猫歴38年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。ペトロニーヌの大きな功績って、ほとんどわしのじゃね?


 ペトロニーヌの葬儀は涙涙で終わったのはいいのだが、四十九日でお墓参りに行った時になんとなく書いてる文字を読んでみたら、キャットトレインと子供基金の話が載っていたので、さっちゃんの元へとわしは苦情を入れに行った。


「あ~……みんな、お母様がやったことだと思ってるみたいでね。止められなかったの。てへ」

「その顔は知ってて止めなかった顔にゃろ! 子供基金は置いておいて、キャットトレインにゃよ? 猫が入ってるんにゃから、どう考えてもわしの功績にゃろ!?」

「いや、普及はお母様でしょ? 他国との交渉、全部お母様に丸投げしたんだから、間違ったこと書いてないわよ??」

「そうにゃけど~~~」


 さっちゃんはてへぺろしてふざけているように見えたから怒ってしまったけど、わしのことは簡単に論破。

 そりゃ、キャットトレインの利権を狙って他国の王様が猫の国に押し寄せた現場に同席していたのだから、内情はよく知っていらっしゃる。

 なので「にゃ~にゃ~」愚痴ってみたけど、仕事が立て込んでいると言われて窓から投げ捨てられた。サンドリーヌタワーじゃないけど、2階からって酷くない?


 この愚痴はさっちゃんのお父さん、アンブロワーズに吐き出しに行ったけど、ペトロニーヌが亡くなってから元気はなし。

 あとを追いそうで心配だと思っていたら、その1ヶ月後に本当に安らかに旅立って行ったので、わしは何度もさっちゃんたちを励ましに東の国に足を運ぶのであった。



 猫歴37年は、東の国は全体的に喪に服して暗い年であったが、猫の国でも似たようなモノ。猫の国の初期を支えてくれた大人たちが寿命を迎え、ほとんど死後の世界に旅立って行った。

 猫の国とは関係ないババアフォーも、この年までに1人ずつ亡くなり、最後までしつこく生き残っていたスティナもやっと旅立ってくれた。相手するの、ちょっと面倒だったの。


 ババアフォーの最後の言葉は全員一緒。「なんで若い時に言ってくれなかったの!?」だ。


 みんな長い付き合いだったからわしの秘密を教えて、財産がけっこう残っていたから「こんなに残すなら、恵まれない人のために使っていたら輪廻転生できたのに」と言ったから、全員揃ったのだ。

 いちおう輪廻転生した場合の夢も聞いてみたら「結婚と出産」と、こちらも揃っていた。おそらくだけど、残っている者に伝えなかったのは道連れにしたかったからだろう。


 仲良いのか悪いのかよくわからないけど、ババアフォーのお墓に手を合わせた時は「いくら寄付してもお前たちでは輪廻転生できなかっただろうな~」と、いつもわしは思っていたのであったとさ。



 悲しい出来事は続いていたが、子供には関係ないこと。と、思っていたけど、ペトロニーヌだけはこたえていた。わしの母親は他界してるから、みんなペトロニーヌのことをお婆ちゃんだと思っていたそうだ。

 よく訪ねて来ていたからそう考えても仕方がないとも思ったけど、ペトロニーヌはモフモフ天国を味わいに来ていただけ。写真や動画にも、わしの子供をモフモフしている姿しか映っていなかった。だらしない顔してるし……


 わしたち大人たちはその悲しみは顔に出さずに、子供たちを元気付けたりワイワイやっている。

 そのおかげで、1年も経つと子供たちも悲しみから立ち直り、猫歴38年になった。


「オニタ、猫パーティにようこそにゃ~」

「「「「「いらっしゃいにゃ~」」」」」


 昨年末に中学校を卒業したオニタは、猫パーティに羽ばたいて来たので、歓迎パーティー。いちおう進学も勧めたけど、オニタはオニヒメの跡を継ぎたいと断固たる決意を持っていたから、誰も反対できなかったのだ。

 珍しく歓迎パーティーをしている理由は、オニヒメのため。老化がとんでもなく早く進み、いまでは小さなお婆ちゃんとなっている。

 そのせいか、キャットタワーでは上手く魔力を吸収できなくなっていたのでソウの地下別宅に引っ越したから、猫パーティ研修を目の前で見ることになるからパーティーを開いたのだ。


 正直、オニヒメはもう長くない。少し前から立つことも介助なしではままならず、わしたちが介護までしている。

 こうなってはわしも覚悟を決めて、リータとメイバイとコリスを伴い、キカプー市に住むシャーマンに会いに行った。どちらかというと、リータたちに首根っこを掴まれてだ。オニヒメの死ぬ日時なんて、聞きたくなかったの。


 このこともあって、最近のわしたちはできるだけ明るくしている。子供たちに伝えるのは酷なのだが、猫パーティに所属する者だけには協力してくれとわしは頭を下げた。

 変にバレるよりは、そのほうがいいとの判断。現にサクラには勘繰られたので、言うしかなかったのだ。まだ仕事に戻らずエティエンヌとイチャイチャしながら子育てしてるのに、鋭いヤツだ。インホワなんて死ぬほど驚いていたのに……



「それで~……オニタはどんにゃハンターになりたいにゃ~?」


 指導官は、もちろんこのわし。歓迎パーティーの翌日から、さっそく訓練だ。


「俺は、母さんみたいに魔法で戦いたい」

「ま、魔法……にゃ??」

「おう!」


 オニタの答えに、わしは言い淀みながら上から下まで舐めるように見てしまった。


「えっと……わしの記憶では、魔法学科の最下位だったと思うんにゃけど……」

「それでもだ! 俺は母さんみたいに魔法で戦いたい!!」

「う、うんにゃ。でも、そのガタイにゃら、近接戦闘のほうが合ってると思うんにゃけどにゃ~?」


 オニタの見た目は、額の角と白髪を肩まで伸ばしているのはオニヒメ譲りだからいいとして、15歳で190センチ超え。筋骨隆々で、腕なんて足が生えているのかと見間違えるほど太い。

 これ、何もトレーニングしていないんじゃよ? 魔法学科に行っていたんだから、やっていたのはランニングぐらいなのに、どうしてこうなったかはサッパリわからん。


「じいちゃんの力で、なんとかしてくれ!」

「にゃんとかと言われても……まぁやるだけやってみるにゃ」

「お願いする!!」


 ここまでお願いされちゃあ、わしもやるしかない。しかしながら猫パーティ研修はランニングからなので、オニタと一緒に走るわしであった……


「もう3倍の重力も大丈夫なんにゃ……」

「いつになったら魔法を教えてくれるんだ?」

「もうちょっとあとにゃ~」


 ちょっと早いけど、なんとなく重力魔道具も使わせてみたら軽々クリアするので、この才能を無駄にしていいのかと悩むわしであったとさ。



 それからひと月ほどソウの地下空洞にこもると、わしはそろそろいいかとオニタに風魔法から教える。


「どうだ?」

「う~~~ん……大きさはまずまずにゃんだけど、にゃんか風が散ってるんだよにゃ~。もっと魔力を集約しにゃいと、威力も下がるし数も撃てないにゃよ?」

「【鎌鼬】にゃ~!」

「それじゃダメにゃ。イメージにゃ。強く斬り裂くイメージを持つんにゃ~」

「クソ~~~!!」


 オニタは普通のハンターからしたら充分な魔法レベルになったけど、猫パーティでは足りない実力。わしもなんとかしようと頑張ってはいるが、一向に上手くならない。

 てか、悔しがって地面を殴って割るな。その威力があったら、風魔法なんていらないんじゃけど……


 とりあえずオニタには、魔力が尽きる手前まで自主練するように言って、わしはオニヒメがいる縁側に腰掛ける。


「オニタが無理言ってゴメンなさい」

「オニヒメが謝ることじゃないにゃ。それに、そのうちできるようになるにゃろ」

「でも、どう見ても前衛向きよ」

「確かににゃ~……まぁ、魔力量はそこそこあるんにゃから、時間を掛けたら後衛でもやって行けるにゃろ。もうちょっとしたら、オニヒメの使っていた魔法も教えてみるにゃ~」

「無理しなくていいのに」


 オニヒメは体に引きずられて考え方も老人みたいに気弱になっているが、わしは諦めない男。いや、猫。オニヒメのために、オニタをなんとか魔法特化に仕上げようと頑張るのであった。



「あのにゃ~……前にも言ったよにゃ? イメージにゃ。座学でも元素から教えてるにゃろ? にゃんで出来ないにゃ~」

「クソ~~~!!」


 頑張った結果、オニタには無理。だから地面を拳で割るな! また力が強くなってない?


「こうにゃったら……違う魔法から覚えて行こうにゃ」

「おう!」

「返事はいいんだけどにゃ~……」


 アプローチを変えて、火、水、土の魔法を教えてみたが、どれも風魔法より酷いレベル。なかなか上手くならない。

 そんな折、子育て中のサクラが金髪猫耳娘と一緒にソウの地下空洞にやって来た。


「王子君とケンカでもしたにゃ?」

「そんにゃわけないにゃろ。この子が小学校に上がったら手が空くから、ハンターに戻る準備を始めようと思っただけにゃ~」

「にゃんだ~。ケンカしたらいいのに……」

「にゃんか言ったにゃ?」

「にゃんでもないにゃ~」


 エティエンヌと別れるチャンスかと思ったのに、まだ仲睦まじいみたいなのでわしは小声で願望。サクラにバレそうになったので、話を逸らそう。


「あ、そうにゃ。サクラってオニヒメから手取り足取り魔法を教わっていたよにゃ? 折り紙魔法をオニタに見せてやってにゃ~」

「オニタに……折り紙魔法にゃ??」

「言いたいことはわかるにゃ……」


 サクラも一目見てオニタの適性は気付いたようだけど、わしは急かしてやった。


「久し振りにゃから、失敗するかもにゃ~……【千羽鶴】にゃ~」


 さすがはわしの娘。自信なさそうなことを言っていても、紙で折られた鶴はサクラのショルダーバッグから何十羽も飛び立ち、岩のような四角い的を切り刻んだのであった。



「お見事にゃ~」

「いにゃ~……半分ぐらい上手く扱えなかったにゃ。リハビリには時間が掛かりそうにゃ~」

「ママ、すっごくキレイだったよ~」

「やっぱりにゃ~? にゃははは」


 久し振りなんだからわしはベタ褒めしたけど、サクラは納得いってない模様。しかし、金髪猫耳娘に褒められたら調子に乗ってるな。


「にゃんで1羽も飛ばせなれないんにゃ~」

「クソ~~~!!」

「だからにゃん回地面を割るんにゃ! パパ~~~」


 でも、オニタの覚えが悪すぎて、サクラもお手上げ。地面をならすわしの元へ逃げて来た。


「こうにゃったら……形から入ろうにゃ!」


 わしもやけっぱち。オニタを猫市に連れ帰り、オニヒメが現役だった頃の装備を発注し、オニタに着せてみる。

 ただ、男と女の違いがあるので、袴は新調。羽織はカラフルなので、歌舞伎役者みたいになってしまった。


「あと、これも持ってみろにゃ。オニヒメが使っていた武器にゃ~」


 そして、閉じていてもめっちゃ斬れる白魔鉱製の鉄扇を開いた状態で持たせて、サクラとオニヒメの前に立たせた。


「どうにゃ? 昔のオニヒメに似てにゃ~い??」

「「う~~~ん……」」

「やっぱり無理にゃした……」

「「だよにゃ~~~」」


 残念ながら、オニタはオニヒメとは遠い姿。肩幅が凄いし背の低いオニヒメが使っていた鉄扇なんて小さすぎる。

 頑張って仕立てたけど、あまりにも似合っていないので、形から入る作戦も失敗だと受け取らざるを得ないわしであったとさ。

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