猫歴34年その2にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。ゲテモノ料理は食べたくないし、死にたくもない。


 コリスの学力アップはわしが死にかけてうやむやに。コリスもごはんの時間にしか近付いて来ないので、完全に忘れた。

 イロモノキャラとなってしまったニナは続々と変な料理をわしの元へ持って来るので、わしは一口食べて、食べられそうな物は飲み込む。娘の作ってくれた料理じゃもん……いま食べたのなに?

 皆は協力してくれないので、飲み込めない物は唯一協力的なコリスとリリスにパス。見た目は気にせずバクバク食べてくれるのはいいのだが、わしの食欲は減退だ。だから、何が入ってるんじゃ??


 ニナは美味しそうに食べているけど、ノルンのあの顔は虫っぽい。魚介類と騙して出しやがったな!?


 最近の食卓にはビクビクしっぱなしだけど、猫パーティにはリリスが加入したので、わしが指導官をしている。獣になれるのわしだけじゃもん。

 最初は獣仲間のコリスがやっていたけど、コリスは感覚派なのでリリスがちんぷんかんぷんって顔をしていたから、わしがやるしかない。サイズを合わせて、猫型・小で指導している。


 かといって、わしも獣の教育はしたことがないので、子供の頃におっかさんに教えてもらったことを思い出しながら、まずは魔法から始めてみた。


「こうにゃ~?」

「そうにゃそうにゃ。上手いにゃ~」

「ホロッホロッホロッホロッ」


 わし直伝の風魔法を教えたら、リリスはすぐに習得。ちなみにリリスは念話では猫みたいな言葉遣いになるのは、わしのせいらしい。猫じゃもん。

 ひとまずリリスの限界を見るために、教えた魔法を四角い土の塊に撃たせまくって様子を見る。


「うわ~。リリスちゃん、なかなかの攻撃力ですね~」

「これで初めてなんて凄いニャー」


 そうしていたらリータとメイバイがやって来て、わしをおもむろに抱き上げた。猫型だからか?


「凄いんにゃけどにゃ~……」

「何か心配事ですか?」

「いや、たいしたことじゃないんにゃけど、リリスは魔力濃度が高い場所で生活してないのに、にゃんでこんにゃに魔力があるのかと思ってにゃ~」

「あ~……確かに私たちの最初の頃なんて、こんなに連発できなかったニャー」


 中堅ハンターでも、この規模の風の刃を30発も撃ったら撃ち止め。ベテランハンターで100発撃てる人はまれ。それなのにリリスはすでに50発以上撃っている。


「種族差なのかにゃ~?」

「シラタマさんの子供の頃はどうだったのですか?」

「わしは生まれて3ヵ月ぐらいから始めて……規格外にゃったから参考にならないかにゃ? エリザベスで確か5発撃ってた気がするけど記憶が朧気おぼろげにゃ」

「それならリリスちゃんは今年7歳だから、こんなもんじゃないかニャー?」

「う~~~ん……」


 わしたちが悩みながらお喋りしていたら、リリスは80発ちょいで撃ち止め。疲れたとか言いながら走って来た。


「……にゃんか細くなってにゃい??」

「はい……丸みがなくなってますね」

「わっ! 軽くなってるニャー!」

「ホロッホロッホロッホロッ」


 しかし、あの丸々してかわいかったリリスはスレンダーになっていたので、わしたちは不思議。メイバイが抱き上げると、体重にも変化があるみたいだ。

 これは緊急事態なので、リリスに体調を聞いてみたけど「お腹すいた」とのこと。元気そうだ。ひとまず高級肉の串焼きをあげてわしたちは話し合う。


「ひょっとしてにゃけど、食べ物から魔力を貯蓄してたのかも??」

「ありそうですね。いつも私たちより食べてますし」

「コリスちゃん並みに食べることもあったニャー」

「「「ごはんあげすぎてたにゃ……」」」


 新事実発覚。リリスがかわいすぎて、皆は自分の物をあげることもあった。頬袋に溜め込む顔が超かわいいんじゃもん。

 さらにいうと、高級肉は魔力が多く含まれいるから味覚に作用して美味しく感じるのだが、普通の人間が食べたら串焼き1本で充分。うますぎるから無理して食べる人、続出じゃけど。

 猫ファミリーは魔力消費量が多い人だらけなので、普通の料理では大量に摂取しなくてはいけなくなるから、食卓に高級肉が上らない日はない。


 そんな物を大量に食っていたら、そりゃ太る。特にリリスは猫耳のリスという、この世界に1人しかいない珍獣なので、どんな姿に成長するかわからないから、太った姿がデフォルトだとわしたちは思っていたのだ。


「もっと食べたいにゃ~」


 おそらくリリスの真の姿、初お披露目なのだけど、本人はまだ食べたいとか言うのでわしたちはまたまた悩む。


「えっと……これ、あげてもいいのかにゃ?」

「どうでしょう……」

「細いほうがいい気もするニャ……」

「おなかすいたにゃ~。パパ~。ママ~」

「「「うっ……」」」


 結局はリリスの涙目に負けて、高級肉を大量に与えてしまうわしたちであった……


「もう戻ったにゃ!?」

「どっちが本来の姿なんでしょう……」

「こっちはこっちでモフモフしてるんだよニャー」

「ホロッホロッホロッホロッ」


 物の30分ほどでリリスは丸々した体型に戻ったので、わしたちの悩みは増えるのであったとさ。



 リリスの生態が謎すぎるので コリスの実家があるエベレストの森に里帰りしたら、キョリスとハハリスの第二子の息子30歳と見比べてみたが、息子はスレンダーなリス。リスにしては1メートル近くあってデカイけど……

 コリスとも比べてみたら、やっぱりスレンダー。てか、コリスが太ってた! 両親は10メートルオーバーとデカすぎてわかりにくいから気付かなかったが、写真に撮って比率を合わせてみたら、一目瞭然。

 我が猫家の食生活が豪華すぎて、コリスも普通のリスより丸々していたのだ。


 謎はいちおう解けたのだが、コリスとリリスは大食いなので食生活は変わらず。わしたちがつい甘やかしてしまうともいう。

 これではいけないと思いながらも甘やかしながら猫パーティ研修をリリスに行っていたら、ついにデビュー戦となった。


「【鎌鼬】にゃ~!」


 といっても、リリスの体はまだ1メートル以下と小さいので、後衛だけ。接近戦をさせるのは怪我しそうで怖いんじゃもん。防具とか装備できないし……

 戦い方も、インホワとニナを前衛にして、わしの合図でリリスに攻撃させる。慣れて来たらリリスのタイミングで魔法を撃たせたけど、インホワとニナは間一髪よけていた。


「オヤジ~。危ないにゃろ~」

「そうにゃ~。リリスちゃんにはまだ早いにゃ~」

「そう言ってやるにゃ。リリスだって頑張ってるんにゃから、大目に見てくれにゃ~。年上にゃろ?」


 そんなことだから、2人の苦情は当たり前。しかし、研修なんだからと説得して戦闘を続ける。


「【鎌鼬】にゃ~!」

「「にゃ~~~!?」」

「わざとやってにゃい??」

「エヘヘ~」

「危険なんにゃからふざけちゃダメにゃ~」


 けど、リリスはお兄ちゃんお姉ちゃんと遊ぶのが楽しかったらしく、何度もフレンドリーファイアを繰り返したので、インホワとニナは怒って研修に付き合ってくれなくなったとさ。



 リリスの悪い癖を直さないことには研修もままならないので、前衛はわしがやって後衛のリリスには好きにやらせたけど、百発百中でわし狙い。なので、わしは振り向きもしないで全て3本の尻尾で叩き落としてやった。

 最初は当たらなくて怒っていたリリスであったが、それを見ていたお母さん方がその都度叱っていたので、ついにフレンドリーファイアをやめた。というか、当たらないから諦めたみたいだ。


 これならステップアップしてもいいかと、接近戦も練習。コリスはグーで戦うことが多いので、リリスにもネコパンチを教えてみた。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ~~~!」

「いいにゃいいにゃその調子にゃ~」


 リリスの連続ネコパンチをわしの肉球で優しく受けているので、どう見ても猫とリスがたわむれているようにしか見えないけど、これはちゃんとした訓練だ。


 だからママさん方はスマホで撮らないでください。たぶん映ってないじゃろ? ……へ? スーパースローカメラの機能もあるのですか!? ちょっと貸してください!!


 パソコンは調べていたけど、スマホのバージョンアップは初耳。なのでわしもかわいいリリスのネコパンチを堪能させていただきました。



 リリスがネコパンチをマスターしたら、今度は弱めの獣がいる普通の森で2人きりの研修をしてみる。


「にゃ~。ここがアマゾンにゃ~? 暑いにゃ~」

「ここは未発見の虫がいっぱい居るんだよ~」


 なのに、ニナとノルンもついて来た。場所を決めたのもこいつら。黒い森の中では小さい虫が少ないから選んだっぽい。わしは温泉が湧いてるところに行きたかったのに!


「パパ、あついにゃ~」

「あ、そうだよにゃ。リリスにはこれ貸してあげるにゃ~。使い方はだにゃ……」

「すずしくなったにゃ~」


 アマゾンというヤツは、モフモフ組には耐え難い暑さ。だからリリスには、【熱羽織】という自分の周りを適温にしてくれる魔道具を首輪にセットして、使い方を教えてあげた。


「にゃんでリリスだけなんにゃ~」

「にゃ? ニナも欲しかったにゃ? 気持ち良さそうにしてたからいらないと思ってたにゃ~」

「もうムリにゃ~。早く冷やしてにゃ~」

「毛皮脱いだらいいんだよ~」

「ホントにゃ! って、脱げるわけないにゃろ!!」

「「「にゃははははは」」」

「笑ってにゃいで~~~」


 物の数分でニナもギブアップ。なのにノルンと漫才していたから、わしたちは大笑いするのであった。



 それからニナにも首輪をしてあげたら適温になったようだが、わしとお揃いは微妙な顔をしていた。反抗期みたいだ。


「いや、首輪って、ペットじゃないんにゃから……」

「反抗期じゃないにゃ!? よかったにゃ~~~」

「そんにゃことで泣くにゃよ~」


 わし、早とちり。でも、近付いてスリスリしたらネコパンチされた。いい加減にしないと反抗期になるぞとも言われたけど、ドメスティックなバイオレンスしたよ?

 あまり言いすぎると本当に反抗期になりそうなので、リリス用の適当な獣を探して、まずは猫型・小のわしから攻撃。ネコパンチではなく、鋭い牙で首元を噛みちぎってやった。


「ペッ……ま、普通の獣はこんにゃ感じで狩りをするんにゃ。コリスもたまにやってるんにゃよ」

「へ~。やってみていいにゃ~?」

「ここの獣はたいしたことにゃいけど、ムリしちゃダメだからにゃ? 反撃にあいそうだったらパンチで倒すんにゃよ?」

「わかったにゃ~」


 リリスもやる気満々みたいなので、ヤギっぽい獣にアタックさせる。


「う~ん……あんまりおいしくないにゃ~」

「すぐ食べるにゃよ~」


 リリスは危なげなく素早く近付いて、ヤギの喉元に噛み付いたら、そのまま噛み

ちぎってモキュモキュ食っている。

 これぞ、獣の本能。教えなくとも、相手の弱点もやり方もDNAに刻み込まれていたのだ。わしは元人間だから、食べずに吐き出したよ?


「それじゃあ、次に行こうにゃ。次はパンチで倒すんにゃよ~?」

「うんにゃ~」


 こうしてリリスの猫パーティ研修は、無事に進んで行くのであった……


「パパ~。美味しそうな虫、見付けたにゃ~」

「ぎにゃ~!? それ、タランチュラにゃ! 毒持ってるから捨てにゃさい!!」

「えぇ~。パパだって頭に乗せてるから大丈夫じゃにゃいの~?」

「ぎにゃ~~~!? 取って! 取ってにゃ~~~!!」

「きゃははははは」


 ニナの虫好きは、酷くなって行くのであっ……


「ノルン! お前が乗せやがったにゃ~~~!!」

「ノルンちゃんだよ」

「うっにゃ~~~!?」


 笑い声から犯人に気付いたけど、ちゃん付けを忘れたから訂正されて、さらに苛立つわし。どうやらノルンの虫嫌いはマスターのわし由来だったのに、ニナに寄生したせいで改善されてしまったみたいだ……

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