて。
あまりにも寝てばっかりなので、リータたちに引きずられて狩りのお仕事。子供たちの心のケアをしていただけなのに……
そんなこんなで猫歴39年にもなると、暗い雰囲気も無くなって来た。この年は、第三世界に行ってから10年の節目。そう、UFOの魔力が満タンに……
「ぜんぜんエネルギーがないんだよ~」
「調子に乗って、宇宙探検しすぎたわね」
「冥王星はまた次回だにゃ」
なるわけがない。この10年、太陽から始まり、近場の惑星を探索しまくっていたからスッカラカン。ノルンとベティを集めて会議した意味もない。
ちなみに宇宙に行く時は必ず人工衛星や探索衛星を積んでいたので、いまでは100個以上ある人工衛星のおかげで衛星放送事業だってやっている。遠いエルフ市だってウサギ市だって、猫市と同じ放送が見れるのだ。
ウサギ市は時差が10時間以上あるから、結局録画とかになってるけどね。
人工衛星の機能的にはインターネットをやろうと思えばやれるけど、第三世界で買って来た機器じゃないとそこまでのことができない。だからインターネットをやれる人は、市長クラスや猫軍の、遠くと連絡を取らないといけない人だけ。
サクラたちはやりたいとうるさかったから、パソコンとスマホを貸してあげたけど、いまだにホームページも作れないだって。いいとこ電話とメールしかできないから、宝の持ち腐れだ。
これらは東の国にだけというかさっちゃんにバレたから、衛星放送事業だけは仲間に入れてあげた。村々にはまだテレビケーブルを引いていないから、ようやく街頭テレビを見せてあげられたらしい。
機能をフルに使えないのに、わしがこんなに人工衛星を急いだのは、世界との繋がり。地上は危険が多いので、全世界にケーブルなんて張り巡らせるなんて不可能だから、空しかない。
このために20年以上前に、アメリカの大富豪を優遇して人工衛星の全ての技術を買い取っていたのだ。
「んで、冥王星の次はどこ行こっかにゃ~?」
この10年やった宇宙探索は、各惑星に降りての地質調査。第三世界と比べられないほどのサンプルはあるのだが、調べる人がいないのでこちらも宝の持ち腐れ。
太陽だけはさすがに地上に降りられなかったけど、肉眼で見れたから万々歳。UFOの中からなら、目も痛めず見れたし写真に収められたから、第三世界に行った時は死ぬほど自慢してやるつもりだ。
「宇宙探検もいいけど、第二世界や第一世界に行かなくていいの?」
「行きたいんにゃけどにゃ~……たぶん、文明が高度すぎてついて行けないにゃろ。せめて第三世界に追いついてからじゃないとにゃ~」
「たぶんと言うことは絶対じゃないんでしょ? 第一世界はそうでも第二世界は違うかもしれないじゃない。あの人に聞いてみたら?」
「あの人はダメにゃ。愚痴しか言わにゃいもん。どうしてもというにゃら、ベティが聞いてくれにゃ~」
「嫌に決まってるでしょ。あたし、3日も愚痴聞かされたんだからね」
あの人とは、ツクヨミノミコトのこと。かまってちゃんの神様なので、ロックオンされたら愚痴を聞かされまくるのだ。聞いたことはないけど、古事記の記述的に第二世界を管理していると思われる。
ベティも愚痴を死ぬほど聞かされると知っていたから最初はツクヨミと繋がるつもりはなかったのだが、わしたちがレアアイテムを貰ったと聞いて悩み出した。
その数日後にベティは何をしても起きなくなったから、死ぬほどの病気になったと焦って、わしたちで必死に病気を治そうとしたけど一向に目覚めず。
2日頑張って諦めかけた時に「そういえばツクヨミの話したね?」って話題になって「誰が行く~?」って、丸1日揉めたから救出が遅れたのだ。
その結果、多数決でわしに決まったというか、そんなわかりきった多数決は無効だとわしがゴネまくったから、丸1日掛かったんだけどね。
覚悟を決めてツクヨミのことを祈ったら夢の世界に飛ばされたけど、案の定ベティは幽閉されて愚痴を聞かされていた。どうも、スサノオにバレないようにベティの魂を囲っていたらしい……
わしも幽閉されたが、事前にアマテラスに説明しておいたから、救出作戦に協力してくれた。いや、ツクヨミと兄弟ケンカを始めた。あと、スサノオまで乱入して来たから、夢の世界は地獄と化した。
そんななか幽閉中のわしはスーパー猫又5にまでなってなんとか檻を破り、ベティも救出して「にゃ~にゃ~」逃げ惑ったから、金輪際ツクヨミに近付きたくないのだ。
「もう10年は、宇宙探検にしにゃい?」
「ええ……あの人の世界に行くには、覚悟がいるわね」
ツクヨミ被害を思い出したわしたちの答えは一致。しかしその時、ノルンがいらんこと言いやがる。
「あの人って、ツクヨミノミコトのことだよ?」
「「にゃっ!? シーーーッにゃ~」」
慌てて口を塞いだけど、時すでに遅し。
『ミィ~ツケタァァ~~~……』
おどろおどろしいツクヨミの声が頭の中に響いたのだ。
「ここどこなんだよ~~~」
「ヤバイにゃ! ヤツらも来たにゃ~~~!!」
「「きゃ~~~!!」」
「逃げるにゃ~~~!!」
いきなり夢の中の世界に引き込まれたわしたちは、三柱のケンカに巻き込まれて、てんやわんや。
あとで聞いた話だが、どうやらスサノオがわしたちのことを、ツクヨミが見付けられないようにバリアを張ってくれていたらしいけど、ツクヨミも似たようなことをしていて名前がトリガーとなって見付かってしまったらしい。
もちろん見付かった場合のことを考えて、ツクヨミが接触したらわかるようになっていたけど、アマテラスはスサノオがそこまで頭が回らないと思って同じことしてたんだって。
「「「ケンカにゃら、
その三柱が、惑星をピーラーで削るような攻撃をする中を逃げ惑うわしたちであったとさ。
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